碧の遊戯(後編)
 作:toshi9


「……春奈、おい春奈」
「う、うーん、だれ……だ」
「いつまで人のベッドで寝ているんだ、起きろよ」
「起きろって、誰……げっ!」
 いつの間に眠ったのだろう、春奈は寝ぼけた目をこすりながら自分を揺り動かす男の顔を見上げ、そして絶句した。
「お、俺」
「俺? 何言っているのさ、ほら、早くしないと学校に遅れるぞ、ぐふふふふ」
「その笑い声、まさかお前……」
「まさか? まさかなんだって言うんだ? は・る・な・ちゃん」
「春奈?」
 春奈は自分の体を見下ろして、自分がかわいい小学校の女子制服を着ているのに気が付き、慌てて体をまさぐり始めた。そしてプリーツスカートの中に手を突っ込む。
「な、ない」
「当たり前だろう、春奈は女の子なんだから。それも小学生のね、ぐふふふ」
「お前、河村おさむなのか」
 呆然と問いかける春奈に向かって、陽介がにたりと笑う。
「ピンポーン! そうだよ森崎君。今度は君の姿をいただいたんだ。そして君には代わりに春奈ちゃんの姿をあげたのさ。その制服は君が寝ている間に僕が一枚一枚着せてあげたんだ。ぐふふっ、森崎君もすっかりかわいくなっちゃったね」
「な、なにを!」
「強がっても無駄だよ。君はこれから僕の妹として生きていくんだ、この森崎陽介の妹で小学生の森崎春奈としてね」
「そんなこと……戻せ、早く元に」
「元に戻せ? おや、妹の手コキの味が忘れられないのか、やっぱり君って変態なんだね」
「ち、違う違う、そうじゃなくて……」
 頭を振る春奈。
「ほら、早く小学校に行く準備をしないと、友達が迎えにくるぞ」
「友達?」
「そうだよ、春奈はいつも友達と一緒に登校してるだろう?」
「は〜る〜な〜ちゃん」
 その時、玄関のほうから春奈を呼ぶ複数の女の子の声がした。
「ほ〜ら、友達が来たみたいだよ。春奈の小学校の同級生で、確か彼女たちの名前は……」
「……ゆかちゃんとさくらちゃんだ……って、あれ? 何で俺が知ってるんだ」
 満足げに、にやりと笑う偽陽介。
「寝ている間に春奈ちゃんの玉を君にしゃぶらせたのさ。ちゃんと春奈ちゃんとして行動できるようにね。どうだい便利だろう」
「俺が春奈を、あの玉をしゃぶっていただって?」
「ああ、眠ったまま幸せそうな顔をしてしゃぶっていたよ」
 春奈の、いや陽介の中をぞくりと悪寒が走り抜けた。
「だから君はもう春奈ちゃんの行動パターンがわかる筈だよ。ぐふふ、まあ、あんまり舐め過ぎると元の記憶を忘れて完全に春奈ちゃんになっちゃうから、途中で吐き出させたけどね」
 そう言いながら、偽陽介はポケットから碧色の玉を取り出してポンポンと放り上げる。
「くっ、何でこんなことを」
「何で? だって面白いじゃないか。偉そうに兄貴ぶってた君が、今や僕や秋奈さんのちっちゃな妹だなんてね、ぐっふふふ」
「きさまって奴は……春奈を、春奈を返せ」
「いやだね、元に戻してもらいたかったら、大人しく君が春奈ちゃんを演じ続けることだ。この森崎陽介の妹をね、ぐふふふふ」
「く、くそう、必ず春奈を元に戻すんだぞ」
「ああ、約束するよ」


 迎えに来た春奈の友達と一緒に小学校に登校した陽介は、ごく自然に春奈として、小学生の女の子として振舞える自分に「俺は何なんだ」と落ち込みながらも、結局その日1日を女子小学生として過ごすことになってしまった。
