幼馴染が人質に(前編)

作:マロエ






「だいちゃん、帰ろ〜」
ホームルームが終わり、教室がざわめき始めた頃。
僕の横の席に座る幼馴染、神岸美佳が声をかけて来た。

「おう、そうだな、今日は新聞部もないし、帰るか?」
僕こと――山岸大輔は、そう言ってノートを鞄にしまい、幾人かのクラメートに挨拶をし、美佳と並んで教室を出た。

いつもの帰り道を二人で歩く。幼馴染の美佳とは、こうやって新聞部のない日は、一緒に帰ったりしている。

「しかし、美佳……相変わらず背ちっちゃいな」
「むぅ〜! 失礼な! 今から伸びるんだよ!」
そんな笑い話をしながら隣りを歩く美佳。僕より頭一つ分背が低く、幼い顔立ちをしている。
髪の毛は栗色のショートで、くるくるとカールがかかっていて、優しい雰囲気が美佳によく似合っていた。
そんな見た目なだけに、制服を着てない時には、今だに「おじょうちゃん」と呼ばれる事があるらしい。
それは元気な美佳っぽくて僕はいいと思っているけど、本人はかなり気にしているみたいだった。

帰り道の途中、大きな公園――ここを抜けると家まではすぐだ。を歩いてる途中に、美佳が深刻な感じで話を振って来た。

「だいちゃん、新聞の事なんだけど……」
「うん?」
「あまり、評判よくないよ……」
うっ、それは最近気づいてきていた。
自分の能力を調子に乗って使い、自作自演でスクープを取り続けてきたからだ。
僕の能力、それは他人に憑依することができること。
乗り移ってる間の記憶はないみたいだから、本人は覚えてないんだろうけど、本人が覚えてない事が写真に取られたりしているんだ。うす気味悪いだろう。
初めは話題性で盛り上がったけれど、最近は偽造新聞じゃないかと噂され始めてきていた。

「わかってる……だから最近、新聞書いてないんだ……ちょっと調子に乗りすぎたと、反省している……」
「うん、それにだいちゃんは、あんなニュースより、もっと楽しいニュース……ひゃぁ…ぅぅっ!」
話の途中で急に美佳が背中を丸めて苦しみ出した。

「み、美佳……?ど、どうした?」
「だ、だいちゃ……ん……わからない……体が……急……に、あぁ……あはぁ……ぅっ……」
「美佳!?美佳!?どうした!」
僕は美佳の肩を支え、必死に呼びかける。
丸まっていた背中が急にピンって伸びて、

「あはぁあっっ!!……っっっ!」
苦しそうな呻き声を上げ、体を硬直させてしまった……。
時々、体がピクピクと痙攣している。
この症状……まさか……まさか……っ!!
顔は空を向いていて、表情はどこか虚ろで口は半開きになっている。
……まさか!僕は最悪の事態を想像した。
思わず、一歩後ろに下がった時、美佳の口が半開きのままニヤっと歪んで僕を見た。そして、

「だいちゃん、私、乗り移られちゃったよ!」
と、美佳の小さな唇から、元気な声で、最悪の台詞を放ったのだった。


「み、美佳……そ、そんな……っ! は、早く美佳の体から出て行けよっ!」
僕は強がり凄んでみせる。
そんな僕の強がりをニヤニヤした顔でやり過ごし、美佳の小さな人差し指で僕の胸をツンと突くと、

「お前、わかってるのか?わかってるよな、今やこの体は俺のものなんだってこと、お前ならわかってるよなぁ〜? あははは!」
美佳の顔でそんな風に笑うなと、怒鳴りたくなるのを必死に堪えて、問いかける。

「っ……な、なにが望みなんだよ? 早く言え」
「お〜お〜、さすが、だいちゃん、話が早くて助かるよ」
「いいから、早く言えよ!?」
「あまり、大きな声出さないで……美佳怖い」
「ぅ……」
乗り移られてるとわかっていても、ずっと一緒にいた幼馴染の美佳が、そんな震える声を出せば、僕はもう何も出来なくなってしまう。

