キャンプ地にて

作:toshi9






 その日仲間同士でとある島にキャンプにやってきた西岡ひろしと平下徹は、自炊用のおかずにと、勇んで海釣りに出かけた。だがいくら粘っても魚は一向に釣り上がらない。
 結局さしたる収穫もなく、二人は仲間の待つキャンプ場に戻ろうとしていた。

「おい、このままじゃみんなに馬鹿にされるぞ」

「そうだよなぁ、それにしても絶対に釣れると思ったんだがなぁ」

 このままでは、残っている仲間に馬鹿にされる。

 二人は止む無くキャンプ場に戻らず魚屋を探し求めた。

 言うまでも無く、それは魚屋で買い込んだ魚を自分たちが釣ったものとして持ち帰ろうというアイデアなのだが、来た道を外れて枝道に入ったのがまずかった。

 結局二人は道に迷ってしまったのだ。

「おい、ひろし、ほんとにこの道でいいのか?」

「大丈夫、大丈夫。ほら、確かあの十字路を曲がってまっすぐ行けば」

 だが、行けども行けどもキャンプ場は見えてこない。

 結局再び見知らぬ海岸に出てきてしまったのだった。

「困ったな〜」

 途方に暮れる徹。だがひろしのほうはさして悪びれる様子もなく、海沿いに建てられた別荘のような大きな家を指差して言った。 

「おい徹、あそこの家でキャンプ場への道順を教えてもらおうよ」

「あの家か? だけどあんな大きな屋敷だぞ、大丈夫か」

「この際そんなこと言ってられないだろう。大丈夫大丈夫。それにぐずぐずしていると日が暮れるぞ」

「お前って奴はほんと能天気だな。でもまあ確かにあそこで聞いてみるのが早いかもな」

 そう、辺りには海沿いに建っている塀に囲まれたその屋敷しかない。

 徹は意を決してその屋敷の玄関のチャイムを鳴らした。

 ピンポーン

「すみません、誰かいませんか」

 程なくインターホンの向こうから女性の声が返ってくる。

「どなたかニャ? 何かご用かにゃあ」

「この島にキャンプに来たんですが、道に迷ってしまって。すみませんがキャンプ場までどう行ったら良いのか、教えてもらえませんか」

 しばらくの沈黙の後、インターホンの向こうから返事が返ってくる。

「それはお困りですね。取り敢えず中にお入りください」

「おい、やったな」

「ああ、これでどうやら帰れそうだ」

 ほっと安堵した二人が屋敷の玄関の前で待っていると、やがて扉が開いて、中から一人の女性が顔を出した。

 だが出てきた女性の姿を見るなり、二人は固まってしまった。

 その女性は虎縞の水着の上から白いエプロンを着けていた。

 そう、徹もひろしもエプロン姿の彼女に、一瞬この屋敷のメイドかと思ったのだが、よく考えてみると、水着の上からエプロンというのはいかにもおかしい。しかも彼女の頭には猫耳、そしてパンツの中からはにょきっと尻尾が伸びているのだ。顔をよく見ると、頬にはどうも猫のヒゲらしきものまで生えている。

