ストーカー

俺は、これからやろうとしていることに、少なからず興奮を覚えていた。

長い間考えて、そして、思いついた計画。これが成功することを俺は確信していた。そして、密かに隠していた思いを遂げられることを・・・・

 

俺は、一人暮らしなのを感謝した。誰にも見咎められることはないからだ。俺は、寝室に入ると計画の準備をはじめた。ベッドの上に必要な道具を並べた。セーターとシャツ。スカートに新品のストッキング、ボディスーツ。それに粗大ゴミのときにこっそりと拾ってきた鏡台の上に置いたロングヘアーのカツラとラテックスで作った顎や鼻、バストなどのパーツ。

俺はおもむろに腰に巻いていたタオルを取ると、ヒップパットのついたボディスーツを手に取った。俺の顔や足、胸、脇などの毛は数ヶ月かかって永久脱毛したし、頭の毛さえも脱毛していたので、俺の体はつるつるだった。

俺は、ボディスーツのフロントファスナーを下ろすと、足を差し込んだ。そして、腰の下まで引き上げ、あらぶる息子を、右手で股の間に押さえ込みながら、左手で、ボディスーツをずり上げた。うまく息子をボディスーツのなかに押さえ込むと息子はきれいに股の間に隠れ、股間はすっきりとした。

俺はボディスーツの袖に両腕を通すと、引き上げた。そして、おなかから息を出し切り、腹筋でおなかを引き締めて、何とか胸あたりまでジッパーを引き上げた。緊張を解いてもおなかはそれほど楽にはならなかった。

胸から下は女性の体型に近づいたが、胸は余っていた。俺の胸板はそれほど厚くなかったので、ボディスーツの胸の部分を必要以上に引っ張ることはなかったが、それでも少し窮屈だった。

俺は、鏡台からバストパットを手に取るとボディスーツの胸の部分に差し込んだ。そして形を整えると、鏡に映して、ポーズをとってみた。スキンヘッドの男が女性の体型で映っているのは異様だったが、まあまあ満足行くものだった。

脱毛してから、化粧品で手入れを怠らず、かかとの角質など取り除いていた俺の足は、女性よりもきれいかもしれなかった。ライトスキンカラーのストッキングをまくると、伝染に気をつけながら履いていった。スーときれいにストッキングが履けるのは気持ちいいものだった。そして、俺の足はよりきれいにしなやかになった。本物の女でもこれだけのものはいないだろうなどと考えては、一人満足していた。

シャツを着て、スカートをはき、セーターを着込むと、俺は、セーターの首周りにタオルを巻き、ケープをかけた。そして、鏡台の前に座り、顎にある特殊なクリームを塗った。これは、肌に刺激はないが、このラテックス製のパーツをしっかりと接着することができた。クリームを塗り終わると、顎のパーツを手にとり、顎に当ててみた。すぐにはくっつかないので、いろいろと試しながら、ベストポイントを見つけると、そこで、押し付けた。30秒ほどすると顎のパーツはくっつき、角張っていたあごが、丸みを帯びたものに変わっていた。このパーツの端の部分は薄くなっているので、きれいにくっ付けると、境目がわからなくなった。次に丸く広がった鼻にクリームを塗り、鼻のパーツをくっつけた。低い鼻も高く鼻筋と追った形のいいものに変わった。目の周りにメイク用のテープを貼り目の形を整えると、クリームタイプのファンデーションを薄く塗って顔の色を整えた。そして、パウダーをはたき、ポイントメイクを済ませると鏡の中を覗き込んだ。そこにはスキンヘッドのまあまあの美人が映っていた。眉や唇を整えメイクを終わると、カツラをかぶって、ブラッシングすると、そこには、どこから見ても女にしか見えない顔があった。

