夢堕ち(前編)

 作 :toshi9
 挿絵:甘野氷さん




 師走も押し迫った12月のある日曜日、とある神社で年末恒例のすす払いが行われていた。そして宮司の一人娘・神宮寺保奈美も、近くに住む幼馴染の中島正輝とともに手伝わされていた。
 勿論彼女にとってそれは年末の恒例行事であり当たり前のことなのだが、今年は少し勝手が違ってた。
 人手が足りないこともあって、父親から正輝と共に宝物庫の掃除を任されたのだ。

「任せはするが、大事な品々ばかりだからな、くれぐれも宝物を傷つけないよう気をつけるんだぞ。もし何か傷つけたら、すぐに私に知らせるんだ。わかったな、保奈美」
「わかってるって、それじゃ始めようか、正輝君」
「よっしゃ、宝物の掃除って初めてだから楽しみだな」

 二人に任せたものの少し不安げな父親を他所に、二人は勢い良く宝物庫に飛び込んだ。そして置かれている仏像や置物などを一つ一つ乾いた布で拭き、うっすらと積もった埃を落としていった。
 だが性格だろうか。次々と置物を拭いていく保奈美だが、やり方がいささか荒っぽい。手伝っている正輝のほうが余程丁寧に作業しており、不安になった正輝が声をかける始末だ。

「おい保奈美、これってみんな大事なものなんだろう、もっと慎重に拭いたほうがいいんじゃないのか? 親父さんもくれぐれも傷つけるなって……」
「だってみんな随分汚れているし、かび臭いし」
「確かにほんと古いものばっかりだよなあ。この中にマジでお宝ってやつがあるんじゃないのか?」
「どうかなぁ。お父さんは宝物庫なんて言ってるけど、がらくたばっかじゃないの? あれ? 雛人形だ。男雛と女雛か。へぇ〜かわいいじゃない。でもなんで紐で結んで……あ!」
「どうした? 保奈美」
「……切れちゃった」
「切れたって、紐がか?」
「ほら」

 保奈美が切れてしまったこよりのような紙紐をつまんで正輝に見せた。

「おいおい、親父さんに言っとかなくて大丈夫か?」 
「こんなの大丈夫だよ。叱られるのが落ちだし。多分雛人形がばらばらにならないようにまとめたんでしょう」

 そう言いながら持っている布で男雛と女雛の埃をふき取った保奈美は、切れた紐をポケットの中に入れ、二体を置かれていた場所に戻した。

「さあさあ、ゆっくりしていると遅くなっちゃう。次いってみよー」
「おまえなあ」

 全く能天気というか何というか。でもそんな保奈美の性格がまんざら嫌いではない正輝だった。
 二人は男雛と女雛を元の台に置くと、宝物庫のすすはらいを続けた。
 だが雛人形に背を向けた二人は、人形の目が光り始めたことに気がつかなかった。
 実は雛人形を結んでいた紙紐は封呪の札でできており、その力である者を二体の雛人形の中に封じ込めていたのだが、そんな事など二人は知るべくもなかった。




 さて……。




「おい、保奈美、起きろ、保奈美」
「う、うーん、誰よ。起きろってまだ真っ暗……って、あれ?その声、正輝くん? ……ってなんで正輝君があたしの部屋に!?」

 確か宝物のすすはらいが終った後で正輝君も一緒に夕食を食べて、それから彼は帰って、夜は自分の部屋の布団に入ったはず。
 もう朝? でも眠ってからあまり時間が経っていないような気が……。そもそも何で彼があたしの部屋に? 

 そう思いながら、保奈美は眠い目をこすって起き上がった。
 だがどうも様子がおかしい。
 薄暗いその部屋は、自分の部屋ではなかった。保奈美は布団の中ではなく、フローリング、いや、板間に横たわっている自分に気が付いた。しかもパジャマを着ていた筈なのに、今の自分は昼間すす払いをしていたピンクのセーターと紺色のデニムのミニスカートを着ていた。

「え? ここどこ? それにあたしいつのまに着替えて……」
「俺も気が付いたらここにいたんだ」
「ここって……え!? 宝物庫じゃない!」

 きょろきょろと辺りを見回した保奈美は、見覚えのあるその部屋がどこなのか、ようやく気がついた。

「確かにそうなんだが、でもちょっと様子が変なんだよ。宝物が何も無いじゃないか」

 そう、確かにその部屋は昼間すす払いした宝物庫だった。だが、板間に並べられていたはずの宝物は全て姿を消していた。
 その薄暗がりに月の光が差し込み、ぽっと男雛と女雛の姿が浮かび上がる。
 無表情であるはずのその顔は、不気味に笑っているように見えた。