「おい」

「ああ」

 一歩後ずさりする二人。だがエプロン姿の彼女は二人を招き入れようとする。

「さあどうぞ、にゃかに」

「あ、でも僕たち道を教えてもらえば、それで……」

「先生からお困りの方を中に通すようにと言われたんだニャ。さあ、中でお茶でも……」

 にかっとネコ笑いをしながらまさに招き猫のように手首を折って招き入れるその姿が、妙に似合っていたりする。

「はあ、それじゃあ、ちょっと」

 徹とひろしは思わず顔を見合わせたものの、結局誘われるように屋敷の中に入ってしまったのだった。





「す、すげえな〜」

 屋敷に招き入れられた二人は、左右を見回しながらどきもを抜かれていた。

 廊下には自分たちの背丈と同じくらいの高さの様々な彫刻が、所狭しと飾られている。

 ギリシャ神話の神々や女神のようなものから、動物の像、特撮ヒーローや怪人らしき像、それに半裸の女の子の像といったものが、広い廊下の左右に並べられているのだ。

「すごいけど、何か一貫性がないな。どういう趣味をしているんだ」

 左右をきょろきょろ見回しながら廊下を歩く二人は、やがてソファーの置かれた応接室らしき部屋に通された。

「ここで待ってるんだにゃあ」

「は、はあ」

 ぺこりとお辞儀をして出て行く猫娘を、二人はぽかんと見送るしかなかった。

「お、おい、俺たちこれでよかったのか?」

「まあいいんじゃない。しかしかっわいい子だったなあ。名前なんて言うんだろう」

「お前ってつくづく能天気な奴だな。それにしても、なあ、あの子ちょっと変じゃないか?」

「変って?」

「頭から突き出ていたのって、まるで本物の猫の耳みたいだったじゃないか。それに尻尾やらヒゲまで……」

「そう言えばそんなものがあったような。でも俺あんまり気にしないから」

「気にしないって、何かこの屋敷ってめちゃめちゃ怪しいぞ」

「そうかなあ。でもいいじゃん、かわいいんだからさあ」

 二人がそんな話をしていると、部屋のドアがガチャリと開いた。

「やあいらっしゃい。なにやら道に迷ってお困りと聞きましたが」

「あ、お邪魔してます」

 応接室に入ってきたのは、白衣姿の中年の男だった。

 慌てて立ち上がってお辞儀する二人。

「ははは、座って座って。最近お客さんがちっとも来なかったんで退屈してたんですよ」

「は、はあ」

 顔を見合わせてソファーに座る二人だった。

「お二人のお名前は?」

「あ、俺は平下徹。こっちは西岡ひろしです。よろしく」

 挨拶する徹と一緒にお辞儀するひろしだった。

「お二人は、どちらから来たんですか」

「今朝、横浜のほうから」

「ほう、今日の船で到着したばかりですか、そりゃあ大変でしたね」

 その時さっきの猫娘が再び部屋に入ってくると、二人の前に淡い色の紅茶の入ったティーカップを置いた。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 紅茶を取ろうとする徹。

 だが、ミルクを置こうとするメイドの手と接触して、ティーカップを倒してしまった。

 こぼれた紅茶がテーブル伝いに徹のスラックスに垂れ落ちていく。

「す、すみません」

 猫娘は慌てて紅茶で濡れた徹のスラックスにナプキンあてて拭き取ろうとした。

「なにやってるんだ!」

「すみません、すみません」

「あ、いいですよ。これくらい外を歩いていればすぐに乾きますから」

「すぐに代わりをもってまいります」

「まったくお前という奴は、折角のお客様に」

 猫娘は、ぺこぺこお辞儀しながら部屋を出て行ってしまった。

「あの〜」

「すみませんでしたね。慣れないもので。後できつく言っておきますので」

 はて?

 妙な違和感を感じた徹だったが……。

「ああ、いいんですよ、これくらい。それよりもあの娘って人間なんですか? あの猫の耳、尻尾、ヒゲ、どう見ても本物に見えるんですけど」

「おい、徹、そんなことどうでもいいじゃないか」

 自分の紅茶を飲みながら、他人事のようにひろしが言う。だが白衣姿の男は、よくぞ聞いてくれたとばかりににやりと笑った。

「ほほう、知りたいですか?」

「え? ええ」

「わかりました。それでは私についてきてください」

「はあ」

 男は嬉しそうに立ち上がると、応接室の扉を開けた。

「あ、あの俺たち、帰り道さえ教えてもらえれば……」

 だが男はさっさと部屋から出て行く。

「お、おい、どうするんだよ」

「質問したのはこっちだからな。ついていくしかないだろう」

「全く俺たち何やってるんだろうな」

 男は廊下の一番奥の部屋の扉を開けた。

「さあ、こちらにどうぞ」

 振り返った男は、中に入るよう二人を促す。

 結局徹とひろしは男について中に入っていった。







 部屋の中には1本の太い金属製のバーが左右に渡され、そこには奇妙なものがいくつも吊り下げられていた。

 巨大ヒーロー、戦隊ヒーローらしき五色のカラーリングのマスクマン、或いは怪獣、鬼、羽のついた妖精や人魚といった異形の生き物。そしてどれもがその背中がぱっくりと開いている。そう、それらは特撮番組で使われる類いの着ぐるみのように見えた。

