「どきどき表裏不同」


原作:U.K.A(2005年10月15日初公開)
韓国語翻訳:夏目彩香
登場人物:
ソン・ジフン  :主人公が以前勤めていた会社で友達の間柄
イ・ジヨン   :ソン・ジフンの妻
ソン・エリム  :ソン・ジフンの娘でソウルの某大学1年
ソン・エナ   :ソン・ジフンの末娘でソウルの某女子高校1年
シン・ドンソク :主人公の友達


「こんなことって!」
「これが俺なのか?」
俺は鏡に映っている姿を信じることができなかった。なぜなら、鏡には小さくてか弱いあの少女が映っていたからだ。俺の前にあるのは確かに鏡に違いないし、鏡の前にいるのはこの俺だというのに、そこに映っているのは全く別な物だった。
本当は醜い中年太りの姿が映るはずだったのに、鏡には不思議なことに可愛らしい少女が映っていたのだ。ゆっくりと目を開けて鏡を見ると、白くてスリムな体が俺の目の前に立っていた。


スキン型全身タイツを初めて見た時は、できそこないのダイビングスーツかと思った。実際のところダイビングスーツに似ていて、顔の部分が無くて全身に被せるようになっているところは全く同じだった。しかし、それはダイビングスーツとは言い難かった。なぜなら完全に人の皮膚と同じ色をしていて、まさに人間の皮を剥いだようなものだった。その上、その形が女性の裸を現しているのだ。胸の膨らみ具合はもちろん、股の間には女性器までしっかりとリアルにつくられていた。
そして本当に驚くべきことは、それだけでは無かった。全身タイツには中にパッドがついていて、装着してみると女性のボディーラインになるだけではなく、首の下から足のつま先まで完全に女性の姿へと変化してしまったのだ。その上、180cmを超えていた背の高さもこの全身タイツによって165cmまで縮められてしまった。俺は今の自分の姿を見て、開いた口が塞がらなくなっていた。
「何をそんなに驚いているんだ? これからはその体にぴったりと合う顔に変えてやるよ、ククク……」
ドンソクはくす笑いをしながら俺のそばに近づいて来た。彼の手を見ると女性の顔のように見えるマスクを持っていた。そのマスクもやはり全身タイツのようにリアルなもので、どこかで見たことのある顔が再現されているようだった。
「ドンソク。その顔ってまさか!?」
「この顔? そう、その通りだって。フフフ……」
その顔は俺の友達のジフンの娘、エナの顔に間違いなかった。ジフンとは俺の前の職場で一緒に働いたことのある友人だった。ついこの前連絡があって奴の家に行ったのだが、その時に会った奴の妻はとても若くてきれいで、羨むほどだった。実のところ、奴の妻はそんなに若くはないのだろうが、幼く見えるために未婚だと言われれば十分通用するくらいだった。
しかし、俺の目線はジフンの妻では無く娘に注がれていた。ソウルの某芸術系女子高に通っていると聞いたが、本当にきれいな娘だった。塾の帰りだったので制服姿を見たのだが、俺の高校時代よりも洗練された制服だった。もちろん制服だけがきれいなのではなく、娘そのものも女子高生らしくスタイルが非常によかった。ダンス専攻と聞いたが、まるで子猫のように愛らしいところに俺の心臓は突き動かされてしまった。
実は、俺はきれいな女を見ると二通りの考えを持つようになっていた。一つは、他の男が考えるのと同じようにヤってみたいと思う気持ち、もう一つはその女性の体を奪い取ってしまいたいという気持ちだった。「奪い取りたい」というのは、その言葉通りその女性の身体全てを自分のものにしてしまいたいということだった。それは現実には不可能なことなのだが、ジフンの娘を見た時には、本当に奪い取ってしまいたいという衝動が湧き起こったのだ。


驚いて何も話せない状態でいる俺の顔に、ドンソクが注意深くマスクを被せている。奴の娘の顔を付け終わると、かつらも被せてくれた。
「待たせたな。それじゃあ、鏡を見てみるか?」
俺は震える手でドンソクが持っている手鏡を受け取った。鏡には、間違いなく少女そのものの顔が映っていた。透き通るような白い肌にくりくりした目の動き、可愛い顔の肉づきまで……それは間違い無く少女のものだった。どんな技術を使っているのか、マスクの境目さえも全く見えなかった。その上、マスクはエナの顔を毛穴までそのまま再現しているため、ものすごくリアルだった。よく見ると、鼻の下にはうっすらとうぶ毛も生えていた。
試しに顔を動かしてみた。口を開けば鏡の中の少女も口を開き、目を瞬くと瞬きをしていた。全ての動きが自然だった。若干、顔が突っ張っているような感じなのと、顔全体に違和感を感じてしまうことはあったが、鏡に映っている姿は本当にその少女みたいだった。いや、みたいどころでは無く、本当に少女そのものだった。誰もマスクを被っているとは思わないだろう。この顔は実在するエナという少女の顔なのだ。


