僕色に染める
 Tira


5.欲望

「今日はかなり遅くなるから、先に寝ておいてくれないか? うっ……ああ。終電には間に合うように帰るから……。そうだな、夕食は自分で温めるから……。すまんな……」
 裸体の奥田はベッドに腰かけ、スマホで妻に連絡を取った。俯くと、胸を揺らしながら肉棒を舐める奈津実の姿があった。
「ねえ和弘。誰と電話してたの?」
「いや、ツレだよ」
「ふ〜ん、そんな会話には聞こえなかったけど。私以外に彼女を作っちゃ嫌だからね」
「当り前だろ。俺の彼女は奈津実だけさ」
「うふっ! 嬉しいっ」
 奈津実は女座りで亀頭を舐めた後、ゆっくりと肉棒を口の中に飲み込んだ。
「うはぁ!」
 思わず腰が引ける。部下の女子社員が四十を過ぎた自分の肉棒を咥えているなんて――。
 彼は彼女の頭を撫でながら、フェラチオの快感に酔いしれた。
「んっ、んっ、んふっ」
 鼻に掛かった声を漏らしながら肉棒にしゃぶりつく奈津実の姿に、思わず射精しそうになる。これは彼女の意思ではない。角谷が奈津実の肉体を操り、彼女の声を使って喋っているのだ。それが分かっていても、目の前にいる奈津実から角谷をイメージする事が出来ない。
「奈津実っ。そんなにしたら……」
「んふっ! 出そうになった? 出すなら私のオマ○コにねっ」
「オ……オマ○コって……」
「どうしたの? 別にいいでしょ、付き合っているんだから。会社じゃ堅苦しい言葉しか使えないもの。二人でいる時は素の私でもいいよね!」
 それが彼女の本心なのか、角谷が作り出した彼女の性格なのかは分からなかった。
 悪戯っぽい目をした彼女がコンドームを用意し、唾液に塗れた肉棒に嵌めてゆく。
「ねえ和弘。入れる前に私も可愛がって欲しいな……」
 ベッドに上がった彼女は仰向けに寝転がると、足をM字大きくに開いた。そして両手で薄っすらと茂った肉襞を開き、濡れそぼった膣口と赤く充血した肉豆を見せつける。
「私のクリトリス……舐めてくれる?」
「あ、ああ。もちろん」
 慌てて彼女の股の間に入った奥田は、鼓動を高ぶらせながら肉豆に舌を添わせた。
「あふんっ! あっ、クリトリスを舌で転がしてるの? もっといっぱい感じさせてっ!」
 奈津実は彼の両手を掴むと乳房に導いた。するとゴツゴツとした指達が力強く乳房を弄り、勃起した乳首を捏ねる様に摘んだ。
「はあっ! あんっ、あっ、ああんっ」
 彼女は一際大きな喘ぎ声を漏らし、肉豆を舐める奥田の頭を両手で押さえつけた。
 奥田が希望した、一日働いた後の洗っていない女体。肉壺から溢れる甘酸っぱい蜜と、少しのアンモニア臭が脳天を貫く。
 柔らかい内腿に顔を挟まれ、愛液で口元を汚しながら股間むさぼる奥田は、彼女の「イ、イクッ!」という言葉を耳にすると、両手の指で乳首を強く摘まみ、口に含んだ肉豆を舌を使って激しく刺激した。
 華奢な腰が浮きあがり、顔を挟む内腿の力が一層強くなると、「んあああっ!」と言う喘ぎ声が部屋に響いた。
 見上げると、二つの乳房が上下に揺れ、何度も大きく息をしている事が伺えた。その向こうに、髪を乱した奈津実の満足そうな表情がある。視線を合わせた彼女は「イッちゃった……。もうすぐだよ。もうすぐ私……和弘のものになるからね」と微笑み、「来て!」と両手の人差し指で膣口を開いてみせた。
「も、もう我慢できないっ!」
 奥田は汚れた口を腕で拭うと、妻には見せられないほど硬く勃起した肉棒を膣口に当てがい、一気に押し込んだ。
「んはあっ!」
「ううっ!」
 肉壺いっぱいにめり込まれ、一瞬眉を歪めた奈津実は、「ふ……深いよ和弘」と甘い声を漏らした。
「すごい締め付けだ。コンドームをしていてもこんなに気持ちがいいなんて」
「いいよ。和弘の動きたい様に動いても」
 その言葉に、奥田は必死に腰を振り始めた。もう妻への罪悪感は頭の中から消えていた。目の前にいる白藤奈津実という女子社員とのセックスが全てだった。
「うっ、うっ、奈津実っ! すごくいいっ!」
「私もっ! もっと……もっと私を気持ちよくしてっ。もう……書き換わるのっ!」
 頭を左右に振り、シートを握りしめる奈津実は額に汗を滲ませながら絶頂を迎えようとしていた。
 肉壺に蠢くピンクの襞が肉棒に絡みつき、奥田に強烈な快感を与える。妻の肉壺とは明らかに違う締め付けに、彼女の若さを感じた。
「ふうっ、ふうっ、うっ、ううっ」
 奥田は上半身を倒して奈津実を抱きしめた。すると奈津実も細い腕で彼の身体を抱きしめ、耳元で「あはぁ。早くイカせて……」と囁いた。
「ああ、すぐにイカせてやる」
 普段は全く運動をしない彼は、全身の力を振り絞り、奈津実を絶頂に導いた。腰を絶え間なく動かし、硬く勃起した肉棒で肉壺の奥深くまで刺激する。
「か……和弘っ! イ……イクッ! 私っ……和弘のものにっ……なるのっ!」
 彼を抱きしめる腕に、相当な力が入った。広い背中に彼女の爪がめり込み、悲鳴にも似た喘ぎ声が部屋に響いた。
「あっ、あっ、ああああっ!」
「ううっ……。うああっ!」
 身悶える奈津実の姿に更なる興奮を覚えた奥田は、コンドームの中に激しく射精した。そして、二人は互いに息を弾ませながら絶頂の余韻に浸った――。



