秋 物

作:夏目彩香(2000年11月1日初公開)


 


あんなに暑かった夏も終わり、街が赤や黄色に染まって来ている。街はなぜだかハロウィン商戦に色めきだっている。一瞬見ると、ここが日本だなんてことは忘れてしまいそうだ。それにしても通りを歩いていると魅力的なお姉さん方が増えてきた。彼女たちの服装を見るだけで今年の流行がわかってくる。トップス、ボトムス、アイテム、アクセサリー、コスメ、どれをとってみても華やかというよりは、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

ちょっと街の中を歩いただけでも黒や茶色が目についてくる。僕にとっては別の世界の話なんだから、とにかくどうでもいいことだが、目に入ってくるからしかたない。寒空が広がる中、街灯にあかりがともっていく。地下鉄にでも乗ってさっさと家に帰ろう、そう思った僕は、地下街へと入っていった。

地下街は人ごみでいっぱいで、歩くスピードも自然に歩調をあわせなくてはいけない。焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりと前へ進む。それにしても、今時の女子高生ときたら羞恥心のかけらもないんだろうか?地面に座り込みをしたり、携帯電話でうるさくおしゃべりを続けている。それに変な男と話をしていたり、学級崩壊の一端をこんなところでも見受けるのだ。そんな子に注意ができない僕も情けないのだが、やっぱり親の教育だと実感してしまう。

そうやってしばらく歩いていると駅の改札が見えるくらいになってきた。地下街もそろそろ終わりということだ。通りの両側に立ち並ぶ店を横目に見ながら、駅構内へと入っていった。カードを買ってあるので、改札を通るだけでホームに直接乗り込める。丁度いいタイミングで僕が乗ろうと考えていた地下鉄が滑り込んできた。

乗り込むとすぐにドアが閉まり、ゆっくりと滑りはじめるように電車は動き出した。ひさしぶりの街中だったけど、高校の時よりもずっと魅力が薄れてしまった。なんといっても女子高生の天国と化してるんだから、僕みたいな学生にはついていけないのも当然である。彼女がいたら多分違うんだろうなって、つり革を握りしめながらふと思った。そして、上を見上げると広告が目に飛び込んでくる。女性誌ではちょうど秋物特集をやっているらしい。

車内を見回すと、乗客の割合はやっぱり女性が多い、特に僕の乗った車両には若い女性の割合が多い。更にラッキーなことに目の前に座っているのが女性だった。これなら立っているのもそう悪いことではない。街中で見かけた女子高生とは違って大人の色気が漂っている。それでもじろじろと彼女を見るのは気まずいので、なるべく目線を外すように広告に目を移動させた。

地下鉄は次の駅に吸い込まれていく、ここでは降りるよりも乗る乗客の方が多いので、隣の人との間隔はさっきよりも近づいている。そうすると僕は自然に目の前の彼女に自然と迫るような格好になっていった。なんとか足の置き場はあるが、彼女のすらっとした足に履いているこげ茶のブーツと僕のスニーカーが軽く触れ合っている。次の駅でまた人が乗ってきたら。そんなことを考えるだけで、心臓は高鳴っていった。

ブレーキがかけられ慣性の力で体が横に揺れ動く、必死になって足元を踏み込むと、彼女のブーツに支えられながらふんばっていた。彼女の顔を良く見ると、とっても嫌そうだ。僕は悪いと思いながらも次の駅に止まるまで、この状態は続く。ここでは、降車客の方が多いのだろう。窮屈感はさっきより少ない。しかし、依然として僕は彼女の前にいた。

再びゆっくりと電車は加速度をつけはじめた。ところで、彼女はどの駅で降りるのだろう?僕と同じ駅で降りるとは限らないけど、なんとなく気にはなる。ここから先はカーブが多いようで、ちょっと気を抜くと前後に揺れを激しくうけてしまう。こういう時につり革ってのは、とっても不便だ。揺れるたびに握力が失われていく、あ〜あ、立っているのも大変だよなって思ったときだった。つり革を握り締めていた手が滑ってしまった。危ないと思うまもなく、僕は彼女の上に倒れこんでいった。

ちょっとだが僕は意識を失っていた。徐々に意識が取り戻されると停車駅を知らせるアナウンスが遠くから聞こえてきた。そして、どこかに座っている感覚が伝わってきた。倒れる前とは違った感覚はほかにも感じていた。目を開いてみると向かいのガラスにさっきまで僕の前に座っていた彼女の姿があった。隣に座っているのか?と思ってみたが、横を見るだけで、長くしなやかな髪が僕の頬に当たる。そして、僕の姿はどこにも見当たらなかった。

そんなことをしている間に電車は次の駅で止まっていた。そして、すべての乗客がここを降りていく。終点駅に着いた僕はとにかく何もわからないままに乗車した時と同じカードで改札を通過した・・・・・・


(終わり)





 

本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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