近くの公園まで走った俺は息を切らせながらベンチに座り、リュックから携帯電話を 取り出した。 ゼリージュース!(赤色)・・・後編の一歩手前
雪菜(広幸):「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、まだ6時前か・・・」 時間を確認したあと、携帯をスカートのポケットへしまいこむ。 雪菜(広幸):「しかしこのスカートは走りにくいよな。足が開かないんだから」 デニム生地でしっかりとしたスカート。 雪菜(広幸):「さてと、待ち合わせの時間まではまだ4時間もあるな」 省吾と駅前の広場で10時に待ち合わせる予定だった俺は、この4時間を さすがに朝の6時では時間をつぶせるような場所は少ない。 仕方なくコンビニへ足を向ける。ゲーセンは高1の女の子が朝早くから そう思いながら歩いて10分。 スーツを着たサラリーマンが朝早くから改札口へ吸い込まれていく。 土曜日だと言うのにご苦労様な事だ。 俺は自動ドアをくぐると、雑誌の立ち読みを始めた。 車の雑誌や週刊誌・・・ 雪菜(広幸):「まだ7時前かよ・・・」 いいかげん本を読むことに疲れてきた俺がふと顔を上げると、ガラス窓にはうっすらと さすがに1時間近く立ち読みすればなあ・・・ 立ち読みしているので足も疲れている。 雪菜(広幸):「レジのバイトの男の子、嫌な顔してたよなぁ」 そう思いながら袋を破り、パンを食べ始める。 モグモグモグ・・・・ こうやって妹の姿でパンを食べるなんて・・・ ゴクンゴクン・・・ こうやって妹の姿で牛乳を飲むなんて・・・ 何となく不思議な感じがする。 高1の女の子が土曜日の早朝からこんなところで朝食を取っているなんて、 そんなことを考えながら、ゆっくりと食べ終える。 もう1度携帯電話をみると、7時30分・・・ 雪菜(広幸):「まだ7時半か・・・」 どうしてここまでして省吾の願いを叶えてやらなければならないのか・・・ そんな風に思えてしまう。 ぼ〜っと考えて8時過ぎ。 俺にもそろそろ限界がきた。あと2時間なんて絶対に待てないっ! 携帯電話を取り出し、メモリの記憶していた省吾へ電話をかける。 プルプルプル・・・プルプルプル・・・・ブツッ! 省吾:「もしもし、広幸か」 雪菜(広幸):「あ、え・・」 そうだ、俺の電話でかけてるんだ。 省吾:「お〜い、何だよ。聞こえているのかぁ?」 雪菜(広幸):「あ・・聞こえているんだけど・・その・・」 省吾:「え?女?」 俺の声に驚いているようだ。 雪菜(広幸):「あのさ・・・あ・・・ゆ、雪菜・・です」 省吾:「ゆきなぁ?」 雪菜(広幸):「う・・ん。えっと・・・あ、そう、お兄ちゃんの・・広幸の妹です」 省吾:「・・あ・・・ああっ!広幸の!」 雪菜(広幸):「ああ、・・・いや・・・うん」 省吾:「ど、どうしたの?こんなに早く。それに広幸の携帯でしょ」 雪菜(広幸):「お、お兄ちゃんに借りたんだ・・・」 すごくしゃべりにくい。 省吾:「待ち合わせの時間って10時だったよね」 雪菜(広幸):「そうなんだけど・・・もう着いちゃって」 省吾:「ええ〜っ!もう〜!」 雪菜(広幸):「うん・・・だから・・早くきて」 省吾:「今から?・・・、分かったけど。まだ全然用意出来てないからさ。もう30分待ってよ」 雪菜(広幸):「30分・・・分かった」 省吾:「急いで行くから。絶対待っててよ」 雪菜(広幸):「うん」 省吾:「じゃあ」 雪菜(広幸):「うん」 ブツッ・・・・・・ 携帯が切れた。 雪菜(広幸):「はぁ〜・・・・」 たかが電話なのに、これほどしゃべりにくいとは・・・ 俺はいつもの癖が出ないように、ボソボソと雪菜のしゃべり方を練習し始めた。 私、雪菜っていいます。よろしくね。 自分でお兄ちゃんと言うのは妙に恥ずかしい。 省吾君・・・いや、省吾さん・・かな あそこに行こうぜ・・・いや、行こうよ・・・う〜ん、行きましょうよ・・これは違うなあ・・
