叶いの人生

作:夏目彩香(2003年10月21日 インクエストにて公開)



もしもあなたの願い事が三つだけ叶えられるとしたらあなたは何に使いますか?三つの願い、一つが叶えられれば残りは二つ、二つが叶えられると残りは一つ、残りの一つを使い切るともう願い事は叶えられません。これはそんな三つの願いに生きることをかけたある青年の話です。

 

「もうこの世から逃げ出すしか無い、このままじゃ自殺でもした方がマシだ」

電車のホームでとあるスーツ姿の青年が突然叫び出しました。すでに電車はホームの半分までブレーキをかけながら入線しています。青年はその電車に向かって身を投げ出しました。

(これでやっと楽になれる)

青年は電車と線路の間に挟まれて当然、即死という結果になったのです。ところが、何やら様子がおかしいのです。なぜなら、青年は死んだはずなのに意識がはっきりとしていたからです。しかし、周りを見回しても体は見あたりません。

(一体何が起こったんだ?)

青年は自分に起こった出来事を把握しようとしていました。フワフワと空を飛んでいる自分がいるではありませんか、下の方を見てみるとさっきまで自分が立っていたホームが見えています。そして、驚くことに電車にはねられた自分の姿も見えました。

(俺って、死んだんだよな。でも、これって一体?)

青年がそう考えていると、天の方から何かが飛んで来るのが見えました。青年には羽をはばたかせている人間のように見えました。

(人間が空を飛んでいる?やっぱり、ここって死の世界?)

そうこうしているうちに羽をつけた人間が青年の前まで近づいて来ました。

「おい、そこの青年」

羽をつけた人間は、どうやら老人のようです。

「はい、あなたはどなたですか?」

「わしは、こう見えても天使じゃよ」

「天使?」

「さよう。天使と言ったら天使だ」

「天使って、どうみてもそうは思えないんですが、老人の天使もいるんですか?」

「若いに決まっておるだろう、わしはこう見えてもまだ453歳じゃ、この世界ではまだまだ若いんだぞ。お前の名前は春彦、そうだ、設楽春彦(したらはるひこ)だろう」

「そうです。どうしてご存じで?やっぱり、あんたって天使?」

「そうだって言っとるじゃろ」

春彦は天使の言うことを泣く泣く信じることにした。

「ところで、お前。さっきはやっちゃったな、また電車を停めた愚か者め。どうせ自殺するなら人に迷惑をかけないようにせんと」

「はっ、はい。ってことはやっぱり俺、死んだんですね」

「そうに決まってるじゃろ、天使のわしが言うんだからな」

「そうでしたか……」

春彦の声は覇気が無かった。

「とにかく、わしがここに来たのは光の世界にお前を迎えに来たからじゃ」

「光の世界?」

「まぁ、死んだもののほとんどがそこへ行くんじゃ。ところが、今は期間限定で自殺者1万名に対して1名だけ蘇らせてあげるキャンペーンをしておるんじゃ。このところ自殺者が多くなってきて、どうしようもない奴らが多いからじゃ」

「ということは、俺に生き返れと言うんですか?」

「そうじゃ、お前はこのキャンペーンに当選したので、特別にわしが出迎えに来たのじゃ」

「せっかくですが、嫌です。あの世界にはもう帰りたくありません。会社が倒産して、再就職を見つけようとしたのですが、面接を何度受けても就職先は見つかりませんでした。両親から生活費を賄っている自分もみっとも無いので、死んでしまった方が楽になれると思って、さっき自殺をして来たばかりなんです」

「そんなのは全てお見通しじゃ、なんと言ってもわしは天使じゃからな」

「それって、普通は神様のセリフじゃないんですか?」

「だまらっしゃい。何も知らない素人がそんなことを言ってはいかん。自殺者がそのまま生き返りたいと思うわけが無いじゃろう。そんなことはわしもちゃんと電卓で計算しておった」

「と言うことは、どう言うことなんですか?」

「うん、お前はものわかりがよいな。教えてやろう」

「はい」

「それはな。生き返るついでに、三つだけ願いを叶えてやろうってことじゃ。ただし、叶えらる願いはわしのできる範囲に限られるぞ、とてつもない願いは叶えてやれんから無理の無いものを考えるがいい、まずはお前を生き返らせるぞ。これはサービスなので三つの願いには入らんからな。生き返ったあとで、願いを叶えたくなったら、いつでもわしを呼ぶがいい。三つの願いを叶えるまではお前の専属なんでなぁ」