 最近の小学校は出入りが厳しい。やきもきしながらも途中で学校を抜け出すこともできず、彼は春奈のクラスの小さな机で悶々と授業を受けるしかなかった。
 そして放課後、ようやく春奈の友達を振り切って家に駆け戻った陽介を待っていたのは、てっきり彼に成りすまして高校に行っものとばかり思い込んでいた、陽介の姿をしたおさむだった。
「ぐふふふ、お帰り『春奈』、小学校は楽しかったかい?」
 玄関に出てきた自分の姿をしたおさむを見上げて、陽介は赤いランドセルを背負ったまま呆然と立ち尽くしていた。
「おまえ、どうしてここに……」
「今日は学校を休んだのさ。風邪をひいたって言ってね。で、秋奈ちゃんの部屋でたっぷりと楽しませてもらったよ」
 そう言うと、偽陽介はすたすたと陽介の部屋に上がっていった。その後を追いかけて陽介も階段を上がる。
「どういうつもりだ、この変態野郎」
「変態野郎だって? おにいちゃんに向かってそんなことを言うのかい? 駄目だよ春奈、女の子がそんな汚い言葉を使っちゃ」
「お前が俺のおにいちゃんだって? こ、この」
 自分に成りきって話すおさむの話っぷりにカっときて、陽介は偽陽介に飛びかかった。だが春奈の姿そのままのか弱い腕力ではなすすべも無い。易々と両腕を掴まれてしまう。
「は、離せ、このっ!」
「お前は僕の妹だろう、おにいちゃんに逆らっちゃ駄目だよ、春奈」
「ちがう、お前が俺を春奈にしたんだ」
「ぐふふ、おにいちゃんに逆らうなんて、いけない妹だ。お仕置きしなきゃいけないな」
 片手で股間のファスナーを開いて己のペニスを取り出した偽陽介は、それをいきなり陽介の小さな口に押しつけた。
 ぐいぐいと口の中に偽陽介の肉棒が侵入してくる。
「う、うぷっ」
「ほら春奈、口でしてくれよ。僕は妹の手コキよりも口でしてもらのがもっと好きな変態アニキなんだ。ほら、ほら」
「ん〜ん〜ん〜」
 春奈の姿をした陽介の口に突っ込んだペニスを前後に動かす偽陽介。口の中のソレはみるみる太さと硬さを増していく。
 ペニスの先っちょが喉仏を刺激する。
 痛みと気持ち悪さに胃液がこみ上げてくるが、口を塞がれて出てこない。
 涙がこぼれる。
 だが偽陽介は、気持ち良さそうにその行為を繰り返した。
 やがて……
「う、出る」
 極限まで硬く膨らんだ偽陽介のペニスの先端から、陽介の口の中に勢い良く精液が噴出した。
「げ、げほっ」
 ペニスを引き抜いた偽陽介は、むせる春奈の小さな口を押さえる。
「ほら、お前の大好きなおにいちゃんの精液だ、残さずに全部飲むんだよ。ぐふふふ」
 ごくっ
 口の中にねちゃっとした感触と、生臭い匂いが広がる。
 口を押さえられて吐き出すことの出来ない口中一杯に溜まった精液を、陽介はやっとの思いで飲み込んだ。
 男のペニスを口に突っ込まれて精液を飲まされる、しかもそれが自分自身の姿をした相手によってなされたという現実に、陽介は惑乱しそうになった。
 だが偽陽介の暴走は留まることを知らない。
「いやあ、とっても気持ちよかったよ、春奈。お前は本当におにいちゃんのことが大好きなんだな」
「こ、この野郎、よくも」
「ぐへへへ、そうだ、今夜は秋奈にも奉仕してもらうとするかな。元の姿だと見向きもされなかったけれど、今の僕は彼女の大好きなおにいちゃんなんだ。だから彼女は喜んでしてくれるよね。彼女のあの唇でやってもらえるなんて、ううう、さぞ気持ちいいだろうな」
「き、きさま!」
