Ubiquitous Trouble

作:夏目彩香(2003年3月19日初公開)




世の中はいつでもどこでも誰とでも接することができるようになりました。私の生きているうちに、もっと進歩して行くと考えるだけでもわくわくするんです。こんな世の中だからこそ話題は絶えることが無くなってきました。自分が思ってもいないのに人に感情を伝えてしまう時のようなことが未来では当たり前になってしまうのかと思うとちょっと怖くもなります。

いつでもどこでもを実現させてくれるものは今まで携帯電話だけだと思っていましたが、それだけではありません。無線技術の発達によってさらなる進化を遂げてきていると思います。小さなコンピューターが取り込まれた紙があれば、それがどこか遠くから操作できるのかも知れません。

限りなく夢のような話もそのうち実現することがあるのかも知れません。もしくは、今生きている私たちの中に、既にそんなことを実現させてしまっている人がいるのかも知れません。街ですれ違う時にちょっとおかしな人だと思う時がありませんか?そんな時に出会うたびにもしかすると新しい技術を手に入れているのかも知れませんよ。

私の身の回りで変わったことと言えば、そうですね。たくさんあるわけではありませんが、変わったことが確かにあります。最近あったおかしな出来事についてちょっと書き残しておこうかと思います。



月曜日と言えば、休み明けで再び会社や学校の始まる曜日。この日は誰もが家から出ることを拒むはずです。しかし、私はと言えば月曜日の準備は意外にすっきりとできます。休みの御陰で疲れが取れているのと、新しい1週間を過ごすには始まる日が大事だと思っているからです。

今週の月曜日もそうでしたが、いつもよりも学校に行く準備が早くできました。学校までの道のりは歩いて行くだけの気楽なもの。半分は学校のキャンパスの中を歩いているのです。私の通っている学部の建物まで行く道にはもちろんたくさんの学生たちが歩いていて、同じような時間に行くと顔だけ見知った人たちもいっぱいいるのに気づきます。

いつものように歩いていると、やはりいつも見る人に出会いました。私が校門を潜ったときには私のすぐ前を2人組の女子学生と1人の男子学生が歩いていました。いつもよく見ている女子学生と男子学生なのですが、その日はなんとなく男子学生の行動が気になってよく見ていました。

男子学生はいつものように携帯電話を右手に持ったまま女子学生の方をジロジロと眺めながら歩いていきます。どうやら男子学生の携帯電話にはカメラがついていて、女子学生の姿をそれで撮ろうとしていたみたいでした。学部の建物までの並木道は歩いているだけでもとても気持ちがいいものですが、その女子学生たちにとっては迷惑な状況となっていました。

女子学生の2人はその男子学生の行動を気にしながら歩いていましたが、こっちから見ているとその2人の姿はまんざらでもない様子でした。男子学生はしっかりと2人の姿を携帯電話に収めた様子で、にっこりとした表情でどこかに行ってしまいました。

私の目の前には女子学生の2人だけしか見えなくなりました。彼女たちはいつ見ても同じような服を着ることが無く、長い茶髪の一人はピンクのカーディガンに身を包みこみ、白いフレアスカートをふわふわとさせていました。ヒールのきつい紺のハイヒールがコツコツと行っています。もう一人はショートボブっぽい黒髪をゆらしながら、ミントグリーンのワンピースと言った出で立ちでした。

後ろ姿を見るだけでは彼女たちは、羨ましいくらいのプロポーションを保っているのがわかりました。私も憧れるほどのボディラインを収めたさっきの男子学生の心情はよっぽど嬉しかったのに違いありません。彼女たちもさっきいた男子学生もいつも見慣れているのになんだかその日が違ったのは、男子学生が携帯電話で写真を撮ったということでした。

今までも同じような光景に出くわすことがおおかったのに、ここに来て初めて携帯電話での写真撮影となったのです。デジタルカメラでは無くて、なぜか携帯電話を使って撮影しているなんてなんだかおかしいと思うのです。彼のような男子学生があんな風に携帯電話で撮影をするのは何かわけがあると思ったのですが、この時は特にその理由がわかりませんでした。

私はそのまま彼女たちのあとで学部の建物に入り授業のある教室に入って講義を受けてきました。彼女たちは私とは講義室が隣ですが、学部は一緒だと言うのが他の講義を受けることでわかりました。その日は午前中で講義が終わるため、一旦家に帰ることにしました。

