たましいぬきとり

作:jpeg


 「限定絶品スイーツだって!欲し〜い!ねえ、買って買って買ってぇ〜!」
大人っぽい美女が、子供のように手脚をじたばたさせ、駄々をこねつつ、自分のさいふから金を出し、店員に渡しながら、
「わあい!おごってくれてありがとう!あなたってほぉんとにやさしくて、好き!好き!だぁい好き!あたしをなんでも好きにしていいのよ!」
店員に向かってそう言う美女を、店員はけげんな目でみていた。

休日の巨大なホームセンター。

いま俺は、さっき初めてすれちがった女とラブラブデートを楽しんでいる。
俺を汚物をみるような目でチラ見していった女。このホームセンターのどっかのアパレルの店員だ。
首から下げた社員証に、「大本由香里」と書いてある。
由香里が、いまは必要以上に俺に腕をからめ、体を密着して、人前でキスをせがんだり、甘ったるい声で「ねぇん、あたし我慢できなぁい、ここでおっぱいさわってぇん♪はやくセックスしたぁい♪抱き合って、脚でしっかりあなたにつかまって、中にいっぱい出してもらって、赤ちゃん妊娠したぁい♪」
などと言ってくる。

周りの人はぎょっとした顔をしつつも、美女のエッチな言動を気にしながら、俺をうらやましそうにチラ見していく。
俺はわざと見せつけるように、由香里のボリュームたっぷりの胸を遠慮なくもみしだく。
由香里は大口をあけて嬌声を発する。
唾液が歯と舌の間で糸をひいている。

だが、よくよく由香里を見てみると、笑顔の目が、まるでガラス玉のように無機質だ。

実はこの女、俺にたましいを抜き取られているのだ。

 俺には不思議な力がある。
他人のたましいを抜き取って、その人間の中身と言うのか、意志や思考をからっぽにする力だ。
俺にたましいを抜き取られている間、その人の体はぬけがらになっている。
その人の形をしている単なる肉のかたまりだ。

「いまから受けとる電波は自分の意志だから、その通りに体を動かさなければならない」
と念じながら電波を送ると、相手の体を、まるでラジコンのように自由に操縦できるのだ。

いま由香里の体は脱け殻の空っぽ。
自我がないのだから、俺の操縦電波で、どんな無意味な命令や、屈辱的な指示にも、疑いひとつ持てずに即座に従う。

由香里をひとりで立たせて、俺は離れた場所からいろいろな変顔を命じた。
俺が送る電波のとおりに、由香里は整った顔をさまざまにくずし、ひん曲げ、ゆがめていく。
目も口も鼻の穴も限界まで開き、両手の人差し指を鼻の両穴に突っ込んでほじりまわし、きれいにネイルした指についたネバネバをおいしそうにしゃぶる。
あんなにデコレートした爪で鼻の穴をぐりぐりしたら、鼻の中は傷だらけだろうなー。
ま、俺が痛いわけじゃないからぜんぜんいいんだけどね!

ほかにも様々な芸をさせ、もともと大人っぽく、つんと澄ました顔立ちの女だけに、ギャップがなおさらおかしく、俺は離れた場所から腹をかかえて笑ってしまった。

距離が離れると、電波が弱くなって、俺が命じたとおりに動きにくくなる。
電波を送ってもぼんやり立っていたり、動いたり止まったりを繰り返したり。
本当にラジコンを操作してる感覚だ。
なので俺は由香里をラジコンと同じように走らせてみることにした。

「ブロロロ〜ン!ブオ〜ン」
由香里は口でエンジン音を言い(ま、俺が考えているのだが)
「キーン!!由香里号、発信!!」
両手を水平に、昔の漫画の「キーン」のポーズで、がに股でドタバタとデッキの上を走りはじめた。
ヒールが木の床に激しく当たってゴツゴツ鳴る。
この距離からでは微妙に電波がとどきにくいのだろう。
ときどき、いきなりピタッと止まったりしながらも、由香里は走り続けている。
やはり見た目通り、普段運動などしないのだろう。
由香里は足首を捻り、ゴキッといい音がしたが、俺が痛いわけではないので、由香里は変わらないスピードでキーンで走り続けている。
息があがって、顔が異常に赤くなり、滝のような汗が吹き出てきたが、俺の送った電波の指示に従い、由香里は笑顔を保っている。

由香里を走り回らせるのにも飽きた俺は、
「汗だくだからお風呂に入らないと!」
由香里はどこにも焦点の合っていない目で、満面の笑顔でそう言うと
「あたし、服を着たままお風呂に入るのだ〜いすき♪」
と言いながら、ドブにザバザバと入っていく。
「お風呂掃除♪お風呂掃除♪楽しいな〜♪」由香里は素手でドブさらいをはじめた。
タイトなワンピースミニのスカートが完全にまくれ上がり、パンツが丸見えになっている。

ドブはかなりきたなく、そばに立っているだけで臭いのだが、由香里はまったく躊躇することなく、ザブザブと手をつっこみ汚泥をさらい続けている。
なめらかな白い肌も、高そうな服も汚れまくりだ。
たしかあの服、外国の皇太子妃もお気に入りのブランドで、日本ではめったに手に入らないんじゃなかったかな〜?
ま、俺には関係ないけどね!

「あーあ!由香里は運動したら喉渇いちゃった♪」
由香里はドブ水を手ですくい、がぶ飲みをはじめた。

俺が電波を止めるまで
「あーあ!由香里は運動したら喉渇いちゃった♪」
とまったく同じせりふを何度も繰り返し、由香里はドブ水を飲み続け、いまや腹がパンパンにふくれている。

「あ〜、お風呂気持ちよかった!♪」
ドブから這い上がらせ、ベタベタの服で、歩くとグチュグチュ鳴るヒールを穿いたまま、俺は大勢の見物人の前で、汚れた由香里にさまざまなポーズをとらせ、ゆっくりとデジカメで百枚以上の写真を撮影した。

「こいつのたましい、いま俺の心の中に閉じ込めてあるけど、どうしようかな…、別に戻してやっても消しても、どっちでもいいんだけどなあ…

消すか」

俺は由香里のたましいを削除した。
これでこの女の体は、俺が操縦しない限り、思考能力も感情もゼロ、一生脱け殻だ。

俺が最後に命じた、笑顔でスカートをまくりあげたポーズのまま立っている由香里をほったらかしに、俺はその場をあとにした。










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