「どきどき表裏不同《Ver.2》」
(この作品を怪人福助氏に捧ぐ)


1.持ち主のいないカバン
   作:貴人福助
   日本語訳:toshi9、夏目彩香


私は昨年までソウルで模範タクシー(訳注:黒い車体で普通のタクシーよりもサービス水準や料金が高い)の運転手だった。だが、ある日起きた思いがけない出来事を境に、私の人生は完全に変わってしまった。
これから皆さんに、そのお話をしよう。

それは昨年のちょうど今頃だっただろうか。
その日も今日のように天気が悪い、冷たい春雨が一日中降り続く、肌寒い日だった。
そして、その日は客が本当に少なかった。
乗せた客は5人にも満たず、その中の半分は基本料金で降りてしまう客だった。
勿論お客さんが少ない日は時々あるが、これほど客が少ないのは初めてだった。

夜も10時になった頃、そろそろ帰ろうかと思いながら江南(カンナム)のビル街を走っていると、こちらに向かって手を振っている客が目に入った。
そこはソウルの大型コンベンションセンター、コエックス(COEX)の近くだった。

車を止めると、年のころは20代半ばくらいだろうか、美しい女性が真っ赤なキャリーバッグを持って立っていた。
行き先を尋ねると、目的地はここから20分ほどかかる明逸洞(ミョンイルドン)だと言う。
今日の営業を終わらせようとしていた矢先の偶然だ。その客を車に乗せた私は、少しばかりの幸運を感じながら、うきうきと車を発車した。

車を走らせながら、私は信号で車を止めるたびにバックミラーで後に座った女をちらちらと見た。鏡に顔は映らなかったが、アプリコットワンピースを着たその女性はとてもスタイルがいい。
海外旅行の帰りなのだろうか。カバンを座席に載せる時、カバン取っ手には航空会社のクレームタグらしいものがついていた。


私は運転しながら、彼女と色々な話を交わした。
今となっては、彼女と何を話をしたのか、その全部を思い出すことはできない。だが彼女が座席に乗り込む際に、彼女からうっとりするようなかぐわしい香りが漂ってきたことだけは、まだ明確に覚えている。そして、その香りをかいだ瞬間、私の心臓が突然高鳴ったことも。

しかも、彼女の声は男なら一度聞いたら忘れられないような、本当にかわいらしいものだった。あんな声の女性なら、多分顔立ちが多少気に入らなくてもそれを補って余りある、それほど魅力的な声だった。

頭を私の耳元に寄せ、あたかもささやくように話をされると、私の心は大いに揺れた。そして彼女のそんな声を耳元で聞きながら運転に集中するのは、率直に言って本当に難しかった。
それだけ彼女の声と彼女から漂ってくる香りには、男をうっとりさせる力があったのだ。


多分、私と彼女の会話は渋滞に関する話題から始まったと思う。
そして会話を始めてみると、私たちはあたかも恋人同士のように、時には笑ったりしながらしゃべり続けた。
久々に楽しいお客さんを乗せたことに、私は実に気分が良かった。
やがて、彼女はふとこういう話をし始めた。

「ある有名な……きっと名前を言えばあなたもすぐにわかる有名な女性の芸能人ですけど、彼女の中身って実は男なんですよ。分かります?」
「え? まさか...」
 私は笑いながら、まさかそんなことがあるものかと思った。
「本当ですよ。多分名前を聞けばびっくりするでしょうけど」
「ええ? それは気になりますね、誰のことですか? 教えてください」

だが彼女はけらけら笑いながら、それ以上のことは話さなかった 。
ただ、「もしかしたら、それは後でわかるかもしれないわ」と一言を付け加えただけだった。
少し変な話だったが、その時私はそのまま聞き流していた。
だが、後に私はその芸能人が誰なのかを知ることになった。そればかりか……いや、その話は後で改めてすることにしよう。
とにかくそんな話を聞いた後、彼女に少しおかしな印象を持ったのは事実だった。