帰りの道は来た道と反対の道筋を通ることに決めています。いつもだと寄り道をすることもしばしばですが、その日はなんだか疲れていて早く家に帰りたかったため、一番基本的な道筋で帰ることにしたのです。



いつでもどこでもと言っても自分の家が動くわけでもないので、家までの道のりはとても遠く感じました。遠く感じるとは言っても歩いていくのが一番のため、頑張って帰ることにしたのです。帰る道に使ったのもすっかり春めいた並木道でした。その並木道を歩いていたのですが、朝によく見かける女子学生2人の姿が10mほど前にありました。

いつも仲がよくて一緒にいるのですが、朝見かけた時よりも更に密着しているようです。それはただの視角の差にしか過ぎないのかも知れませんので、私の思い過ごしかも知れません。

彼女たちが学校の校門を通過しようとした時に、2人に異変が起こったのを私は見ていました。ちょっと背が高くて髪の長い女の子の方が突然立ち止まったのです。立ち止まってからあたりをキョロキョロと見渡し、白いフレアスカートを浮かせるように体を1回転させました。私もこの様子をゆっくりと見ようと立ち止まってちょっと遠くから見ていました。

体を1回転させたあとには自分の持っている携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけていました。隣にいる髪の短い女の子は彼女の突然の変わり身に立ちすくんでいる様子でした。

彼女が電話をかけ終わると、髪の短い女の子に向かって何かを話していたようでした。その話の内容はよくわかりませんが、だんだんと青ざめていく顔色を見ていると私も彼女に起こった変化に興味を持たずにはいられませんでした。いつの間にか好奇心によって2人に近づいていったのです。

髪の長い女の子が髪の短い女の子に話が終わると、髪の短い女の子は一目散に学校の校門から外へと出て行ってしまいました。私が近づいた時にはおかしくなった髪の長い女の子しかいなかったのです。

いつもまともに顔を見ることがなかったのですが、この時になってはじめて見ることができました。ぱっちりとした目にすっと通った鼻、顔には薄い化粧がされていて、とてもきれいな顔立ちでした。私が彼女のそばに行ったときに、彼女は私の方をジロジロと見てきました。

その目はまるで私に興味をもっている男のような感じさえしました。よくみると右手で携帯電話を操るその仕草がいつも朝に見かける男子学生とよく似ていました。顔はたしかにきれいなのですが、表情は20前後の女性が見せるには恥ずかしいほどににやついていました。そして、私がさっきから彼女のことを見ていたのがわかったのか、彼女は私に話かけてきました。

髪の長い女の子「あんた。いつも学校に来るときに見かけるよな」
その場に立ち尽くしている彼女は何かに取り憑かれたかのような立ち姿で、私と話はじめました。
私「そうですよね。顔だけはよく見かけていますよ」
なるべく冷静に私は応えるようにしました。
髪の長い女の子「そうかい。今日が初めて言葉を交わすってわけだよな」
やっぱり何かがおかしいのですが、私にはまだわかりませんでした。
私「そうだけど。なんかおかしいですよね」
ここも冷静に言ったのですが、彼女がこんなにも乱暴な言葉遣いをするとは思いもしませんでした。
髪の長い女の子「何が?何も違わねぇよ」
この頃の子だと言いそうな言葉遣い、彼女はちょっと微笑んで言葉を続けます。
髪の長い女の子「なわけ、ねぇよな」
やっぱり何かおかしなことが彼女に起こったようでした。
私「もしかして、あなた誰かに取り憑かれてるの?」
すると彼女はにんまりとした表情で言いました。
髪の長い女の子「まぁな。とりあえずそんなところだ」



書けば長くなりますが、彼女にはいつも朝に一緒になる男子学生が取り憑いたようです。携帯電話で写真を撮ると、その写真に写った人に取り付ける携帯電話のアプリケーションを手に入れたと言うことで、それを試しに使ったらできたとのこと。

技術が進歩すればできないことがないと言うのが信条の私にとっては、興味深いことだったので、あれから男子学生の取り憑いた髪の長い女の子と話をしたいと思いました。キャンパスの中で立ち話も何だから、女同士話しましょうって言ったら簡単にOKが取れたので、その時の話をまたの機会に書きたいと思います。



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