「お、おい、あの雛人形、昼間のやつだよな」
「う、うん」

 立ち上がろうとする二人。だが足が竦んで動けない。
 やがて二体の雛人形が音も無くすーっと近づいてくる。

「げっ! 動いた」
「どういうこと?」

 唖然と目の前に浮かぶ雛人形を眺める二人。

「ありがとう、お二人さん。おかげで俺たち呪縛から解放されたよ」
「え? 正輝くん、なんか言った?」
「いいや。でも俺にも聞こえた。俺たちにありがとうって」
「うん。あたしにもそんな声が聞こえた」
「だれ?」
「だれだ?」
「俺だよ、いや俺たちだ」
「そう、あたしたち」
「ええ!? 人形が喋ってる」

 男雛と女雛が二人に向かって喋りかけていた。

「気ままに暮らしていたのに、俺たち二人は神社の宮司に人形の中に封じ込められてしまったんだ。それから何百年もこの中に閉じ込められていた。でも君たちが封印から解放してくれた。ありがとう、礼を言うよ」
「はあ、どういたしまして」
「馬鹿、挨拶してどうするのよ!」
「でも俺たちのおかげで助かったんだろう、良かったじゃないか」
「何言ってるのよ。うちのご先祖様に封印されたってことは、何か悪さしてたに決まってるじゃない」
「そ、そうなのか?」
「ふふふ、さてどうだろうね。まあ君たちがその答えを知る必要もないし、今さら知ったとしても遅いけどね」
「遅い? どういうことなんだ」
「さあ、これは君たちへのお礼だ。いい夢を見るんだな」

 雛人形がぴかりと光り、一瞬部屋が光に包まれる。

「うわぁ!」
「きゃぁ!」

 閃光に目をつぶった二人は、そのまま気が遠くなっていった。






「う、うーん、あ、あれ?」

 正輝が気がついて顔を上げると、そこは自分の部屋だった。昼間の疲れと勉強疲れでうとうとしてしまったらしい。

「ふぅ、何だ夢か」
 
 ほっとする正輝。だが体が動かせない。

「か、体が、動かない。どうして……!?」
「お目覚め?」

 はっと気がつくと、正輝の前に女雛が浮かんでいる。顔を動かせない彼の視界の中に男雛は見当たらなかった。

「雛人形? まさかさっきの夢の!?」
「そう、そのまさかよ。そして君の体はもうあたしの思うがまま。ほら、ひざまずくのよ」

 すると、正輝の意志とは無関係に彼の体は膝を落として、女雛に向かってがくっとひざまずく。

「く、くはっ、か、体が、体が勝手に」
「言ったでしょう、君にはもうその身体を動かす権利は無いの。ほら、土下座して」

 ひざまずいた正輝は額を床にこすりつける。

「やめろ、き、貴様あ」
「ふふふ、その生意気な口の利き方、気に入らないなぁ。あたしは君のご主人様なんだから、ご主人様って言いなさい」

 そう言いながら、ゆらゆらと浮かんだまま正輝の周りを回る女雛。

「も、申し訳ありません、ご主人様……って、く、口が勝手に」
「わかったでしょう、もう君はあたしに逆らえないの。どんなことでもね。何百年も封印されててむしゃくしゃしてるんだから、いろいろ楽しませてもらうわよ、ふふふふ」

 女雛は正輝に接近すると、その額にこつっと自分の顔を当てる。
 途端に女雛の体はぐんぐん大きくなり始めた。

「な、なんだ、急に大きくなって……いや、違う。まさか俺が縮んでるって言うのか!」

 よく見ると女雛の体だけでなく、周囲の全てが大きくなり始めている。天井もどんどん高くなっていた。

「うふふふ」

 女雛が大きくなっているだけではない。自分は反対に小さくなっているのだ。それに気がついた正輝は女雛を見上げて叫んだ。

「や、やめろ、何するんだ、やめろ、あうっぷ」

 そう言う間にも正輝の体は縮み続ける。着ている服はどんどんだぶだぶになり、やがてすっかり小さくなってしまった彼の体は服の中にすっぽりと埋もれてしまった。

「くそう、どうしてこんなことが」

 自分の着ていた服の中で、裸になった正輝はもがき続けた。
 そんな彼の体にいきなり巨大な手がつかみかかる。
 そして正輝の体をがっちりと握ると、彼の体を強引に服の中から引きずり出した。
 巨大な手の主、女雛はすっかり人間と同じくらいの大きさになっている。一方の正輝の体は、今や20cm足らずの人形のようなサイズになっていた。