それからしばらく車を走らせると、彼女の家の前に到着した。
彼女を降ろしたのは、かなり高級そうに見えるマンションだった。
彼女はタクシー料金として、私に10万ウォンと書かれている小切手を差し出した。
私は小切手を見て少し顔をしかめた。
お釣りの問題もあるが、それよりもこの小切手が後で問題を起こすのでないかと思ったからだ。
それが私の表情に表れていたのか、彼女は私の顔を見てにっこりと笑うと、小切手に一筆書いてくれた。
実際、時々小切手で料金を支払おうとするお客さんはいるのだが、そこまでするお客さんはあまりいない。
小切手には彼女の姿と似合う可愛い字体で、キム・スンヨンという名前と電話番号が書き込まれた。
それと共に「身分証も見せましょうか?」と言いながら、自分の住民登録証まで渡してくれた。
私は彼女の身分証を確認すると、彼女にお釣りを出そうとした。
だが、彼女は「チップにして」と言いながら、車を降りてしまった。
思わぬ臨時収入に、私は「ありがとうございます」と言うと、タクシーをまた走らせた。


しばらく走らせているうちに、私はふと彼女がキャリーバッグを持って降りなかったような気がしてきた。気になって道路脇に車を止め、後ろの席を調べると、やはり彼女のカバンはそこに置かれたままだった。
私は急いで引き返すと、彼女が降りたマンションに向かった。もし彼女がすでにマンションの中に入ってしまったらどうしようと思い、車を飛ばした。
そして彼女が降りた場所にタクシーを止めると、車から出た。
辺りを見回すと、幸いにも遠目にさっき車に乗せた女性客……アプリコットワンピースを着た女性の姿が目に飛び込んだ。

「お客さん〜!!!」
私は大声を張り上げて彼女を呼んだ。
私の声に、彼女は驚いた表情でこちらを向いた。
それは、さっきタクシーから降ろした女性に間違いなかった。
私はほっとしながら彼女に向かって話しかけた。
「お客さ〜ん、カバンを置き忘れてますよ」
ところが、彼女は私の話を聞いてもカバンを取りにこっちに来ようとしない。それどころか、にっこりと微笑みながら、とんでもないことを言う。
「あの、カバンなんて持っていませんでしたよ。すみません、私、急いでいますので」
そう言うと、彼女は矢のようにマンションの中に走り去ってしまったのだ。
残された私は、あっけにとられるばかりだった。


これが彼女のカバンではない...どういうことだ?
しばらくの間、呆然とその場に立っていたが、結局私は道路脇に止めていたタクシーに乗った。
運転手席に座った私は、体をひねって改めて後座席を見た。
そこには、赤いキャリーバッグが間違いなく置かれている。
そう、それは確かに彼女がコエックスで持ち込んだものだ。
その時のその姿をまだ鮮やかに記憶しているのに、彼女はこのカバンは自分のものではないと言ったのだ。
何故なのか、理由が全く分からなかった。
このカバンをどう処理するべきか私は悩んだが、ひとまず後ろの座席にあるキャリーバッグをトランクに移した。
私はいいかげん家に帰って休みたかった。そう、彼女を乗せる前から「もう帰ろう」と思いながら車を走らせていたのだから。


私は家の前に車を止めると、浴室に入ってシャワーを浴びた。
何故か今日は、いつもよりも体をきれいに洗いたくなった。
それで石鹸ではなくボディーソープを使い、全身隅々を神経を使ってきれいに磨いた。
ボディーソープのかぐわしい香りをかぐと、気分がちょっとほぐれるようだった。
すっきりした気分で浴室から出てくると、なぜか散らかっている自分の部屋が気になった。体がいいかげん疲れてはいたが、部屋を片付けてから寝ようと思い立った。
実際、以前部屋を掃除してからすでに一ヶ月が過ぎていたので、もうそろそろ掃除の必要な時なのかもしれない。

私はどんな事でも一度始めると最後まで終えなければ気が済まないタイプだ。一度掃除を始めると部屋の隅々まできちんと片付けながら進めていく。
私は机の上に散らばっている本と食器を片づけ、ホコリをはたいて、さらにはふき掃除までした。
台所に置きっ放しにしていた食器も全部洗い、食器棚の中の食器も全部整理し直した。

思い切ったことをしてしまったが、全てやり終えると私の部屋は女性が住んでいると言っても信じてもらえそうなほどにきれいになった。
本棚の本も正しく並べ替え、衣装ダンス内の服も見栄え良く整理した。
そして掃除が終わると、どうだとばかりの誇らしい気持ちになった。


気分がすっきりしたところで、私はタバコ一本吸う為に外に出た。
家の中を大掃除したために時間がかなり経っており、もうすでに明け方の3時を過ぎたところだ。
私はタバコを吸いながら、さっきの女性客が置いていったカバンの事を思い出していた。