何人もの人が目の前を通るたびに、不思議そうな顔をして俺を見てゆく。 だからね、そういう事なの・・ 雪菜(広幸):「うん。、まあまあか。語を使わずに気楽に話そう。 そう思ってふと顔を上げると、ちょうど駅と反対側の方から 雪菜(広幸):「うわぁ〜、めちゃくちゃ頑張って走ってるよ」 ぼそっとつぶやくとベンチから立ち上がり、省吾に向かって手を振ってやった。 省吾:「ぜぇ〜、ぜぇ〜、ぜぇ〜・・・ゴクン・・・ご、ごめん。遅くなっちゃって・・ぜぇ〜、ぜぇ〜」 雪菜(広幸):「そんなに走らなくてもいいのにさ・・・う、ううん、いいのに」 省吾:「ふぅ〜、はぁ〜、だってずっと待ってたんでしょ」 雪菜(広幸):「それはそうだけど・・・お・れ・・・わ、私が勝手に早く来たから・・ね」
省吾を目の前にするとやっぱり話しにくいな。 省吾は両手を腰に当てて上を向き、はぁはぁと口で息をしている。 省吾は驚きながらもとても嬉しそうな表情をする。 省吾:「あ、ありがとう。えっと・・雪菜ちゃんだったよね。雪菜ちゃんてすごく優しいね」 雪菜(広幸):「ううん・・・・別に優しくなんか無いけど・・・」 俺に対する雪菜の態度は決して優しいものではない。 まあ・・・俺に対する態度よりはよっぽどいいんだろうなと思う。 雪菜(広幸):「ごめんね。朝早くから急がせちゃって」 俺は申し訳なさそうな表情をしながら上目遣いで省吾を見つめた。 省吾:「い、いいんだ、全然。だってそれだけ長くデートできるでしょ」 と恥ずかしそうに答えた。 雪菜(広幸):「ねえ、私は名前、なんて呼べばいいの?省吾さん?省吾君?」 省吾:「えっ、俺の事?何でもいいよ、呼びやすいように呼んでくれれば」 雪菜(広幸):「じゃあねぇ・・・やっぱり年上だから省吾さんにしよっかな」 省吾:「省吾さんか、なんかぞわぞわするなぁ」 雪菜(広幸):「どうして?」 俺たちは適当に歩きながら会話を続けた。 省吾:「だって女の子から省吾さんなんて呼ばれた事ないからね」 雪菜(広幸):「そうなんだ。それなら今日は省吾さんって言うから。私の事は雪菜って呼んでね」
そう言いながらウィンクしてやる。 省吾は絶対俺の事を雪菜だと信じこんでいる。 俺が始めて彼女とデートした時だって、今の省吾みたいな顔していたのかもしれない。 雪菜(広幸):「ねえ、今日はどこに行くの?」 とりあえず省吾だって何か考えてきているはず。 省吾:「うん、今日はね・・・」 ポケットから手帳を取り出す省吾。 雪菜(広幸):「ぷっ・・・・」 省吾:「え?」 雪菜(広幸):「あ、う・・ううん。何でもない・・」 省吾:「そう・・・・ちょっと時間が早くなったから予定を変更しないと」 雪菜(広幸):「計画立ててたんだ」 省吾:「うん。一応考えていたんだけど・・」 雪菜(広幸):「ふ〜ん・・・」 まめな奴だ。 省吾:「う〜ん・・・」 なにやら悩んでいる様子。 雪菜(広幸):「予定が狂っちゃった?ごめんね」 省吾:「あ、ううん。いいんだ。別にいいんだ」 雪菜(広幸):「あのさ・・ううん、あのね、それなら予定の時間になるまで私に 省吾:「えっ、行きたいところがあるのかい?いいよ!どこだって構わないよ」 雪菜(広幸):「うん。それじゃあ・・・」 俺は確か9時に開店だったアウトレットの店があることを思い出していた。 雪菜の身体で色々な服を試着できるから! 俺たちは5分ほど歩いてアウトレットの店にたどり着いた。 結構広い店内には洋服のほかにも小物や雑貨が置いてある。 雪菜(広幸):「省吾さん、ちょっと待っててね」 省吾:「うん」 試着室の前に省吾を立たせると、俺は試着室のカーテンを閉めて 顔に纏わりつく髪をはらい、大きな鏡に視線を送る。 ブラジャーに押し込んだ胸が谷間を作っている。 