うちの支店にはとびきりかわいい子がいる。入社ニ年目で窓口業務をしている美坂唯だ。顔もスタイルも抜群、アイドルばりの容姿に加え、性格も悪くないので狙っている行員は数多い。だが、彼女にはどうやらまだ決まった相手はいないようだ。 俺は休憩時間に彼女が一人のところを見計らって声を掛けた。 「美坂くん、毎日大変だねぇ」 「いいえそんなこと、仕事ですから」 彼女の返事は素っ気ない。まあ40近くて余り目立たない俺など眼中にないのだろう。 「ところで美坂君、さっきこんな人形を拾ったんだが、もしかして君のものじゃないかい」 「何ですかその人形」 俺が彼女に人形を手渡すと、その瞬間彼女の体がびくっと震え、俺の視界が暗転した。そして気が付くと、俺は女子行員の制服に身を包まれて椅子に座っていた。そう、俺は目の前にいた美坂唯になったのだ。 ふふふ、やった、成功だ。 「あ、あれ?」 「どうしました係長」 俺は目の前の俺に声を掛けた。俺の口からは唯の鳥のさえずりのような声が出てくる。 「いや、何でもない。あれ、何だったっけな」 「うふふ、あのね係長。係長はあたしに今晩デートしないかって声かけてきたんですよ」 「え? そうだったっけ」 「ふふっ、でも返事はもうちょっと待っててくださいね」 俺は腑に落ちないといった表情をしている目の前の俺を尻目に席を立ち、そのまま人形を片手に女子更衣室に入ると、彼女のロッカーの中に人形を入れた。 ふふふ、これでしばらくは俺が美坂唯だ。 俺はベストのポケットの中に入っているコンパクトを取り出して、自分の顔を映してみた。そこには唯になった今の俺の顔が映っている。鏡を見詰めてにんまりと笑うと、鏡の中の唯もにやりと笑った。それは普段の彼女から想像できないような笑いだ。いろんな表情をしてみると、鏡の中の唯がいろんな表情をしてくれる。笑った顔、泣いた顔、怒った顔。 ふふっ、唯ちゃんってほんとかわいいよな。そして今は俺がこの唯ちゃんなんだ。 俺の願い、それは美坂唯をものにすることだ。人形を使って昔の王子が好きな妃をものにしたように、美坂唯をな。 俺は唯になった自分自身の体を見下ろしてみた。するとベストを窮屈そうに盛り上げている大きな胸が俺の目に飛び込んできた。実際胸からは少し息苦しさを感じる。どうも大きな胸を無理やりベストの中に納めているみたいだ。その胸をベストの上から両手で弄りながら、『あたしが好きなのは森田係長なの』って心の中で念じてみる。 そうよ、入社した時からずっと思っていたの、あたしは係長のことが好き。 そう思いながら制服のベストの上から自分の胸を撫で続ける。すると心の中にどんどん切ないものが渦巻いてきた。 そうなんだ。あたしが好きなのは森田係長なんだ。 繰り返し心の中でそう唱える。 あ、ああ、あーん……係長、ああん、あたし係長に、祐一さんに抱いて欲しいの。は、は、はふぅ。 「うう、もうたまらん」 俺は体の奥から吹き上がってくる切なさにどうにも我慢できなくなり、女子トイレに駆け込んで個室に入るとスカートとそれにパンティストッキングとショーツを一緒に下ろした。覗き込んでも上からはそこがどうなっているのかよく見えない。けれど、そこには今や俺のものになっている唯のアソコがある。 俺はそこを指でゆっくりと撫でてやった。 「う……く……」 ああ、俺のもの、係長のもの……欲しい。 自分が唯を抱いているのを想像しながら、右手の人差し指と薬指で肉襞を押し広げると、中指を少しずつ沈み込ませていった。中のほうは既にじゅんと濡れてきていた俺のソコは難なく俺の中指を受け入れていく。 「う、う、くふぅ」 ゆっくりと繰り返し指を動かすと、奥のほうからとくとくと熱いものが込み上げてきた。それにつれて俺の指の動きも段々と激しくなっていく。 「あ、ああん、いい。係長……好き、係長のもの……欲しいの」 俺は唯になりきって自分のことが、森田祐一のことが好きなんだと心の中から思った。俺のものが欲しくてたまらないと。そうだ、唯に俺のことを心の中から好きなんだって思わせるんだ。 