私はタクシーに向かうと、トランクを開け、キャリーバッグを取り出した。
赤色のカバンの取っ手には、大韓航空とエールフランスのステッカーがついていた。
カバンはかなり重たかった。
こんな重たいカバンを女性が引っ張ってくるのはかなりの苦労だったろうと思いつつ、カバンを部屋の中に持ち込んだ私は、しばらく迷った後、思い切って開けてみた。
ひょっとしたら彼女の言葉通り、本当に他人のカバンなのかも知れないと、ふと思ったのだ。
カバンの中身を見れば、持ち主の手がかりを見つけることができるかも知れないとも思った。
決して私がこのカバンをもらってしまおうと思ってのことではない。


カバンを開けてみると、中はやはり女物の洋服でいっぱいだった。長期旅行用のカバンらしく、下着をはじめとして一切の服が入ってる。
そしてかなり高価に見えるカメラも一緒に入っていた。
ところが、中に入っているものを全部取り出してみると、おかしなものも多く入っていることに気がついた。

まず二つのビニール袋の中に、かつらが入っていた。
本当にかつらなのだろうかと思いながら袋を開いて取り出してみると、それは本当にかつらだった。あの女性、旅行をしながらどうしてかつらのようなものを持ち歩いていたんだろうと不思議な気がした。だが、よく調べてみると、そのかつらはちょっと変だった。普通のかつらとは比較できない程、精巧に作られたかつらなのだ。

昔、私には演劇をやっている友人がいて、小道具で使うかつらを見せてもらったことがあるが、このかつらはその時のかつらとは全く別物と言えるくらいよくできていた。
かつらの裏面を調べると、黒いネットも固定するピンも無い。そこは人の皮と全く同じように見える。つまり、あたかも女の頭皮を剥いだもののように見えて、ちょっと気味が悪かった。そしてかつらの生え際の部分には薄い膜がついていた。
どうやらこれは、ピンで固定する方式でなく直接皮膚に貼り付けるタイプのようだ。もしこんなかつらを使えば、きっと絶対に気づくことはないだろうと思える程、精巧な出来映えだった。

そして薬箱のようなものがいくつか出てきた。
ハングルで書かれているものは一つもなく、すべて外国語で書かれており、どんな薬なのか全く分からなかった。
カバンの中には、その他にも袋に入っているものがいくつか入っていた。
その中身が気になった私は、その好奇心をこらえることができなくなり、袋に入っている中身を全部出してみた。

一番分厚い袋の中から出たきたのは、皮膚と同じ色の全身水着だった。
いや、全体的な形は何年か前に水泳選手がよく着ていた水着と似ているのだが、それは絶対に水着と言えないものだった。
まず、その表面があたかも人の皮膚のように見える程リアルだということと、腕と足の部分には本当に人の手と足がついているのだ。
そして首と腰の間に穴が開いていた。
それはあたかも、首の部分だけが無い人の皮のように見える。

取り出して驚いた私は、びっくり仰天してそれを放り出してしまった。
とても気味が悪かった。
何故こんなものがここにあるのだろう。

私はカバン中の物を調べるのを止めた。
変なものがいっぱい出てくるので、それ以上調べるのが嫌になったのだ。
結局、カバンの中からは、持ち主が分かるようなものは出てこなかった。

タバコを吸いたくなった私は、再び外に出た。
タバコを吸いながら、私はカバンの中にあったカメラの事を考えた。
そう言えばカメラ本体だけでなく、パソコンケーブルもあったのを思い出したのだ。

部屋に戻った私は、カメラをパソコンに接続させてみた。カメラの中のメモリーを調べると、容量は128ギガあった。そして容量が大きいだけに、メモリーの中にはとても多くの写真と動画が記憶されていた。
また、メモリーの中にはファイルだけではなく『カメラを持つようになった方に』という名前のフォルダーがあった。
それは何となく私に対して用意されているフォルダーのような気がした。

フォルダーをクリックすると、そのフォルダーの中には、動画だけがたくさん入っていた。動画にはそれぞれハングルで題名がついていて『初めてご覧の方に』、『マスク着用法』、『全身スーツ使用法』といったファイル名が並べられていた。
私はその中の『初めてご覧の方に』という名前の動画をクリックしてみた。
すぐに動画は再生した。
動画には、さっきタクシーに乗せた女性の姿が映っていた。

