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セックススキャンダル 作:田中 打ちつけられた窓から中途半端に陽の光が差し込んでいた。 本来薄暗いはずのラブホテル。 限界まで明るくされたベッドの上で裸体が踊っていた。 長い金髪が波のように揺れ動いていた。 西洋人のような顔つき。 誰もがその顔を知っていた。 アイドルの…A子だ。 一方荒れ狂う雌の自由にさせているのは同じくアイドルの…S男だ。 二人とも所属事務所は全く異なる。 この光景を見れば誰もが目を疑い。 一大スクープに雑誌は沸き立つであろう。 「アン…アンっ…ああんっ」 わざとらしい嬌声。 太腿に挟み込むようにしてそっと置かれたA子の小さな手。 卑猥な笑みを浮かべたS男が太腿を鷲掴みにして大きく腰を打ちつけた。 「おおれっ!」 掛け声とともに太腿同士がぶつかり合いパンパンと艶めかしい音を立てた。 雑誌が色めき立つのも無理はない。 その光景は一台のビデオカメラが記録していた。 自分たちで楽しむつもりなのかハンディカムである。 映画のような多彩なアングルは望めないものの役者が違う。 しかし突如として画面が切り替わりA子の顔がアップになった。 目をつむり大きく開けた口の中にはS男のペニスが突っ込まれていた。 「ん、ん〜っ」 後頭部を掴んで擦りつけていた。 喉元まで突っ込まれA子が涙を浮かべた。 手ブレが激しい。 もちろんこの映像はスマホで撮影されたものである。 ベッドから風呂場へと舞台を変えていた。 「ああ出る…出ルッ!」 言われた瞬間A子は突き飛ばすようにしてS男から離れた。 しかし射精が止まるはずもなく。 顔はたちまち白濁した精液にまみれた。 「もうっ……クサッ」 男の臭いにA子がむせ返った。 女の尻。 トイレに身体を埋めるようにして二人が互いを貪り合った。 女の手は意味もなく男の肩に。 胸元に。 下りては上がる。 「ハイ、カット!」 外からそんな声が聞こえてきたが二人は気にせず行為を続けやがて男が射精した。 「うわー出てる出てる」 もぞもぞ後ずさりしながら男の上から退いた女が自分の股座に指をやって精液を掻き出した。 トイレットペーパーで汚れた手を拭った。 「やっぱ…A子はサイコーだよな」 S男が苦心してすっぽりはまってしまった便座から立ち上がった。 A子は馴れ馴れしく腰に回された手を払いのけようともしない。 二人は開け放たれたドアの方を向いてニヤと笑った。 さらに二組のS男とA子が二人を見返して笑った。 テーブルの上には大量の吸い殻とビールの空き缶が転がっていた。 レザー張りのソファに二人のA子が身を絡め合うようにして座っていた。 気だるそうでテレビの前の姿とは大違いだ。 向かいに座る二人のS男は隆起した股間を隠そうともしない。 煙草を吸っては煙を吐き出していた。 「なんか気分悪い」 ベッドに寝そべっていたS男が口元を押さえた。 「おいおい吐くなよ? せっかくのスイートだってのに」 ソファのS男がビールをぐいと飲みながら神経質そうに言う。 「吐くならトイレで吐いてきな」 嫌悪に顔を歪めたベッドのA子が顎でトイレを指した。 S男は立ち上がり小走りにトイレへと向かう。 その後姿を四人が侮蔑の目で追った。 「アイツいっつもそうなんやわ。盛り上がってるときに限って」 吐き捨てるようにS男が呟いた。 金髪だが染めている。 耳にはピアスが光っていた。 「もうアイツ呼ばんどこ。つまんね」 「そやそや」 「「ねー」」 ソファのA子が互いに笑いかけた。 「しっかしまあヘンな仕事よなコレ」 S男が足を組み直しながら呟いた。 拍子にテーブルを蹴ってしまいビールが足にこぼれた。 「よな」 「新しい薬のテストとか言いよった」 「『変身薬です。飲めば誰にでも変身できます』」 男たちから見て右に座ったA子が声色を変えて言った。 身体を横に傾けているために秘所が丸見えである。 隣のA子が手を叩いて笑った。 「似てる似てる」 「ヘンなおっさんやったな」 ペニスを弾きながらS男が呟く。 調子に乗ったA子が言葉を続けた。 「『あなたがたにはA子とS男になっていただきたい。指定したラブホテルでハメ撮りを行ってください』」 「あくしゅみー」 そう言ってA子が自分の股間を撫でた。 「やっぱアイドルだけあってつるっつるやわ」 「でもなんで三人も要るん?」 「俺らに聞くなや」 「三人やのうて三組や」 「知っとるけ。黙っとき」 「でもいいやん。あのA子とHできたんやけ」 「お前らだってそうやろ。あのS男とヤれたんやで」 「中身は底辺やけどなー」 「アホか。女は見た目しか目にないで。この顔で新宿歩いたらアホみたいに釣れるで」 S男が顎を突き出した。 「しっかしまあ」 ベッドのA子が腕を組んだ。 大きすぎもせず綺麗な形をしている乳房が揺れた。 「人気アイドルのまん○ってこんな感じなん?」 「あ、見る?」 そう言って二人のA子は向かい合った。 もう一人のA子は興味がなさそうにベッドの上で寝そべっていた。 Mの字に開脚して互いに見せあう。 「グロ」 「臭そう」 「クリでかくね?」 「自分でいじっとるんやろ。ヤる相手もおらんけ」 A子がもう一人のA子の股間に手を伸ばし人差し指を突っ込んだ。 