我ら探偵同好会

作:夏目彩香(2003年10月28日初公開)

ここはとある大学の学生棟、サークルが集まるこの建物の4階に今回の話の中心となるサークルがあった。その名も「探偵同好会」と言ってつい最近になってできたらしい、いつものようにこの部屋の中には会長と副会長がいた。

とは言っても、他にメンバーがいるわけでも無く、たった二人だけの同好会だったので、とても狭い部屋を割り当てられた。運営費も乏しく、まさに貧乏学生を絵に描いたような、そんな同好会であった。

会長は織田慎之介(おだしんのすけ)、この大学では5回生の3年生、1年浪人してこの大学に入ったものの、留年続きでゆったりとした大学生活を送っている。

そして、副会長は助手の魚住博久(うおずみひろひさ)、慎之介と同じ3年だが、博久は浪人も留年もしたことが無いので、実際のところは年の差が3歳もある。即ち同じ時期に高校に通ったことが無いのに、なぜか同学年なわけだ。

この同好会が二人だけで何とかやって言っているのは、慎之介にある不思議な力のおかげで、それを補佐するのが博久の役目であり、慎之介の不思議な力については博久だけしか知らなかったのだ。

今日もさっそく依頼者がやって来た。こうやって書くと格好良く聞こえるが、実は1ヶ月ぶりの依頼者。大学の中では口コミで広がっているものの、なかなか頼みに来ないのが現状だ。

慎之介は久しぶりの出番ということもあって、はりきって依頼者を出迎えた。依頼者は法学部で法律の勉強している女子大生、すっかり鼻の下を伸ばした彼は女子大生を前にしてでれでれであった。すかさず博久が助け船を出すように、お茶を差し出した。

「じゃあ、まずはお話を聞かせて下さい。それを聞いてから引き受けられるか、考えますので」

慎之介はできるだけ優等生ぶった表情をしながら話してみせた。困った表情をしている女子大生はあまり気にしていない様子だった。ゆっくりと呼吸を整えた後、ようやく口を開き始めた。

「はじめまして。私は阿部瞳(あべひとみ)と言います。今は法学部の1年に通っています。先輩に相談をしたのですが、そしたら、この学校にボランティアでやっている探偵同好会があるって聞いたものですから、ご相談できるのかと思ってやって来ました」

ここで瞳は、目の前に出されたお茶を1口だけ口に含んだ。

「私の家では両親が離婚の危機に遭っているんです。先月は父が家を出てしまいどうやら愛人の家に住みついたらしいんです。確かなことは言えませんが、母は絶対に離婚しないといきがっているようですが、父の一方的な行動に負けて、そろそろ離婚届を出すことを合意してしまいそうなんです。私は両親が離婚するのに反対ですし、愛人の家にいる父のことを考えるとこのまま仲直りをするとは言い難いと思うのです。どうやったら円満に解決できるのか、それを教えてもらいたくてここにやって来ました。何かありませんか?」

瞳は一気に話をしたためか、喉が渇いたらしい、残っていたお茶を一気に飲んだ。慎之介は神妙な面持ちで瞳を見つめながら言った。

「要するに、離婚しようとしている両親の仲を取り持って欲しいという依頼ですね」

「はい。そうです」

「それなら私共で引き受けたいと思います。いいですね」

「はい、お願いします。」

瞳は二つ返事で返答した。

「じゃあ、博久、例のものを持ってきてくれ」

すると博久は慎之介に言われた通り、棚から何かを取り出して来るとすぐに慎之介に渡した。

「これが依頼申込書です。さっきのことを簡単に書いて下さい。それと、分かっている限りこの依頼を解決するために必要な連絡先も書いて下さい。そして、私の名刺です。何か新しい情報がありましたら、私に連絡をください。携帯に出ない時があるのでその時はメール、または博久の方に連絡をして下さい」

依頼申込書に書き始めようとした時、瞳は言った。

「済みません。お金とかかかるんですか?」

「お金はかかりませんよ。私共は人助けが目的ですから。それに、あなたの依頼でしたら誰だって断れないでしょう」

そう言うと慎之介はキザなポーズを取って見せた。

「やっぱり、ボランティアなんですね。わかりました」

何事も無かったように申込書に依頼を書き始めたのだ。


依頼があった次の日。瞳の書いた依頼申込書を元に解決方法を考えた慎之介は、いよいよ例の力を使うことにした。

「博久、いつものように見張りを頼んだぞ」

「はい、わかりました。それにしても今回もいい依頼を受けましたねぇ。羨ましいくらいです」

「大丈夫だって。今回はお前にも手伝ってもらうんだから」

「待ってますんで、できるだけ早く来てくださいね」

「わかってるって、じゃあはじめるぞ」

慎之介がそう言うと地面にあぐらをかいて集中し始めたらしい、しばらくすると慎之介の体から力が抜け、地面にばたっと倒れてしまった。博久はいつものように慎之介の体をソファーの上に寝かせた。

