ゼリージュース!(青色)後編2
 
 
 

広幸は、まだ冷たい青色のゼリージュースをペットボトルを押えながら飲み干した。
 

広幸:「この味も美味しいね」

俊行:「まあな。それより先に服を脱いどけよ、ゼリー状になったら脱ぎにくいかもしれないからな
          一応服は通り抜けることが出来るけど、時間がかかるからさ」

広幸:「あ、そっか。でも…」
 

ちょっと恥ずかしそうに紗結香を見る広幸。
 

紗結香:「後ろ向いてるから」

広幸:「す、すいません…」
 

紗結香の言葉を聞いて、着てきた服を脱ぎ始める。
そうしている間にも、徐々に身体の色が薄くなり始めていた。
広幸に背を向けるようにしながら、タンスの引き出しにしまっておいた保険証などを
セカンドバッグに入れ終えた紗結香。
 

紗結香:「どう?もう透明になった?」

広幸:「そうですね、そろそろ…」

紗結香:「じゃあそっち向いてもいい?」

広幸:「はい」
 

セカンドバックを手に持ち、広幸の方に振り向いた紗結香。そこにはソファーに座っている俊行の姿しか
見えなかった。広幸がいたソファーの上には、先ほどまで着ていた服が置いてある。
 

俊行:「気分は悪くないか?」

広幸:「うん。全然大丈夫だけど」
 

空中から広幸の声が聞こえる。
身体がゼリーのように柔らかくなった広幸は、ソファーの後ろに歩いて移動していた。
 

紗結香:「広幸君、今どこにいるの?」

広幸:「俺が座っていたソファーの後ろです」

紗結香:「そう。じゃあ私がソファーに座るから、あとはお願いね」

広幸:「はい。任せておいてください。ちゃんと親知らずを抜いてもらってきます」

紗結香:「ふふ。頼んだわよ」
 

そう言った紗結香は、セカンドバッグをガラステーブルの上に置いてソファーに座ると、
黒いジャケットを抜いで横に置いた。
そろそろ5分くらい経つ頃だ。
 

俊行:「分かるな、広幸。どんな風でもいいから、ゆっくりと紗結香の身体に入り込むんだ。
          服は透けて通るから何も考えずに入り込めよ」

広幸:「うん。それじゃあ前から入るよ」

紗結香:「なんだか緊張するわ。俊行以外の男性に入られるのって」

俊行:「それなら自分で歯医者に行けばいいんだよ」

紗結香:「ふふ、冗談よ。俊行の弟さんなんだから何とも思わないわよ。ちょっと言ってみただけ」

俊行:「身体に入り込まれる時は少し嫌な感じがするからな」

紗結香:「そうね。それがゼリージュースの気に入らないところだわ」

広幸:「あ、あの…もういいですか?」

紗結香:「あ、ごめんね。待ってた?」

広幸:「はぁ…さっきからずっと…」
 

後ろから聞こえていた広幸の声が、今は前から聞こえる。
二人が話している間に紗結香の前に回りこんだからだ。
 

紗結香:「…それじゃ、お願いね」

広幸:「はい…」
 

広幸はじっと紗結香の顔を見た。
紗結香はゆっくりと目を閉じて、その時を待っている。
背もたれにもたれかかり、腕はだらんとソファーに預けている紗結香は、
全ての身体の力を抜いているように見える。
 

広幸:「そ、それじゃあ…」
 

広幸はドキドキしながら座っている紗結香に背を向けると、まずは立ったまま膝から下の足を重ね始めた。
ゼリーのような広幸の足が、ゆっくりと紗結香のスボンに溶け込んでゆき、彼女の足の中に
入り込んでゆく。
 

紗結香:「んっ…」
 

足に入り込んでいく感覚が分かるのだろうか?
紗結香は眉をピクンとゆがめると、かすかな吐息を漏らした。
広幸の両足、膝の下までが、紗結香の足の中に消えて見えなくなってしまう。
座っている紗結香の膝から広幸が生えているような感じ。
でも、広幸の身体が透明なのでそれを見る事は出来ない。
 

広幸:「このまま座るようにして…」
 

広幸は、紗結香の太ももに座るような形でゆっくりと腰を沈め始めた。
膝上から太もものあたりが徐々に入り込んでゆく。
 

紗結香:「……」
 

すでに両足が動かなくなった紗結香。
徐々に自分の身体の神経がなくなっていくのは何とも不思議で、気持ちよいものではない。
前屈みになりながら更に腰を下げると、広幸のお尻が紗結香の下腹部にめり込んでいった。
その様子をじっと見ている広幸。
自分の身体は見えないが、通常なら絶対に見れない角度から見ているような感じがする。
完全に腰を沈めた広幸の目の前には、スボンに包まれた長くて細い両足が見えていた。
こうやって見ていると、すでに自分の足が紗結香の足になったように思える。
そして振り向くと、すぐそこに紗結香の顔が。
 