俺は鏡に向かって声を出してみた。

「あ、あ、あ、わたしは、森崎由紀です。家庭教師協会から参りました。うん。OK。」

ボイスチェックを終えると俺は、ケープとタオルを取って立ち上がった。

「さあ、行きましょう。」

俺はしなやかに部屋を出て行った。

一年前、俺はお嬢様で美人の彼女の登校姿を偶然見かけ、彼女に一目ぼれをした。そして、彼女のすべてを知りたくて彼女の近くからいつも彼女を見ていた。だが、半年前に、俺をストーカーだとか言って、彼女は俺を警察に突き出そうとした。これほど愛しているのになんて奴だ。それから、俺は、彼女のそばに近寄ることができなくなった。俺のことを勘違いしている彼女に俺のことを教えてやらなくては、それも、決して忘れられないように体にだ。

俺はある計画を立てた。警察は男には警戒するが女は警戒すらしない。そこで、俺は女に化けることにした。ダイエットをし、フィットネスで贅肉を落とし、ボイストレーニングをして女の声を出せるようにして、メイクや特殊メイクを研究して、俺の顔を女の顔にできるようになるのに五ヶ月かかった。

そのとき、彼女が大学受験で、家庭教師を求めていることを知った俺は、女子大生という触れ込みで、彼女の家庭教師になることに成功した。

姉と二人暮しで、いつも、姉がいて行動ができないでいたが、お嬢様で箱入り女子大生の姉が、旅行に行って留守な時と家庭教師として、訪問するときがぴったりと合い、俺は今日、実行することにした。そう、今日彼女は俺のものになるのだ。

 

俺は、彼女のマンションに急いだ。この半年間のトレーニングのおかげで俺は、女の歩き方、しぐさを身に付けていたので道ですれ違う者は誰も俺が男とは思っていないようだ。

30分後、俺は、彼女の住むマンションの入り口に立っていた。ここはレディースマンションで、保安設備が充実していることで有名だった。訪問者は、訪問先の者に開けてもらわないと中に入ることはできなかったし、配達人でも男性は中に入ることはできなかった。そして、ここも、そういう保安設備のところが持つ弱点を持っていた。それは、中からは自由に出ることができるということだ。だから、目的を果たしたあとは、俺は自由に逃げ出せるということだ。

俺は彼女の部屋を呼び出した。彼女は在宅中で、俺を待っていた。どういうことになるかも知らないで・・・

7階にある彼女の部屋の前に立つと、俺はベルを鳴らした。彼女は笑顔で俺を迎えてくれた。この笑顔が恐怖にこわばる瞬間を想像しながら俺は中に入った。

彼女の両親は、仕事で海外に行きっぱなしだし、姉は、旅行。この部屋には彼女一人。これほどのチャンスはなかった。

彼女の勉強部屋に通されると、俺を残して彼女はお茶を入れにいった。ピンクのカーテン、部屋いっぱいのぬいぐるみ、それに、かなりの数の文学書。彼女は英文学を目指していた。俺もまかりなりにも一流といわれる大学の大学院生だったから、彼女の家庭教師にすんなりと成れたのだが、彼女の本好きには感心させられた。

俺が、何気なく部屋の中を見回していると、部屋のすみにおいてある大きな白いクローゼットのほうから物音がした。一瞬、ねずみかと思ったが、このマンションはねずみどころかゴキブリもでないので有名だったのを思い出した。恐る恐る音のしたほうに近づいてみた。すると、また、何かが動く音がした。間違いなくクローゼットの中からだ。

俺は、そっと、クローゼットを開けた。すると、薄暗い中に服に埋もれた何かがあった。思い切って戸を開けて中をのぞくと、そこには、手や、足を縛られ猿轡をされた何者かがいた。これは誰なんだ。そして、彼女は何のためにこんなことを・・・

俺が縛られている何者かに近づこうとしたとき、後ろで音がした。

「あ〜あ、もう少し寝ていると思ったら、起きてしまったか。先生もまずいものを見てしまったね。」

振り向くと、お茶の乗った金属製のトレーを頭の上に掲げた彼女が立っていた。俺は、避けようとしたが、突然のことに動きがとれず、トレーで殴られてしまい、気を失ってしまった。