「そうですか、わかりました」

「じゃあいくぞ」

天使はそう言うと春彦に向かって大きな息を吹きかけました。そして、春彦は意識がそのまま薄くなって行ったのです。

 

春彦の意識が戻ったのはなんと棺桶の中でした。体は元気な状態に戻っていました。棺桶の外からはお経が聞こえてきます。どうやら葬儀中に生き返ったらしいのです。

葬儀中に生き返ったことがわかると、マスコミが大騒ぎをし出しました。せっかく生き返ったと言うのに、鉄道会社に対する賠償責任も追及され、時の人ではあるけれど以前よりも状況が悪くなってしまいました。両親に対してもこれでは申し訳が立ちません。

春彦はマスコミが落ち着くまでは家から一歩も出ずに過ごしました。ほとぼりが冷めるまでは両親に暖かく見守ってもらい、思わず自殺をしようと思った自分を戒める気持ちが出たくらいです。

生き返ってから2週間が経ち、ようやく状況が落ち着いたように思いました。家の中にいる間、春彦は天使の言っていた三つの願いを考えていました。その結果、両親に多大な迷惑をかけたので一つは両親のためになることを考えました。

春彦が願いを叶えたいと思うと、さっそく老人天使がやって来ました。春彦の顔を見ると懐かしい人にあった表情をしていました。

「久しぶりじゃな、お前」

「はい、願い事を思いついたので、さっそく叶えてもらおうと思いました」

「うん。生き返ってからと言うもの結構大変じゃったろう。わしも空からお前のことを見守っていたぞ」

「こんなことなら、生き返らない方がましかと思っていたのですが、まずは両親に楽をさせたいと思うのです」

「それは良い心がけじゃ。それで、願い事は何なのじゃ?」

「そうですね。お金持ちにしてもらいたいと思ったのですが、できますか?」

すると天使の表情が固まった。

「うむ、それはわしには無理な願いじゃ。しかし、お前が望んでいる会社に就職させることは可能じゃ。それでもよいか?」

「わかりました。損害賠償のお金やら、ローンやら支払うものはたくさんありますが、とにかく就職してコツコツと返すことに致します」

「よろしい、お前のような人間を見ていると気分が良い。就職させるついでに、そこで働く能力もアップさせてやろう。これで能力給には困らないじゃろう」

「ありがとうございます」

「ついでに結婚でもしたらどうじゃ?お前の理想のおなごと結婚させてやるぞ」

「そうですね。その方が両親が安心するかと思いますので、いっぺんに2つの願いをお願いします」

「むむ。わかった。それでは、これからはじめるぞ」

天使はそう言うと、集中し始めたらしく目を閉じ、春彦の目の前で手をすり合わせ、なにやら呪文を唱え始めた。

「渇っ!!!」

目を見開くと同時に春彦に向かって大きな声で気合いを入れると、春彦の意識はまた遠のいて行ったのだ。

 

気が付くと春彦はとある会社の一室の机の上で目が覚めた。がらんとした大きな室内、ここれは一体どこだろう?そう思っていると、一本の電話が入る。春彦は恐る恐る電話に出てみた。

「もしもし?」

『室長。残業お疲れ様です。よろしかったら、これからご飯でもどうですか?』

電話の向こうからは若い女性の声が聞こえて来る、室長ってことはどうやら自分の役職らしい、机に目をやるとOLの制服を着た若い女性と一緒に写った写真と共に、自分の名刺があるのに、気づいた。名刺には自分の入りたいと思っていた会社とその部署が書かれていた。

「わかった。今から行こう」

『嬉しい!じゃあ、いつものところで待ってますね』

「うん」

春彦にはいつものところもすぐに理解ができた。いつの間にか同じ会社の女子社員ともつきあっており、婚約状態にあることに気づいた。もちろんその女子社員は春彦のタイプそのもので、何とも気が付く人だった。すぐに結婚に至ったのは言うまでもない。

就職する願いと結婚する願いが叶えられ、残りは1つ。これは何かの時に取っておこうと思った。どうやら「三つの願い」によって春彦はようやく生きる希望が出てきたのだ。

 

いつの間にか希望の会社の室長になっていた春彦はあっと言う間に社長まで登り詰めた。その会社が創業以来の若社長の誕生ということで、業界でもかなり顔の広い人物へと生まれ変わっていた。