広幸:「……」
 

広幸の心臓は、ずっとフル稼働している。
血液が流れすぎて血管が破裂してしまうのではないかと思うくらい激しく動く心臓。
身体を倒しながら、その心臓を紗結香の心臓へと重ね合わせてゆく。
広幸の背中が、黒いセーターの薄い生地を盛り上げている2つの胸へと接触すると、そのまま
ゆっくりと入り込んでゆく。服に染み込むように。そしてブラジャーにも浸透するように…
そして心臓が重なったかと思うと、広幸の首から下は紗結香の身体の中に完全に
入り込んでしまった。
紗結香の頭にめり込まないよう、透明な頭を前に倒したまま目の前にある身体を見つめる。
まだ全然動かないが、今見ているこの紗結香の身体がもうすぐ自分の意思で動くように
なるのだ。どうしても柔らかそうな2つの胸に視線が集中する広幸。
妹の雪菜以外に、これだけ近くで女性の胸を見る機会が今まで1度もなかった広幸は、それだけで更に
興奮してしまうのだ。

あと、頭を重ねるだけで…

そう思いながらゆっくりと頭を倒し、紗結香の顔に沈めてゆく。
そして完全に頭が溶け込む瞬間、目の前が真っ暗になった。
いつの間にか目を閉じてしまった感じだ。

このまま10秒間…

広幸は、心の中でゆっくりと10まで数える。
こうやって数えている間に、身体の神経がものすごい速さで繋がっていくような気がした。

そして10を数え終わると、ゆっくりと目を明け始める…
 

最初はぼやけていた視界が徐々に鮮明になり始めると、耳から俊行兄さんの声が聞こえた。
 

俊行:「どうだ?上手くいったか?」

広幸:「…兄さん……んっ!?」
 

視界がはっきりして俊行兄さんが見えた広幸。兄さんと呟いた声にハッとした俊行は、
すぐに俯いて自分の姿を見た。
 

俊行:「上手くいったんだな」

紗結香(広幸):「あ……な……」
 

上手く言葉で表現できない紗結香(広幸)が、両手を目の前に持って来て握ったり開いたりしている。
 

俊行:「どうだ?紗結香の身体は?」

紗結香(広幸):「あ…に、兄さん…俺、ほんとに…」
 

そんなわざとらしい言葉を言いながら、頭の中ではすでに了解済み。
こうやってしゃべっている声は、明らかに自分の声ではなく、先ほどまで聞いていた紗結香の声なのだから。
そして、今、動かしている手も視界に入ってくる胸や足も、全てが紗結香の身体であり、広幸の身体なのだ。
 

俊行:「あまり興奮して変な事するなよ。心を落ち着かせるんだ。この時点で、モニターした半分の男性が
          迷わず性行為に走ったんだからな」

紗結香(広幸):「う、うん…」
 

そんなこと言っても…

自分の心臓の代わりに、紗結香の心臓が激しく動いている。
紗結香(広幸)はソファーから立ち上がると、何度も俯いて自分の身体を確かめた。
腰をひねってお尻を見たり、長いスベスベした髪の手触りを確かめたり…
 

紗結香(広幸):「さ、紗結香さんの身体だ…俺、紗結香さんに乗り移ったんだ」
 

紗結香の声を使って嬉しさを表現する広幸。
 

俊行:「まったく…お前はほんとに典型的な感じがするよ。そんなことで大丈夫なのか?」

紗結香(広幸):「えっ、う、うん。大丈夫さ。ちゃ、ちゃんと理性はあるんだからさ!」
 

と言っている表情はとてもだらしが無い。
心配する俊行兄さんをよそに、紗結香(広幸)は両腕でその細い身体をギュッと抱きしめた。
 

紗結香(広幸):「うわ…紗結香さんの身体、すごく柔らかいよ…」

俊行:「当たり前だろ。女性なんだから」

紗結香(広幸):「あまり覚えてないけど、雪菜の身体に比べても柔らかい感じがするなぁ…」

俊行:「……そんな事より、すぐに歯医者に行くぞ。あまり時間が無いんだからな」

紗結香(広幸):「そうなの?それなら急がないと。じゃあジャケットを着てっと!」
 

紗結香(広幸)はうれしそうにソファーに置いてある黒いジャケットを手に取った。
そして袖を通すと前についているボタンを止め始める。

俊行もソファーから立ち上がると、テーブルに置いていた携帯電話を自分のセカンドバッグに入れて
部屋の戸締りを始めた。
 

紗結香(広幸):「……」
 

俊行兄さんの行動を気にしながら、ジャケットの胸の前のボタンを止める紗結香(広幸)。
ボタンを止めるフリをして、気づかれないようにそっとジャケットの中にあるセーターに包まれた左胸を揉んでみた。
 