「っぷぷ、あはは、だいちゃん、かわいいなぁ、とりあえずそこの椅子に座ろうぜ? な?」
公園の隅にあるベンチに顔を向ける。

「わかったよ……」
僕は頷くことしかできなかった。


美佳は「どっこいしょ」と言いながら、どかっベンチに腰掛けた。スカートに皺がつくのも気にしない座り方で、足も大きく開いてる。
スカートから覗く、健康的な太ももにどうしても目がいってしまうので、それを誤魔化すように注意し、隣に腰掛ける。

「お、おい、美佳はそんな座り方しない……」
「うるさいなぁ〜、今は俺が美佳なんだから、俺の好きなように座らせろよ? あんまりうるさいと、私、胸を揉みたくなるの?だいちゃん知ってた?」
後半はわざと美佳っぽく話して、両手をそっと小さな胸へと運び、僕を見る。

「美佳に手をだすな!」
僕はその細い腕を突かんで胸から離す。

「痛い、だいちゃん……」
「あ、ごめん……」
顔をしかめながらそんなこと言う美佳に、僕は反射的に謝ってしまった。
やられたと思い顔を上げると、案の定美佳はニヤニヤしながら僕を見ていた。
これ以上、美佳で変な事をしてほしくない。僕は怒りを抑えて話の続きを促す事にした。

「……それで、何が目的で美佳に乗り移ったんだ?」
「あぁ、実はお前に話があってな、俺と同じ能力が使えるお前に」
「話なら、別に美佳に乗り移らなくてもいいんじゃないか?」
「ふふふ、まぁそうなんだけどな、保険だよ、保険。俺の話を聞いて断れないようにするためのさ」
「それは、話というか……脅迫だな」
「あはははは、まぁそうだな、でも、お前もいろんな女でいろいろとしてきたんだろう? いいじゃねーか、この前だってお前トイレで先生を……」
「……それで! 僕は何をすればいいんだ?」
無駄話はしない、相手の話を打ち切り、早く用件を聞いて美佳から出て行ってもらう。

「ふふ、俺はな、あきあきしてたんだよ。確かにこうやって憑依してしまえば、全てこっちの思い通りになる。でもそれじゃダメなんだ」
「どういうことだ?」
「俺は俺自身の体で、目の前の女を思い通りにしたいんだ」
「なるほど、それで?」
テンポよく相槌を打つことによって相手に話を気持ちよく続けてもらう。これは新聞部の基本だ。

「俺の言う相手にお前が乗り移って、俺の言うことに従ってもらおうってわけさ」
「なるほど……つまり僕が女の子に乗り移ってお前の命令に従えばいいんだな。断れば……美佳がどうなるかわからないって事か……」
「理解が早いな。そうだな、断れば、とりあえずこの子にはパンツ丸出しで学校まで逆戻りしてもらおうかな?」
スカートの裾に手をかけ、ゆっくり持ち上げながら、そんな事を言う。
足が開いた状態でそんな事したら、白い太ももの半分以上が目に入ってしまう。前を歩く人がいれば、スカートの中身が見えてしまっているかもしれない。

「わ、わかったから、やめろ!」
「……まずは敬語で話してもらおうかな?やめてくださいだろ?」
スカートが大きく捲りあげながらひらひらとスカートを揺らす。太ももがあらわになり、一瞬太ももの付け根に、白い布が見えたような気がした。

「やめてください!!」
「よし」
パっと手を放すと、スカートはふわっと一瞬ふくらんで、その綺麗な太ももを隠した。

「それで、僕は誰に乗り移ればいいんだ?……いいんですか?」
悔しさを抑えて美佳に問いかける。くっ、美佳……。もうちょっと待っててくれよ。なるべく早く体、取り返すからな。

「生徒会長。3年2組の黒川美野里に乗り移って俺に告白してもらいたい」
「……会長か」
確かにいいプロポーションをしているし、美人な人だ。昔一度乗り移ってオナニーしたことがある。

「そして、俺は自分の体で会長を犯したい。今までは乗り移ってもオナニーくらいしかしてなかったからな、男に犯されるなんてまっぴらごめんだ」
手を広げ、やれやれのポーズ。だから美香の体で、変な動きをしないでほしい。