「そうよ、俺は、いえ、あたしは祐一さんのことが好きなの、く、くはっ、あ、あああ……」 そして俺は個室の中でいってしまった。 「はぁはぁはぁ……ふ、ふふっ、これでいい。これで元に戻った後、美坂唯は俺のことが好きなんだって思い込んでいるぞ」 そう、これが俺の計画だ。個室の中で俺のことを思ってオナニーした記憶が彼女の中にしっかりと残るはずだ。 うーん、それにしても女ってのはほんと気持ちいいな。 ……そうだ、せっかく唯になっているんだし、俺のモノって実際どんな風に感じるか唯として味わってみるのもいいな。ふふふ、よし今晩本当に俺を誘ってみるか。 女子トイレを出た俺は、パソコンに向かっている俺に近づいて声をかけた。 「係長、今晩いいですよ」 周りがぎょっとした表情で俺を見詰める。 美坂さんが係長を誘ってる? 「え? あの、美坂くん」 「折角係長に誘って頂いたんですしぃ、あたし6時半に会社の前で待ってますね。デート楽しみにしてますよ」 俺は他の行員の面前で俺とのデート宣言をした。美坂唯の姿で。周りには唯が俺のデートの誘いを承諾したようにしか見えず、たちまち同僚の女の子達が集まってきた。 「どうしたの唯、森田係長とデートだなんて?」 「どうしたのって、あたし本当は森田係長のことがずっと好きだったんだ」 「そんな、信じられないよ。何か係長に弱みでも握られたの。もしそうなんだったら、あたしたち協力するよ」 「そんなことないよ。あたしは森田係長とデートできて本当に嬉しいんだから」 女の子たちは、呆気に取られて俺を見詰めていた。20歳そこそこ、銀行一の美人との誉れ高い美坂唯が40前未だ独身、何の取柄も無さそうに見える俺、森田祐一と交際宣言したんだからそりゃあ当然だろう。 「唯、考え直すなら今のうちよ。止めたほうがいいよ。もっといい男いっぱいいるのに」 「失礼ね、係長だっていいところいっぱいあるんだから」 「あなた、係長のどこがいいわけ」 「何処って、えーっと」 はて、俺のいいところ、そんなことまでは考えていなかったな。 「と、とにかくあたしが好きになったんだからいいじゃない」 「「やれやれ」」 そして6時半、俺たちは街に出た。 デートのコースはあっちの俺に任せたが、案の定いつもの飲み屋に連れて行きやがった。 もっと女性に気を使えよな……って俺か。まあ仕方ないな。 俺は内心苦笑しながらも付き合ってやった。しかし、ついいつものペースで飲んでいると、体が酒を受け付けなかったのかすっかり酔っ払ってしまった。……そして気が付くと俺は自分の背中におんぶされていた。その広い背中にちょっとどきどきしてしまう。 え? このどきどきって……。 「ん、うーん」 「気が付いたかい」 「う、うん」 「美坂くんってお酒好きなんだな。でもちょっと飲みすぎだぞ」 「ふふっ、係長とデートできて嬉しかったの……ねぇ」 「ん?」 「好き」 俺はおんぶされたまま、背中からぎゅっと俺を抱きしめた。 唯の巨乳が、今の俺についている大きな乳が、おぶっている俺の背中に押し付けられてぐにゅっと変形するのを感じる。 あん、こうしていると、何かいい気持ちだ。 「お、おい、美坂くん」 「唯って呼んで」 俺をおぶったもう一人の俺は、背中に胸を押し付けた途端びくっと震えたが、しかし俺のその呼びかけには答えずに、何事も無いように歩き続けていた。 むぅ、全くこの朴念仁が。 俺がこんなに誘っているのに・・・ってこいつは俺自身か。 結局俺は俺におんぶされたまま美坂唯のマンションに入った。未だ酔いの残っている俺はベッドにばたんと寝崩れてしまう。 「おい、じゃあ俺は帰るからな」 「だめ、きて、係長、いえ祐一さん。あたしずっと祐一さんのこと好きだったんだから」 「今日はずっとそんなこと言ってたな。いいのか信じても」 「……うん」 俺はこくっと頷いた。 「本当にいいのか」 「これ以上女に言わせる気?」 「・・・・・・・・・」 目の前の俺はじっと俺のことを見詰めると、無言でゆっくりと俺のふっくらとした唇に自分の唇を押し当ててきた。