うっ…や、柔らかい…
 

紗結香の胸が生み出す弾力は、広幸が動かしている紗結香の手のひらにしっかりと伝わってきた。
優しい柔らかさ…
そんな感じだ。
 

俊行:「電車で2駅のところなんだ。ちょうど駅前にあるからすぐに分かる」

紗結香(広幸):「わっ!…えっ…う、うん。分かったよ」

俊行:「何驚いているんだ?」

紗結香(広幸):「な、何でもないよ…兄さん…」

俊行:「……」
 

胸を揉んでいるところを見られたのかと思った紗結香(広幸)は、一瞬心臓が止まるかと思った。
変に驚いたりすると、かえって俊行兄さんに怪しまれてしまう。

ここは自然に…

そう思った紗結香(広幸)はジャケットのボタンを止め終えると、紗結香さんが用意してくれた
セカンドバッグを手に取った。
 

紗結香(広幸):「用意できたよ」

俊行:「ああ、じゃあ行こうか」

紗結香(広幸):「うん」
 

廊下を歩いて、玄関にたどり着く。
あらかじめ紗結香さんが用意してくれていた黒いローヒールに足を入れると、
かかとの部分が潰れないように靴べらを使って履いた紗結香(広幸)。
普段履いているスニーカーに比べると、少しかかとが浮いた感じで不安定に感じる。
ちょっと足首を横に曲げただけでも捻挫しそうだ。
 

紗結香(広幸):「歩きにくそうだなぁ」

俊行:「我慢しろよ。紗結香は当たり前のようにその靴を履くんだから」

紗結香(広幸):「わ、分かってるけど…」
 

玄関のドアの鍵を閉め、アパートの階段を降りる。
手すりを持っていないと落っこちそうで怖い。
 

俊行:「お前、下駄くらい履いたこと無いのか?」

紗結香(広幸):「下駄なんて履いた事ないよ。兄さんはあるの?」

俊行:「当たり前だろ。夏に盆踊りへ行く時なんかよく履いたもんだ。お前も見てただろ」

紗結香(広幸):「そうだったかな。忘れちゃったけど」

俊行:「まあ、そんなことはどうでもいいけどな。今からはちゃんと紗結香らしくしゃべれよ。
          他人が聞いたら紗結香が変に思われるんだから」

紗結香(広幸):「そうだね。紗結香さんが男のようにしゃべってたら確かにおかしいな。
                      それじゃあ雪菜の時のように女の言葉で話すよ…」

俊行:「…そうか。お前はゼリージュースで雪菜に変身したんだもんな」

紗結香(広幸):「そうよ。雪菜は妹だから真似するのが簡単だったんだけど、紗結香さん…私は
                      今日始めて聞いたから真似するのが難しいわ」

俊行:「……真似しなくても女性らしくしゃべればいいんだ」

紗結香(広幸):「そうなの?でも真似した方が俊行もうれしいでしょ!」

俊行:「…と、俊行ってなぁ…」
 

紗結香(広幸)がニコッと笑って俊行兄さんをからかう。
その表情を見た俊行兄さんは、一瞬広幸の存在が見えなくなってしまった。
目の前にいる紗結香の表情は広幸が作り出しているものだ。
でも、その表情のどこにも広幸を感じる事が出来なかった。
 

そう、それは紗結香本人のように――
 

俊行:「は、早く行くぞ」

紗結香(広幸):「ええ。分かったわ、俊行!」

俊行:「わっ…おいっ…」

紗結香(広幸):「ふふ。いつも歩く時はこうでしょ」

俊行:「俺たち、そんな事しないって」
 

紗結香(広幸)は、俊行兄さんの腕に自分の腕をしっかりと絡ませた。
フラフラと歩き辛そうにしている俊行兄さんと共に、最寄の駅まで歩いてゆく。
絶対にカップルとしか思えないその雰囲気。
 

