ふと街で見かける広告。その中に見知った言葉を見付けた時、あなたならどうしますか?



TSプロショップへようこそ!
作:Sato


 私にとってその言葉が「TS」だったのです。「TS」と言う言葉は一般にはほとんど知られていない言葉ですが、医学用語としても通用する言葉のようで、その意味は「性同一性障害」になります。

 が、私や他の仲間達が扱っている世界での意味は多少違っていて、いわゆる「性転換」などを取り扱ったストーリーなどのことを言います。皆さんも一度は異性になってみたい、とか思ったことがあるでしょう。要するに、我々はUFOや超能力などと同じ、超常現象的な観点でそれらの現象を考えているわけです。それゆえ、虚構を意味するフィクションのFを付けて、「TSF」と表記することもあります。

 私もこの世界を知ってからと言うもの、この男と女にきっちりと分けられた世界の壁を越え、女の世界を覗いてみたい、と思う気持ちが日増しに強くなってきていたのです。

 そんな私がある日、会社帰りのオフィス街で見かけたのがそのビラだったのです。電柱に貼ってあるそれには「TSプロショップ」と大書されていました。最初、見間違いかと思いましたが、どうやら間違いなさそうでした。街を行く人はこのビラに見向きもしません。おそらく、私と違ってこのビラが示している言葉の意味の重大性を知らないのでしょう。

 私は思わずそのビラを覗き込んでしまいました。実は「TS」と言う言葉は、我々が望む意味ばかりを指しているわけではありません。イニシャルかもしれませんし、医学的な意味を指しているのかもしれません。私はその下に細かい字で書かれている文章を読み始めました。

『TSF状態にあこがれているあなたに朗報!これだけで意味の分かるあなたのためのグッズが数多く取り揃えてあります。まずは一度ご来店くださり、あなたの目でご確認ください。そうすればあなたは二度と当店のことを手放そうとはしないでしょう』

 私はもちろん、この文句だけでこの店のターゲットが我々だと理解できました。もちろん、我々が望むグッズとは何か、と言うことは向こうも理解しているのでしょう。しかし、いくら科学が進歩したと言っても、TSFのような非現実的な現象を起こすことができる物があるとは信じられません。普通に考えれば、この店は効果もないガラクタを売りつけようとする、怪しい店に違いないのです。

 しかし、私の足は当然のように店のあると言う方向に向いていました。仮にその店がニセモノしか売っていない店だったとしても、そう言う客層を狙っているのですから、それなりに興味深いものに違いありません。ダメで元々、話の種ぐらいにはなるだろう、その程度の軽い気持ちだったのです。

 ビラの貼ってある位置からそう離れていない位置にその店はありました。雑居ビルの間にある地下への入口。ここはよく通っているはずなのに、不思議なことにこんな階段があるなんて今まで一度も気付きませんでした。

 階段を降りると、金属製の重そうな扉の上に、プラスチック製のプレートが貼ってあり、そこに「TSプロショップ」の名前がありました。どう見ても怪しい店なのですが、ここまできて引き返すわけにも行かず、私は思い切って扉を開け、中に入りました。扉のきしむ音が怪しさを増大させます。

「いらっしゃいませ」

 中に入るなり、若い女の子の声が出迎えてくれました。むさい男の声を想像していた私は、思わず面食らってしまいました。店内にはその娘しかおらず、他に店長のような人物がいるような様子もありませんでした。地下室に相応しく暗い室内に、そのような若い、もしかすると女子高生ぐらいの歳の女の子が店員だと言うのはあまりに不釣合いです。店長の娘か何かなのでしょうか。

 店員の娘は私に話し掛けてくる気配はありません。私はとりあえずその娘のことは置いておいて、店の中を見て回ってみることにしました。

 店の中には所狭しと見たこともない物が置かれていました。それらには説明書きが添えられており、その商品がどんな物であるのかが分かるようになっているようです。

 まずそんな中で私の目に止まったのがセーラー服でした。青いオーソドックスなセーラー服の上下がハンガーに掛けてあります。傍目には普通のセーラー服に見えるのですが、これは・・・・

 私はセーラー服の横に掛けてある説明の文章を読んでみた。

『基本中の基本、女装シリーズの一番人気商品です!TSの入門にはこれしかない!
※カツラ、ルーズソックスは別売りとなっております』

 ・・・・なるほど。これはただの女装用の衣裳と言うことのようです。確かに生地といい、本物と同じ作りになっているようです。ただ、サイズが異様に大きく、これを着るのが大柄な男であることを示唆していました。しかし、私のような中年の男が着て似合うようなものではないことは確かです。私は横に目を移しました。

 セーラー服の横には他にも、スチュワーデスや看護婦、婦人警官など、女ならではの衣裳が並べられていました。もしかすると、この店はこう言う系統のものしか置いていないのかもしれない・・・私は軽い失望を覚えながら、他の品物を見ることにしました。

 右に目を移した私は、何やら怪しげな物体を見付けてしまいました。その様子を何と説明すればいいのでしょう、大き目のチェスの駒を想像して頂ければいいでしょうか。頂上に丸い突起のついた、先細りの円錐状の物が二つ並んでいました。私はそれが乗せられている台に取り付けられている説明書きを読み始めました。