「ぐふふ、秋奈さんの妹に成りすまして一緒に暮らそうかと思ってたけど、気が変わったよ。僕は彼女のおにいちゃんとして、これから君に成り代わって生きていくことにするよ」
「な!」
「ぐふふふ、楽しいだろうなあ。そうだ、ただ慕われるだけじゃなくて、僕の言うことなら何でもきくように調教してやるとするか」
「お、お前、何を言って……」
「何をしようかな。ふふふ、でも僕が何を強要したって、彼女は君がやらせていると思うんだ。彼女は大好きなおにいちゃんの手で妹から肉奴隷に変えられてしまうんだ、どうだ、素敵だろう」
「そんな、待て、ちょっと待ってくれ……」
「そして君は世間から『妹を肉奴隷に調教した変態アニキ』って言われるのさ。ぐふふふ、いやあ面白い。ココがぞくぞくしてくるよ」
 偽陽介はにやついた表情で股間に手を当てる。そこは何時の間にか再び大きく膨らんでいた。
 いやらしい恍惚の表情を浮かべた自分の姿に、陽介は目をそらさずにはいられなかった。

「や、やめろ、もうこれ以上、頼むやめてくれ、俺が悪かった」
「俺? 春奈、女の子は自分のことは『あたし』って言わなきゃ駄目なんだぞ」
「え?」
「僕に謝るのなら『おにいちゃん、あたしが悪かったの、ごめんね』って、ちゃんと正座して謝るんだ」
 股間を摩り続けながら、偽陽介はじっと陽介を見詰める。
 陽介は肩を震わせながら、ランドセルを背負ったまま偽陽介の前に正座した。
「……おにいちゃん、あ、あたしが悪かった……の、ごめん……ね……こ、これでいいのか?」
「ああ、わかったよ春奈、かわいい妹の頼みは聞いてやらなきゃな。でも」
「でも?」
「お前のその手でもう一回抜いてくれよ。さっきからコレが興奮して駄目なんだ」
 そう言ってズボンのファスナーを開くと、偽陽介は一度しまった己のペニスを再び取り出した。
 ピンと突き立ったそれは、すっかり硬直している。
「口でするよりいいだろう。それとも春奈、お前もう一回口でしてくれるのかい?」
「わ、わかった、やる、やるよ」
 観念した陽介は、偽陽介のペニスをそっと握ると、ゆっくりとしごき始めた。
 しゅっしゅっとそれをさする度に、偽陽介は気持ち良さそうに体を震わせる。
 そして陽介がその行為を何度か繰り返した後、偽陽介はいきなり陽介の頭を押さえつけて押し倒すと、その顔を己の股間の前に固定して精液を噴射した。
 白く濁った粘液が、ぴゅっ、ぴゅっっと春奈になった陽介の顔にふりかかる。
「ぐふふふ、いい感じだ。口でしてもらうのもいいけど、こうして顔にふりかけるっていうのも征服感たっぷりでいいね」
「く、くそう、こんなこと……」
 屈辱に身を震わせ、陽介は顔にかかった白い精液を指で拭った。
「そうだ、春奈、今から一緒にお風呂に入ろうか、ぐふふ、おにいちゃんが念入りに洗ってあげるよ」
「断る! この変態め!」
「断る? ふ〜ん、これがどうなってもいいのか? 外に放り投げてもいいんだぞ」
 偽陽介は、再びポケットから碧の玉を取り出した。
「ま、待て、わかった」
「ぐふふ、それでこそ僕のかわいい『妹』だよ。それじゃあ春奈、行こうか」
 そう言いながら、偽陽介は陽介を両手で抱え上げた。
「ほら、風呂場までお姫様だっこして行ってあげるよ。ふーん、やっぱり女の子は軽いなあ」
「や、やめろ、恥ずかしい」
「恥ずかしい? そのまま『おにいちゃん大好き』って僕に抱きついてみなよ、ぐふふ」
「くっ、誰がそんな」
「ぐふふふ、まあいい。かわいいよ春奈。お前はずっと僕の妹だ」