「ほら、この服がお前によく似合うぞ」
俺はぼ〜っとしながらドンソクが持って来た服を受け取った。全身タイツを着る前には、こんなに小さな少女の服を着るとは予想すらしていなかった。しかし、今の俺にはこの服がぴったりと合うに違いなかった。俺はパンティーを手にとって着用しようとした。するとその中に縮れ毛があるのに気づいた。
「ドンソク、このパンティーって一体?」
「あぁ。これはさっきまで、エナが着ていた生パンだ」
「えっ、それってつまり、ここにある服は全て実際にエナが着ていたものを脱がして持って来たという事なのか?」
「これからはお前がエナなんだから、エナの服を着て何が悪い? そうじゃないのか? ハハハ」
俺には返す言葉が無かった。パンティーを身につけ、ブラジャーを胸につけた。ブラジャーが胸に触れている感じはしていなかったが、少し胸がだぶつくような感じがして、実際に俺の胸のようにも感じた。見下ろせばブラジャーに包まれた俺の胸のラインがとてもセクシーに見えた。この角度から女の胸を見るのは初めてのことだった。
その時、下腹部がだんだん熱くなっているのを感じた。多分、俺のモノが大きくなったのだろう。だが全身タイツで覆われている下腹部には何の変化もなかった。滑らかなその部分は、表から見る分には全くと言っていいほど目立った膨らみはなかった。内側に有る筈の、股のその部分を両手で押してみるが、全然わからない。滑らかにぴたっと下腹部を覆ったパンティーのラインはいくら見てもすっきりときれいだった。本当のエナもこうなのだろうかと俺は思った。
そうやって、俺はドンソクが持ってきた服を全部着てしまった。それはその日、エナが着ていた制服に違いない。まさか、俺がこの服を着るとは夢にも思わなかった。こんなに小さい服を俺が着ているなんて……しかし、この服はオーダーメードの服のように俺の体にぴったりだった。それは当たり前のことだ。今の俺の体は完璧にエナと全く同じものへと変わっていたのだから。
全部着てみたら、見れば見るほど本当に可愛かった。まるで韓国映画「ダンサーの純情」に出てくる女優のムン・グニョンのように……俺ははっと驚いた。俺の姿がこんなに可愛く見えてしまうなんて!?


少したってから、ドンソクが今日の計画について説明し始めた。それは「エナになった俺がエナの家に行って、家族たちにばれないようにひと晩を過ごして来る」という計画だった。簡単に言えば、普段エナがしている通りにすればいいと言うことだ。それは言葉では簡単なことなのだが、あまりにも無理のあるシチュエーションだった。中年男の俺に、高校に入ったばかりの少女に成りすましなさいというのは酷だ。俺にはやり遂げる自信が無かったので、やはりやめようかと躊躇した。
「どうしても嫌なのか?」
ドンソクはそう言いながら、俺の陰部に手を伸ばしてきた。
以前からエナというこの少女を見るたびに、本当にきれいで可愛いと思っていた。しかし、この子を見る度に感じる内容は変わっていった。エナよりもきれいで可愛い女達もたくさん見てきたが、エナを見る時だけ羨ましい感じがするのだ。
ある時、偶然に友達と一緒に話をしながら歩いていく彼女を見かけた事があるのだが、その時の印象では思ったよりも明るい娘では無いことがわかった。顔のみながらず身振りや話し方も思ったよりもかわいくは無かったのだが、それでも彼女の周辺環境は本当に羨ましい限りだった。

