目が覚めると、俺は何処かの建物のフロアに立っていた。ここは? デパート? 化粧品売り場? そうだ、見覚えがある。確かここは……。
 其処は都心のデパートにあるうちの化粧品販売ブースの前だった。
「いらっしゃいませ」
「え?」
 きょろきょろと辺りを見回していると、ブースの中から白い制服を着たうちの社の派遣店員が出てきた。ネームプレートには佐々木結花と書かれている。
 社内で見たことがあるな。確か彼女はアドバイザースタッフだったはず。
「お客様、今日は何をお探しですか」
「え? お客様? え? え?」
 俺の前に立ってにっこりと微笑んだ佐々木結花は、俺を見下ろしてそう話しかけた。俺は彼女の顔を見上げながら、思わずオウム返しに声を上げてしまったが、その自分の声にはっと絶句してしまった。
 声がおかしい。それに彼女ってこんなに背が高かったか? ……待てよ、いや、違う、これって俺の背が縮んでいるんだ。
「さあ、どうぞこちらにお座りください」
 どうも何処か様子がおかしい。
 何故という疑問と違和感を感じながら立ち尽くしている俺の右腕を引っ張り、鏡の備え付けられたモニター用のカウンターに導くと、彼女は俺をそこに座らせた。
「さあ、お客様、今日は何をご希望ですか」
「佐々木くん、きみ、いったい……ええ!」
 俺の目の前の鏡には、戸惑った表情を浮かべた長い髪をツインテールにしたかわいい女の子が映っていた。
 まだ高校生くらいだろうか、俺が頬に手を当てると鏡の女の子も同じように頬に手を当てる。舌をぺろりと出してみると、女の子も同じように舌を出す。その仕草がとってもかわいい。
 でもこれって、俺なのか?
 改めて自分の体を見下ろすと、俺は半袖の白いブラウスにウールのベスト、そして同じ紺色のネクタイとミニのプリーツスカートという女子校生の格好をしていた。足にも紺のハイソックスを穿いている。座った自分の穿いているスカートから伸びたつるつるした太股が妙に色っぽい。
 俺がそこに座ったまま戸惑っていると、こくりと佐々木結花は頷いた。
「わかりました、それでは私のほうでアドバイスさせて頂きますね。お客様ってお若くってこんなに肌がきめ細かいんですから、うちの化粧品を使えばもっともっと美しくなれますわよ。まず、そうですねぇ……」
 唖然としている俺に構わず様々な化粧品を取り出すと、彼女はその使い方を説明しながら俺に化粧を施していった。みるみる鏡の中の女の子が美しく変身していく。
 化粧されて変わっていく鏡の中の女の子をまじまじと見詰めている俺、俺は誰なんだ。このかわいい娘が本当に俺なのか?