「はじめまして。あなたが誰なのかわかりませんが、私のカバンを持つ事になり、お祝い申し上げます。カバンの中には、私が今まで使ってきた大切な品々を入れておきました。使いこなしてくださることを願います」

女性のそんな挨拶の次には、画面に何故か落ち着いた様子の西洋人男性の姿が映し出された。その男は画面の向こうからこちらに向かって手を振ると、自分の服を脱ぎ出した。
男の裸を見るのは愉快なものではなかったが、私は男が服を脱いでいる間、どうしても停止ボタンを押すことができなかった。男が服を全部脱ぎ終えると、今度はさっきの女がカバンの中からあの水着のような皮の全身スーツを持ってきた。
女はカメラの前でその全身スーツを広げながら説明し始めた。

「この皮の裏には、あらかじめ収縮薬を塗っておきました。収縮薬の濃度と量によって、これをかぶった時の体つきが変わります。
 濃度を濃くして塗ってこの皮をかぶれば体がとても小さくなり、薄めて塗って着たら元の体の大きさとあまり変わらなくなります。もちろん原理上そうだというだけで、実際にどれくらい小さくなるかは、個人差があるでしょう。
 そして当然元々の体格より小さくなろうとすればするほど、過度に濃い濃度にしなければなりません。その場合、皮をかぶった時に苦痛で気絶するかもしれません。
 ですから、はじめは薄い濃度から始めて、それから少しずつ濃くしてたものを試してください」

そう言いながら女は青い薬箱と黄色い薬箱から錠剤を取り出し、西洋人の男に渡した。

「青い薬箱に入っているのは、一定時間骨格をやわらかくしてくれる薬です。全身スーツをかぶって収縮するときに、きれいな体形を作れるようにします 。この薬を飲まなければ、きれいな体型になりません。
 そして黄色い薬箱に入った薬は、いわゆる鎮痛剤です。痛みに慣れてくれば必要なくなるかもしれませんが、最初は必ず必要です。
 正確な使用量は別の手帳に書いておきましたので、必ずその量を守って下さい。
 そうそう、この薬は公的な臨床実験はしておりません。でも私も私の同僚たちも今まで服用して何の異常もありませんでした。ですので安心して使用できます。あえて副作用について説明しますと、はじめて使う時には若干の視力減退と息苦しさを感じるかもしれません。でもそれは一時的なことで、時間が過ぎれば良くなります」

薬を手に持った西洋人の男は、何の迷いも無しに水と一緒にその薬をごくりと飲み込んだ。そして新聞紙が広げられた場所に移動すると、その上に静かに立った。
男が立っている所に女は黄色い容器を持って来た。その容器を渡された男は、ふたを開けて中に入っている液体を手の平に出すと、体全体にくまなく塗り始めた。
女も同じように手の平に出した液体を、男の背中や肩に塗って手伝っている。

「これは普通に売られているオイルです。皮スーツをスムーズに着られるように、こうやって塗っています」

全身にオイルを塗った後、男はいよいよ皮スーツを着始めた。
彼が手に持った皮スーツは、本当に女性の皮膚をそのまま剥いだように見える程リアルだった。その表面の質感、ところどころ見えるうぶ毛は本物にしか見えない。だが、男の体格に比較すると、だいぶ小さなサイズの皮スーツだった。
それを果たしてあの男が着られるのかも疑問で、かぶった時にいったいどんな姿になるのか、想像さえもつかなかった。

男は首の部分の穴を両手で広げて脚を入れた。意外にもその狭い穴は男の太い脚が十分に入る程広がっていく。まるでストッキングを履くように彼は皮スーツに足を入れ、用心深くスーツの脚の部分に自身の足を入れた。片足を全部入れた後、男はしゃがみ込むと足の指を触っていた。恐らくスーツの足の指に自身の足の指を合わせているのだろう。同じように、男はもう片方の足もスーツの中に入れた。

スーツを胸部まで引き上げて立ち上がった男は、少しだけの間自分自身のスタイルを眺めた後、女に向かって何かを言った。だがそれは英語であり、私には何を言っているのかわからなかった。
女は流ちょうな英語で笑いながら男に話をしている。
そうこうしているうちに、男は今度はスーツに両腕を入れた。スーツを着た男の体はつやつやとしており、あたかも肌色の水着を着ているように見えた。映像の最初のほうで、女はスーツをかぶれば収縮すると言っていたが、今のところそのような様子は全く見られなかった。それは何となく肌色のウェットスーツをかぶっているようだった。本来のその男のスタイルがそのまま残っていて、彼の皮膚の色だけが白く変わっただけのようだった。
そう、変わったものは殆どなかった。彼の両脚の間には、彼の大きなジュニアもぶらぶらとぶらさがっていた。