 涎を垂らして、偽陽介はにやついた。
「くそう、こんな奴に」
 おさむにいい様に扱われる陽介だが、今の彼には成す術もなかった。
 だがその時、玄関のドアの開く音がした。
「ただいま〜!」
「あ、秋奈」
「おっ、秋奈さんもう帰ってきたのか。仕方ない、春奈、一人で顔を洗ってきなよ。そのままじゃ秋奈さんの前に出られたもんじゃないだろう、ぐっふっふっ」
 陽介を床に下ろすと、偽陽介は精液でべとべとになったほっぺたをひとさし指でぷにぷにと押す。
「や、やめろ」
「あら、二人ともここにいたの? ……きゃっ! もう春奈ったら」
 陽介の部屋に入ってきた秋奈を慌てて押しのけて部屋を飛び出すと 陽介は階下の洗面所に駆け込んだ。そして鏡に映る今や己自身の顔になった精液にまみれの春奈の顔を見詰めながら惑乱していた。
 いったいどうすればいいんだ、どうすれば……


 一方その頃、陽介の部屋では再び異変が起きようとしていた。
「春奈ったらあんなに慌ててどうしたのかしら。あ! おにいちゃんまた春奈に変なこと言ったんじゃないでしょうね」
「変なことを言った? 何も言ってないよ。それより秋奈、外は暑かったろう、ほらこれ飲みなよ」
 偽陽介は部屋のミニ冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、ぐいぐいと中身をグラスに開けた」
 それは翡翠のような碧色をしたジュースだった。
「なあにそれ、碧色のジュース?」
「さっき春奈と一緒に飲んだんだ。おいしいぞ」
 グラスを差し出す偽陽介。
「ふーん、じゃあいただきます」
 秋奈は偽陽介からグラスを受け取ると、くいっと飲み込んだ。
「あら、ほんとにおいしい……ひくっ!」
 次の瞬間、グラスを落として崩れるように床に倒れ伏す秋奈。そして仰向けに床に横たわる秋奈を見下ろしながら、偽陽介は興奮した表情でその唇を近づけていった。
「いよいよだ、どきどきするな。秋奈さん、その姿は僕がもらうよ。そして君は僕に、いや、森崎陽介になるんだ、ぐふふふふ……」


 陽介は顔を何度も洗いながら考えていた。
「秋奈に何て説明すればいいんだ。俺が春奈になったんだって言ったって、絶対信じてもらえないよなあ」
 鏡に映った濡れた春奈の顔を見ながら、陽介はため息をつくしかなかった。
「くそう、それにしても何でこんなことになったんだ。河村の野郎は元に戻せるって言ってたけど、どうすればいいんだ……いや、それよりも早く部屋に戻らないと秋奈が心配だ」
 考えていても埒が明かない。それよりも秋奈と偽陽介と二人きりで残してきたことに、陽介は段々と胸騒ぎを覚えていた。
 そして不安に駆られた陽介が部屋に戻った時、彼は中に立つ二人の様子に愕然とした。
 そこに立っていたのは、秋奈の女子制服を着た偽陽介と、さっきまで偽陽介が着ていた服を着た秋奈だった。
 偽陽介は、うつろな目で何かをごくっと飲み込んでいる。
「さあおにいちゃん、服も交換しよう」
 陽介の服を着た秋奈がそう言うと、偽陽介は窮屈そうに着ていたセーラー服もプリーツスカートもそしてブラジャーもショーツも緩慢な動きで脱ぎ捨てていく。
 一方陽介の服を着ていた秋奈のほうも、シャツやズボンを脱ぎ始める。そしてすっかり裸になると、今度は偽陽介が脱ぎ捨てた秋奈の下着を、そして制服を一つ一つ身につけ始めた。偽陽介のほうもゆっくりとした手つきで、秋奈が脱ぎ捨てた服を着ていく。