「そこで、お前は生徒会長になりきって、俺に告白してもらう、彼女っていうのを作ってみたいんだ」
なんと自分勝手な言い分だろう……。まぁ、僕もいろんな人に憑依してるから、あまり強くは言えないけれど……。
とりあえずまだ出来そうな内容だった。僕も男に犯されるのは嫌だけど、美佳のためだ。
生徒会長には悪いが、こいつの言うことを聞くしかないし、体を貸してもらおう。

「わかった。そのかわり、もう美佳には入らないでくれ……ください」
「ん?まさかお前この女の事好きなのか?」
ニヤニヤして聞いてくる美佳。そんな顔は見たくない。

「どうでもいいだろ。そんなことは」
そっぽを向きながら答える。すると、また美佳の振りをして聞いてきた。

「まさか、私に憑依したことないの?だいちゃん?」
「いいんだよ!美佳には乗り移らないって決めてるんだ!用が済んだんだからもういいだろう」
知らない男が幼馴染の体を操ってると考えるだけで、新聞部で培った、いつでも冷静に行動する。ということが出来なくなる。

「……ふん、まぁいいけどさ。じゃあ明日の放課後、お前は会長に乗り移って、屋上にきてくれ! もしこなかったら、この女は……」
小さな手がスカートの上から股間に添えられる。中指を少し立てる。恐らく割れ目を指しているのだろう。

「やめろ!わかってるから!行くに決まってるだろう!」
「さっきから敬語忘れてるぞ」
中指が少し奥へとめり込む。
幼馴染の美佳が公園のベンチに大きく足を開いて座り、自分の股間を刺している姿は、もはや別人みたいに見えた。

「行きますから、美佳の体から出て行ってください……」
「はぁい〜、だいちゃん、絶対来てね。じゃないと私、全裸で走りまわっちゃいそうだから」
「っな!?」
「あははは、変な顔してんじゃねーよ、情けないなぁ、だいちゃん!それじゃ俺は出て行くよ、明日な!」
股間から手をどけると、美佳はピクンピクンと震えだし、全身に一瞬力が入ったかと思うと、首が後ろに倒れベンチにもたれ掛かった。
美佳は完全に力を失い、気を失ってしまったみたいだった。
僕は美佳の開いた足を閉じ、スカートを整えてやりながら、あたりを見回す。空中にまだいるだろう、あいつの事を睨み付けるように。

しばらくすると、美佳は目を覚ました。

「え、あれ? 私……」
キョロキョロと辺りを見回しながら困惑してる美佳に僕は、

「あ、目が覚めた? 急に貧血で倒れちゃったんだよ? だから、このベンチで休んでたんだ、貧血って怖いね。でも、もう大丈夫だと思うよ」
早口で説明する。

「そ、そうなんだ……ごめんね、だいちゃん……迷惑かけちゃって」
「ううん、気にしない、倒れてたのもほんの少しだから、大丈夫だよ」
「そうなんだ、ありがとう……」
まだ、どこか元気がない美佳を慰めるように僕は明るく振舞って、

「歩ける?もう少し休憩していく?あ、ジュースでも買うか!たまには奢ってやるよ」
「え、あ、悪いよ……」
「いいんだよ!だから元気だせって!僕が奢るなんて滅多にないんだからな」
ジュース一本で元気だせって言う僕も僕だけど、

「……ありがとう!うん、元気、元気!」
それで元気になる美佳は単純だ。うん、単純だ。本当に……。
……ありがとう美佳。……絶対守ってやるからな。
僕はそう心に誓い、二人でジュースを飲みながら帰路についた。










 あとがき 
すいません。長くなりそうだったので、前編と後編にわけてしまいました(^^;
そしてその勢い(?)に乗って、あとがきとかチョットだけ書いちゃいます!
私は男子高出身で可愛い幼馴染なんていなかったので、この話はもちろん全て妄想で、憧れで、願望で、フィクションです。
いつか、私の能力が目覚めて、ノンフィクションになれば!!と考えた回数は……もうわかりません。

……それはさておき、後編は生徒会長が乗り移られます。
幼馴染を守るために、会長の体を使う。一番の被害者は誰なんでしょう……。
それでは(^^)
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