俺の名前は藤丸和也。17歳の高校二年生、藤丸家の一人息子だ。藤丸家はじっちゃんまでは代々忍者の家系だったらしいけれど、親父はごく普通のサラリーマンをしている。

 ところがお盆前のある日、突然田舎からやってきたじっちゃんから、俺は藤丸家に代々伝わるという奥義の伝授を受けることになってしまった。

 その奥義とは、写真に撮った人物の姿に変身できるというもので、女性になってみたいという願望を密かに持っていた俺は、早速隣りに住んでいる幼馴染の風野麻美に変身すると、麻美としての生活を楽しんでしまった。

 さて、この奥義何に使おうか。




奥義2

作:toshi9



「あー毎日毎日暑いなあ」

 夏休みもあと1週間で終わりだ。けれども俺は、自分の部屋の中で悶々としていた。折角マスターした奥義をもっと試してみたいと思い、あれからデジカメを持って出掛けたんだけれど、これはと思う女の子を街中で撮るのはどうにも難しい。
結局その後なかなか麻美以外の女の子の写真を撮る機会は訪れなかった。それに、あれから雑誌の写真やインターネットの写真でもその姿に変身ができるのか試してみたんだけれど、どれもうまくいかなかった。どうやら伝授の時にじっちゃんが念を送った愛用のデジカメで撮ったものでないとうまくいかないらしい。

 しかし、麻美になりすまして暮らした3日間は面白かったな。また変身してみたいよな。

・・・・ん?待てよ、前にデジカメで撮った麻美の写真って何枚でもプリントアウトできるんだから、何度でも変身可能じゃないのかな。

 俺はこの間撮った麻美の写真を再びプリントアウトすると、もう一度試してみることにした。写真を床に広げると、印を結んで精神を麻美の姿に集中する。すると、今度は以前と同じように小さくなることができた。

 やっぱりあのデジカメで撮ったものなら何回でも出来るんだ。

 俺は思わずにんまりと笑ってしまった。また麻美になれる。

 すっかり写真の麻美と同じ大きさになると、写真に向かって飛び込んだ。すると、水に入るようにすんなりと写真の中に入ることができた。
 写真の中では俺はすでに麻美の格好になっている。
 気合を入れて写真の中から飛び出すと、じっちゃんから教わった通り十字に組んだ腕をゆっくりと内から外側に回す。すると俺の体は元の麻美の大きさに戻っていった。

 早速自分の格好を確認すると、俺は半そでの白いブラウスに赤のリボンタイ、モスグリーンのミニのプリーツスカートといううちの高校の女子の夏制服を着ていた。
 見下ろすと胸は大きく盛り上がり、ミニスカートから伸びる紺のソックスを穿いた足はすらりと長い。鏡に映してみると、髪をツインテールに分けたその姿はこの間の麻美そのままだ。スカートを両手でゆっくりと持ち上げてみると、真っ白いショーツがまぶしい。手を太股の間に挟んでみると、ショーツの生地越しにそこに何もないのがわかった。手に伝わる太股のなめらかでむちっと張りのある感触が心地よい。

「よし、変身成功! 麻美、またお前をやらしてもらうぜ」

 鏡に向かって両手を太股の間に挟んだ格好のまま、ちょっと上目使いで甘えるような表情をしてみる。

「和也、あたし本当はあなたのこと好きなんだ」

 俺はドキドキしながら鏡を見詰めていた。

 うーん、本物の麻美だったら絶対こんな格好はしないよな。
・・・でも自分でやってると思うと何かむなしい。




 さてと、麻美になったことだし、この姿で外に出掛けてみようかな。麻美になって街を歩くのって何かドキドキするんだよな。
写真を撮るのだってこんなかわいい女の子なら皆安心して撮らせてくれるだろう。よし、そうしてみるか。

 俺はデジカメをスカートのポケットに入れると、履いたままの靴をいったん脱ぎ、手に靴を持って母さんに気付かれないようにそっと玄関まで下りていった。でも玄関で靴を履いていると、あっちゃー母さん台所から出てきちゃったよ。

「あら、麻美ちゃんいらっしゃい。何時の間に来てたの」

「は、はい、二階に上がったら和也クンいないみたいで」

「あら、そうなの。いつ出かけたのかしら。じゃあ帰ってくるまでゆっくりしていったら」

「い、いえ、かあ、いや、おばさんまた来ます」

 俺は慌てて靴を履くと玄関から飛び出していった。

 あ、あせったな。母さん変に思わなかったかな。でも俺の事を麻美が遊びに来たって思っているだろうし、まあ大丈夫だろう。

 さて、どこに行ってみようかな。

 前も感じたけれど、麻美の格好で町を歩くと街が全然違う風景に見える。麻美ってこんな風に見ているのか。
 それにやっぱりドキドキする。何だか誰かから見られているような感じだし、ミニスカートが恥ずかしいぜ。あいつ、よくこんな格好でいられるよなあ。でも、スカートって風が中に入り込んで涼しくて気持ちいいな。