自殺を図ってからすでに3年の月日が経っており、成功を続けていた彼は天使の約束だった「三つの願い」を忘れてしまったかのようだった。幸せの絶頂にいる春彦にとっては、もう「三つの願い」はいらないものだったのかも知れない。

ところが、そんなある日、呼んでもいないのに突然天使がやって来たのだ。そして、春彦を見つけてこんなことを言って見せた。

「おい、春彦。三つの願いの三つ目はまだか?忘れてるのかと思ってこうして見に来たんじゃ。全ての願いを叶えないとわしの担当は変えられなくてな。そろそろ、最後の願いを叶えてもらいたいと思ったんじゃ」

「別にいいじゃないですか、まだ願いは残して置きたいと思っているんです。何か思いついた時には必ず呼びますから」

「そうか?確かにわしが焦りすぎたのかも知れんな」

そう言うと老人天使はすぐに天空へと帰っていた。

 

そうして、数十年の月日が流れて行った。三つの願いの三つ目はまだ使っていない、天使の催促が時々来るものの、すでに春彦は青年と呼べる年でも無かった。あれから新しい会社を幾つも興して、今ではグループ企業の創立者となっていたので、この上無い生活ぶりだった。

しかし、こんな春彦にも最近は悩みがでてきたのだ。理想の女性と結婚してしばらく経ってからおめでたを迎えたのだが、二人が身ごもった最初の子供は流産してしまい、妻が40歳近い年齢で出産。一人だけの息子には愛情をたっぷり注いで育てて来た。そんな息子も独立してそろそろ結婚させてやりたい年頃だったが、なかなか理想の人に出会えず。結婚はできないでいたのだ。

春彦はついに天使に今の願いを叶えてもらうことにした。彼はずいぶんと年を取ってしまったが、元々が老人である天使は初めて会ったときと変わらない姿でいる。空から降りてくると、いつものように窓を開けて彼の願いを聞きにやってきた。

「お前さん。ずいぶんと待たせてくれたな。ようやく最後の願いを聞けると言うことで、楽しみにして来たぞ。これでわしも出世できそうじゃわい」

春彦は真剣そうな目をして天使に疑問をぶつけた。

「天使もやっぱり、出世があるんですか?」

「まぁな。人間社会と似たもんじゃよ。そんなことはさておいて、最後の願いをしかと伺うとしよう。言ってみろ」

「そうでした。ずいぶんと待たせて済みませんでした。私もこんなに立派な家庭と会社を持つことができ、生活には何も不自由することがありません。しかし、息子の事が心配です。私と同じように結婚相手に恵まれず、つきあった女性も多くはありません。きっと、あいつのことだから親の押しつけるような結婚は反対するはずなので、理想の女性に会わせてやりたいのです」

「う~ん、そんな願いか。お前は息子思いな奴じゃなぁ。しかし、わしはお前の息子のことはわからないからのぅ。どんな女性が理想なのかはわからんなぁ」

「そこをなんとか頼みます。あいつなら理想の女性に出会えばすぐにでも結婚を決意するはずです。その時は、私の持っている現在の地位を譲って、後ろから暖かく見守ってやりたいのです」

「わかったぞ。とにかく、わしのできる範囲でやってみるからな。何が起きても責任は取らんからな」

天使はそう言うと、集中し始めたらしく目を閉じながら目の前で手をすり合わせ、なにやら呪文を唱え始めた。

「渇っ!!!」

目を見開くと同時に彼に向かって大きな声で気合いを入れると、春彦の意識は次第に遠のいて行った。

 

意識が戻って来ると、見知らぬ部屋にいるのがわかった。部屋の中はとても整然としていて、部屋の隅には大きな鏡が置いてある。鏡の前へゆっくりと歩いて行くと、目の前に現れたのは、自分の姿では無く、美しい女性だったのだ。

妻の若い頃とはちょっと違ったタイプだが、なんとなく妻に似た風貌。息子がみたら思わず惚れてしまうのではないだろうか?水色のアオザイのようなノースリーブのワンピース姿。黒い髪が腰の辺りまで延びている。清楚な感じのする女性だった。

気が動転しそうだったが、心を落ち着かせて考えてみた。もしかして、最後の願いが失敗してしまったのだろうか?息子に理想の女性を与えて欲しいと願ったから、失敗して自分が若い女性になってしまったのでは無いかと考えた。

(とにかく、あいつに知らせなくちゃならないな)