次に女が持ってきたのは、肌色のとても大きく重たく見えるガードルだった。彼女は彼にそれを渡す前に、カメラの前にアップさせてその姿を詳しく見せてくれた。
そのガードルの股の間には、少しは淡い茶色の毛がついていた。そしてその部分をめくると、内側には容器のようなものがあり、少し複雑な構造になっていた。

「ご覧になればわかります通り、これは女性の下腹部そっくりに再現したガードルです。この部分に男性のジュニアを入れれば、このガードルを着用したまま小便もすることもできます。もちろんあなたは女性のように座って用事をすませるつもりでしょうけど。そしてお尻の部分には分厚いパッドを入れておきました。
 ですから、これを着れば完ぺきに女の下腹部のように変わってしまいます。見た目も形も女性そのものになるんですよ。
 そして何より重要なことは、ここには女の膣もそのまま再現されているという事実です!!!!
 ですから、これを着用すれば本当に女性のように男と関係も持つことができます。
 ここの膣に潤滑液もいれれば完ぺき!!!
 もちろん絶対に、相手の男が感づくということはありません。
 けれども、神経がつながっているわけではないので、当然女のような感覚はありません。あなたが上手に演技すれば、相手は絶対に感づくことができないという訳です。ホホホ」

カメラに向かってそう言って微笑んだ後、女はガードルを男に渡した。男はそのガードルに脚を入れると、自身の下腹部までずっと引き上げた。もちろん密着させる前に自身のジュニアをガードル内側の容器に納めた。ガードルをはき終えて立つ彼の脚の間は、ある程度女のように見えるようになった。
ひとまずゆらゆらとぶらさがっていたジュニアがなくなり、女性の下腹部のように見えないことはないものの、それでも女性特有のすっきりしたものとは言い難かった。
それはガードルの中に入った彼のジュニアの輪郭線がくっきりと見える為だ。

その次に、女は椅子に座った男にフェースマスクのようなものを持ってきた。それもまた、本物の女の顔の皮を剥いだように見える精巧なマスクだった。それは顔に付けるのではなく、頭からすっぽりかぶるものだった。女はそのマスクを男に渡す前に、さっきと同じように説明をはじめた。

「このマスクの裏側にも、さっきの皮スーツと同じように収縮薬をあらかじめ塗っておきます。顔に塗る収縮薬は、その量を微細に調節することで顔型を多様にさせることができます。初めは無理でも、少しずつ試してみて下さい。慣れてくれば、どんな顔だって全て再現できるんです。たいていの女性の顔型は、特徴だけつかみ出せばそこそこ似てきます。上手になれば、有名な女性芸能人の顔だって作ることもできますよ。それでは始めましょうか?」

そう言うと、女はひっくり返したマスクを男の顔に用心深くかぶせ始めた。その様子は皮スーツを着るのとは少し違うように見えた。何よりも、用心深く慎重に位置を合わせるそぶりの違いは歴然だった。
唇の位置を合わせ、鼻の端の線を合わせるなど、マスクが男の顔に正確に付着するよう、用心深くなでつけていた。

特に気を遣っているのは目つきのようだった。それは、目つきが人の印象を決定する最も重要な要素だからだろう。彼らは何回もピンセットでマスクのまぶたをひっくり返し、それをまた慎重に張り付けるといった行為を繰り返していた。そんな風に慎重に目つきを整えた後で男が目を見開いた時、その目つきは完全に変わっていた。

まだ顔全体は男の本来の顔の輪郭がそのまま残っていたが、女らしく二重瞼になった目つきは、それだけでも彼の印象を完全に変えるのに成功しているように見える。
人の印象は目が半分以上を占めるというが、目の前で繰り広げられている映像は、その言葉は本当だと思わせるものだった。

彼は鏡を見ながら、いろいろな目つきをしていたが、それはごく自然な感じだった。いや少しだけ不自然な箇所も残っていはいた。まばたいた感じは自然だったが、目を見開いた時まぶた上段に微妙にしわができている。
自然に見えても、やはり完ぺきなものではないのだろうか?