 短いスカートの裾を気にしながら道をぶらぶら駅の方に歩いていくと、後ろから呼び止められた。

「あっさみぃ、どこいくの」

 振り返ると、そこには同じクラスの田端千秋、栗山秀美、池山明子の3人が立っていた。

「え、うん、ちょっとね」

「私たちこれからプールに行くんだけれど、一緒に行かない?」

 麻美の奴、確か今日はおばさんと新宿のデパートで買い物だって言っていたな。街にはいないはずだし、プールなら会うこともないなろう。

「いいけど、急に言われても水着持ってないよ」

「今日はホテルのプールに行くつもりなんだ。あっちで借りればいいじゃない」

 そ、そうなのか。うーん、これはチャンスかも。

「そ、そっか。大丈夫かなぁ、でも行ってみようかな」

 俺は麻美の顔で不安げな表情をしながらも、心の中ではニヤリと笑っていた。




 ホテルのプールは本当に何なら何まで揃っていた。レンタル用の水着も競泳用からパレオ付きワンピース、ビキニと選り取りみどりだ。

 俺は麻美に似合いそうな白地にハイビスカスの花柄をあしらったワンピース水着を借りようとした。

「へぇ、ビキニじゃないんだ」

「えぇ? だって恥ずかしいよ」

「あら、今度プールに行く時は絶対ビキニを着るんだって宣言してたくせに」

「そうだったかな。でも今日はこれでいいや」

 さすがにビキニは恥ずかしいよ。

「それに麻美、アンダーショーツは買わなきゃ駄目だよ」

「???」

「それだと下が透けちゃうでしょ」

「そ、そうだね。うん、うっかりしてた」

「変な麻美」

 そうか、女の子も水着の下にサポーターみたいに付けるんだ。

俺は一通り準備を終えると、待っていた3人と一緒に女子の更衣室に行った。

 ふふふ、遂に禁断の園に足を踏み入れるぞ。

 俺は「おじゃまします」と小さくつぶやきながら、みんなの後についていった。

 ドアを開けて一歩中に入ると、更衣室の中は女の香りでむんむんむせ返っていた。
 
 ご、極楽だぁ〜

 更衣室の中では、まだ小さい小学生の女の子から高校生、スタイル抜群のOLとおぼしきお姉さんまで様々な女性が着替えをしていた。
 さすがにすっぽんぽんの女性はいなかったが、同性だけの気安さなのか、男だったら絶対に見ることの出来ないようなあられもない光景があちらこちらで繰り広げられていた。

 じっちゃんありがとう。

 俺は思わずじっちゃんに感謝してしまった。

「麻美、なに突っ立ってるのよ。早く着替えちゃおうよ」

「え、ええ、そうね」

 俺は空いているロッカーの扉を空けると、制服を脱ぎ始めた。

「きゃー麻美ってだいたーん」

 ブラウスとスカートを脱いでパンティとブラジャーだけの格好になると、後ろから声を掛けられた。

 振り返るとバスタオルを胸に巻いた千秋が立っていた。

「スタイルに自信があると違うわね、えい!」

「ひゃ! やめてよぉ」

 いきなり胸を掴まれ俺の全身に電気のようなものが走った。
 慌てて胸を隠すが、千秋に背中を向けて俺はまたニヤリと笑っていた。

 女の子同士ってこんななのか。話しには聞いていたけど、へへ、何かいいな。

 けど男と着替え方が違うんだな、失敗失敗。

俺は千秋が着替えていく様子を参考にしながらバスタオルを胸に巻くと、ショーツをスルスルと脱いでアンダーショーツに穿き替えた。
・・・良く見ると、なんだスカートを穿いたまま着替えている子もいるじゃないか・・・
 そして、水着に脚を通すと、ゆっくり引き上げていく。俺の下半身が、腰が、そして胸がピッタリと伸縮性のある水着の生地に包まれていく。
 腕を通し肩に留めると、すっかり水着に着替え終えた麻美の出来上がりだ。

「あさみ、お肉が出てるよ」

「え?」

「ほら」

ペチンと秀美が俺のお尻をたたく。

「今日の麻美ちょっと変だよ」

「そうかな、でもありがと」

 更衣室の鏡を見ながらはみ出たお尻を隠すように水着の生地をたぐり出す。胸は・・・おかしくないよな。
鏡に映った俺は・・・ハイビスカス柄のワンピーズ水着に包まれた麻美だった。テニスで鍛えられて、スリムだけれど出るところはしっかり出ている麻美にワンピースの水着がよく似合っている。
 ちょっと腰に手を当ててポーズを取ってみるとそこいらのアイドル顔負けだ。