どれくらい気を失っていたのだろう。気が付くと裸にされて、手足を縛られ、その上猿轡をかまされて、ソファーの上に寝かされていた。

「グフフフ、先生お目覚め。先生が男だったなんて、わたしショックだわ。」

あの、しとやかで、おとなしい彼女があぐらを組んで、俺の正面の椅子に座っていた。スカートから見え隠れするパンティにもお構いなしのようだった。

「ウググググギグ(おまえはだれえだ?)」

「あら、先生なんていっているのかな?グフフフフ、また、半年前みたいに警察に突き出してほしいのかな?」

こいつは俺のことを知っている。そして、目的も大体察しているかもしれない。そんな思いが頭を巡った。

「先生、したいのでしょう。わたしと・・・グフフフ。それとも彼女になりたいのかな。私みたいに。」

俺は黙って奴のいうことを聞いていた。

「グフフフ、先生の目的は復讐だけではないようですね。どうです。私と手を組みませんか。私のねらいはわたしの姉。そして、先生は、私の方。悪い話ではないでしょう。」

こいつは何を考えているのだろう。それよりもこの状態をどうにかしなくては、そのためには、やつの話に乗ったふりをするしかない。そう思った俺は、唯一動く首を縦に振った。

「グフフフフ、それが懸命です。たとえ、逃げ出す算段としてもね。そして、この計画を聞いても逃げ出しますかね。せんせい。」

そういうと、奴は俺の耳のそばである計画をささやいた。それは、俺の心を大きく揺らした。俺は奴と手を組むことにした。

 

その夜、彼女の姉は、予定を変更して帰ってきた。やはり妹を長い間一人にするのは心配だったからだ。

だが、うちに帰ると、妹の友達が遊びにきていた。

「あらいらっしゃい。よく来てくださいましたわね。」

「はい、お邪魔しています。」

「どうぞごゆっくりしていってくださいね。私が帰ってきたからといって遠慮なさらないでね。」

「ええ、そうさせていただきます。」

「お姉さま、お泊まりいただいてもよろしいでしょう。」

「ええ、いつもあなたと二人だけだから時にはにぎやかなほうが楽しいわ。」

「ソウデスワネ。グフフフフ。」

妹の口調の変化に姉は気づかずに自分の部屋に入っていった。そして、そのあとをこの二人がこっそりついって行っている事にも気づいてはいなかった。

 

それから数時間後、姉と妹は、リビングのテーブルをはさんで向かい合って座っていた。

「どう、お姉さま。着心地は?」

「ぴったりだわ。声まで変わってしまって、これなら、知人でもわからないわよ。」

「それはそうよ。だって本人から直接いただいたんですもの。グフフフフ。」

そう、このボディはあの姉から直接いただいたものなのだ。

こっそりとあとをつけると、姉が部屋に入るのを見計らって、俺たちは彼女に飛び掛った。奴は、姉を後ろから羽交い絞めにし、俺は前に回って、彼女に催眠ガスの入ったスプレーを吹きかけた。最初は抵抗していた彼女も次第に動きが鈍くなり、最後はぐったりとなってしまった。

彼女が完全に動かなくなったのを確認すると、着ているものをすべて脱がした。そう、パンティ一枚までも・・・

全裸になった彼女も美しかった。妹も大人になるとこの姉のようにナイスバディになるのだろうか。いや、彼女はそれ以上になるだろう。そんなことを俺が考えていると、奴は別のスプレーを取り出して、姉にかけ始めた。全身くまなくかけると、ひっくり返してまたかけ始めた。足の裏や、指の間、耳の中、鼻の中まで吹きかけた。かけ終わると、何かを待つかのように、時計を見つめていた。声をかけようにも掛けづらいほど険しい顔で、時計を睨んでいた。

10分後、乾いたのかさっきまでぬれ光っていた肌が、いつもの状態に戻っていた。奴は全身くまなく乾いたのを確かめると、ふくよかな胸の谷間の下あたりをつまむと、そこにはさみを突き刺した。俺の止めるまもなく奴は、姉の体を首の付け根から、臍の上あたりまで縦一文字に切り裂いてしまった。