「うふふ、かわいいくなったわね」

 裸になって晒された彼の股間のものをピンと指で弾く女雛。身体こそ十二単を着た人形のままだが、その動きは人間と変わらない。

「いつっ、馬鹿! やめろ!」

 足をばたばた振り回して、女雛の腕を蹴飛ばす正輝だが、一向に効果はなかった。

「くすぐったいわ。じっとしてなさい!」

 女雛の声と同時に 正輝の体はピンと人形のように硬直してしまった。

「う、うぐう、体が」
「さて、これから何をして遊びましょうか、うふふふ」

 静かに笑い続ける女雛は正輝の体をテーブルの上に置いた。
 自由になった正輝だが、依然として体を動かせないまま直立しているしかなかった。

「そうだな……うん、こんなのはどうかな?」

 女雛が印を結ぶ。するとその顔が別なものに変化していく。

「正輝……くん、どお。くふふふ」

 女雛がくるりと回る。

「あ! 保奈美!!」

 女雛が一回転すると、そこにはセーターとデニムのミニスカート姿の神宮寺保奈美が立っていた。

「うふふ、どお、この姿。あなたの好きな女の子になってみたのよ」
 
 保奈美の姿になった女雛は妖しく微笑んだ。

「保奈美の姿になっただって!?」
「さてと、うふふふ、さあ正輝くん、あたしと遊びましょう」

 保奈美の指で、女雛は直立した裸の正輝の股間をそっとなぞる。

「あうう、や、やめろ」
「かわいいね、正輝君のここ。あたしが気持ちよくしてあげる」

 保奈美の口調でそう言いながら、指の腹ですっすっとなで続ける。

「く、くうう」

 触れる保奈美の指先で直接受ける刺激に、やがて正輝の股間のものがむくむくと硬く膨らんでくる。

「気持ちいいでしょう。ほらこんなに硬くなってきた。もっともっと気持ちよくしてあげる」

 すっすっすっと指を動かし続ける保奈美。

「やめろ、保奈美の姿でそんな、ううう、やめてくれ」

 だがその言葉とは裏腹に、正輝の股間のものはすっかり直立していた。

 すっすっ……すすす……すっすっ……すすす。

 同じリズムで動かされ続ける保奈美の指。

「あう、だ、駄目だ、で、でる」

 どぴゅ!

 瞬間、正輝の股間から勢いよく白い粘液が放出される。
 保奈美の指先に、それはべっとりとからまっていた。

「ふふふ、どお、好きな女の子にしてもらった感想は。しかもそんな人形みたいに小さな体で。正輝君。気持ちよかった? あっはははは」

 そう言いながら、保奈美は指に付いた正輝の精液を真っ赤になった正輝の顔にぺたぺたとなすりつけた。

 屈辱

 正輝の頭にそんな言葉が駆け巡る。

「お前、なんでこんなことをするんだ」
「なんで? 面白いからよ。それと……うふふ、さてと、次は……そうね」

 女雛は、正輝の机に置かれたメイドフィギュアをちらりと見た。

「あら、いいもの持っているじゃない」

 それは正輝が作ったアニメキャラのフィギュアだった。
 ソフトプラスチックの体、極細の繊維で作られた金色の髪の毛、そして精巧なメイド服。
 女雛がぺろりとエプロンの付いたスカートを捲り上げると、人形の履いている白いショーツがあらわになる。

「やめろ、この変態」
「変態? こんなものまで作って、あなたのほうがよっぽど変態じゃないの。そんな変態さんにはお仕置きしなくっちゃね」

 保奈美の顔でにやっと笑うと、女雛は正輝の首に手を伸ばした。そしてえいっとばかりに正輝の頭を引っこ抜いてしまった。

「ぐはっ……え? 意識がある。俺、死んでない?」

 意識ははっきりしている。だが今の自分が首だけになっていることが正輝にははっきりと感じ取れた。それは何とも奇妙な感覚だ。首から下の感覚が全く感じられない。

「どお、正輝君。首だけになった気分は」
「こ、このやろ」
「ふふっ、首だけじゃ不自由よね。代わりにこの体を使うといいわ」

 女雛は机の上のメイド服を着たフィギュア人形を手に取ると、その首を引っこ抜く。

「正輝君、ほら、あなたが丹精込めて作った体でしょう。それが今からあなたの体になるのよ」

 ぞくっ

「まさか、やめろ、なに考えているんだ」

 正輝の中を冷たいものが通り抜けていった。だが女雛は保奈美の顔でにこっと笑うと、首の無いメイドフィギュアの身体に正輝の首を押し当てた。
 とたんに正輝の首はメイドフィギュアの身体にくっついてしまう。
 女雛は、メイドフィギュアになった正輝を机の上の鏡の前に置いた。

