Have a Coffee(その3)

作:夏目彩香(2003年7月1日初公開)



女性はアパートの前に出ると、黒い車が出迎えた。中から出てきたのはどうやらこの女性の彼氏のようだ。女性を助手席に座らせると、車が動き出した。車の中では二人の会話がはじまる。

「どこへ行こうか?」
男が言葉をかけて来る。
「そうだなぁ。とりあえずドライブなんてのはどうだ?」
女性はらしくない口調で言い返してくる。
「ドライブってのも確かにいいよなぁ。こんな美人と一緒にいるんだったら、もちろん何してもいいよな」
「おい。何してもいいって。お前とデートしてやるだけだからな」
「デートと言っても色々あるだろう。俺に教えてくれたってことは、それなりに覚悟できてるんだろうから」
「そんなこと無いって。コーヒー飲むときに考えたんだけどな。どうせなら、お前の願い事も叶えてやろうと思っただけだって」
「そうすか。さすがですよね。そこまで頭が回るんだから」
女性は助手席で両足を組むとワンピースの裾を手でなおしながら言う。
「まぁな。お前が前からデートしたいって言うから、こいつを選んだんだからな。感謝してくれよ」
「わかってるって。俺がいくら内気だと言ってもお前だと思うと気が楽だぜ」
「気楽じゃ、こっちはおもしろくないけどなぁ」
「そっか。お前がそうやってるだけでも俺は嬉しいぞ。なかなかセクシーだし」
「そう?」

しばらくすると、女性は両足を組み直し、右手を男のあそこに置いてきた。
「わぉ。。。何するんだよ」
「ねぇ。私のこと好きなんでしょ」
すると男は女性の手を掴みながら言った
「突然、からかいはじめてどうしたんだよ」
「いいじゃないの。私、寛之(ひろゆき)が好きなんだから」
女性は、さっきまでの男っぽい口調が抜けている。
「また、からかっちゃって」
「お前なぁ。俺が手伝ってやるんだから、少しは雰囲気に飲まれろよ」
女性の可愛い口から出てくる言葉としては男っぽい。
「雰囲気に飲まれたら、何も話せなくなるって。俺、気が弱いから」
「そうだよな。この女と一緒にいたら誰でもそうなるって」
そう言うと女性は自分の胸を触り始める。
「おい。やめろって。周りから見られるだろう」
「大丈夫だって。スピード出している時は見られないって」
「俺が落ち着いて運転できないってこと」
「わかった。わかった。わかったって」
女性はバッグの中から鏡を探し出す。
「それにしても、俺がこの女になってるんだからな。こんなに近くで女の顔を眺められるんだからな」
「おい。その顔でこの女なんて言うなよ。俺の憧れの人なんだからな」
「そうか。じゃ、どうしたらいい?」
「とりあえず、海に向かうからな。ゆっくり休めよ」
寛之はそんな風に言うと運転に集中した。