実は慎之介には不思議な能力である幽体離脱ができるのだった。幽体離脱をした状態では体が仮死状態となり、魂だけの存在となればどこにでも自由に行き来できるようになるのだ。そして、極めつけは……

慎之介は瞳の書いた依頼書を思い出しながら目的の場所へと行ってみた。予定ではもうそろそろ到着するはずだ。目の前に見えて来た高層ビルへと入って行く。このビルの51階に目的の場所はあった。ここの55階には瞳の父の会社が入っており、愛人である平沢玲奈(ひらさわれいな)は別のフロアである51階にある会社に勤めている。

慎之介の目的は玲奈の仕事場だった。さっそく、会社の中を覗いてみると忙しそうにしている玲奈の姿が見えて来た。玲奈は一般事務の社員で、5時になれば定時退社は間違えが無い、残業などはほとんど無く、瞳の父とは退社時間が同じことが多かったため、エレベーターではじめて出会ったと言う、時間は5時を過ぎた。玲奈はさっそく女子更衣室で着替えを始めた。

こうやって幽体のまま玲奈を見学しているのもつまらなくなったので、慎之介はそろそろ作戦を実行することにした。玲奈は何も知らずに、通勤服に着替え終わっていた。そして、化粧台に向かって化粧を直し始めた時、リップが右手から落ちた。一体何があったのかわからないが、体の外から中に向かって何か得体の知れないものが入って来るようだった。

そして、玲奈の体に慎之介の魂がすっかり入り込んでしまった。慎之介が玲奈に乗り移ったのだ。落ちていたリップを取り直すと再び、化粧直しを始める。見よう見真似でやってみるが、玲奈の体がうまく教えてくれるようで、なかなかうまく行った。目の前の鏡に映る自分の姿を観察。

見れば見るほどいい女。さすがに瞳の父親を引きつけた女らしく、魔性の女の雰囲気を醸し出していた。着ているものは茶色のアオザイ風ワンピース、栗色のパンプスと相性がよさそうで、ストッキングには格子状の模様がついている。腰の辺りの引き締めが強いような感じもするが、ただ単に慎之介が慣れていないだけかも知れなかった。

シャギーレイヤーの入った髪は少しだけ焦げ茶色に染められていて、小さな顔をよく見てみると二重のかわいい目が魅力をアップさせているよう、ダークピンクのリップの上からはグロスを塗って、みずみずしい感じがします。肌の白さは一級品で、ファンデーションをつけなくてもいいくらいの白さを保っているのです。

玲奈の体にすっかり気に入った慎之介。やっぱりこの仕事はこれがやめられないと言った表情です。しかし、ここでゆっくりしているわけにもいかないので、さっそくエレベーターで1階まで降りることにしました。瞳の父と同じエレベーターに乗ることは無く、そのまま一気に1階へ到着しました。大きなロビーをくぐり抜けるまで瞳の父に会うことはありませんでした。慎之介にとっては好都合のこと、ヒールをカツカツならしながら、ある場所へとい急ぎました。


博久は慎之介の抜け殻とともに同好会の部屋にいました。予定ではそろそろある人がやって来るので、トイレに行って来ました。行って帰って来るときには、もちろん鍵をかけて出なくてはなりません。

そして、トレイから帰ってくると、一人の女性が同好会の部屋の前に立っているではありませんが、栗色のパンプスに茶色のアオザイ風ワンピースという出で立ちです。博久が声を掛けるのをためらってしまうくらいの美人のお姉さんでした。

「あら。そんなところにいたの。てっきり中にいるんだと思ってたわ。早く開けなさい」

「もしかして、慎之……」

そこまで言いかけたところで、博久はお姉さんに口を押さえらた。

「それ以上、言っちゃ駄目」

とにかく博久が同好会の部屋を開けて、二人はすぐに部屋の中に入りました。部屋の中に入るなりお姉さんは慎之介の体に向かって行きました。

「いつ見ても不思議よねぇ。こうやって見てみると生きてるのか死んでるのか、わからないわよね」

そして、お姉さんは慎之介の体を軽く手で叩いてみるが、全然反応は無かった。お姉さんはクルッと振り返り博久の方を見て一言。

「準備はできてる?」

「はい、できてます」

「じゃあ、回して」

博久はビデオカメラの録画ボタンを押した。ビデオカメラには大きなテーブルが映っていた。そして、徐々にお姉さんがビデオカメラの被写体に入って来た。

「玲奈で~す。これから博久とここでムフフなことをやっちゃいます」

玲奈はものすごく嬉しそうな表情をビデオカメラの中に見せていた。そして、ゆっくりと着ているものを脱ぎ始めた。まずはワンピースを脱ぎ捨てる。サッーとした音と共にワンピースは地面へと落ちて行った。