続いて男は浴室へ向かった。
浴室のバスタブにはすでにお湯がいっぱいに満たされており、熱い湯気がモクモクと湧き上がっていた 。女はその中に小麦粉のように真っ白な粉を入れると、お湯全体に広がっていくように掻き回した。
そしてまた説明を始めた。

「これはボディースーツがすぐに収縮し始めるのを促すと共に、収縮したスーツの形を固定させる為の粉末です。そして同時に、スーツの内に浸透して皮下脂肪のように変わります。つまり、女性のような柔らかい肉感を作る為の重要な粉末です。
 このお湯の中に今から私の友人が入ります。彼が出てきた時、あなたはきっとびっくりしますよ」

その説明が終るや、ボディスーツを着た男はバスタブに張られたお湯の中に入った。
白い粉末が溶けたお湯は、まるで牛乳のような白い液体に変わっている。
バスタブの中で、男は始めのうちは入浴しているかのように、ゆっくりと白いお湯を体中になじませるように浸っていた。だが、しばらくすると男はからだをぷるぷると震わせ始める。彼の両腕には筋肉と血管が鮮明に浮かび上がっていた。

彼はバスタブの縁にしっかりとつかまり、徐々に押し寄せている苦痛に耐えようとしているかのように見えた。どうやらさっきの話の中で説明されていたスーツが収縮する時に起きる苦痛を我慢しているようなのだ。

やがて彼はまるで弓のようにしならせ、英語で何かを叫ぶ始めた。だがしばらくすると、男は体を少しづつ白い湯の中に沈み込ませていった。バスタブの外に出していた両手も、お湯の中に完全に浸り込ませている。そして最後に頭も全部お湯に中に沈めた。

しばらくの後、彼は浸っていたお湯の中から体をゆっくりと起こし、そしてバスタブの中から出てきた。彼がお湯の中から全身を出した時、彼の体は西洋人の男の体型とは全く違う、東洋人女性のようなからだつきに変わっていた。がっちりした体つきは、すっかりほっそりしたものに変わっていた。
それは間違いなく女性のスタイルだった。

動画を見ていた私は、大きく変わってしまった彼のスタイルを見てびっくり仰天した。本当に女性の体型に変わってしまったのだ。

動画を見ているうちに、もしかしたら彼が女性の体に変わっていく様子を見せられるのではないかと何となく想像はしていたが、いざ実際に見せられると、それはとても生々しく、想像以上のものだった。

バスタブから出てシャワーで体を流す彼の後ろ姿は女性そのものであり、あまりにも魅力的だった。
シャワーの水が腰からお尻の部分を、鈴のような玉となって落ちていく。
体をひねると、その胸は女性のように膨らんでいる。

確か皮スーツを着てすぐの彼の胸は平べったかったはずなのに、今やその胸には花のつぼみのような張りのあるふくらみができており、その形たるや本当に美しかった。
男は、自分の胸にできた膨らみを珍しそうに揉みしだきながら、シャワーで乳白色の液体を洗い落としていた。

やがてタオルを体に巻いて出てきた彼の姿は、ほんのりと赤く肌を染めてシャワーから出てきた女性にしか見えない。そのスタイル、その顔、どれをとっても少し前までのがっしりした西洋人男性の形跡は見当たらなかった。
今や、彼は魅力的な若々しい韓国人女性の姿へと変わっていた。

胸に巻いたタオルから覗く白い胸、そしてほっそりと狭い肩幅、くっきりと浮かび上がった鎖骨、男心をそそるうなじ、スリムなスタイル。

その姿を見ていると、少し前までのがっちりした西洋男性の姿を思い出すことなどできなかった。いや、すでに私の頭の中から、さっきまでの男の姿は消えかかっている。私は驚くほど魅力的なこの女の姿を、まばたきもせずに見ているしかなかった。

その上、その股間からは男性特有の膨らみは完全に消え、そこはすっきりした女性的な曲線を描いていた。さっきまでそこにあった男のジュニアの痕跡は全く見られない。

「驚いたでしょう? とってもびっくりしたでしょう。でももうそろそろ終わり。
 あ、そうだ、まだ一つ残っていましたね。声を変えないと。
 こんなかわいらしい顔なのに、野太い男声を出したんじゃ台無しですもんね」

 そう言うと、今度は彼女は上下が開いたビニール袋を持ってきた。

「これを首に付けてると、声が女性の声に変わります。予め、そのようにセッティングしてありますから。でも、これも別に準備された液体を内側に塗れば、いろいろな声を出すことができますよ。赤ん坊の声も可能です。でも詳しい説明は次にします」