『精神交換アンテナ』
『これを入れ替えてみたい二人の頭に取り付けてください。そうすれば脳から発せられる信号がアンテナを通じて相手の体に伝わり、相手の体を動かすことができます。もちろん、感覚も相手のものが入ってきますので、まるで相手の人物になってしまったかのように感じることでしょう。
 ※なお、オプションとして、相手の精神を眠らせてしまう「スタン機能」を付加することもできます』

 私には段々とこの店の素晴らしさが分かってきたようです。もしこの商品の効力が間違いないものだとすると、擬似的かもしれませんが、TSFを体験することができることになります。すぐにでも買いたくなってしまいましたが、値段も書いてはいないですし、何より他の商品も気になるところです。私の期待はいやが上にも膨らんできていました。

 次に私の目に止まったのは、「カツラ」でした。しかも、ただのカツラではなく、いわゆる「ハゲヅラ」だったのです。TSFと言うと女になるはずなのにハゲヅラとは・・・妙に興味がわいてきた私は、その商品の説明を読んでみました。

『TSFウィッグ』
『このウィッグに、なりたい相手の髪の毛をセットしてください。一晩すればこれはその相手と同じ髪型になっていることでしょう。その上であなたがこれを身に着ければ・・・あなたはその人物と同じ姿になっていることでしょう。もちろん、外せば元に戻りますし、大元の髪の毛さえ抜いてしまえば初期状態に戻ります。
 ※なお、先着三名様に某アイドルの髪の毛一本を差し上げます!』

 商品の内容は、私の期待を上回るものでした。我々の世界の住人の夢である、「誰にでも変身できる」と言うことを叶えてくれるのですから。これを私が被ってあの娘に変身したとしたら・・・・私の妄想は膨らむばかりでした。

 次に私が着目したのは、薬でした。少し大きめの瓶に入っているそれは、様々な色をしており、恐らくそれぞれに違う効果があるのだろうと言うことをたやすく想像させました。私は早速説明を読んでいきます。

『TS&ARキャンディー』
『これを舐めると、それぞれの効果が得られます。
青:年齢進行
赤:年齢退行
緑:女性化
黄:男性化
二つずつセットになっており、それぞれ青は赤、黄は緑を飲むことでキャンセルできます。もちろん、複数のキャンディーを舐めることで、複合効果が得られます。
 ※最後の一粒には細心のご注意を』

 これなどまるで某マンガのようです。ただ、自分の肉体が女性化すると言うのには私も多少興味があります。もっとも、このまま女性になっても見るに耐えない姿になりそうですが、赤いキャンディーで若返れば、それなりの姿になりそうな気もします。

 私は他の商品にも目を通していきました。相手の魂を吸い出すことのできる『魂吸引器』や、相手に被せることで、相手の着ぐるみを作ることのできる『TSFボリ袋』などなど。どれもこれも私の興味を引くには十分な商品でした。

「いかがですか?いずれも魅力的な品ばかりでしょう」

 私が一通り目を通したのを見越していたかのように、店員の娘が声をかけてきました。

「ええ。すごいですね、この店は。こんなものをどこで手に入れられるんですか?」

「ははは、そこは企業秘密と言うことにさせて頂きます。ですが、効果のほどは保証しますよ。必ずご満足頂けるものと確信しております」

 そう言えばさっきからこの娘の口ぶりを聞いていると、女子高生の姿がしっくりしてきません。まるで老成した商売人のようにすら見えます。これは一体・・・・・・・・考えた挙句、私は一つの答えを導き出し、その娘にぶつけてみました。

「もしかしてあなたも?」

「ふふふ。分かりますか。お察しのように、私もここの商品でこの姿になっているんですよ。どれをどう使ったかはお教えしませんけどね」

「やはり」

 生きた証人が目の前に存在しているのです。これは本物だ――私の期待は頂点に達してしまいました。

「お気に入りの商品はありましたか?」

「え、ええ」

「お値段はご相談と言うことになりますが、心配されるほどのものではございませんよ。皆さん、そんな値段で手に入るのか?っておっしゃいますから」

「そ、そうなんですか」

「ではどれになさいます?」

 私は一つの品を指差します。それは――――


(おわり)



あとがき

toshi9さん、解体新書の10万ヒット、おめでとうございます!
この1年あまりの間に、お互い激変がありましたよね。
それはいい変化だったのではないかと思いたいですね。
これからもサイト運営&創作活動にお互いに頑張って行きましょう。

さて、作品の話ですが。
何だかネタの大放出!みたいになっちゃってますが(笑)
まあ、ボツネタの集合体ってところでしょうか。
こう言ったTSしないけれども、
どう見たってTSF作品である、と言う話を書きたかったので。
似たような話は実は過去にもあるんですけど(苦笑
意識して書いてりゃ当然か(爆

まあまあ、そんなわけですので、
「おいおい、ここで終わりかよ」と思われた方もご勘弁を。
それでは読んで頂いた方、ありがとうございました!

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