流行前線(その5)

作:夏目彩香(2003年7月1日初公開)



小瓶の中に入ってる美野の目の前には2人の美野がいました。コンタクトレンズをつけている美野は白のノースリーブワンピースの上に黄色いカーディガンをかけて、黄色いハイヒールを履いています。そして、眼鏡姿の美野は黄色のAラインスカートに白いブラウスの上からブラウンのカーディガン姿、足にはグレーのパンプスを履いています。本物の美野が2人の美野に見つめられる変な構図でした。

「先輩。もういいですか」
「かばんに入れておけ」
本物の美野が入った小瓶は美野のバッグの中へと入れました。
「美野の顔見たか。びっくりした顔がたまんなかったよな」
「先輩もそうでしたか、僕もそう思いました。それで、2人とも美野だと混乱しませんか?」
眼鏡の美野がコンタクトの美野に話ている。
「そうだろう。2人美野がいるのは本来おかしいんだからな」
「じゃあ、美野に双子の妹がいたってことにしたらどうですか?」
「それいいよな。じゃあ、お前が美野の妹だ。名前は美恵(よしえ)でどうだ?」
「美恵ですか……まぁ、いいっす」
2人はどうやら意見がまとまったよう。
「それじゃ、これからは双子の姉妹ってことでよろしくな」
「わかりました。美野姉ちゃん」
「それって、なんか恥ずかしいな」
美野はくすぐったい仕種を見せる。
「そろそろ、成りきらないと駄目ですよ。先輩」
「わかった、わかった。これからは美野と美恵に成りきることにしよう」
どうやらこれから2人の成りきりがはじまるらしい。

美野と美恵はサークル部屋を出ることになった。サークル棟を一緒に歩くだけでも周りの視線を浴びる、美人姉妹が歩いているのだから当然と言えば当然。しかも双子のように見える2人はどんな動きをしても同じに見えるのだ。

2人が向かったのは未だにお花見をしている会場。2人の先輩であるそこにはサークル長が一人で花見気分に浸っていました。もうべろべろに酔ってしまったようで、美野と美恵の姿を見ると、鼻の下を伸ばして近づいてきます。

「お〜い。君たち。一緒に遊ばないかい?」
サークル長がそう言うと、まずは美野が近づいて行きました。
「私たち、双子なんです。席を一緒にしてもよろしいですか?」
「なんて、礼儀が正しいんだ。もちろんいいよ」
2人は靴を脱ぐとサークル長の前に膝を立てて座りました。
「さくらがきれいですね。他にお花見している人はどこへ行ったんです?」
「もう、誰もいないよ。だいぶ涼しくなってきたからね。みんな家に帰ったみたいなんだ」
「お酒あります?私がついであげます」
サークル長とは美野が話をしている。
「それにしても、だいぶ寒くなりましたね。どこか違う場所に行きませんか?」
「ん?君たちと一緒に?」
「まずは、ご飯でも食べに行くのはどうですか?」
「いいよ。君たちの分まで俺が奢ってあげるよ。なんでもいいから食べに行こう。」

3人は近くのファミリーレストランへ移動して、夜ご飯を一緒に食べることになりました。
「メニュー決まった?」
ウェイトレスさんに3人がメニューを伝えると、サークル長はグラスに入った水を一気に口に入れました。
「忘れてたけど、俺の名前はひろし。君たちの名前教えて欲しいなぁ」
「ん。私は美野で、こっちは妹の美恵。私たち双子なの」
美野はぶりっこするような感じでひろしに言います。
「私、トイレ行ってくる」
「オッケー」
美恵はトイレへと行ってしまいました。
「それにしても君たちずいぶんと似て良すぎだね。全部同じみたいだ」
「そうですか?双子だから当然だと思うけど」
「でも、声までそっくりだってのは初めてだよ。そっくりと言うか完璧に同じみたい。目をつぶるとどっちがしゃべっているのかわからなくなりそう」
ひろしはべらべらとしゃべりはじめます。
「ん〜。そうね。私たち声までそっくりってのもよく聞きます。じゃあ。あとでカラオケでも行きますか?」
美野は目の前にいるひろしをじっと見つめながら、お願いをするような表情に感情を込めて言いました。
「そうだな。カラオケ。いいねぇ。君たちと一緒ならどこでもいいよ」
「じゃあ。決まりね」
そう言ったところで美恵がトイレから帰ってきました。
「どうだった?」
「最高」
「じゃ、私も行ってくるから」
美恵が席に戻ると、次は美野がトイレへと向かいました。ひろしと美恵が2人きりになると、お互いになぜか気まずい雰囲気になります。
「そう言えば、君は眼鏡かけてるよね。なんでコンタクトとかしないの?」
「私の方は、コンタクトが体に合わなくて、いつも眼鏡にしてます」
「そっか。眼鏡取ったら可愛いと思うのに。ちょっと外してくれる」
「えっ?駄目ですよ」
そうは言ったものの、ひろしの強引さによって美恵は眼鏡を外した。
「あっ。お姉さんとそっくりだね。しいて言えば化粧の仕方が違うくらいか」
「そうですか。私たちって外見は似ていても性格が全然似てないんです」
ひろしはだまったまま頷いている。
「まぁ、違う人間だからね。何でも同じってことはあり得ないからね」
そう言ったところで、美野がトイレから帰ってきた。ゆっくりと席に戻ると、3人が頼んだものがウェイトレスさんによって運ばれてきた。
「まずは、食事しましょう。このあとでカラオケに行きましょうね」
こうやって3人は楽しい食事を始めたのでした。


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