奪いたかった。
エナの全ての物を奪いたかった。
エナの可愛い姿を。
エナのかわいい服を。
エナの友達を。
エナの家族たちを。
エナの良い時間を。

今、この姿ならばその全てを奪うことができる。
本当のエナは拉致されて隣の部屋にいる。もしエナが2人家に帰れば大騒ぎになるだろうが、今の俺だけがこの姿で帰ったならどうだ。そうなれば誰もエナが拉致されたとは思わない。俺はごく自然にエナに成り代わることができるのだ。
「お前がエナの姿をしている間は、俺がここのエナはちゃんと見守ってやる。だから、お前がこれからは本当のエナってことで、フフフ……」
今、俺が身につけている姿をもう一度見てみることにした。そのスタイリッシュな制服はもちろんのこと、ネックレス、イヤリング、更にはあの子が目につけていたサークルレンズさえも俺の目についていた。そのエナの全ての所有品は、今の俺にこそ似合っていた。今朝見たエナと、今の俺は少しも違う姿をしていなかった。


電車に乗った。エナが前の日に乗ったのと同じ時間、同じ路線の電車に乗った。ここにいる人たちの中には、昨日までの俺のようにいつもエナに視線を注いでいた人もいるのではないだろうか? その人たちは、果たして昨日のエナと今のエナとを区別することができるんだろうか?
揺れ動く電車の窓に人々の顔が映っている。その間に目立つように可愛らしい顔が一つあった。その顔はエナの顔だ。そのエナの顔が今の俺の顔だった。長く伸びた髪のせいか、そうでなくても小さな顔が更に小さく見えた。この前まで大きな岩顔だと呼ばれていたこともあったが、今ではこんなにも小さな顔をしている。
目を降ろして下を見てみた。膝が見えるくらいの短めのスカートの下から滑らかな太ももが覗く。その下には黒いローファーをはいた足。それこそ健康的かつお淑やかそのものだった。この目で見てもこんなに可愛い姿なのだ。どう見ても、とびきり可愛い女子高生にしか見えないだろう。
試しに、近くに立っていたエナと同じ年齢の女子高生にわざと体を密着させてみた。しかし、その女子高生は全然変に思っていないようだ。更に腕をその女子高生の腕にしきりにぶつけてみた。それでも彼女は変に思った様子もない。前にもこんな行動をしたことがあったが、その時には女性は腕を抜き、最後には逃げて行ってしまった。しかし、横にいる女子高生は全然そんな気配すらしない。
少し経って、席が空くと椅子に座った。この時、短いスカートを穿いている他の女性と同じように両膝を揃えることも忘れなかった。肩にかけていたカバンはおとなしく膝の上に載せた。何事もなさげに膝の上に載せたりしたが、このかばんは実際には俺のカバンではない。しかし、今は誰が見てもこれはエナである俺のカバンだった。なぜなら、このカバンの中にはエナの学生証が入っていて、そこに貼られた写真と今の俺の顔は一致するからだ。今、このカバンを置き忘れたとしたら、このカバンは俺の元へと返ってくるはずだ。このカバン一つからさえも、今の俺はエナなんだと囁かれているかのように思えた。
だんだんと気持ちが落ち着いて来たところで、プラットホームから降りるとトイレを探した。そして駅中でトイレを見つけると、むずむずとしながら女子トイレに入った。中に入ると、3、4人の女性たちがトイレの扉の前で一列になって並んでいた。そっと、その後に並んでも誰も変に思うことはなかった。いや、今はこの女性の間に並んでいることの方が自然なことなのだ。

誰も俺を男だと思っていなかった。男の姿では気合いを入れて女装をしても、女性の間に割り込むほどの勇気はなかったはずだ。いくら気を遣って女装をしても、完璧な女になることはできないからだ。しかし、今の俺は中身は男であっても見かけはどうみても完璧に美少女だった。そして、家に帰れば自分の娘だと思ってくれる両親がいる。学校に行けば俺を親友と思う女友達だっている。
そう、今の俺はどこにでもいる、ごく当たり前な女子高生なのだ。
胸がドキドキしていた。もし、ここで「俺は男だ」と叫んでも誰が信じるだろう。俺の見た目は完全にソン・エナという少女の姿そのままだって言うのに……。