俺は彼女の流す血を見たくなく目をそらした。

「さあ、これを着て。早くお姉さまになりなよ。」

そう言って奴は俺のそむけた顔の前に、今剥ぎ取ったばかりの彼女の皮を差し出した。

「そんな、人の皮をはぐなんて。そんな。どうするんだよ。彼女の死体を・・・」

「死体?そんなものはないよ。だって、彼女は生きているもの。それに、こいつには別の皮を与えればいいのだからさ。たとえばあんたの皮とかさ。グフフフフフ。」

俺の皮を与える。それじゃあ、俺はどうなるんだ。彼女の皮を被って彼女になりきるのか。そんなことを考えていると奴は、踏ん切りのつかない俺に言った。

「さっさと着ないと、警察に差し出すよ。変態が女装して忍び込んできたってね。それに、彼女は24時間後には元の姿に戻るから大丈夫だよ。こんな面白いおもちゃをだめにするはずがないじゃないか。」

俺は決心すると、奴から皮を受け取とった。皮は作業着のつなぎのようになっていた。姉の皮の足に、俺の足を突っ込むと、サイズの違いから、皮が伸びるのだが、すぐに縮まり、俺の足は、姉のスラッと長いきれいな足に変わった。両足に皮を履き終わると、今度は、両腕を通して、肩に皮をかけた。俺の息子は興奮してびんびんになっていた。フードのように付いている頭の付け根の部分を広げると、そこからすっぽりと被った。頭の大きさが違うため目鼻の位置が違っていたが、それもきちんと収まった。

もしこのとき鏡を見たら、首の付け根から、臍のあたりまで、切り裂かれた女の体の中から見え隠れする男の体とシンボルが見えただろう。それは、グロテスク以外の何ものでもなイに違いない。運がいいことにこの部屋にある鏡は俺の後ろに位置していた。

「着たぞ。これからどうするんだよ。」

「前をあわせてくれないか。皮を閉じるから。」

「皮を閉じる。それじゃあ、俺は戻れないじゃないか。」

「大丈夫。大丈夫。閉じても接着面をはがすクリームがあるからいつでも戻れるよ。戻りたければね。」

そういいながら、奴は、俺の前を合わせると、クリームを塗った。塗ったあとは、傷ひとつないきれいな肌になっていった。そして、この皮は俺の体に密着し、あそこの感覚も変わった。こうして俺は、姉になった。

「さあ、終わったよ。どうだい。」

「どうだいっていっても・・・あ、こえが・・・・」

そう、俺の声もあの姉の声に変わっていた。そして、胸も妙に重く、股間がさびしい気がした。胸に手をやるとそのふくらみと、感触が、手と胸のふくらみから感じられた。

「うふぁ〜」

無意識のもみだすとその感触は数倍にも膨れ上がった。

「お姉さま、はしたないですわよ。これで完全にお姉さまね。よろしくね。お姉さま。」

へたり込んだ俺に、奴は、彼女の顔で俺に微笑みかけた。それは天使のような悪魔の微笑だった。

そして、生まれ変わった俺の足元には皮を剥がされ宇宙人のグレイのような姿になった姉が気を失って転がっていた。

 

「グフフフフフ、半年前にストーカーしていた者が、された者といっしょの部屋にいるなんて誰が思うかしらね。」

「それはもういわないで、それよりあの二人は大丈夫なの。」

「大丈夫よ。二人とも強力な睡眠薬で眠ってもらっているわ。目覚めたら、自分たちに調教されるとも知らずにね。」

「姉が妹を・・・」

「妹が姉を・・・ね。」

俺たちは、これから始まる楽しい生活に思いをはせて、腹のそこから笑い出した。そして、それは、新しい娯楽の始まりでもあった。

 

私評

どうも、暗い話になってしまいました。私の願望かな?

被害者が加害者になる。ひょっとしたら、あなたの近くにも、最近様子が変わった方はいらっしゃいませんか?

その方は、本当にその方でしょうか?

登場人物の名前ですが、もっと短い話のつもりだったので、考えていませんでした。それで最後まで突っぱねてしまった。ま、いいか。ね。

 

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