「お・きゃ・く・さ・ま」
 はっと見上げる
「さあ出来ましたよ。これで如何ですか」
 お客様……そうだ、待てよ、確かこれはさっきの……そうか、お客様の立場で考えるってこういう事だったのか。清水の奴、はっきり言わない筈だ。よ〜し……。
「うん、素敵。でももうちょっと明るい感じにできないかな」
 俺はハイティーンの女の子になったつもりで彼女にそう答えた。
 そうだ、これはあの機械で設定されたバーチャルの体験なんだ。
 それにしても、俺がこんな風にメイクされる側の女の子の立場をさせられるとはなぁ。だが、うん、こりゃあ面白いな。
 それは普段であれば男の、それも中年の俺には絶対に体験できないことだった。たちまち俺は女の子として自社の化粧品を使ってメイクを施されるというそのシチュエーションにのめり込んでいった。メイクされながら様々に注文をつけると、彼女はそれにてきぱきと答えてメイクの手直しをしていった。
「さすがですわ、お客様」
 俺にリップクリームを塗っていた佐々木結花が、突然にやりと笑った。
「え? さすが?」
「はい、よくうちの商品の特徴をご存知で。さすが里崎さん」
「え? え?」
「僕ですよ」
 彼女の口調が突然変わった。
「僕? まさか君は」
「はい、僕です」
 今度は声そのものが男のものに変わる。それはついさっきまで聞いていたあの声だった。
「お前、まさか清水なのか」
「はい、実は僕も子機を付けて今のこのシチュエーションを女性アドバイザーの立場で里崎さんと一緒に体験しているんですよ」
「二人同時に? そんなことができるのか」
「はい。そしてあの機械の機能はそれだけじゃないんですよ。ふふっ、面白いことをしてみましょうか」
 清水は佐々木結花の顔でにやりと笑うと、その白くしなやかな手を俺の胸に伸ばし、ブラウス越しにそこにある膨らみ……本来俺に有る筈の無いもの……をむんずと掴んだ。
 むにゅ
 ぞくぞく
 ひっ
 俺の胸から体全体に痛みとも刺激とも付かないような感覚が広がっていく。
 何だ? 胸に本当に乳がある? いやそんな馬鹿な、これはバーチャルの中での事で……。
 混乱する俺に清水は事も無げに言い放った。
「あの装置は、感覚も設定通りに変換してくれるんですよ。だから今の課長はその女の子の感覚を味わえると言う訳です」
「そ、そんな……」
「さあ課長、もっと楽しみましょうよ」
 清水は俺の胸から手を離して今度は頬に手を添えると、己の顔を近づけてきた。妖艶に笑ったその顔がアップになる。
 佐々木結花、社内でも一二を争う美女だと有名だ。だが目の前の彼女の中身は……。
 彼女は俺の唇にそっと己の唇を重ね、そして次の瞬間ぐっと押し付けてきた。暖かくぬるっとしたその唇の感触が心地よく伝わってくる。
 あ、はぁん
 今度は俺の唇からぞくぞくした快感が湧き上がってきた。
 彼女とキスできるとは、だが俺自身も女の子で、それも彼女より年下で彼女よりも小柄で、おまけに、この佐々木結花は実は清水なんだよなぁ……。
 それは不思議な倒錯感だった。
 そして俺の唇を押し分けるようにして彼女の舌が俺の口の中に進入し始めていた。その舌が口の中を自在に這い回り、そして俺の舌に絡んでくる。俺も自然とその舌に己の舌を絡ませる。そのとろとろするような快感に、自分の体からどんどん力が抜けていくのがわかる。
 その時突然彼女が唇を離した。
「は、はあ〜ん」
 お、俺って何て声を
「ふふっ、気持ちいい? さあ、あたしともっと楽しみましょう」
 清水は再び佐々木結花の声に戻ると、俺の耳元でそっと囁いた。その目には妖しい光が宿っている。
 はぁ、はぁ
 胸がどきどきと鼓動を鳴らしているのがわかる。そんな、初心な女の子じゃああるまいし、何でこんなに……まさかこのどきどきもこの娘の設定だっていうのか。
 困惑している俺の表情から何かを察したのか、佐々木結花は俺に向かって言った。
「うふふ、今のキスに感じているようですね。その子の設定は18歳の女子高生で未だ男性経験のない処女、でも一人エッチが大好きで感度は抜群というものなんですよ」