春彦がそう思うと、女性の持ち物と思われる携帯電話を取り出すと、息子の携帯の番号を押そうとしたのだが、思い出せない。仕方なく家の電話にかけることにした。家には息子か妻しかいないはずなので、確率は2分の1だ。

携帯電話の呼び出し音を聞きながら、自分が話そうと思うことをまとめてみた。とにかく、女性の声になってるのだから、電話を切らないようにする必要があった。電話がつながった時、向こうから聞こえて来たのは男の声だった。

『もしもし?』

聞こえたのはやはり息子の孝彦(たかひこ)だった。

「もしもし?あの設楽春彦さんのお宅ですか?」

とっさに思いついたのは自分の所在を聞くことだった。

『えぇ、そうであってそうでありません。春彦は私の父でして、父はつい先ほど亡くなりました。』

「えっ!?なんですって?」

『父のお知り合いの方ですね。とにかく、これからお通夜となりますので、よかったらお越し下さい』

「この度はご愁傷様でした。失礼致します」

電話を切ると思いがけない衝撃が体の中に走った。思いがけないことを知ってしまった。そう言う思いだ。春彦はすでにこの世からいなくなっていると孝彦が言ったのだ。「三つの願い」を叶えてしまったのだから、あの天使に会うことはもうできないのかも知れない。とにかく、自分のお通夜に行ってみることにした。

クローゼットの中から喪服に使える服を探してみると、黒のワンピースがあった。それに着替えることにして。自分の家で詳しいことを知ることにしたのだ。気が動転していたが、自分が成り代わっている女性のことについても知らないといけなかった。せめて名前くらいでもわからないと何かと困るからだ。

手提げカバンを見つけると、中に必要なものを入れて行く、化粧セットやアクセサリー、財布にキーホルダー。なぜか、慣れたように入れて行く、春彦は自分がこの女性のことを全て知っているかのように行動ができた。

そして、会社の社員証を見つけると名前と年齢、それに職業がわかった。名前は三井遥(みついはるか)と言って、年齢は24歳の銀行の窓口を担当している女性だった。銀行名は彼女の名字に似た銀行と言うことだから、春彦の会社のメインバンクと同じだった。ワンルームマンションで一人暮らしのようだった。

遥(=春彦)は下駄箱から黒いローヒールを見つけると、それを履いてみたが、何の違和感も無く歩けるようだった。しっかりと鍵を確認してから自分のお通夜が行われるはずの自分の家へと向かった。

 

自分の家の前に到着すると、大きな看板が立てかけられていた。そこには紛れも無く「故・設楽孝彦」と大きな字で書いてあったのである。やたらと長い戒名まで書いてあったが、それは気にしていなかった。お通夜の席に並ぼうと、春彦は三井遥として受付を済ませた。

喪主は息子の孝彦となっていた。大きなグループの会社を持っていたが、大きな葬儀はするなといつも口うるさく言っていたので、その言葉通りに小さな葬儀にするらしい。

遥(=春彦)は息子の孝彦を見つけると、近づきたかったが、今の姿では何も説明することができない。それに、どう言った知り合いなのかと言われると受け答えに困ってしまうようだった。そうしているうちに、孝彦と目が合ってしまった。

そして、目が合った瞬間に、胸の奥で何かときめくものがキュンとなった。すると、孝彦が遥(=春彦)に近づいて来た。何をしに来ると言うのか、孝彦が近づくたびに胸が高鳴っていた。遥(=春彦)の目の前に孝彦が立ち止まると孝彦が話かけて来たのだ。

「もしかして、さっき家に電話を掛けたのってあなたですか?」

すると、何か言いたいのだが思わず言葉にならない、しょうがないので軽くうなずいてみせた。

「そうでしたか。やはり、僕の思った通りです。まだ時間がありますので、あちらでお話でもどうですか?」

「わかりました」

遥(=春彦)は孝彦のあとをついて行くと、椅子に座わるように促してくれた。二人が腰を落ち着かせると、孝彦と話を始める準備が整った。さっきから胸の奥が耐えきれないほどの気持ちが襲って来ていた。