濡れた人差し指を嗅ぐ。 顔をしかめた。 「クサッ。クサイわこれ」 「ええ? いい臭いやったで」 S男の呟きに二人のA子が冷たい視線を向けた。 「ヘンタイか」 「アンタのザーメンで台無しやわ」 「なあもう一回やらへん?」 「ええ? まだヤるんか?」 口では嫌がっているものの興味津々といった様子。 「へへ」 S男が含み笑いをしながらベッドに膝立ちになった。 「うわオオカミやわ」 「こわいわー」 同じく膝立ちになったA子が互いを抱きしめ合う。 「アホか」 ただ一人冷静なA子が脇で退屈そうに伸びをする。 命令口調でS男に声をかけた。 「トシオ。来い」 トシオと呼ばれたS男が頭を掻きながらA子の元までやってきた。 「ん」 膝を抱えて秘所を見せつけるようにしたA子ににじりより。 S男は手でペニスを捕まえると慎重にA子の秘所に押し当てた。 亀頭が嫌がるようにA子の入口で首を振る。 「じれったいなァ!」 苛立たしそうにA子が足でトシオを掴んだ。 ぐっと体を引き寄せて首に腕を回した。 S男は彼の顔に似合わない気弱そうな表情で。 「ぼ…ボクその…慣れてないんで」 「知っとるわ。やけうちがやってやるわ」 A子がペニスを乱暴に掴んだ。 S男の体が一瞬跳ねた。 しかしA子は動きを止めず自分の秘所に彼のモノを突っ込んだ。 「ん…」 僅かに押し殺した声が漏れた。 「エロイわ」 「エロいエロい」 トシオを抱きかかえたA子を他のA子たちが冷やかす。 A子は二人を睨んだ。 「うっさい。トシオ動け」 「は…ハイ」 腫物を扱うかのような動きで腰を動かし始めた。 「でうちらは?」 「オレがまとめて相手したる」 「ヤりたいだけやろ」 口では文句を言いつつも二人は互いを抱きしめるようにして転がった。 「まん○熱いわ」 「なんか濡れてない?」 「うちやないで」 「うちかてそうや」 そう言って二人は顔を見合わせ笑い始めた。 ぬっと突き出された尻に。 下になったA子の太腿が僅かに引っかかっていた。 「じっとしとき」 仰向けになったA子に息を吐きかけながらA子が呟いた。 「せやけど落ちるんや。はようして」 「はあ? どうせチン○は一本しかないで」 「お前らもっとくっつけや。チ○コが入らん」 「一本しかないクセに」 「二本もあるか」 A子は互いの密着度合いを増やした。肌が擦れ合うと火傷しそうな互いの熱さが感じられた。自然と吐息も荒くなる。 「すげ…A子のマン○が二つ」 興味深そうにS男が上下にそれぞれ指を入れた。 「ああもう」 上になったA子はいきなり腰を振り始めた。 「まだ入れてないで」 「知っとるわ。気分の問題や気分」 そう言ってA子は下のA子に情熱的なキスをして。 力一杯太腿をぶつけ合った。 長い金髪がか弱い少女の肩を見え隠れさせた。 二人の金髪がリズミカルに波打つ。 水音が徐々に大きくなる。 「俺も混ぜろや」 「「早よしいや」」 二人のA子が呆れたように呟いた。 暗室。 二人の男が五人の乱交を見守っている。 「で? あのDQNどもを使って? どうするんです」 「スキャンダルをでっち上げる。あの阿呆共は適当なところで拾ってきた。今を時めくアイドルと言えば聞こえはいいが事務所は問題行動のある二人を持て余していた。問題児同士仲良く破滅してもらう」 「何で三組も使ったんです?」 「セックスというものは汚らしいという印象がある」 そう言って一人の男が手を打った。 「特にアイドルの恋愛関係はそうだ。だからだよ」 「は…?」 「ぶっかけだ。ザーメンの」 「ああ」 納得したようにもう一人が頷く。 「で後始末は? あいつら口軽いですよ絶対」 「その辺は問題ない」 男は肩をすくめた。 「あの薬は未完成品でな。細胞が変身と言う急激な変化に耐えられずに自壊する」 トイレに駆け込んだ男がのたうち回っている。 全身から血を噴き出していて呻く力もないのか床に倒れていた。 「で。あたしは後始末と?」 「そういうことになる」 「やれやれ。キレーな女が苦しみ悶えて死ぬのを見るのは」 「そそられるだろう?」 「そそられますね」 後始末が面倒ですがと若い男がため息をつく。 「依頼はどこからだったんです?」 「さあな。だが結構な金が動いていた。他の事務所が徒党を組んで二大勢力に対抗しようとしてるんじゃないか」 「そうですか」 「興味がなさそうだな」 「政治っぽい話はちょいと」 五人の男女が悶え始めた。 A子がトシオの顔に吐瀉した。 大量の血が混じっていた。 にわかに騒然となる。 「こりゃ閉業ものですな」 「閉業はしない。これからもここで破滅してもらう人間は山のようにいる」 そう言って彼はキーボードを操作した。 四人の同じ顔をした女たちがベッドの上で絡み合っていた。 「双子とかな」 「一体いくらになるんでしょうなこのポルノ」 「好事家の間で高く売れる」 彼はこちらを向いた。 ディスプレイの明かりで不気味に横顔が照らし出された。 「我々は儲かる」 「オカズにも事欠かない」 「生憎私には女房がいる」 「知らなかった。どんな人です?」 「毎日別人になっている。が顔はその子」 そう言って彼は親指でディスプレイを指した。 血まみれの三人のA子が横たわっていた。 「A子だよ。いいだろ?」 「あたしの女房にもそっくりですな」 そう言ってもう一人の男は笑った。 |