「何だあ? そのふざけた設定は。そんなもの仕事には関係ないだろう」
「ふふふ、課長は僕が本当に仕事のためだけにこの機械を手に入れたと思ってるんですか」
「なにい? 違うのか」
「自分で楽しむために決まっているじゃありませんか。そして嫌な奴は、これを使って僕の思い通りに動く下僕に変えてしまうんですよ」
「お前……」
「里崎さんにもこれから僕の下僕になって頂きたいと思いましてね。もうあなたの下にいるのはうんざりなんです」
「俺はお前のことを思えばこそ……」
「そんなのはあなたが勝手にそう思っているに過ぎません。さあ、まだまだお楽しみはこれからですよ」
「お前……やめ、止めろお」
 佐々木結花の姿で、清水は優雅な手つきで俺のリボンタイを取りブラウスのボタンを一つ一つ外すと、あれよあれよと言う間に脱がせてしまった。白い清楚なブラジャーに包まれた小振りな胸が顕わになる。
 さらにふふっと笑いながら両手を背中に回してブラジャーのホックを外すと、俺の付けているブラジャーも取り去ってしまった。かわいい乳首が、盛り上がった両胸が顕わになる。
「な、何をする」
 その美しい顔を近づけると、彼女は俺の乳首をぺろりと舐めた。
 ぞく、ぞくぞく
 胸から一段と強い快感が湧き上がり、思わず仰け反ってしまう。
はひ、ひゃあ
「気持ちいいですか、さあ女同士楽しみましょう」
「馬鹿、俺たちは男同士だろうが」
「ふふ、ここではあたしたち女同士でしょ。ほら……ね」
 突然俺の股間からも強い刺激が湧き上がった。
 慌てて股間に目を下ろすと、彼女は右手を俺の穿いているプリーツスカートの中に突っ込んでいた。
「ほら、どお」
 座っている俺のスカートが左手でぱっと捲り上げられ、俺の穿いている白いショーツが顕わになる。そしてその中に突っ込まれ、もぞもぞと動いていた彼女の指先は俺の股間を盛んに刺激していた。そこからは俺自身のものとは全く別の感覚が湧き上がってくる。そして指はさらに俺の中に侵入してきた。
「お前、や、やめろお、あ、うくっ」
「お客様、そんな男のような言葉使いをしてはいけませんわ」
「清水、お前」
「ほら、お客様、お客様は女の子なんですよ。もっと女の子らしくしなきゃ」
「お前、あふっ、やめ……くぅ」
 股間から広がる刺激が一段と高まった。
 く、くぅぅ、あ、あん
 き、気持ちいい
 そしてその心地よさと共に、何かがとくっとくっと股間の奥から溢れ出てきているのを感じた。駄目だ、これ以上……。
「お客様。やめろじゃなくってやめて、でしょう」
「や、やめろ、やめ、やめ……やめて〜」
「はい、よくできました」
 その瞬間、彼女はショーツから手を抜いた。俺の目の前に差し出したその指先は濡れてきらきらと光っている。
「ほら、これ里崎さんが出した蜜ですよ」
 佐々木結花の姿の清水は指先をぺろりと舐めた。
「はぁはぁ、はぁはぁ、お、お前、な、なんてことを」
「ふふふ、いい様ですね、里崎さん。よがっているところなんか本当に女の子みたいでしたよ。まあ、さすが常々人の身になって考えるのを心がけていらっしゃる里崎課長と言うべきか」
「冗談はよせ。清水、早くあの機械を止めろ」
「いやです」
「なに?」
「まだまだあなたには楽しんでもらいませんとね。そして、ふっふっふっ」
 そう言いながら清水は佐々木結花の顔でにやりと笑うと、濡れている自分の指先を再びぺろりと舐めた。
「お前何を考えて、うわぁ〜〜」
 その時、突然俺の視界は暗転した。

 ・ ・・ ・・・う、う〜ん、な、何が起こって……え?
 視界が戻った時、俺は目の前から佐々木結花、いや清水は姿を消していた。しかし……
 そう俺の前には彼女の代わりに別の女性が座っていた。上半身裸の小柄な女の子、両胸は顕わでスカートは捲り上げられ白いショーツが丸見えだ。
 そう、それはさっきまでの俺だった。
 そして気が付くと口の中に何か変な味が……何だこの味は。
 そして何時の間にか自分の目の前に差し上げていた己のほっそりとした人差し指がきらきらと濡れているのに気が付いた。
 え? え?
