どうしてこんなことになっちゃったんだろう。私は妹と一緒にお風呂に入りながら呟いていた。妹?こんなやつ妹じゃない。でも・・

「おねえちゃん、私が背中洗ってあげるよ、へっへっへっ」

「やめてよ、あんたなんかにおねえちゃんなんて、何で・・・」




天使と悪魔の間に

作:toshi9



 あたしの名前は愛田優菜、私立の女子高に通う2年生だ。そして私には小学5年生になる妹がいる。妹の名前は愛田香菜、姉の私が言うのも何だが、道を歩くと誰もが振り返る程かわいい。美少女と言うのは妹の為にあるような言葉だと思う。

 私達二人はちょっと年が離れているけれど、そのためかえって喧嘩することもなく仲の良い姉妹で通っていた。そう、あの日までは。





 その日私達は二人で浦安の遊園地に遊びに行ったものの、つい帰りの時間が遅くなってしまっていた。

「すっかり遅くなっちゃったね。香菜がパレード最後まで見たいなんて言うからだぞ」

「ごめんね、おねえちゃん。でもとっても面白かったよ」

 妹は素直に謝りながらも、今日の遊園地での一日を思い出してにこにこしている。そんな妹が私は大好きだ。

 夏だとは言ってもすでに日はとっぷりと暮れ、あたりは真っ暗になっている。駅からの帰り道を急ぎ足で歩き、角を曲がれば家が見えてくるところまでたどり着いて少しほっとしていると、突然後から声を掛けられた。

 え!誰?いつの間に。

「おい、お前たち。怪我したくなかったら大人しくそこに入るんだ」

 それは男の声だった。振り返ってみたものの、暗がりで顔はよく見えない。でも手に何か光るものを持っているのはわかった。ナイフ?包丁?そいつがその光るもので指し示しているのは最近空き家になった家だった。お母さんがここの一家は夜逃げしたって言ってたみたいだけれど・・・

「何をぐずぐずしている!」

 さっきまで笑っていた妹の顔がひきつっている。

「お姉ちゃん・・」

「大丈夫よ、ここは言うとおりにしましょう」

 私達は仕方なく言われた通りにその空き家に入っていった。家の中は明かりはついているものの、何の家財道具もなくがらんとしていた。夜逃げの話って本当だったのかな。

「よしよし、よく二人とも大人しく入ってきたな。ふふふ、よーし妹のほう、これを飲みな」

 それはペットボトルに入った黒い飲み物だった。

「なによそれ、妹に変なもの飲ませないで」

「うるさい!少し静かにしてな」

 男は私のほうを振り向くと、いきなりお腹を殴りつけてきた。

 ぐふっ

 その鈍痛に私はお腹を抱えてうずくまった。
 
(く、くるしい)

 その間に私の後ろに回り込んだ男は、スポーツバッグから取り出したタオルで私の両手を後手に縛ってしまった。

(え、何するのよ)

 お腹の痛みで声を出すことができない。

「そこで大人しく見ていな。さあ小さいの、早くするんだよ」

 香菜はすっかり怯えている。ぶるぶると震える両手でペットボトルを持つと、それを口に近づけていった。

「ふふ、そうそう、早く飲んでしまうんだな。そうしたらお姉ちゃんを解放してあげるからさ」

 こくっ、こくっ

 香菜は少しずつそれを飲んでいく。でも半分くらい飲んだところで突然目をトロンとさせたかと思うと、体全体の力が抜けたようにうずくまってしまった。

「よーしよし、効いてきたようだな」

「くっ、か、香菜に何したのよ」

「まだ何もしていないよ、これからさ。 俺はずっとお前達を見ていたんだ。いつも二人で幸せそうだよなぁ。こんなにかわいいとこれから人生楽しいよなぁ。それに引き換え俺は何だ。何も悪いことはしていないのに借金取りに追われて、全てを失ってしまった。もうこんな生活いやなんだよ。だからこいつの人生を俺が頂いてやるんだ。

「あなた、ここの人?」

 こいつなにをする気だ。香菜の人生を頂く?男の言ってることが理解できない私はそう尋ねるのが精一杯だった。

 男は私の問いを無視してうずくまっている妹の服を脱がすと、一糸纏わぬ裸にしてしまった。香菜になにするんだ。変なことしないで!

 男はナイフのようなものを取り出すと香菜のお腹にその刃を当て、さっと胸まで切り裂いた。

(な!なんてことするの、香菜!)

 でも妹の体から血が噴き出すことは無かった。代わりに、そこからはどろりとしたものがずるっ、ずるっとこぼれてくる。
男はそれを丁寧に器に受けると大きなペットボトルに入れた。ピンク色のそれはゼリーのようにするすると中に入っていく。そしてそのピンクのゼリーがすっかり抜け出た妹の体は、空気が抜けたように萎んでしまっていた。

 なに、何が起きているの。私は目の前で起こっている出来事が信じられず、ただ呆然とそれを見詰めていた。

「さあて、じゃあ入ってみるとするかな」

(入る?どういうこと?)