「遥さんですよね」

孝彦はいきなり遥(=春彦)の名前を呼んだ。

「えっ。どうして私の名前を?」

「銀行に行った時に覚えました。父と知り合いだったなんて奇遇ですね」

「そうですね。奇遇ですね。……あっ。つかぬ事をお聞きしますが、お父さんはどうしてお亡くなりになられたんです?」

「死因ですか?」

「はい」

「実は……」

そう言うと孝彦は遥(=春彦)の耳に手を当てて耳打ちをして来た。

「絶対に秘密なんですが、父はどうやら自殺したらしいのです」

「自殺?」

遥(=春彦)が大きな声で叫ぼうとすると、孝彦が口を押さえた。

「ごめんなさい」

「実は、遺書が見つかりましてね。その中に自殺するような文面が書いてあったんですよ」

「そうでしたか」

「それと、遺書の中にですね。見知らぬ女性から電話がかかって来たらその女性と結婚しろと書いてありました。その女性は絶対に気に入るってことまで、父はまるで予言めいたことを書いたように思ったんですが、その言葉の通りになりました」

「と言いますと?どういうことですか?」

すると孝彦は遥(=春彦)の手を握りながら言って来た。

「こんな場所で不謹慎ですが、つきあって欲しいんです。もちろん結婚を前提にです」

その時、遥(=春彦)は具が悪そうに考えを巡らし始めた。頭の中は訳のわからないことで一杯になっていた。

「はい、わかりました。こんな私でよければ」

「わかりました。父のお通夜だと言うのに不謹慎なことを言ってごめんなさい。もう少し落ち着いたら連絡しますので、電話番号だけでも教えて下さい」

二人は電話番号を交換した。孝彦の番号を教えられた時に、ようやく番号を思い出したような遥(=春彦)だったが、それは孝彦がわかるはずが無かった。

「あそこにいるのが母です。挨拶して行きますか?」

孝彦が指さした方には妻の姿が見えた。悲しみに溢れている様子だったが、孝彦がいるおかげで悲しみもこらえることができるのだろう。

「今日はやめておきます」

「じゃ、僕は忙しいのでまた連絡します」

「はい、頑張ってくださいね」

そうしてお通夜が始まる頃に遥(=春彦)は自分の家に帰っていった。二人のつきあいはこうして始まり、半年も立たないうちに結婚も順調に済んでしまった。

 

そして……

 

「ねぇ。孝彦?私と結婚して良かった?」

ダブルベッドの上に二人は向かい合うように寝ている。

「もちろんだよ。君のおかげで僕がどれだけ助けてくれたことか」

遥は元々、孝彦の父親。孝彦のことはもちろん、会社のことだって知っている。だから、孝彦は困ったことがあると遥に聞くようになっていた。

「そっかぁ。私も最初は戸惑っていたけど、天使のくれた人生だと思って、新しい人生をはじめようと考えなおしたの」

「天使のくれた人生か~、遥って時々、かっこいいこと言うよね。やっぱり最高の妻だね」

「最高の妻になるのはこれからでしょ。孝彦にお願いがあるんだけど」

「何だい?」

「私、子供欲しい」

「えっ?そうだよなぁ。結婚したから、もう我慢しなくていいだよな」

「孝彦は何人欲しい?」

「ん?二人ぐらいでいいんじゃないか?」

「私はねぇ。5人ぐらい欲しいなぁ。お義母(かあ)さんには子供が一人しかいないじゃない、孫をたくさん見せてあげたら喜ぶと思うわ」

「遥って、母さんに優しいよね。母さんの好みとかよくわかってるみたいだし、さすがだよ」

「だって、当たり前じゃない。じゃあ、子作り開始!」

そう言うと遥が孝彦の唇を奪った。孝彦も舌を絡めて応酬して来る。

「なかなかやるわね。さすが……」

「愛してるよ。遥」

「私も愛してる。孝彦」

すると遥は布団の中に潜り込んで孝彦のトランクスを脱がせた。

「どうしたんだ遥?」

「お父さんのより大きいね」

「何だって?遥のお父さんの見たことあるの?」

「嘗めてもいいかな」

そういいながら遥は孝彦のムスコを手でさすっている。

「うん」

「気持ちいいでしょ。私ってムスコが好きなんだよ。変かな?」

そう言うと遥はムスコを嘗めて来た。舌先を使ってピチャピチャといやらしい音が聞こえてくる。

「あっ。それ気持ちよ。大きくなってきたかな。遥って、結婚する前から思っていたけど、なんか昔からずっと一緒にいたような、そんな気分がするんだよ」

「そうかなぁ?だって生まれる時から知ってるんだもの、そう言う運命だったんでしょ、私たちって」

遥が布団の中から頭を出してそう言った。

「孝彦。今度は私を気持ちよくさせてね」

こうして濃密な時間が続き、二人は幸せな毎日はまだまだ続いて行くのだった。






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