 数分後、そこには制服姿の秋奈と普段着姿の偽陽介が立っていた。
「ぐふふふ、やった、やったぞ、僕は秋奈さんになったんだ、この僕が、ぐふふふ」
「ま、まさか」
「あら、春奈、もう戻ってきたの?」
 にやっと笑いながら振り返る秋奈。その下品な笑い顔に、陽介は思わずぞぞっと悪寒を走らせた。 
「お、お前は河村なのか? きさま今度は秋奈に……」
「あたしがどうしたって言うの? 春奈、あ、そうだ」
 偽秋奈は思い出したように陽介の部屋を出ると、隣の秋奈の部屋に入った。
「あったあった、これこれ」
 秋奈の姿を奪った河村おさむは、ドレッサーの中から秋奈が学園祭で着ていたミニの黒いエプロンドレス、即ちメイド服を取り出すと、たった今着たばかりの女子制服を脱ぎ捨てて着替え始めた。
「ぐふふふ、素敵だよ。秋奈さん」
 両手をぎゅっと胸に回して自分自身を抱き締める偽秋奈。その表情は本物の秋奈であれば絶対に見せることのないだらしのない顔だった。
「ああ、これが、この秋奈さんが今の僕なんだ、僕は秋奈さんなんだ、ぐふふふ」
 ミニスカートの中に差し込んだ手が、パンティに潜り込む。そしてしなやかな指がもぞもぞとその中で動く。
「あ、あうっ」
 体をぴくりと仰け反らす偽秋奈。
「ぐふふふ、俺の目の前で秋奈さんがオナニーしてる。それにとっても気持ちいい」
「やめろぉ、河村。秋奈を汚すな!」
「秋奈を汚すな? これは僕の体だ。自分の体をどうしようが僕の勝手だろう、ぐふっ。それに君は僕の妹なんだぞ。おねえちゃんに向かって命令なんてしちゃ駄目だよ。そうさ、僕が秋奈さんで君はその妹の春奈ちゃんなんだもんね。もう僕達は姉妹として暮らすしかないのさ。僕は君のおねえさんとして、君はその小学生の妹としてね。これから僕は秋奈さんとして楽しく過ごすのさ。そうだ、明日学校に行ったら元の僕と交際宣言しようかな。『あたしはおにいちゃんのクラスの河村先輩のことが大好きなんです』ってね。そしたら僕は秋奈ちゃんと誰もが認める恋人同士になるんだ」
「お、お前、言ってることがおかしいぞ」
「いいんだよ、僕は僕の好きなように楽しませてもらうんだから。秋奈さんはもう他の誰にも渡さない。僕だけのものさ。この姿も、そして彼女自身もね」
 そこにふらふらと陽介の姿をした男が入ってきた。
「この俺は、まさか秋奈なのか!?」
「そうだよ、君にも飲んでもらった碧色のゼリージュースにはいろいろ使い方があってね。飲むと体の情報の入ったゼリーを吐き出してしまうんだ。で、吐き出したままにしておくと体は小さな玉状になってしまう。春奈ちゃんのようにね。でも体の情報が入ったゼリージュースをかけてやれば人間の姿に戻ることができるんだ。但し他人の吐き出したゼリーをかけたら別人の姿になってしまうけどね」
「それじゃあ、秋奈は……」
「ああ、さっき碧色のゼリージュースを飲ませて、彼女の出したゼリーは僕がいただいたのさ。その後で僕が出した君の体の情報が入ったゼリーを、玉になった彼女にかけてやったんだ。勿論玉になった彼女のことを、少ししゃぶらせてもらったよ。だから今のあたしはもう誰にも疑われずに秋奈として行動できるってわけ」
「なんだって!」
「彼女には『お前は秋奈の言う事なら何でも聞く森崎陽介なんだ』って暗示をかけながら君のゼリーをかけてあげたよ。だから今の彼女はあたしの言いなりになったおにいちゃんっていうこと」
