卒業式

作:夏目彩香(2004年3月12日初公開)

 

ここはとある高校、今は卒業式のまっただ中である。講堂には卒業生が集まり、厳かな式が執り行われていた。壇上にいるのはここの校長先生、どこへ行っても変わりの無い長話を行っているところだ。

卒業生は最後の長話につきあっているところ、この話を聞くのも最後だと思えば、少しは気楽に聞いていられるのだろう。ざわつくようなことも無く、みんなまじめに、いや気だるそうに聞いているようだった。

校長先生の長い話が終わると、卒業式の会場は安堵の様子を迎えた。次からは、ようやく卒業証書の授与がはじまっている。ここの高校は相変わらず一人一人壇上に立って、校長先生から直接手渡しをするようだ。

校長先生の横には、ここの高校で一番若い女性教師が立っている。サーモンピンクのワンピースに、黒いハイヒールといった出で立ちで壇上に上がっていったので、卒業生たちからも注目を浴びていた。

校長先生が卒業証書を渡す前に、一枚づつ卒業証書を渡すのが彼女の役目で、別にそこまで着飾らなくてもいいのに、まるでどこかのお嬢様気取りのようだった。普段の授業では地味な服装ばかり、校長先生よりも壇上の存在感があった。

校長先生が生徒に手渡しするたびに、彼女は次の生徒の卒業証書を校長先生に手渡す。卒業生に次々に渡されていく卒業証書、彼女は黙々と仕事をこなしているようだった。そして、最後の生徒にも卒業証書が手渡されると、彼女は壇上から降りていくのだと誰もが思っていた。

全員に卒業証書が手渡されて、校長先生が突然倒れた。ざわめきの起こる中で、隣に立っていた彼女が、突如として壇上に立ち、そこにいる全員の視線が彼女に注がれた。視線が集まったことを見計らったかのように、彼女はマイクに向かって言葉を放つ。

「私が校長です。なんだか知らんが幽体離脱してしまったようなんで、みなさん心配なさらないように」

この後、卒業式の雰囲気が壊れてしまったのはご察しの通りである。







 

本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
・本作品についてのあらゆる著作権は、全て作者の夏目彩香が有するものとします。
・本作品を無断で転載、公開することはご遠慮願いします。

copyright 2011 Ayaka NATSUME.







inserted by FC2 system