高1の癖にこんな胸しやがって・・・ 妹に欲情するわけではないが、やはり女の子の身体となると 俺は持ってきたプリント絵柄のTシャツを着ると、カーテンを開けて 雪菜(広幸):「どう?このTシャツ。似合ってる?」 省吾:「う、うん。似合ってるよ。かわいいと思う」 雪菜(広幸):「ほんとに?」 省吾:「うん。ほんとに」 雪菜(広幸):「そっか」 俺はまたカーテンを閉めると、今度はマイクロショートパンツに穿き替えた。 そして、健康的な太ももはそのままに、デニム生地のショートパンツが 雪菜(広幸):「これはどう?」 ある意味、セクシーなマイクロショートパンツ姿に省吾はドキドキしている様子。 省吾:「う・・・うん。すごくいい感じ・・」 雪菜(広幸):「どこが?」 省吾:「ど、どこがって・・・そのショートパンツが」 雪菜(広幸):「ショートパンツの、どの辺が?」 わざと返答に困るような質問をする。 省吾:「あ・・・うん。そ、そうだな・・・全体的に・・素敵だと思うよ」 雪菜(広幸):「へへっ、ありがと!」 省吾の対応を見ていると、とても面白い。 俺はその後、何着か試着すると1枚のTシャツと今穿いている それから買ったTシャツはヘソが出る感じで丈が短いもの。 今日は大発見だ。 こうやって身体にフィットするショートパンツを穿いても、お腹がプクッと出るわけでもなく、
省吾:「俺が買ってあげるよ」 雪菜(広幸):「ううん、いいよ。私の買い物だし、お金持ってるから」 レジの前。 雪菜(広幸):「行こっ!もう10時になったし」 省吾:「あ、うん・・・」 省吾はためらいながら財布をポケットにしまった。 雪菜(広幸):「どこに連れて行ってくれるの?」 省吾:「えっと、始めは水族館かな」 雪菜(広幸):「水族館か」 省吾:「嫌?」 雪菜(広幸):「ううん、全然嫌じゃない。早く行こっ!」 俺が笑顔でそう言うと、省吾はニコッと笑って駅に向かって少し早足で歩き始めた。 手くらい握ってやるべきかな・・・ 後ろから省吾の手を、いや、正確には左手の小指をキュッと 雪菜の身体に変身している俺が指を握ると、省吾は恥ずかしいのだ。 そして省吾は俺と顔を合わせるのが恥ずかしいのだろう。 雪菜(広幸):「電車で行くの?」 省吾:「え、うん。電車で3駅行って、バスで10分くらいかな」 雪菜(広幸):「そっか。省吾さんは行った事あるの?」 省吾:「いや、今回が初めてだよ」 絶対にウソをついている! 雪菜(広幸):「ふ〜ん、それじゃあ楽しみだね。初めての水族館」 省吾:「うん」 やっぱりこっちを見ない。 雪菜(広幸):「どうして私の方を見て話してくれないの?」 省吾:「あっ・・・い、いや・・・」 雪菜(広幸):「私の顔、見るの嫌?」 省吾:「う・・そ、そんな事ないよ。ちょっと・・・」 雪菜(広幸):「ちょっと?」 省吾:「ちょっと・・・恥ずかしいんだ」 雪菜(広幸):「私といるのが恥ずかしいの?こんな格好しているから?」 省吾:「そ、そうじゃなくて・・・女の子と手を握って歩くの・・実は初めてなんだよ」 雪菜(広幸):「へぇ〜・・・そうなんだ」 省吾:「う・・うん・・」 俯いて話している省吾が何とも可愛らしい。 雪菜(広幸):「それならこうやって歩くのも初めて?」 俺は握っていた指を離すと、省吾の太い腕に雪菜の細くて白い腕をしっかりと絡ませた。 雪菜(広幸):「あん、省吾さん、しっかりと歩いてよ」 省吾:「はぁ・・・あれ・・・あ、うん」 俺は真っ赤な顔になった省吾を引っ張るようにして駅の構内へと入って行った・・・ ゼリージュース!(赤色)後編の一歩手前・・・おわり あとがき 本当はすでに終わっているくらいの話だったのですが、 雪菜として省吾に接する広幸。 でも、あとあとどうするつもりでしょうか。 それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。 |