「暗示だって? どういうことだ」
「小さな玉から人間の姿に戻る時って、簡単に暗示がかかるのよ。だから今のおにいちゃんはあたしの言うことなら何でもしてくれるよ。あたしがおにいちゃんとえっちしたいって言ったら、あたしのことを抱いてくれるんだよ。元の自分の姿をした僕を君の姿でね、森崎君、ぐふふ」
 ショーツの中から抜き出した指をぺろりと舐めて、偽秋奈が淫猥に笑った。
 陽介はぶるっと頭を振った
「そ、そんなこと俺がさせない」
「ぐふふ、あたしの妹のくせに生意気言うんじゃないわよ」
「な、何を!」
 勝ち誇ったように、出て行けとばかりにドアを指差す偽秋奈を、陽介は睨み返す。
 その時秋奈のスマホが鳴った。
 秋奈の制服のポケットからスマホを取り出した偽秋奈は、LINEをチェックする。
「おっと、お母さんがもうすぐ帰ってくるみたいだね。じゃあおにいちゃん、おにいちゃんはこれからずっとおにいちゃんだよ。ぜったい忘れないでね」
「は……い……」
 陽介の姿になった秋奈が虚ろに答える。
「く、くそう、くそう、秋奈」
 地団太を踏んで悔しがった陽介だが、自分の姿をした秋奈にしゃぶりつくと懸命に揺さぶった。
「秋奈、どうしたんだ秋奈、しっかりしろ、お前は俺じゃない、お前は秋奈だろう」
 だが声をかけても揺さぶっても秋奈の目に生気が宿ることは無かった。
「春奈……お前なに変なこと言ってるんだ。俺が……秋奈な訳ないだろう」
「駄目だ、自分のことを俺だって……」
「いくらやってももう無駄無駄。だって彼女はもうすっかり自分のことを森崎陽介だって思い込んでいるんだから。ぐふふ、どうだ面白いだろう。さあて、そろそろ仕上げといくか」
 偽秋奈は、再びポケットから碧の玉を取り出した。
「君にはこれを全部食べてもらうことにするよ」
 ぽんぽんと、碧色の玉を放り上げていた偽秋奈は、そう言うといきなり陽介の口にそれを押し込んだ。
「ぐ、ぐう」
「ほら、飲み込むんだよ」
 陽介の唇を押さえて、偽秋奈は碧色の玉を飲み込ませようとする。
 ごくん
「の、飲んじゃった」
「これで君は身も心も春奈ちゃんになるんだ。自分が森崎陽介だったことなんか忘れて、ぐふふ、あたしのかわいい妹になるのよ」
「い、いやだ、そんな」
 だが、陽介の頭の中には色々な記憶が一斉に吹き出していた。
 小さな頃の記憶、そして小学校に入学してからの記憶。
 母親や秋奈、そして陽介との楽しい記憶。そのどれもが春奈の記憶だ。
「違う、これは俺の記憶じゃない……俺は、ようす……う、うわ〜〜〜」
 頭を満たしていく記憶の奔流の中で、陽介の意識は心の奥底深くに流されていった。


「ただいま〜」
「お帰りなさ〜い、おかあさん」
「あら、あなたたち、今日は随分仕度が早いのね」
「今日の夕食はあたしとおにいちゃんと春奈の三人で作ったんだ」
「陽介まで手伝うなんて珍しいわね。それにおいしそう」
「おかあさんあたしだってお手伝いしたんだよ」
「春奈も偉いわね」
「えへへ♪」
 ダイニングテーブルに並んだ出来立てのコロッケを見て、三人の母親は少しばかりの驚きと、そして喜びを感じていた。
「これからもずっと兄妹三人仲良くするのよ」
「はーい、おかあさん、ぐふふふふ」

(終わり)












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