 男は自分も服を脱いで裸になると萎んだ妹の体を目の前に広げて見せた。でこぼこを無くした香菜の体は生気を無くしていて、まるで空気の抜けたビニール人形かなんかのようにペラペラとしたものになっていた。どうして、香菜は一体どうなってしまったの。

「小さいな、本当に入れるのかな」

 男がまた変なことを呟いている。入れる?何処に?

 男は妹の体の切り裂いた部分を両手でぐっと大きく広げると、中にごそごそと手を差し込んだ。な! 何てことを。

「どれどれ、お、何か生暖かいな。よし、やってみるとするか」

 男が右足を両手で広げた香菜の裂け目の中に入れた。続いて左足を。

 やめて、あなた何やっているのよ。

 私はその不条理な光景に声にならない叫び声を上げた。

「黙って見ているんだ。もう少しだからな。くー、しかしきついなぁ」

 男はパンティストッキングでも穿くように自分のごつい脚をひらひらになった香菜の脚の中に差し入れていく。華奢なはずの妹の脚は男のごつい脚が入っていくに従ってどんどん膨らんでごつごつしたものになっていった。内側から男の足に押し広げられているんだ。男は皺を撫で伸ばすように両手でゆっくりと脚を撫で上げていった。結局男の大きな脚はすっかり香菜の脚の中に納まっていた。無理やり男の脚を詰め込まれた香菜の脚は今にも破れそうにピンと張り詰めていた。でも男はお構いなしに香菜の体を腰までぐっと引き上げた。だめ、もう止めて。

「よぉし、きついけれど何とか入ったな」

 男の下半身は、香菜の下半身を押し広げてすっぽりとその中に入っていた。香奈の上半身は男の体に隠れてよく見えないが、背中の方にべろんと垂れ下がっているようだった。裸の男はそのシルエットは男なのに股間はまだうっすらとしたものしか生えていない香菜のものになっていた。こいつ何をやっているの。

「よおし、次は上だな」

 男は右手を、続けて左手をすでに自分の下半身が入っている香菜の中に差し入れると、香菜の腕の中に片方ずつ通していく。男の指が香菜の腕の中を通ってその指先までもぞもぞと動いていくのが見た目にもわかる。男の太い腕を詰め込まれて小さな香菜の腕がむくむくと太いものに変わっていく。腕も胴の部分も一杯に引き伸ばされたゴムのようにピンピンに張り詰めていた。

「さあ、最後だ」

 男が手を首の後ろに回し、そこに垂れ下がっている香菜の頭を自分の頭の上に差し上げた。胸から首の部分がにゅーんと伸びて香菜の無表情の頭が男の頭の上に乗っかる。

「ん、さすがにきついかな、よ、よいしょっと」

 少しずつ香菜の頭の中に男の頭が入っていく。おでこ、眉、目、鼻、口と男の顔がどんどん香菜の頭の中に入り込んでいく。

 最後にすぽんと完全に収まり、そこには大きく膨らんだ香菜の顔が出現していた。しかもゆがんでいるよ。

 美少女だった香菜からは想像もつかない醜悪なもの、大きな顔とごつい体になった香菜がそこにはいた。いやぁ! 香菜ぁ!

「うーんっと、ちょっとずれているようだな」

 すっかり香菜の中に入り込んだ男が目鼻の位置を調節するように両手で顔をずらしている。すると段々と顔のゆがみが直り、それと共に体全体に変化が起き始めているように見えた。

 胸からお腹にかけてあったはずの裂け目はいつの間にか消えていた。そして、そう体全体がどんどん小さくなり始めていたのだ。

 顔が小さくなり、筋肉でごつごつと膨らんでいた腕が華奢なものになってく。胸回りも腰もしゅるしゅると目に見えて肉が落ちていく。腕も脚も細く小さくなっていく。背もどんどん低くなって、私より大きかった男の体はいつのまにか私よりも小さくなり、胸の高さのところでそれは止まった。全体のバランスが取れてきた時、そこにはすっかり元通りの香菜がいた。

「え、あなた・・・香菜?」

「へっへっへっ、そうだよ。今から俺がお前の妹だ。香菜と言うのか。よろしくな、おねえちゃん」

 香菜がにやーっと笑う。さっきまでの男の声とは違う香菜の声だけど・・・違うこいつは香菜じゃない。

「さあて、服を着なくっちゃな」

 裸の香菜はパンツ、シュミーズ、ブラウスと着込んでいく。

「うーん、ここに何も無いというのは変な感じだなぁ」

 ぐいっと引き上げて股にくい込むパンツを見ながら香菜が呟く。

「へへ、この下着さらさらして気持ちいいなぁ。シャツも何か違うよな」

 赤いミニスカートを取り上げると足を通して腰でボタンをパチンと止める。腰を下ろすと股を大きく広げたまま白い靴下を履いていく。その仕草は香菜とは似ても似つかないものだった。あの香菜がこんな格好をするなんて・・・