「ほら、かわいいメイドさんの出来上がり」
「これが俺なのか? このメイド服の人形が……俺」

 鏡の前に立たされた自分の姿を正輝は呆然と見ていた。



「さあ、ご主人様にご挨拶なさい?」
「ご、ご主人様、ぐっ」

 命令にメイドフィギュアの体が答える。メイドフィギュアの体も、やはり正輝の意志で動かすことができない。正輝の目にくやし涙が滲む。

「あらあら、泣いちゃったの? 正輝君、もっと楽しみましょうよ、ねえ」

 女雛がぺろりとメイド服のスカートをめくる。

「あら、正輝君とってもかわいいのはいてるのね、あ、これって正輝君が作ったものなんだよね。うふふ、よかったね、自分ではけるんだから。とっても似合ってるわよ」

 保奈美の口調で正輝をからかいながら、女雛は人形のはいているショーツの上から人差し指をすりすりとなぞる。

「あうっ!」

 人形の体のはずなのに、正輝の体の中を電気のような快感が走り抜けた。
 女雛は、鏡の前で正輝に見せ付けるように、その胸をぐりぐりと人差し指でさすったり、スカートの奥に手を入れショーツの上からすりすりと撫で回したりと、メイドフィギュアになった正輝を弄び始めた。

「や、やめろ、あ、あひっ、保奈美、やめろ、やめて」
「いやよ、や・め・ない」

 すりすりすりとさすり続ける保奈美。
 そう、正輝は段々と人形になった自分が保奈美に弄ばれているような錯覚に陥り始めていた。

「ほら、人形でもちゃんと感じることができるのよ。正輝君、どお、気持ちいいでしょう?」
「あうっ」

 さすられる胸の先から、股間から、身体の芯から快感が湧きあがる。ショーツの奥からじわじわと何かが滲み出てくる。

 その快感に、やがて意識が朦朧としてくる正輝。

「正輝君、今度はあたしのことを気持ちよくしてくれないかな」

 そう言って保奈美はスカートの中に両手を突っ込むと、履いているショーツをするすると脱ぎ捨てた。

「保奈美、お前、な、なにを……」
「なにって?……うふふふ、いいことよ」

 身動きできない正輝の体をつかみあげると、保奈美は彼の体からメイド服も下着も全部脱がせてしまう。
 鏡の前で顕わになった正輝の体、それは裸のメイドフィギュアの姿だ。
 作り物の身体とはいえ、自分の首から下が裸の女の子の身体になっている。
 鏡に映ったその姿に、正輝は奇妙なドキドキ感を覚えていた。
 保奈美はうっすらと赤くなった正輝の顔をペロリとなめた。

「うげっ、まだ精液が残って……ま、いっか」 

 そう言いながら、保奈美は正輝の顔を口に近づける。
 保奈美の大きな口がどんどん迫り、そして……。

「うわぁ! あうっぷ」

 保奈美は正輝の頭全体を口に含むと、舌でぺろぺろとなめまわした。

 ちゅばっ、ちゅばっ

 保奈美の唾液で上半身べとべとになる正輝。

「や、やめろ、保奈美、やめて……くれ、はぁはぁ」
「うふふふ、何言ってるの、本番はこれからよ。ああ、こうしていると何だか体が熱くなってきた。そろそろ」

 そう言いながら保奈美は片手でスカートをまくり上げた。
 そのうっすらとした翳りに覆われた股間が露になる。
 手を宛がい、二本の指でそこにある溝を何度も撫で回す保奈美。

「あうん、いい、いい気持ち」

 それは正輝にとっては目も眩まんばかりの痴態だった。

「やめろ、保奈美、やめるんだ」

 思わず叫ぶ正輝。だが、保奈美はやめようとしない。

「いい、いいわ……とってもいい気持ち」

 股間の奥から滲み出てきた愛液で、やがて股間も指もすっかりべとべとになる。
 快感を味わうかのように目を閉じていたいた保奈美だが、突然目を開いた。

「正輝君、もっともっと保奈美を楽しませて」

 保奈美は唾液で濡れた正輝の体を持つと、自分の股間に近づけていった。
 そして、ぱくりと開いた股間の溝に、頭から突っ込もうとする。

 ぞくっ

 保奈美が何をしようとしているかを理解した正輝の体を恐怖が駆け抜けた。

「ま、まさかお前、や、やめろ、保奈美、やめろお!」
「あたし、ここに入れてかき回すモノが欲しいの。さあ、もっと悦びをちょうだい」
「やめろ、やめろ、やめろ、あうっぷ」

 正輝の顔に、生暖かくてぬめっとした襞の感触が触れる。
 その瞬間、正輝は気を失った。



(後編へ)



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