寛之が左側をふと見ると、海と同時に女性の顔が見えた。彼女はどうやら寝てしまったよう。寝顔を見ると、自分の親友が乗り移っているとは思えない、彼女の自然な寝顔を見ることができる。
「おい、晴彦(はるひこ)!海が見えてきたぞ。起きろよ」
寛之は女性の肩を軽くゆすりながら言った。
「ん?何?海?」
「海が見えるぞって」
「あっ。海だ〜」
女性は目を輝かせて海を見ている。寛之が彼女の方を見ると、海のブルーと水玉のワンピースがばっちり似合っていた。
「海、きれいだね。私嬉しいよ」
「ん?どうした晴彦。女言葉使っちゃって」
「晴彦って誰よ。私が女言葉使っておかしいの?」
「えっ?もしかして、亜由美(あゆみ)か?」
亜由美はバッグの中から化粧道具を探しながら話を続ける。
「私に決まってるじゃないの、なんで私の横にあんたがいるのよ」
「えっと、これには訳があって。。」
「訳って何よ。強引に拉致でもしたんじゃないの?」
「そんなわけないだろう。わかったよ。本当のこと言うよ。俺、亜由美のこと好きだ。つきあって欲しい」
「えっ!ウッそ。私とつきあいたいって……なんて答えたらいいのさ」
亜由美は戸惑う仕種で寛之の顔が見えないように海の方をずっと見ている。
「私、実はね。晴彦のことが好きなの」
「えっ!?あいつが好きだって?」
「うん、晴彦のこと好き。あなたも友達だから知ってるよね晴彦の性格。あんな男だったら一緒にいたいなって」
運転をしながら、寛之はつい考え事をしてしまう。
「そっか。晴彦が好きかよ。だから、俺とはつきあえないってことだよな」
「悪いけど、そうゆうこと」
そう言うと寛之は車を道路に横付けして止めた。そして、シートベルトを外して、亜由美の方をしっかりと見てきた。
「亜由美。俺のこと嫌いか?晴彦じゃないと駄目か?」
寛之の真剣な眼差しに亜由美は戸惑ってしまう。
「そんなこと無いけど。やっぱり晴彦が好きだから」
二人の間に沈黙の時間が流れた。

沈黙を破ったのは寛之の一言だった。
「亜由美。海の水でも触りにいかないか?」
すると亜由美は元気よく、
「うん」
と返事をした。
寛之は車を駐車場に移動させた。車を降りて外に出る二人、海までは少し距離があるので、一緒に歩いて行くことになる。亜由美の歩きを見ながら寛之はゆっくりとついて行った。亜由美は寛之よりも先に海の水に足を浸していた。水の中に足をつけながらいる亜由美の姿を見ていると寛之にも笑顔が戻って来る。
「あゆみ〜」
「あっ。海の水、冷たいけどきもちいいよ」
亜由美は寛之に笑顔をいっぱい見せてくれる。
「水でもかけ合うか?」
「うん。やろっか」
そう言って二人は水の掛け合いを始めた。亜由美のワンピースが濡れるのは当然で、寛之のTシャツ短パン姿も海の水で重たくなっていった。水玉模様ににかかる海の水、水がかかるたびに洋服の奥が透けて見えるようになっていたが、そんなことにも気にしないくらい無邪気な亜由美の顔があった。

浜辺の適当な場所を見つけ海を見ながら服を乾かしている。
「なぁ。俺たち、恋人同士みたいじゃないか?」
「そうねぇ。そんな風に見えるかも」
「それでも俺とはつきあえないんだろう」
「そんなことないよ。寛之といると私なんだか楽しくなったから」
そう言うと、亜由美は自分の濡れたワンピースをTシャツに擦りつけてきた。
「濡れちゃったね」
そう言うと亜由美は突然に自分の唇を寛之の唇に重ねて来た。海の水の塩辛さが残った甘いキスだった。二人が初めて味わう濃厚なキスでもあった。唇を離すと亜由美は再び海を見ている。
「海っていいよね。見ているだけで心がウキウキしちゃう」
「俺もそう思うよ」
寛之は海の遠くの方を眺めながら、さっきのキスを思い出していた。
「寛之。さっきのキス、ちゃんと覚えておいてね。私があなたのためにしてあげたんだから」
「あぁ。もちろん覚えておくって。おれたちのファーストキスだもの」
「そう言う意味じゃなくてね。あとで逆の立場になった時にやって欲しいってこと」
「逆の立場って?」
亜由美はためらいながら決心したかのように話し出しました。
「今度はお前が亜由美になってくれよってこと」
「もしかしてお前。。。」
「もちろん。晴彦だって」
そう言うと亜由美は軽く舌を出して愛嬌を振る舞うのでした。



本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです
・本作品についての、あらゆる著作権は、すべて作者が有するものとします
・よって、本作品を無断で転載、公開することは御遠慮願います
・感想はメールフォーム掲示板でお待ちしています

copyright 2016 Ayaka Natsume.







inserted by FC2 system