「あなた、もうやめてよ。早く香菜から出て行ってよ」

「いやだね、俺はこれからこの子として暮らすんだ。さあ早く帰ろうよ優菜おねえちゃん」

「え、どうして私の名前を」

「この子の記憶から読み出してみたのさ。いつでも自分の記憶として思い出すことができるんだ。さあ、ママが心配するから帰ろうよ」

 目の前の香菜は私の手を縛ったタオルを外すと、さっき香菜の中から出てきたゼリーを入れたペットボトルをリュックに入れ、それを背中にしょって先に出て行こうとする。

「それは何なの」

「お前に話す必要はないよ。ただ、お前が変なことをしないための保険とでも言っておこうか。これがある限りこの子は元に戻れる可能性がある。だから大人しく俺を香菜をして扱うんだぞ。もし変なことをしたらお前の妹は永遠にこの世からいなくなるからな。まあ誰も俺が実は香菜じゃないなんて思わないだろうがな。さあ、おねえちゃん、はやくぅ、香菜お腹すいちゃったよ。もう何日も食べていないんだからぁ」

 こ、こいつ香菜の真似をして。

 私の怒りは頂点に達した。香菜になっている男に飛び掛ると両手で首をしめた。

「こいつ、こいつぅ、香菜を戻して」

「いや、やめておねえちゃん、香菜苦しいよぉ」

 はっとして思わず手を離す。香菜?

「こほっこほっ、まったく馬鹿なことするんじゃないぞ。さっきも言ったろう、変なことをすると妹は永遠にいなくなるって」

 首をさすりながら香菜がいや香菜に成り代わった男が話し、突然表に駆け出す。

「あ!」

 慌てて後を追って追いかけるが、香菜になった男はそのまま角を曲がり家の玄関に入っていった。

「ただいま」

「どうしたの、香菜こんな時間まで」

「ごめんね、私がおねえちゃんに無理言っておそくなっちゃったんだ」

「そうなの、あら優菜は」

「一緒だよ、もう来ると思うから。暗いから走って行こうっていったんだけど、私の勝ちだね、ねえおねえちゃん」

 追いかけて玄関に飛び込んだ私の方を振り向いて、お母さんに見えないように香菜がにやりと笑った。

 くっ、こいつ

「お母さん、こいつ香菜じゃないの。騙されちゃだめ」

「何言ってるの優菜、馬鹿言ってないで早くお風呂に入りなさい。夕飯はそれからにしましょう」

「私もおねえちゃんと一緒に入る」

 香菜が甘えるような表情でお母さんに話しかける。

「そうね、そのほうが早いしね。頼んだわよ優菜」

「え、だからお母さん、こいつは・・・」

「はいはい、わかったから、香菜の分も着替えを持っていってね」

「さあ、おねえちゃん入ろうよ」

 にこにこと天使のような笑顔で話しかける香菜。う、もういやだ。

「香菜の真似しないでよ!お前なんか、お前なんかぁ・・」

 パシッっと香菜の頬に高い音が響いた。頬がみるみる赤くなる。

「うわーん、お母さん、おねえちゃんが、ひっく、ひっく」

「優菜なにするの、あなたお姉さんでしょう。何があったか知らないけれど、手を出すなんてお母さん怒るわよ。香菜に謝りなさい」

 香菜が泣き出しお母さんにの抱きつくのを見て、私はお母さんに何を言っても信じてもらえないのを悟った。

「う、うん・・・香菜、ごめん」

「いいよ、おねえちゃん今日は疲れているんだよ。さあ、お風呂に入ろうよ」

「香菜はやっぱり優しい子だね。ほら優菜早くするのよ」

 渋々私は自分と香菜の着替えを持ってくると、お風呂の脱衣所に行った。そこにはもう服を脱いで裸になった香菜がにたーっと笑いながら自分の体をまさぐっていた。

「お、きたきた。いくら母親に言っても無駄だぜ、優菜ちゃん。俺が香菜じゃないなんて言っても誰も信じるわけないと言っただろう。この子の記憶はいつでも自由に引き出せるんだからな。すっかり香菜になり切ることだってできるんだぜ。わかったぁ、お・ね・え・ちゃん」

「こ、この悪魔!」

「違うね、天使だろう。この顔、この容姿、みんな俺のことを天使と呼んでくれるさ。これから毎日が楽しみだぜ。はっはっはっ」

 あたしは絶望のあまり、その場にへなへなとへたり込んだ。誰も私の言うことを信じてくれないの?こいつが、香菜の姿をしたこいつが香菜じゃないと知っているのは世界で私だけなの?

「さあ、はやく一緒にお風呂に入ろうよ、おねえちゃん。香菜が背中を洗ってあげるよ。すみずみまでじっくりとね、楽しみだなぁ、ふふふ」

 あたしはどうしたらいいの。誰か、誰か助けて・・・・・





(了)

                                      2003年2月28日脱稿



後書き

 とっても暗い話になりました。でもこの話は一度挑戦してみたかったネタです。誰もが天使だと思うようなかわいい容姿の子供が実は中身は全く別人、それを自分だけが知っている苦しみ、真実を話しても誰も信じてくれない苦悩。実はこの話のモチーフは「帰ってきたウルトラマン」中のよく似た題名のお話なんですが、誰かおわかりになりましたか?
 それではお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。

 

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