駅を出てエナの家の近くまでやって来た。今までは知らない人たちの中に紛れていたが、ここからは違う。誰よりもエナをよく知る家族たちの間に入らなくてはならないのだ。果たして成功するんだろうか?
これまでに2回ほど中に入ったことがある分多少は知っている家といっても、所詮他人の家であり、不慣れな家だ。それに以前はお客さんとして入ったが、今はその家の家族の一人として入って行くのだ。そこには天と地ほどの差がある。あの時、俺の目の前ではにかむように微笑んでくれた少女の姿となって、その家に入ろうとしているのだ。
本当にジフンとジヨンさんの前でしっかりとエナになりきることができるのだろうか。彼らはとても仲睦まじい感じのする一家なのだ。その中に俺が入りこんで行くのだ。
ますます胸がドキドキし始めた。胸に手を当てて気持ちを整えようとしても、手の平からは妙な感覚を感じていた。
「エナ、そこで何をしてるの?」
「えっ」
突然後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると目の前にはエナ?が立っていた。
「エナ?」
「エナ、どうしたの?」
ふと、エナにはエリムという名前の姉が一人いるとドンソクから聞いた事を思い出した。
「もしかして、ソン・エリムさんですか?」
「エナったら、なんか変だね。 さんって何よ、さんって」
「ううん、ええっと、何でもないの。 しばらく考え事をしながら歩いていたから。お姉ちゃんは今帰って来たところ?」
「エナ、これからどこに行くつもりだって言うの?」
「家に帰るところだよ」
「今日はだいぶ遅くなったのね。何でこんなに遅くなったのかしら?」
「うん。友達と会って話して来たから」
「ふ〜ん」
とってもびっくりした。まさかここでエナのお姉さんに会うことになるとは思ってもいなかった。しかし、一緒に家に帰るというのは、一人で入るよりもましな気がした。


「ただいまぁ」
玄関の扉が開くと、30代前半と思われる女性の顔が見えた。この女性がエナの母親のようだった。俺はエナの小さな靴を脱いで居間へ入った。
「早く入って来なさい。あななたち、今日は二人一緒に帰って来たのね?」
「エナとは家の前で会ったんだ。でもね、エナったら家の前でいつもと違う感じでさぁ」
「そうなの? エナ、何かあったの?」
エナの母親が心配そうな目で俺を見つめた。胸がドキッとした。だが、この人はエナの母親だ。今の俺は、この女性の可愛らしい娘だ。何も言わずにいれば疑われてしまうかも知れない。いや、自信を持て。この女性にだって今の俺は自分の娘にしか見えないはずだ。
「何でもないよ。お姉ちゃんが意味もなく変に思ってるだけ」
「だってさっき、ほんとに変だったんだからさぁ」
「本当に、何でもなさそうね。二人とも早く部屋に行って着替えて来なさい。夕食の準備をしちゃうから」
「はい」
母親に返事すると、エリムは自分の部屋に向かった。俺はエリムについて行きながら、もしエナがエリムと同じ部屋を一緒に使っていたらどうしようかと思っていた。しかし、幸いにも2人の部屋は別だった。エリムの部屋の隣の扉に「エナの部屋」というネームプレートが飾られていた。