「ねぇ。博久ったら~こっちに着なさいよ。これ脱がせてぇ」

玲奈が脱がせてと言ったのはブラジャーだった。可愛いレース模様のついたピンクのブラジャー。もちろんその中には玲奈のふくよかな胸が入っている。

「ここなんて触っていいの」

そう言うと博久は胸を揉むように触っている。

「あぁん。あん。あん。いいわぁ。なんて気持ちがいいのかしら」

そのまま博久が胸を揉んでいるうちにブラジャーが取れた。

「はい、赤ちゃん。この間に顔を入れてね。パフパフしてあ・げ・る」

博久は言われるままに玲奈のバストの間に顔を挟んで来た。

「博久も脱ぎなさいよ~」

こうして1時間に渡って、玲奈の痴態が撮影された。


1時間後、玲奈はその痴態が撮影されたテープを持って、自分の家へと向かった。鍵を開けて玄関へと入ると男物の靴が置いてある。これって瞳の父親である剛(たけし)のものに違いない。しめたと思いながら玲奈はパンプスを脱ぐと中へと入って行く。

「ただいまぁ」

「おかえり。今日はどうしたの、何か用事でもあった?」

「別にたいしたこと無いけどね。こんなの撮影して来たんだ」

そうすると玲奈はさきほどのテープを剛に差し出した。もちろん、さきほどの痴態が入ったテープだ。玲奈はビデオデッキにテープを入れると回し始めた。剛はちょっとお酒が入ったのか、気分がよさそうだ。

「あれっ?ここどこなんだよ」

「いいから見てて」

博久との痴態が綴られているこのテープ。見始めてからすぐに剛の様子がおかしくなったのに、玲奈は気づいた。

「私って可愛いでしょ」

玲奈は剛の不満そうな表情を見てはちょっと楽しそうな表情をしてみせた。

「どこが可愛いだって?他にも男がいて、その男との変なビデオを見せられて気分がいいわけないだろう」

剛は玲奈に向かって手を振り上げた。玲奈は必死の表情に切り替わる。

「待って。あなただって奥さんがいるじゃないの、私にだって別の男がいたっていいでしょ」

「それは駄目だ」

「なんでよ」

「俺はよくても、お前は駄目だってことだ」

剛はどうやら自分の意見を曲げようとしない。

「それなら、わかったわ。今すぐ出て行ってよ。出て行きなさいよ。ここは私の家なんだからね」

「そんなこと言うなよ。俺にはお前が必要なんだって」

「何よコロコロ言うこと変えちゃって。あなたが奥さんとうまく行かないのはあなたが駄目なんだってわかったわ。奥さんに同情しちゃう」

「何一人で言ってるんだ?もとはと言えばお前が変なビデオを撮って来るからだろう」

剛は玲奈の体を揺するようにつかみかかる。その時、玲奈は剛の頬を大きくビンタした。

「まだわかってないの?私はもうあなたと一緒にいるのがうんざりなの、それに、あなたは奥さんと一緒にいた方がいいと思うの、どうやら娘さんだってそれを望んでいるみたいよ。娘さんが大学の探偵同好会に頼んだって知ってるのかしら?」

「なんだよ。その探偵同好会ってのは」

「そんなのがあるのよ。とにかく、よりを戻さないとあなたの娘さんが悲しみますよ。早くここから出て行きなさい。私は大丈夫なんだから」

すると剛は娘の瞳のことを思い出していた。お父さんのことが大好きで、子供の頃からお父さんの言うことを聞く素直でいい子に育っていたからだ。すると、さっきまでの乱暴な剛はすっかり消えていた。

「わかったよ、玲奈。俺が悪かったんだなぁ。お前に甘えてばかりいた俺が馬鹿だったよ。これからは立派な父親になって見せる。いや、ならなくちゃな」

「それがわかったなら、今すぐ出て行って」

玲奈にそう言われると剛はすぐに玲奈の家を出て行った。


数日後……


「先日はありがとうございました。父も帰って来て、以前よりも私に優しく接してくれるし、母にも好かれるようになりました。何があったかは知りませんが、探偵同好会で解決してくれたんですよね」

そう言って瞳は折菓子を差し出したが、慎之介は受け取ろうとしなかった。

「そうでしたか。それはよかった。そんなものは入りませんよ。でも、お礼をしたいんでしたら、目を瞑ってください」

「こうですか?」

「そうです。そのままじっとしていてください」

慎之介は幽体離脱を試みてすぐに瞳の体の中へ自分の魂を入れていった。

「あっ」

そう言ったかと思うと、瞳の意識は既に無くなっていた。

「瞳のお礼です。ちょっとだけ体を貸してあげますね」

慎之介らしいボランティア精神により、この問題は解決した。こうして、問題を抱える人がいれば助けずにはいられない探偵同好会の未来はまだ明るかったのだ。






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