「あ、あの、これって……」

「私は長年特撮番組用の着ぐるみ作りをやってましてね。ここは私の研究所兼製作所なんですよ」

「はあ」

「より本物らしく、いや、本物よりも本物らしく、それが私が長年追い求めていた夢なんです」

「はあ」

「さっきの猫娘ね、あれも私の作品の一つなんですよ」

「はあ…………ええ!?」

 何気なく聞いていた二人は、その言葉の意味に気がついて、すっとんきょうな声を上げた。

「でも、さっきの彼女ってとても気ぐるみには見えませんでしたよ。どう見ても本物の女の子、いや猫娘……」

「私は長年研究を重ねて、遂には本物よりも本物らしい着ぐるみを作ることができるようになったんですよ。あの猫又は私の傑作のひとつなんです」

 ガチャリ

 その時、代わりの紅茶を持ってきた猫娘が入ってきた。

「こちらでしたか、先生」

「おい、洋介。お前、お客様にそれを脱いで見せるんだ」

 白衣の男は、猫娘にそう命令した。

「今ここで、ですか?」

 恥ずかしそうに猫娘が答える。

「そうだ」

「で、でもこれを脱いだら僕は……」

「構わん。早くするんだ」

「は、はい」

 猫娘は観念したように後頭部に手を回すと、背中に沿って何かをすっと下ろしていった。それはファスナーの取っ手のように見える。

 途端に猫娘の背中が着ていた服ごとぱっくりと割れた。

 両手を使って、まさに着ぐるみを脱いでいくかのように己の全身を脱いでいく猫娘。

 そして、その中からにゅっと現れたのは、ほっそりとした猫娘の中にどうやって入っていたのか、ベージュ色のぴっちりしたパンツ一枚だけを履いた20歳くらいの小太りの男だった。