そして次の瞬間思う様に吸ってくる。 俺も俺の唇を吸い返すと、今度は舌を俺の口に入れて俺の舌に絡めてくる。 「ぷはっ」 「は、はぁーん」 こいつ、やっとその気になってくれたぜ。それにしても……なんて気持ちいいんだ。 唇の触れ合う感触、絡まった舌の暖かさ、ふぅ、全くくらくらする。女の体でキスをされるって、ほんとにいい。 ぐったりとベッドに体を横えたまま、俺は身に着けている唯のタイトスーツを1枚1枚剥がされていった。上着を脱がされスカートのホックを外され引き下ろされる。 ふふっ、俺って女の服を脱がせるのが上手いじゃないか。 服を脱がされながらも、俺は半ば夢心地の中で、でも半ば冷静にそんなことを考えていた。 一方もう一人の俺のほうは、俺からブラウス、パンスト、そして黒いブラジャーにショーツと次々に着ているものを剥ぎ取っていった。 そう、今やベッドに横たわった俺はすっかり裸だ。 ちらっと裸にされてしまった自分の体に視線を落とすと、横たわっていながらもしっかりと釣鐘の形を保っている唯の張りのある巨乳が眩しい。そしてその先には、きゅっと閉じた自分の太もも。 「や、優しくしてね」 今から俺は俺に抱かれる……勿論それは望むところなのだが、ちょっと心細くなった俺は、思わずお決まりのセリフを口にしてしまった。 「ああ」 短く呟いた目の前の俺は、手早く服を脱ぎ始める。そして裸になると、俺の上から覆いかぶさるように俺に抱きついてきた。 逞しい腕で体をぎゅっと抱きしめられる。 俺も自分の白く細い両手を俺の胸に絡めて抱き返す。 「好き、抱いて、もっと抱いて」 俺がさらに強くぎゅっと抱きしめてくる。……ああ、気持ちいい。 俺の太い手が俺の体中を弄る。 その手の動きに従って体中から湧き上がってくる心地よさに、もう一人の俺の行動を心の中で冷静に観察して俺は、いつしか翻弄され始めていた。 「あ〜ん、い、いい、気持ちいいよ」 ぺろっと乳首を舐められる。 「いひぃ」 何時の間にかすっかり隆起していた俺のピンク色の乳首にぺろぺろと俺の舌が絡まる。 「あひっ、あ、ああ、あくぅ」 じゅん。 その瞬間、俺の体の奥から、何かがぬわっと溢れ出してくるのを感じた。 いい、いいよ、気持ちいい。俺ってこんなに上手かったんだ。 仰け反る俺の股間に俺が顔を埋める。 そ、そこまで、は、恥ずかしい。 ぴちゃぴちゃと俺の股間を舐める音が聞こえてくる。 「や、やめ……クンニなんて、そんな……あうっ」 いくらなんでも俺が自分の股間を舐めているのを見るのはさすがに恥ずかしい。だが「やめて」と言おうとした瞬間、俺の体がぶるっと震えた。 くぅぅ、いい、いいよ。 「俺のも頼む」 俺の股間を舐めていたもう一人の俺は、体を回すと俺の目の前に自分の股間のものを突き出してきた。 こんな角度で自分のものを見ることになるなんて。それにこれを俺が舐めるのか。男の俺が……。 だがここでやらなければ、俺のことが好きだって、これを舐めたいって思い込まなければ、唯に俺のことが好きだって思い込ませられない。 自分のことをもっと唯って思い込むんだ。そう、俺のことが好きで堪らないんだって。 俺は……あたしは祐一さんが大好き。 コレを大きくして、硬くして、そしてあたしの、唯のアソコに……入れて……みたい。 あたしはソレに手を添えると、ゆっくりと口の中に含んでいった。 その生暖かい感触が口の中を満たしていく。不思議と嫌悪感は感じなかった。 それどころか、どんどんといとおしさが込み上げてくる。 舌を使うと、口の中でソレはどんどんと大きさと硬さを増していく。 ああ、早く……。 またじゅんと股間から溢れ出してくるのを感じる。 「よし、そろそろいくぞ」 そう言って体勢を変えた祐一さんがあたしの両足をぐいっと押し広げた。そしてぴんと固く張り詰めた己のモノを、ぱっくりと開いてしまったあたしの股間にあてがう。その様子を見詰めていると、きゅんと切なさが込み上げてきた。 ハァハァハァと自分の息が荒くなっていくのがわかる。 今からこれがあたしの中に入ってくるんだ。 