 これが俺だなんて、俺って今本当に麻美をやっているんだな。

 体にピタっと張り付いた水着のサラサラした生地の感触が、今更ながら女になっていることを実感させた。

「麻美、何ぼーっとしてんの。ナルシスはいってない」

「あ、ごめんね。もうおかしくないかなって思って」

「はいはい、麻美は何着ても似合うよ。さあ、早く行こうよ」

「うん」




 プールに行くと、どうも周囲から視線を感じる。あたりを見回すと、慌てて視線を逸らす男があちらこちら・・・

 ああ、俺って見られているんだ。歩き方とかおかしくないよな。

 恥ずかしいけれど、何か見てもらいたい。そんな何だか誇らしいような気持ちが涌きあがってくる。

 そうか、麻美がビキニを着たいと言っていたのはこういうことなのかな。



 プールでは4人でキャアキャア言いながら遊んだ。
 水の中でじゃれあったり追いかけっこしたり・・
 明子に抱きついても、秀美の股間が目の前にアップで晒されても、何とも思われない。

 女の子とこうやって肌を密着させて遊ぶなんて、男だったら絶対できないよな。千秋も秀美も明子もクラスの中ではレベル高いし、いいよな〜
 俺ずっと麻美でいたくなっちゃうぜ。

 ひとしきり遊んだ後、プールサイドに足をかけてプールの中から出ると、濡れた水着の股間から水がしたたり落ちる。その感覚が股間に何もないことを一層実感させ、濡れてベッタリと体にまとわりつく生地の感触は妙な快感を引き起こす。