「お姉さま、いきなりそんなこと、恥ずかしい」
 女の子がにやっと笑った。この笑い方……まさか。
 え? じゃあ俺は。
 慌てて自分の体を見下ろすと、女性アドバイザー用の白いミニワンピースの制服を着ている。
 これは、まさか……。
「でもお姉さま、あたしお姉さまがそうしてくれるのを待ってたの。さああたしをもっと愛して」
 女の子が妖しく笑う。
「お前、清水か」
「はい、たった今お互いの設定を入れ替えたんです。今度は里崎さんが佐々木結花になったんです。その体もとっても気持ち良いですよ」
 呆然とする俺を尻目に女の子になった清水は立ち上がると俺の着ている制服のファスナーに手をかけると、さっと引き下ろしてしまった。
 制服がファサリと床に落ちる。
 制服を脱がされた俺がはっと我に返って己の体を見下ろすと、そこには佐々木結花の見事な肢体が顕わになっていた。ブラジャーから今にもこぼれ出すかのようなはちきれんばかりの巨乳、きゅーっと細くくびれた腰、白いパンティストッキングに包まれた大きく張り出したお尻。そしてその股間をやっと隠している極小のショーツが……。
「お、お前」
 思わず胸を両腕で抑えて女の子を睨みつける。
「ふふふ、今度は僕がお客様。あなた、あたしの、お客様の言うことに逆らっちゃ駄目でしょう」
 女の子はにやにやと笑いながら俺の身に付けているブラジャーとパンティストッキングそしてショーツを引っぺがしてしまうと、自分もスカートとショーツを脱ぎ捨てて俺に抱きついてきた。
「お姉様、抱いて!」
「お、お姉さま!?」
「あたしアドバイザーのお姉さまのことがずっと好きだったの」
 女の子がうるうるとした目で見詰め、そして俺に唇を押し付けてきた。
 胸と胸が触れ合い、それぞれがくにゅくにゅと変型する。
 き、く、くはっ
 それは言い様の無い快感だった。胸から伝わるこの今まで感じたことの無い快感、これが女の……。



 女の子はさらに、力の抜けていく俺をベッドに押し倒した。
 ベッド? ここってデパートだろう? え?
 何時の間にか其処には柔らかいベッドが出現していた。いや、違う、ここって寝具売り場か。客が……。
 そう、客らしい女性がじろじろと見ながら俺たちの、ベッドで抱き合っている俺たちの横を通り過ぎていた。
 はっとそれに気が付いて慌てて唇を押し付けようとしている女の子を引き離そうとするが、彼女はしっかりと抱きついたまま離れようとしない。それどころか脚を俺の体に絡めてくる。
「や、やめ、恥ずかし、うぷっ……」
 俺の唇は、そこで彼女のふっくらした唇に塞がれた。
(う、うぁ、く、くぅ〜)
 唇の温かい感触と絡み合う舌の感覚に再び頭がぼーっとしてくる。
「はぁ〜、はぁはぁ、気持ちいい〜。ほらこっちはどお」
 唇を離すと、女の子がさらに俺の胸に己の胸を擦りつけてくる。
「ひっ、い、いや、やめ、あ、あひ、あひぃ〜」
 恥ずかしさと胸から湧き上がる心地よさが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、俺の中で何かがきゅーと湧き上がっていた。
 やがて女の子は己の股間と俺の股間をぴったりとくっつけ、腰を動かし始めた。
 ぬるっとしたものに塞がれた俺の股間がくちゅくちゅといやらしい音を立て始める。
「あ、いい、気持ちいいよ〜ねえ、お姉さま」
「ちょ、ちょっと何、う、うう、これ、あ、あひ、あひぃ」
 女の子がさらに腰を動かす。
「あ、あん、あん、いい、いく、いく、いく」
「だ、だめだ、もう何も、あ、ああ、い、いい、いく」
「いく、いく、いっちゃう〜」
「くふん、も、もうなにがどうなって、いあ、は、はん、はん、はん、あ、あ〜〜〜〜」 
 そして俺は意識を失った。


(その3へ)

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