Have a Coffee(その2)

作:夏目彩香(2003年6月11日初公開)



男は家に帰るとラフな格好に着替えた。どうやら男は一人暮らしらしく、家の中は雑然としている雰囲気がある。そして、不思議な店に迷い込んで買ってきたトランスコーストの入ったタンブラー、それに会員証がテーブルの上に置いてあった。

実は会員証の他にもコーヒーの飲み方に関する説明書が一緒に入っていた。男はさっそく説明書の中でもトランスコーストに関する説明を読み始めた。そこに書いてあることはとうてい信じることのできないことであったが、読み終えた時にこのコーヒーに隠された秘密がなんなのか大方予想できたようだ。

説明書を読み終え、そろそろこのコーヒーを飲むのかと思えば、男は携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。相手はどうやら男の知り合いの女性らしい、受話器からは女の声がするからだ。

女性との話を終えると、男はタンブラーを手に持ち、左手を腰にあてて飲み始めた。これってまるで牛乳を飲むような格好である。男は、タンブラーの中のコーヒーを一気に飲み干してしまった。お腹の調子が悪くならないのか心配になってしまうくらいだ。

男は左手を腰にあてた格好のまま、タンブラーをテーブルの上に奥と、男は大きく息を吸い込み始めた。肺に目一杯の息をため込んだところで、タンブラーの口にいっぱいにため込んだ息をフッーと吹き込み始めた。

小さなタンブラーだから、息を吹き込むことなんてできないだろうと思っていたら、なんとタンブラーの中に白い気体が溜まりはじめていた。そして、男は息を吹き込んでいくと同時に意識までだんだんと遠のいて行ったのだ。

男の息が全て吹き込まれるとタンブラーの中にある白い気体がフワフワと空中を漂いはじめた。その上、白い色がだんだんと消え失せて、透明になっていった。そして、タンブラーに口をつけていた男はまったく動かなくなってしまい、そのまま床に伏せてしまった。

完全に透明になった気体のようなものは、まるで生きているかのようにフワフワと部屋の中を漂っていた。部屋の隙間から外へと抜け出すと、男の家から少し離れたあるアパートの一室に入っていった。

透明な気体のようなものは、まるで意識があるかのように動いていた。その証拠として風にも流されずとあるアパートの一室に忍び込んだからだ。そのアパートに住んでいるのはどうやら男がさっき電話をかけた女性のようだ。

女性はTシャツに白のキュロットスカートを着ている。家で過ごすための楽な格好をしていた。この女性は気体のようなものが入ってきたことには気づいていなかった。すると気体のようなものは女性の周りを取り囲んだ。そして、そのまま女性の全身へ侵入していったのだ。女性は一瞬気を失ったようだったが、すぐに正気を取り戻した。

女性はワードローブを開けると、水色の水玉がかわいいワンピースを手に取り、それに着替え始める。どことなく手つきが慣れていないようにみえる。ワンピースに足を入れると背中のファスナーを閉めようとするが、手が届かなくて苦労している。大きな姿見の前に立って、ようやく背中を隠すことができ、。ワンピースを身につけた。

姿見の前で女性はじっと自分の姿に見とれているようだ。そして、そのまま両手を胸のふくらみにあてながら、ゆっくりともみ始めている。そうかと思えば、右手をワンピースの下から中に入れていた。女性はそのまま一人の世界を楽しんでいたのだ。

しばらくすると、女性はバッグを手に取り玄関に行った。水色のミュールを見つけると、右足から履いていく。そして、女性はそのまま玄関の扉を開け、外へ出かけるのだった。




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