 プールで遊んだ後、シャワーを浴びてまた制服に着替えた。冷たいシャワーがとっても気持ち良かった。

 更衣室から出ると、ホテルのラウンジでみんなで冷たいものを飲もうということになった。

「私、今日デジカメ持ってきているんだ。ロビーで撮らない」

「うん、じゃあ麻美撮ってあげるよ」

「いいよ私がみんなのこと撮ってあげる」

 カシャ、カシャ、カシャ

 Vサインをするタンクトップとスリムジーンズの千秋

 檸檬色のミニワンピースを着てにっこりと微笑む秀美

 後ろ手に組んでちょっと気取った白のサマードレスの明子

 よしよし、千秋、秀美、明子ゲットだぜ。

 俺たちがロビーで写真を撮り合っていると、ラウンジにひらひらのワンピースを着た一際かわいい女の子が入っていった。

「ねぇねぇあれって、アイドルの近藤詩織じゃない」

「あ、本当だ、遊びに来ているのかなあ」

「麻美、写真撮りなよ」

「そうだね(ラッキー)」

 カシャ

 よしよし、詩織ちゃんをゲットできるなんて、思わぬ収穫だぜ。帰ったら早速・・・




「今日はとっても楽しかった。誘ってくれてありがとう」

「うん、じゃあまた新学期にね」

「じゃあね」

 俺は駅前で3人と別れると取り敢えず元に戻ろうと近くの公園に向かった。
・・・早く詩織ちゃんになってみたいよ。

 そしたら、また後ろから声を掛けられた。

「麻美、ちょっと寄る所があるって、もう用事終わったの」

 ありゃ、麻美のおばさんじゃないか。麻美と買い物なんじゃ・・

「う、うん。もう終わったから」

「じゃあ帰りましょう」

「は、は、は、そうだね」

 近くに来ていたのか。麻美はどうしたんだろう、うーんまいった。

 結局おばさんと一緒に麻美んちまで帰る事になってしまった。

 トントンと階段を上がって麻美の部屋に入る。

 さて、どうしようか。

 麻美の椅子に逆向きに・・背もたれを抱え込むように座ると、ここで元に戻るかそれとも麻美のままいったん家に帰るか考えた。

 この制服でこの体勢じゃ、パンツ丸見えだな・・・って誰も見てないからいいか。

 俺はそっとパンティ越しに股間を触ってみた。ぴったりと布地が張り付いた其処は、軽く汗ばんでいた。

 右手をパンティの中に指し入れると、溝に沿って指でゆっくりとなぞってみる。

「うっ、うん、ううーん、はぁはぁ・・・この感じこの感じ」

 さらに指を中に入れようとすると、

「ただいま〜」

 あれ、麻美帰ってきちゃったよ。うーんどうする。

 トントンと階段を上がってくる音。ガラっとドアが開く。

「え!あなた誰?」

「誰って、私は麻美、風野麻美よ。あなたこそ誰よ」

 俺は椅子に座ったまま、ニヤニヤ笑いながら麻美に言い返した。

「え? え? どういうこと? 麻美は私よ。そんな馬鹿なことって・・・」

「麻美はワ・タ・シ、この家は私の家、この部屋は私の部屋、誰だか知らないけれど、早く出て行ってよ」

「そんな、そんな・・・」

 麻美はすっかり青ざめている、ここいらが潮時か。

「なーんちゃって、ごめんごめん、俺だよ俺」

 元の自分の声に戻して麻美に話し掛ける。

「お、俺って、誰よ・・・その声ってまさか、まさか和也? でもそんなことって」

「うちのじっちゃん実は忍者だったんだ。この間じっちゃんに忍術を教えてもらってね、こういうことが出来るようになったんだ」

「そ、そうなの、でもそんなこと・・・信じられない」

 俺は術を解いた。気合を入れると、麻美の皮が服と共にボロボロと剥がれ落ちる。
 全てが俺の体から剥がれると、俺は普段着の俺に戻っていた。剥がれた物は・・・塵のようになってやがて消えてしまった。

「和也、本当にあなたなのね」

「ああ、これでわかっただろう」

「かぁずやぁ、あなたって、あなたってぇ」

 青ざめていた麻美は今度はブルブル震えて赤くなってきた。うっ、ちょっとやりすぎたかな。

「かずやの、かずやのばかぁ! でてけぇ!」

「ご、ごめんよ麻美、じゃまたな」

 俺はあわてて麻美の部屋を飛び出して家に戻った。





 さてと、今日は千秋、秀美、明子、そして詩織ちゃんがゲットできたぞ。収穫収穫。

 よし、ちょっと詩織ちゃんになってみるか。

 俺は撮った詩織ちゃんの陰画をプリンターでプリントアウトした。写真を床に広げると、印を結んで精神を詩織ちゃんの姿に集中する。俺は徐々に小さくなっていった。
 写真の詩織ちゃんと同じ大きさになると、写真に向かって飛び込む。そして、気合を入れると写真の中から飛び出した。

 すると、出てきた俺はまるで妖精のような、ちっちゃな詩織ちゃんになっていた。十字に組んだ腕を広げて元の大きさに戻ると、すっかりホテルで見たふわりとしたワンピースを着た詩織ちゃんそのままの姿になっていた。

 そう、鏡に映っているのは、詩織ちゃんだ。俺がにっこり笑うと鏡の詩織ちゃんも微笑み返す。スカートの裾を持って軽く廻ってみる。スカートが舞い上がり太股が露になる。

 うう、詩織ちゃんの太股だぁ。

 俺は胸の前で祈るように手を合わせると、詩織ちゃんの出演していたドラマのセリフ廻しで鏡に向かって話し掛けてみた。

「和也さん、詩織は、詩織はずっとあなたをお慕い申し上げておりました」

・・・自分だと分かっていても・・・うれしいよう。

 よし、明日はこの格好でテレビ局に行ってみよう。そしてまた新しい陰画をゲットだぜ。










おまけに付け足し


 夕食の時俺はふとおやじに聞いてみた。

「おやじ、どうしておやじはじっちゃんの後を継がなかったんだい」

 ビールを飲みながら、おやじは教えてくれた。

「お父さんが引退するきっかけになった月光仮面との戦いは、テレビ中継されていたんだ。
お父さんが言うには月光仮面にやられる寸前に実は変わり身の術でかろうじて逃げたらしいんだが、テレビでお父さんが爆発四散するのを見て、こんな家業継ぐもんじゃないなって小学生ながら固く思ったものさ」

 そうだったのか・・・




(了)
                                     2002年12月2日脱稿





Ts・TS版の後書き

この「奥義2」はもともと平成14年10月26日「エスプリ」に投稿した作品ですが、「エスプリ」の閉鎖に伴いtiraさんのご好意で他の2作品と共に「Ts・TS」に再掲載していただけることになりました。tiraさんどうもありがとうございました。そしてジョニーさんお疲れ様でした。
さて、今回の再掲載に当りまして、この作品も若干内容に手を加えてみました。「奥義」ほどではありませんが、何ヶ所か表現等が変わっています。いかがでしたでしょうか。



エスプリ版の後書き

 前回エスプリに投稿いたしました「奥義」の続編を書いてみました。
 前作で名前の出て来なかった主人公、名前しか出てこなかった麻美ちゃん。今回はフルネームでの出演です。二人のファミリーネームの由来は・・・さらに古いネタです。
 さて、今回は奥義を手に入れた和也君がその後どういう行動に出るか追っかけてみたのですが、困った事に完結しませんでした。また別の機会に発表できればと思いますが・・・

 それでは、ここまでお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。


toshi9より
感謝の気持ちを込めて

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