「ふぅ〜」
 一息ついた奈津実はベッドから起き上がると、冷蔵庫に冷やしていた缶ビールを手に取り、喉を鳴らしながら半分ほど飲んだ。
「課長も飲みます?」
 上半身を起こし、その缶ビールを受け取った奥田が、残りのビールを勢いよく飲み干した。
「まだまだ若いですね。僕よりも体力、あるんじゃないですか?」
 角谷の口調で話す奈津実に、奥田は「そんな事無いさ。明日……いや、明後日は全身筋肉痛だ。妻に怪しまれるかな」と若干微笑みながら答えた。
「課長のおかげで目的が達成できましたよ。ありがとうございます」
「……という事は、彼女は……」
「はい。僕が肉体から抜け出しても、奈津実は僕から離れられませんよ。完全に僕の彼女です」
「……そうか。俺がその引導を渡したんだな」
「ですね。でも課長が奈津実のセックス相手で良かったですよ。先輩や知らない男性だと、やっぱり抵抗がありましたからね。奈津実にとっても正解だったと思います」
「複雑な心境だ。君の強引な計画から彼女を救おうと思っていたのに、逆に手を貸してしまう結果になったんだから……」
 奥田はそう言い、深いため息をついた。
「別にいいじゃないですか。課長だって奈津実としたかったんですよね。お互い、ウィンウィンの関係だったって事ですよ。奈津実の気持ちも、最初から僕に気があった事になっていますから、無理やり付き合うという感覚はありませんしね」
 角谷は彼女の乱れた髪を弄りながら奥田の横に腰かけた。
「課長、どうします? まだ奈津実とセックスしたいでしょ? 今度は課長の名前……慎二で奈津実に喘がせますよ。スマホで映像、撮ります?」
 彼女がスマホを持って目の前にちらつかせた。
「そうしたいが、証拠が残すとばれた時が大変だからな。妻に知られたら……」
「分かりました。それじゃあ僕が上に乗って動きます。だって慎二、さっきのセックスで疲れたもんね!」
 可愛らしく笑う彼女を見て頭を書いた奥田は、「じゃあ……頼むよ奈津実」と言い、白濁液が溜まったコンドームを新しいものに付け直した。
「またそんなに硬くして。ねえ、寝転がって慎二。私のオマンコでそのいきり立ったオチンチンを慰めてあげる」
 奈津実は彼に背を向けて跨り、ゆっくりと腰を下ろしていった。肉襞の間に入り込んだ亀頭が、何の抵抗もなく奥へとめり込んでゆく。
「あっ……ん。慎二のオチン○ン、すごく大きいから入れただけでイッちゃいそう」
 彼の両足に手を添えた奈津実がゆっくりと腰を動かし始めた。滑らかな背中に解いた髪を揺らし、上ずった喘ぎ声を漏らす。彼女の肉体を思うがままに操る角谷は、下腹部に力を入れながら膣を収縮させ、奥まで入り込んだ肉棒を悦ばせた。
「うはぁ。気持ちいいよ。本当に気持ちがいい」
「そう? 良かった。私のオマ○コ、好きなだけ食べてね」
 彼に背を向けながら腰を振る奈津実は、ニヤニヤと笑いながら偽りの喘ぎ声を漏らした――。