「私の助手です。勿論彼は男ですよ」

「ええ? 本当に着ぐるみだったんですか!? でも、この人がどうやってあんなプロポーション抜群の女の子に。信じられない」

「たった今君たち自身が見ていた通りですよ。どうです、私の傑作は。すごいものでしょう」

「はい! すっごいですねぇ」

 ひろしが何かに憑かれたかのようなわくわくした表情で答える。

「それで、あ、あのう、お願いがあるんですが」

 ひろしが脱ぎ捨てられた猫娘の着ぐるみをちらちらと見ながら、白衣の男に尋ねた。

「何かね」

「お、俺、あれをちょっとだけ着てみたいんですが」

 そう言うと、ひろしは床に転がっている猫娘の着ぐるみを指差した。

「お、おいひろし、お前何を言い出すかと思えば」

「だって面白そうじゃないか、あれを着たら俺もほんとに猫娘の姿になれるのか」

 ひろしの頼みを、白衣の男はにこにこと聞いてたが、やがて床に転がった猫娘の着ぐるみを拾い上げると、ひろしに差し出した。

「ふふふ、ひろし君と言ったね。これを着てみたいんですか?」

「はい! ぜひ」

「いいですよ。自分で試してみるといい、この私の傑作の素晴らしさを」

 にやっと笑いながら、男は猫娘の気ぐるみをひろしに手渡す。

「それじゃあ……いきま〜す」

 妙な宣言をしたひろしは、ちょっと緊張した面持ちでぱっくり開いた猫娘の背中に足を突っ込もうとした。

「待ちなさい、それを着る前に服を脱がなきゃ駄目ですよ」

「服を……脱ぐんですか」

「今着ている服は全部脱いで、パンツを私の助手が履いているアレに履き替えてください。おい、高橋、出してやれ」

「はい」

 パンツ一枚の助手は、部屋の棚から肉色のパンツを取り出した。

「さあ、服を脱いで、それをはくんだ」

 ひろしはこくりと頷いて、ぽんぽんと着ている服をその場に脱ぎ捨てると、あっという間に裸になった。

 そして助手から肉色のパンツを受け取るや否やそれ履いた。

 伸縮性のあるパンツは、ひろしの下半身にぴたりと密着して、股間のものを包み込む。

「よし、それでいい。着たまえ」

「そ、それじゃあ、いくぞ、徹」

「なんで俺に断るんだよ。それよっかお前、早くしないと……」

「ああ、ちょっとだけだよ、ははは。それじゃあいきま〜す」

 猫娘の着ぐるみの中に足を突っ込んで、体を潜り込ませていくひろし。

 まるで薄い皮のようなその着ぐるみをぐっと引き上げると、足に、太ももにそれは密着していく。

 不思議なことに、ひろしの下半身に密着した猫娘の着ぐるみの下半身は、ひろしが着た途端に男のひろしのシルエットではなく、助手が着ていた時を同じように豊満な女性のラインを描いていた。

 徹は目をぱちくりさせていた。

「お、おい、お前のその体」

「ああ、なんだか変な感じだ」

 ひろしはさらにぐいぐいと上半身に着ぐるみを引き上げ、自分の腕を細いの猫娘の腕の中に通していく。

 猫娘の細い腕の中にも、すんなりとひろしの腕は通り、指先までぴたりと密着する。指の先端の猫のような鋭い爪さえも、本物のようにしか見えない。

 やがてあごの下に垂れ下がる頭だけを残して、ひろしは猫娘の着ぐるみをすっかり着込んでいた。

 その姿は顔こそひろしのままなものの、首から下はスタイル抜群の女性にしか見えなかった。

「おいおい、どうなってるんだよ、それ」

「さあな。俺にもよくわからないよ。でも後はこの中に頭を入れれば」

 猫娘の頭に自分の頭を潜り込ませたひろしは、同時に背中のファスナーをうなじにまで引き上げた。ファスナーの取っ手は、引き上げると猫娘の髪に隠れて目立たなくなる。

 頭部の微妙なずれを両手で調節するひろし。いや、その姿はもうさっきまでの猫娘そのままだ。胸とお尻がつんと突き出て、その腰は細くくびれている。虎縞模様の水着を着たその姿は、とても中にひろしが入っているようには見えない

「おお! すげえ。俺がこんな姿に!」

 虎縞のブラジャーに包まれた大きく盛り上がった胸を両手で揉むひろし。途端に尻尾が彼の快感を反映するかのようにピンと伸び、そしてくねくねと左右に振れる。

「お、お前、どうしたんだ、尻尾が動いてるぞ」

「あん、何か気持ちいい。なんでだ、これってなんだか揉むと気持ちよくって、尻尾の先まで感じ……は、はにゃあ」

 胸を揉んだまま、その場に座り込むひろしだった。

「え? だってそれって、胸も尻尾も全部作り物だろう」

「ふふふふ、言っただろう、私の作った傑作は本物よりも本物らしくなると。どうだい、徹君。君も何か着てみるかい?」

「い、いえ、俺は……」

「遠慮するにゃよ、徹」

「お、おい、ひろし、お前なんだかしゃべり方がおかしいぞ」

「そうかにゃあ」

 ぽりぽりと足で頭を掻く猫娘姿のひろし。その仕草はまるで猫のようだ。

「ふふふふふ、それを着たひろし君はもう私の飼い猫だよ。さあ君も私のものになるんだ。おい高橋!」

 その言葉に呼応するように、助手が徹の後ろからがっちりと羽交い絞めにする。

「ひろし君、徹君にそのお茶を飲ませてやってくれないか」

「わかったニャ」

 立ち上がったひろしはテーブルに置かれた紅茶を手に持つと、身動きの出来ない徹の口元に寄せた。

「おい、なんだ、この紅茶は」

「眠りたまえ、そして眠りから明けたときには君はもう、ふふふ」

「やめろ、やめ、やめ……ろ……」

 猫娘になったひろしに無理やり紅茶を飲まされ、徹の意識は遠くなっていった……。








 ぺろっ、ぺろぺろっ

(う、う〜ん)