ドアノブを開けて部屋の中に入った。俺は音がしないように優しく扉を閉めると、まずエナの部屋をぐるっと眺めた。最初に目に入って来たのは、部屋の真ん中にある小ぶりなピンクのテーブルだった。その上には小さな鏡と簡単な化粧品が置かれている。そして、ベッドの枕元には大きな熊のぬいぐるみが一つ置かれていた。その横の小さなタンスの上には、写真立てと一緒に小さな人形がぎっしりと置いてあった。本棚には高校の教科書とともにファッション雑誌がたくさん並んでいた。全体的にパステル調で統一された雰囲気は、まさに女の子の部屋そのものだった。
生まれて初めて入った女の子の部屋。前にここに来た時に入ってみたくてたまらなかったが、どうしても入ることのできなかった部屋だった。しかし、今ではこの部屋は俺の部屋なのだ。そして今の俺はこの部屋に相応しい姿をしている。
ベッドの枕元に座り、熊のぬいぐるみを胸に抱いてみた。ぬいぐるみからいい香りが漂った。ふと、壁にかかっている額縁の中の写真に目をやる。そこには、この熊のぬいぐるみを抱いて笑っているエナの写真が飾られていた。俺はその写真と全く同じ人形を胸の右側に抱いて鏡を見た。それは写真と全く同じ格好だった。このまま写真を撮って額縁の写真とすり替えてもわからないだろう。
部屋中あちこちにエナの写真が飾られている。今、俺の顔に被さっているエナの顔。この顔のおかげで俺と何の関係もない女の子の部屋に入ることができた。今の俺は、この中で自由気ままに本を取り出したり、タンスを開いたりできるのだ。全部俺のものだ。誰が見ても他人の物に触っているなどとは思わないだろう。
思えば思うほど驚くことばかりだ。だってそうだろう。得体の知れない男が自分の娘の部屋に侵入しているにも関わらず、誰からも変に思われない。俺はただ単に外見がエナのようなだけだ。ところが、ここの家族はエナに与えるのと全く同じ愛情を俺に向けてくれる。もしも今、ここでこの変装を脱いだとしたらどんなことが起こるだろうか? この部屋に入っているのが、エナの皮をかぶった見知らぬ男だと知ったとしたら。
本当のエナはドンソクに拉致されている。しかし、ここの家族たちは何事もなかったようにいつもと同じ時を過ごしている。今、俺が急に消えたら、家族達はエナを探すだろう。でも俺がここにこのままずっといたら、家族たちはエナを探すはずがないのだ。そう思った時、俺はエナの全てのものが手に入ったということを実感した。
隣の部屋のドアが開く音がした。そろそろ着替えをしなければならない。俺はタンスを開けて半ズボンといつもの部屋着を取り出した。着ていた服は脱いでハンガーにかけた。この時なぜかパンティーが少し濡れていたのに気がついた。何もない平べったい股の間は何度見ても不思議だった。
「エナ。まだなの?」
「はい、すぐに行きます」
母親が急き立てる声が聞こえた。しばらくして台所に行くと、エリムと一緒にご飯を食べた。食事をしながらちらちらとエナの母親を見た。本当の俺よりも2歳から5歳位若いのだろうか。だが彼女はおばさん体型ではなく立派なプロポーションを維持していた。少々気をつけるだけでは、人妻なのかそうではないのか区別できないほどだ。もし、実際に外でこの女性に会ったら、つい誘ってしまうかもしれない。
しかし、今の俺はこの女性の可愛らしい娘。この女性は、俺が自分のお腹の中から産まれた娘だと思っている。エナの母親は俺の正体を疑いもしなかった。正体どころか俺の性別さえも疑っていない。目の前の自分の産んだ娘は、実は男が変装している姿なのだということに全く気がつくことがなかった。実は自分の夫の友達の男が娘のふりをしているというその事実を、この女性は全くわかっていなかった。ついこの間、夫と一緒に来た男だというのに。

食事が終わるとエリムは自分の部屋にさっさと入ってしまった。俺は普段エナがしていた通り、残って皿洗いを始めた。エナの母親はそんな俺の姿を後ろから見ていたが、やがて居間に入ろうとしていた。
「あ、ママ」
「なあに?」
「私の顔って、今日の私って少し変じゃない?」
ママはやれやれといった表情で俺の顔をじっと見つめている。俺の胸が再びドキドキし始めていた。
「いいえ。いつもと変わらないけど、どうかしたの?」
そう言いながらエナの母親は俺に近づくと、軽く俺の頭を撫でた。俺はそんなエナの母親を見上げて抱きしめた。
「ママ、愛してる」
「ママもエナを愛してるわ」
抱きしめた瞬間、俺は左手でエナの母親の柔らかいおっぱいを触っていた。俺は軽くエナの母親のおっぱいをいじったが、全然気づかなかった。エナの母親のおっぱいはとってもやわらかかった。前に来た時はエナの母親の胸に惹かれて一度触って見たいと思っていた。それがようやくここでエナの母親の胸を触れたのだ。
「ふう〜」
エナの部屋に戻ると、俺は軽くため息をついた。だが、ため息はやがてくすくす笑いに変わった。ママの名前はイ・ミヨン。俺はミヨンさんに娘として愛情表現してみた。そんな俺を彼女は本当に可愛い娘のものとして受け入れた。本当は目の前にいたのは自分よりも年上の男なのに、彼女は自分の娘に接するように俺に接した。そうだ、俺は俺よりも年下の女性に彼女の娘として甘えたのだ。本当に笑わずにはいられなかった。俺はその時、エナの全てのものを独り占めにした事を実感していた。

ドレッサーの扉を開いた。中にぎっしりと飾られているエナの服、この服はもう全部俺のものだ。その中から一着のかわいらしいワンピースを取り出した。
女ものの服ってどうしてこんなに小さいんだろう。以前の俺ならこんな服を着るなんて無理な話だった。もしも無理矢理着ようとすれば、ハルクのように服がちぎれて破れてしまうに違いない。しかし、今ではぴったりとこのワンピースを着ることができるのだ。

だってこの服の持ち主はわたしなのだから。




*この作品の掲載にあたり、夏目彩香さんの翻訳をtoshi9が推敲させていただきました(2014.4.5)

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