紗結香(広幸):「ねえ俊行。私の事、どう思ってるの?」

俊行:「からかうなよ。お前がそんなこと聞いてどうするんだ」

紗結香(広幸):「お前って言わないで。いつもどおり紗結香って呼んでよ」

俊行:「お前としゃべっていると調子が狂うよ」

紗結香(広幸):「ひっど〜い。いつもはもっと優しいのに〜。俊行のいじわるぅ〜っ」
 

紗結香(広幸)は腕を絡ませたまま、紗結香の口から思い切り甘ったるい声を出した。
 

俊行:「バ、バカかお前は」
 

そう言いながらも、本当に嫌だという顔はしていない俊行兄さん。
紗結香(広幸)は、これまで見たことの無い俊行兄さんを見れそうなのでちょっと嬉しそうだ。
いつも広幸には厳しい俊行兄さん。
もちろんそれは広幸の事を思ってそういう態度を取っているのだろうが…

今日は彼女であろう紗結香に憑依しているのだから、この身体を使っていろいろな事を
聞き出せたりして…
 
 

――そんなことを思っているうちに、駅にたどり着く。
紗結香(広幸)は、セカンドバッグから赤い財布を取り出すと、その中にあるお金で切符を買った。

そして二人して改札口をくぐると、目的の駅まで電車に乗った。
車内は空いているが、座る事は出来ないようだ。
 

俊行:「おい、そんなにくっつくなよ」

紗結香(広幸):「だって…誰かにお尻触られたら嫌でしょ」

俊行:「周りには誰もいないだろ!」

紗結香(広幸):「あれ、ほんとだ。うふふっ」

俊行:「……」
 

太陽の日差しが入り込むドアの前に立っている二人。
くだらない会話が続ける二人だが、紗結香(広幸)はうれしかった。
こうやって紗結香の身体で色々と話す事が出来るのだから。
自分が話す言葉は、全て紗結香の声になって外に出てゆく。
乗客たちも、広幸の事を紗結香だと思っているのだ。
窓にうっすらと映っている自分の顔。
それは、どこから見ても紗結香の顔にしか見えなかった。
その紗結香の顔を、身体を自分で動かしているのだ。
紗結香の意識を支配し、何だってさせる事が出来る。
今ここで服を脱ぎ、裸にさせる事だって出来るのだ。
頭の片隅でそんなことを考えながら、窓の外を流れてゆく景色をしばらく眺めた。
 

紗結香(広幸):「……不思議だなぁ」

俊行:「ああ?何がだ?」

紗結香(広幸):「初めからずっと思ってたんだけど…すごくよく見えるんだ…あ、見えるの」

俊行:「何が?」

紗結香(広幸):「景色が」

俊行:「晴れているからだろ」

紗結香(広幸):「そうじゃなくて……ああ…そうか。紗結香さん…私、すごく視力がいいんだ」

俊行:「ああ、そういうことか。紗結香は両目とも1.5くらいはあるな」

紗結香(広幸):「広幸君、両目とも0.7くらいしかないもんね…」

俊行:「自分の事、広幸君って言うなよ」

紗結香(広幸):「だって私、紗結香だもん」

俊行:「はぁ…そうだな。お前は紗結香だもんな」

紗結香(広幸):「ねえ、俊行。どうしてお前って言うの?どうして紗結香って言ってくれないの?」
 

紗結香(広幸)は俊行兄さんの手をギュッと掴むと、涙腺を緩ませて瞳に涙を貯めてみた。
それは少し感情的に思っただけで出来た事。身体が違うとこんな事も出来るんだと、
瞳をウルウルさせながら感じた紗結香(広幸)。
 

俊行:「そ、そんな目で見るなよ」

紗結香(広幸):「だって…」

俊行:「わ、分かったよ。お前はほんとに役者だな」

紗結香(広幸):「またお前って…」

俊行:「紗結香だろ。紗結香っ。これでいいんだろ」

紗結香(広幸):「うん。ありがと、俊行」

俊行:「はぁ……」
 

電車の中、紗結香(広幸)が俊行兄さんにピッタリとくっついて立っている。
 

くそ…広幸にいいようにされてるな。
これがほんとの紗結香だったら全然嫌じゃないのになぁ……
 

紗結香を見下ろしながら、また深いため息をついた俊行兄さんだった――
 
 
 
 
 

ゼリージュース!(青色)後編2…おわり
 
 
 
 

あとがき
広幸、悪ノリしてますね。
俊行兄さんも、彼女(?)の紗結香に乗り移られているのでタジタジと言った感じです。
まあ、俊行兄さんに監視されているので広幸もそれほど暴走する事はないでしょう(多分

次回は歯医者の話。
さて、どうなります事やら……

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
Tiraでした。 inserted by FC2 system