男は女からビニール袋を受け取ると、その中にすっぽりと頭を入れた。そして首まですっと引き降ろすと、首に密着させた。そして袋を密着させたまま、首全体を両手で押さえつける。

まさかあれだけで本当に女の声を出すことができるのか?
そう思いながら私は訝しげに画面を見ていたが、暫くして彼が出した声は魅力的な女の声であった。快活ながら男性そのものの野太かった彼本来の声とは全く違う、甲高くしなやかな女性の声だった。

彼女は最後に男にかつらをかぶせた。彼女がかぶせているかつらは、今の彼の顔とからだに似合う、長い黒髪のかつらだった。彼女は彼にかつらをかぶせると、生え際についた膜を彼の顔に密着させた。そして手にクリームをつけると、用心深くそこに塗った。
するとかつらと彼の顔の間の境界線は消え、生まれつきの髪の毛であるかのように自然なものになった。
次にブラシとドライヤーで髪形を整えると、黒髪はさらさらした手触りを思わせる見事なストレートヘアになっていた。

こうして彼の姿は完ぺきな東洋の、いや韓国的な顔立ちをした若い女性に変わってしまった。

裸の彼は……いやもう彼の姿はこれ以上”彼”という男性代名詞を使うのがはばかられる程、自然な女性の姿に変わっていた。すっかり変わってしまった”彼”ではない”彼女”は、ごく普通の女性のように服を着て化粧をし始めた。服を着るのも化粧をするのも彼自身が行なった。多分、化粧は以前から何度もやっているのだろう。本当に女性のように上手に化粧品を顔に塗り、化粧を施していった。

化粧を完全に終わらせた彼の姿は本当に眩しいほどだった。そして白いワンピースを着た彼の姿は、たとえようもなく清純な淑女と言えるものだった。髪を巻き上げて顕わになったその襟首には、細いうぶ毛が見える。本当に不自然さが一つもない。

そう、今の彼の姿は、あたかも国内航空会社のキャビンアテンダントのようだ。髪型や化粧の方法は、どうやら彼女たちのスタイルを参考にしたようだった。

「どうですか? 完ぺきでしょう? 今、ジェームス君を変身させるのに使った一切のものが、全てカバンの中に入っています。そして中の小物入れには説明書も入っています。カメラの中には参考になる映像資料がたくさん保存されています。それを見てよく研究すれば、あなたはどんな女性の姿にでも変身できるんですよ。もちろん自分自身より過度に大きかったり小さい人には変身できませんが。
 さて、私の手元には、今あなたが持っているものと全く同じものがあります。だから、それをあなたに差し上げましょう。あ、代価が無いとは限らないかもね。
 どうぞいろんなことに使ってみてください。 あなたが何にどんな方法でこれを利用しようが、私には関係ありません。 私は、あなたがただ楽しく使ってもらえば、それで満足ですから。
 それから、ここまで聞いていたら、もうあなたもわかるでしょうけど、この姿は私の本当の姿ではありません。この姿も、それを使って変身した姿なんですよ。
 もしかしたら、私たちはいずれ会う事になるかもしれません。 勿論その時は、今のこの姿でなく、別な顔、別な体で会うことでしょう。だから、もし興味があれば、あなたの周囲の人をよく調べて下さい。
 もしかたら、その中の誰かが私かもしれませんよ。
 もしわかったらご褒美を差し上げますよ。
 ご褒美は何がいいかな。
 うふ、そうよね、お金よね。
 それじゃ、10億……そうね、私を探し出せたら10億ウォン差し上げましょう。だからよく探してみてくださいね。

 最後にひとつ。カバン内側のリングのついている場所をよく調べるると財布が一つ隠されています。 その中に現金が千万ウォン入っています。まずそのお金で、女性の洋服やその他必要なものを用意して下さい。
 それではまたお会いしましょうね……
 きっとですよ……」

(続く)




toshi9より:
 この作品は、以前夏目彩香さんが書斎を運営されていた時に投稿された、韓国のUkaさんからの投稿作品です。今作品では作者名を「貴人福助」名で掲載させていただきました。
以下は作者さんからのメッセージです

>僕からのお願いが二つあります。
>ハングルの原本も載せてもらえませんか。
>そして僕の名前は「貴人福助」と書いてください。
>僕は怪人福助が大好きです。
>ですから僕の作品は怪人福助さんにあげることです。



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