 ぺろぺろぺろ

(なんだ、何か体を舐められてるみたいな、誰だ、気持ち悪い)

 己の下半身を誰かに舐められているのを感じ、徹は目を覚ました。

「ん〜ん〜ん〜」

 目覚めた徹は、だが思うようにしゃべることができなかった。

 どうやら口を布で縛られているようだ。

 いや、口だけではなかった。

 ぼーっとしていた頭がはっきりしてくると、徹は自分の両手を縛り上げられ、天井から吊るされているのに気が付いた。

 おまけに下半身がどうにも妙な感覚だった。

 天井から吊るされているので足が地面についていないのは当然なのだが、それにしても足を動かそうにも動かせない。いや、それ以前に指先や足首の感覚が全くない。まるで両脚が一つにくっついてしまったかのような感覚だ。

(なんだ、なにが起こって?)

 ぺろぺろぺろ

(ひゃうっ、誰ださっきから、人の体を舐めて、気持ち悪い)

 誰かがさっきから自分の体に抱きついて、舐めている。だが吊るされているので誰が舐めているのかよくわからない。それでも必死で顔を下に向けると、下のほうから舐めているのはどうやらあの猫娘、いやひろしのようだった。

「ん〜ん〜ん〜(ひろし、お前どうしたんだ、しっかりしろ)」

 猿轡をされてうまく喋れない。だが徹が目を覚ましたことに気が付いた猫娘、いやひろしは舐めるのを止めた。

「徹、お前おいしそうになったにゃあ」

(おいし……そう?)

 そう言われてよく自分の体を見ると、胸が大きく膨らんでいる。そして盛り上がった胸は黒いブラジャーで覆われていた。

 その下は胸が邪魔でよく見えない。感覚の無い下半身がどうなっているのか気になったものの、徹は自分の目で確かめることができなかった。

(おい、ひろし、いったいどうしたんだ。この胸はなんだ、俺はどうなったんだ)

 その時、突然ドアが開いた。

「おお、ようやく睡眠薬の効果が切れたようですね。どうですか? 私の傑作の着心地は」

 首をやっとのことでドアのほうに向けると、そこにはあの白衣の男が立っている。

「ほら、鏡を見てごらん」

 男が指差した壁の一角には巨大な鏡が据えられている。そしてそこに映っているのは、猫娘に抱きつかれたピンクの長い髪の人魚の姿だった。それもかなりの美人だ。

(美人だけど、でも、これって……これってまさか俺なのか!?)

「ん〜ん〜ん〜(縄を解け! これを外すんだ!)」

 だが男は徹の訴えを無視するかのように、手に持ったカメラを向けた。

「うん、いい絵が撮れそうだ。この手の写真が大好きなコレクターもいるんでな」

「ん〜ん〜ん〜(何をする! 写真なんか撮ってどうしようって言うんだ)」

「合点がいかないって顔をしているね。よろしい、教えてあげよう。こういう写真が好きな好事家に売るんだよ」

(売る??)

「作品名『人魚と猫又』ってところかな。いい値段で買ってくれるお客さんがいるんでね。研究資金を稼ぐために二人の助手に着させて色々な作品を撮っていたんだが、高橋の相棒が逃げ出したんでどうしようかと途方に暮れていたところだったんだ。いや、二人が来てくれて丁度良かったよ」

 白衣の男はにこにこと笑いながら話し続ける。

「さあ、もっとこっちを向いて。君は猫又に食べられる人魚なんだ、もっと恐怖に引きつった表情をしてくれなきゃなぁ」

「ん〜ん〜ん〜(や、やめろ、そんな、やめてくれ!!!!!)」

 助手が徹とひろしにカメラを向ける。

 ひろしはそんなことにはお構いなしに、人魚と化してしまった徹の体を舐め続けていた。

「ん〜ん〜ん〜(や、やめ、うひゃぁ、やめろ、やめろ、やめろお〜〜〜!!)」




パシャッ、パシャッ、パシャッ。







(終わり)



inserted by FC2 system