「うっ」 押し当てられたものに力が込められる。するとそれはゆっくりと、肉襞を押し分けるように入ってきた。 「あひっ!」 「痛かったかい」 「ううん、いいの、気持ちいいの」 そう、痛みは無かった。それどころか、それが中で動かされる度にぴくぴくと快感が吹き上がってくる。 ああ、体の中がかき回されてるみたい。 湧き上がる快感に身も心も翻弄される俺……あたし。 「き、きもちいい〜」 「う、う、う」 祐一さんは、あたしに覆い被さったまま何度も何度も腰を突いてくる。その度に中でこすれる感触と体の奥で何かに当たる感触が快感をさらに高めていく。ああ、もう何も考えられない。 「あ、あん、あん、く、くぅ〜、い、いいよぉ」 あたしは体中を駆け巡る快感を思う様味わった。 「うぐっ、い、いくぞ」 「あ、う、い、いく……いく、いく、あ〜ん、いくぅ」 あたしの中の祐一さんのモノから、あたしの奥深くに向かって何かが勢いよく噴出していく。その瞬間あたしの中で何かが弾けた。 そうだ、あたしは……美坂唯は、たった今祐一さんと結ばれたんだ。 祐一さん……すき。 唯としての悦びに浸りながら、俺はそのまま気を失っていた。 翌朝目が覚めると、俺の姿は唯の部屋から消えていた。 おいおい、抱いた女に何も言わずに出て行っちゃったのかよ。つくづく鈍感な奴。それにしても……。 「いやぁ、昨日はほんと気持ち良かったぜ。俺のものもなかなかのものだったな。さてと、取り敢えず元に戻るとするか」 唯になって俺と結ばれて、これで唯の中には俺とのセックスの記憶が、俺のことが好きなんだっていう記憶がしっかりと残されるだろう。ふふふ、会社で唯と会うのが楽しみだぜ。 目的を達したのを確信した俺は唯の顔でにやっと笑うとベッドから起き上がり、髪の毛を取り出そうと人形を探した。しかし見つからない。 待てよ、昨日人形の中に髪の毛を入れたのって朝7時……いけね! もう24時間過ぎてるじゃないか。確か24時間過ぎると大変なことになるって言ったけど。まさか……。 それから部屋中懸命に人形を探したものの、結局人形はどこにも見つからなかった。止む無く唯として出社した俺は、会社でもう一人の俺に会うと人形のことを聞いた。だが何も知らないと言う。 俺は、それじゃあ俺は、まさかこのままずっと美坂唯のまま……そ、そんなぁ!! そして1年が過ぎた。 結局元に戻ることができなかった俺は、そのまま美坂唯として暮らしていくしかなかった。まあ彼女の記憶はあるので、唯として振舞うことに何の不自由もしないし、誰も目の前の美坂唯の中身が俺だなんて気づかない。それどころか唯としての生活に馴染んでいくに従って、自分が森田祐一だったという俺の記憶のほうが段々とあやふやになっていく。そう、もしかしたら俺は美坂唯の体を操っているつもりで実は美坂唯の中に飲み込まれようとしているのかもしれない。でもそれでもいいやと俺は最近思い始めていた。 そう、俺が、いいえ、あたしが誰だって。 あたしは唯、美坂唯。そして……。 目の前の鏡には、ウェディングドレスに包まれたあたし……美坂唯が映っていた。 今日は元のあたし、祐一さんとの結婚式だ。あの日から付き合い続けて遂にこの日が、彼と結婚する日が来た。 「おお! きれいだ」 「全く森田くんと美坂くんがねえ」 「唯、幸せになってね」 「うん、みんなありがとう」 あたしは花嫁の控え室に入ってきた会社の上司や同僚の祝福に答えながら、鏡に映ったあたし……白いウェディングドレスに包まれた美坂唯の姿を見詰めてぼんやりと考えていた。 これでよかったんだろうか。確かに願いは叶ったんだよな。でも何か違うような。 そんな疑問符を頭の中に浮かべていた。 願い? あれ? あたしの願いってなんだったっけ。そうだ、祐一さんと結婚することじゃない。そう、願いは叶ったんだ。 結婚式の中、あたしはあたしの傍らに立つ夫になる男の姿を見詰めていた。 「祐一さん」 「ん? どうしたんだい、唯」 「一生あたしを離さないでね。ずっと一緒だよ」 (了) 2005年2月27日 改訂版脱稿 |