6.下種

 次の日、オフィスに角谷と白藤奈津実が揃って現れた。
「おはようございます、奥田課長」
「ああ、おはよう」
 ブラックのパンツルックに身を包んだ彼女は角谷に寄り添いながら、普段通りの挨拶をした。
「課長、おはようございます」
「おはよう。体調はどうだ?」
「至って元気です。これも課長のおかげですよ」
 笑顔を作る彼に、微妙な表情をした奥田は、完全に彼女の記憶が書き換えられた事を悟った。
 見た目は何も変わらない。しかし、奥田に対する彼女の態度は明らかに変化していた。これまで感じていた尊敬や好意を持った視線は無く、ひとりの上司としての一般的な対応に思える。また、彼女は角谷の弁当も作って来ている様で、昼休みは二人して仲良く食べていた。もちろん、奥田に対してお茶を入れる事はなかった。
 こうなる事が分かっていて、彼女とセックスし、角谷に記憶を書き換えさせたのだ。
 そして半年後――。奈津実は角谷と結婚し、専業主婦として社宅に住んでいる。今も思い出す奈津実とのセックス。もし角谷の提案を拒否していればどの様な結末になっていただろうか。
 自分以外の男とセックスし、同じ様に記憶を書き換えられていたならば、やはり彼女の相手は自分でいたかった。
「奥さんは元気にしてるかい?」
「はい。実はこの前、妊娠している事が分かったんです」
「そうか、それはおめでたいな」
「ありがとうございます。これも課長にサポートして頂いたおかげです。奈津実の記憶はしっかりと書き換わったままですよ。ここまで来れば何も心配していません。実は……もしダメだったらもう一度奈津実に乗り移って、同じ事をしようかと思っていたのですが」
「もう一度? 何度も乗り移れるのか?」
「幽体離脱が出来る薬がもう一つあるので。でも使わずに済んで良かったですよ」
「そ、そうか……」
 また角谷が奈津実に乗り移り、彼女とセックスさせてはくれないだろうか――そんな淡い希望を持った奥田だが、「そうだ課長。あの薬、使ってみます?」と言う彼の言葉を聞き、一気に鼓動が高鳴った。
「今、何て言った?」
「課長に差し上げますよ。僕はもう使う必要、ありませんから。あの薬を使えば、誰にだって乗り移る事が出来るんです。奥さんにだって……ほら、橋爪さんにだって」
 角谷は背筋を伸ばし、電話の対応をしている橋爪瑠璃に視線を移した。
「女性の快感は僕達男性には全く理解できませんけど、一度経験すると病みつきになりますよ。まあ、僕は奈津実の肉体で十分に楽しんだので……」
「俺が、橋爪さんに……か。女に……乗り移るのか」
「アイドルの肉体でも可能です。ただし、抜け出た魂は自分の肉体から十メートルくらいの距離しか離れられないんです。相手の肉体にさえ入ってしまえば、あとは自由ですけど。だから、余程の機会が無いと、アイドルに近づいて乗り移る事は出来ないでしょうね。そういう意味では、職場の女性が良いかと思います」
「な……なるほど」
「明日持って来ます。もし、橋爪さんや大木さんに乗り移るなら手伝いますよ。奥さんには泊りの出張という事で話せば大丈夫でしょ。それから、課長の肉体を隠しておく必要があるので、僕が誰にも見つからないところでしっかりと保管しておきます」
「ま、待ってくれ。そうは言っても……」
「課長……本当は新しいパートナーが欲しいんじゃないですか? 奥さんではなく、若い女性が。僕みたいに、記憶を書き換えてしまえば現実になりますよ。もちろん、奥さんと別れる勇気があるなら……ですけどね」
 角谷の誘惑に、暫く考えた奥田は無言で頷いた。
 そして――。



 誰も予想していなかった、歳が倍ほど離れた奥田と橋爪瑠璃の結婚。ある日の昼休み、彼女は小会議室で幸せそうに奥田に寄り添いながら話をしていた。
「ねえ慎二。今更だけど……本当に私なんかと結婚して良かったの? 奥さんと離婚までして……」
「当り前だろ。俺は瑠璃と結婚する事が運命だったと思う」
「……嬉しい。私も慎二の部下として働き始めてからずっと好きだった。まさか結婚出来るなんて思っても見なかったし、慎二との赤ちゃんまで授かれるなんて」
 瑠璃はジャケットの上から、嬉しそうにお腹を撫でた。
「そろそろ産休で休んでもいいんだぞ」
「ううん。私、一秒でも長く慎二と居たいから会社に来たいの。いいでしょ!」
「もちろん。でも、くれぐれも体調には気を付けてくれよ。俺とお前の大切な赤ちゃんがいるんだからな」
「うん。慎二、愛してるっ」
「ああ。俺もだ」
 互いに唇を求め合い、身体を抱き寄せる。
 結局俺は角谷と同じだ。瑠璃の肉体で女性としての快感を貪り、これまで彼女が生きてきた全ての記憶を盗み見た。そして自分の都合の良い様に記憶を書き換え、長年寄り添ってきた妻をも裏切った。角谷と同じではない。彼よりも酷い男だな。
「どうしたの慎二、浮かない顔して」
 彼の表情を見た瑠璃が心配そうに話し掛けてきた。
「いや、何でもない。何でもないんだ。俺はお前と一生を共にすると決めた。俺が愛しているのは瑠璃、お前だけだよ」
「あんっ! そんなにきつく抱きしめたら赤ちゃんが苦しむよ」
 もう後戻りできない。
 奥田はそう思いながら、瑠璃の頭を優しく撫でた――。



僕色に染める  おわり




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