アナタに訊きたいコトが・・・・ 8
横浜を出航した超豪華客船『クィーン・ヴィクトリア』は一路ハワイへと向っていた。
そして、この客船の中で今まさに日米野球ファンにとってのスーパースターの会見が行われていた。
「ところでMr.ICHI○。貴方はJapanでも、本国でも大活躍ですが、その秘訣はいったいなんです?」
会見会場で、ステージ上の野球選手・ICHI○は、スーツの内ポケットから一本のドリンクを出して演台用のテーブルの上に置いた。
「そのドリンクが、あなたの活躍の秘訣ですか?」
記者の一人が聞いたが、ICHI○はなにも答えずにすまし顔をしていた。必要以上のことは話さず、それでいてぽつんと話すときのジョークのうまさは定評があり、記者受けがよかったので彼の沈黙に対して不快感を表す記者はいなかった。
「ICHI○。それが秘訣だとすると貴方の活躍はドーピングの疑いがありますね」
記者の一人が意地悪い質問をしたが、ICHI○はその質問にちょっと微笑んだ。
「ICHI○!そのドリンクがあなたの男らしさの秘訣と考えてもいいのですか」
「それを飲むと、我々もICHI○に成れるのかな?」
「企業秘密です」
さわやかな笑顔を浮かべてICHI○は、立ち上がると、その会見の場を立ち去ろうとした。と、その時会見会場の後ろの扉が開いた。
「男になれるドリンク?」
勢いよく開いた扉のところにはずぶ濡れのショートカットの少女が、立っていた。少女は身構えるとステージのテーブルの上に置かれているドリンクを目指して脱兎のごとく駆けだした。だが会場を出掛かってドリンクを忘れた事に気づいたICHI○は、クルッと身体を回すとステージに戻った。少女はジャンプして手を伸ばしテーブルの上のドリンクをつかもうとした。だが、少女がドリンクをつかもうとする一瞬前、ICHI○はドリンクを持つと照れ臭そうに記者たちに微笑んでステージを降りた。勢いのついていた少女は止まることが出来ずにテーブルにダイビングした。彼女はテーブルを巻き込んでステージの上に転がった。テーブルと一緒に団子状になってステージを転がった少女は壁にぶつかって止まった。テーブルと絡まった少女は、何かを掴もうとするかのように手を高く差し伸べた。
「ぼ、ぼくのドリンク・・・」
そう叫ぶと少女は気を失った。そこへ少女を探し回っていた船員たちが駆け寄ると少女を助け出しタンカに乗せて、会場から運び去った。
「一体この子はなんなのだ?さっき海面を漂っているところを救い上げられた時には虫の息だったのに。いったいどこにこれだけのパワーがあったのだろう?」
この少女の救出現場を見ていた記者の一人は、タンカの上でぐったりとなって運び出される少女を見送りながら呟いた。
誰も気づいてはいなかったが、タンカで運ばれる少女は微笑んで舌なめずりをしていた。それがどんな夢なのかは誰にもわからないだろうが・・・