夢堕ち(後編) 作:toshi9 「う、うーん」 正輝が気がついて顔を上げると、そこは自分の部屋だった。昼間の疲れと勉強疲れでうとうとしてしまったらしい。 「ほっ、ゆ、夢か」 ほっとする正輝。 「全く何て夢だ。保奈美とあんなこと……」 体を動かそうとする正輝。だが動かそうとしても動かせない。しかも良く見ると、部屋の中の物全てが異様に大きく見える。 「え? これって……まさかさっきのまま」 そう、正輝はメイドフィギュアのボディのまま再びメイド服を着せられ机の上に立たされていた。 「やあ正輝君、気がついたかい?」 彼の目の前には男雛が浮かんでいる。 「なかなか面白かったよ。でも上手くいかなかったようだな。さて今度は僕の番だ」 「上手くいかなかった? どういうことだ」 「そんなことどうでもいいじゃないか。まあ君はそこで大人しく見ているんだな」 そう言いながら、男雛は首を切り離されて横たわったままの正輝の元の体に近づいていく。 「おい、何をする気だ」 「首を無くした体を、君の代わりに僕が使わせてもらおうと思ってね」 「は?!」 男雛は、正輝の体の上で止まると、すうっと降りていった。そして正輝の体に触れた男雛は抵抗もなく正輝の体に溶け込み、融合していく。 「ふふふふ」 正輝の体に完全溶け込むと、男雛は本来正輝の首があるべき場所に自分の首を出した。と同時に正輝の体は元の大きさに戻っていく。すると今度は男雛の首が別な顔に変化していく。 やがてその指がぴくりと動き、正輝の体がむくりと立ち上がる。 その顔はすっかり正輝そのものになっていた。 「ふん、なかなかいい身体じゃないか」 拳を握ったり開いたりしながら、正輝の体の感触を確かめる男雛。 「俺、俺がいる」 「ふふふ、君はそのままそこで大人しく見てるんだな。この俺の、中島正輝の作ったメイドフィギュア人形としてね」 正輝の口調で話しかけながら、正輝になった男雛は床に落ちた正輝の服を着ていった。 「くそう、俺に成りすまして何をする気だ」 「何をするって? ほら、そこに本物の神宮寺保奈美が寝ているんだ。でももうすぐ目覚めるよ。彼女にもたっぷり楽しんでもらうのさ」 「保奈美? どうして保奈美がここに? いやそれより楽しむって、まさか保奈美に……保奈美に変なことするんじゃない!」 「変なこと? 変なことなんかしないよ。僕と遊んでもらうだけさ。どうやら彼女は君の事が好きみたいだし、彼女だってきっと喜ぶよ。ふふふ、楽しみだな」 男雛は正輝の顔でにやっと笑う。 「うーん」 その時、ベッドに寝かされていた保奈美が声を上げた。 「どうやら彼女が目を覚ましたようだな」 「保奈美、気をつけろ! そいつは俺じゃあな……」 「うるさいなぁ、ちょっと黙ってなよ」 男雛がそう言った途端、正輝の顔から表情が消え、口からは声が出なくなってしまった。 (保奈美、そいつは俺じゃない、騙されるな!!) 叫ぶ正輝。だがその声はもう保奈美には届かない。 「う、うーん、あれ? ここは?」 「気がついたかい? 保奈美」 「あ、正輝君、さっきの雛人形は?」 「あれかい? ふふふふ」 「どうしたの? 正輝君ったら変な笑い声を出して。あれ? ここって正輝君の部屋だよね。あたしいつの間に……」 「なあ保奈美、そんなことより俺、前からずっと欲しいものがあったんだ」 「欲しいもの?」 「ああ」 「急にどうしたの? それに欲しいって何のこと?」 「俺が欲しいもの、それはお前のその身体さ」 そう言うと、正輝はその唇を保奈美にぎゅっと押し付けた。 正輝の唇の感触を感じた瞬間、保奈美は意識を失った。 「う、うーん、あ、あれあたし!?」 保奈美が気が付いてベッドから上半身を起こすと、自分の着ている服がおかしいことに気がついた。 そう、いつの間にかズボンをはいているのだ。それに上着もさっきまで着ていたものと違う。いや、それはさっきまで正輝が着ていたものと同じシャツだ。 「どうしてこんな服……あれ? 声がおかしい」 体をまさぐる保奈美。だがその胸に膨らみはなく、ズボンの股間に手を伸ばすと、そこにはもこっとした膨らみがある。 「ええ!? 何よこれ」 慌てて体をまさぐる保奈美。ふと気がつくと勉強机の椅子にピンクのセーターと紺のデニムのミニスカートを着た女子が足を組んで座っている。 それは彼女自身だった。 「え? あたし? あたしがもう一人?」 保奈美は目の前に自分がいるのを見て愕然とした。 「うふふふ、俺が欲しかった君の体、確かにもらったよ」 「正輝君……なの?」 (違う、違うんだ保奈美、そいつは俺じゃない、俺がそんなことをするものか!!) 男雛が成りすました自分と保奈美が入れ替わってしまったことを見せ付けられ、正輝は思わず叫び声を上げずにはいられなかった。だが彼はメイドフィギュア人形として無表情のまま声を出すこともできずに机の上で見ているしかないのだ。 「そうさ、保奈美ってとってもかわいいだろう。それに女の子の体って気持ちよさそうだし、段々羨ましくなってさ。そうだよ、僕は君になってみたくなったんだ。そしてやっとその夢が叶ったんだ。君には俺の代わりに俺の体になってもらったよ。だから俺が今から神宮寺保奈美で君は中島正輝なんだ。ほら正輝君、自分の体をもっとよく見てごらん?」 そう言いながら、椅子に座ったもう一人の保奈美は立ち上がると、正輝のズボンのベルトに手を伸ばし、トランクスと一緒に強引に引きずり下ろしてしまった。 己の股間にペニスがついているのを見て、正輝の顔で保奈美は顔をしかめた。 「これ、あたしにこんなモノが、いや!」 「何言ってるのさ、もうそれは君のモノだ。ほら、こうすると気持ちいいんだよ」 椅子に座り直したもう一人の保奈美はふふんと笑うと、正輝の体で呆然としている保奈美の股間に脚を伸ばしてその足をぐりぐりと押し付けた。その刺激に、段々と股間のペニスが硬く膨らんでくる。 「ほら、ココが大きくなってきた。気持ちいいだろう、男の体って気持ちいいだろう?」 足を動かしながら、保奈美の声で妖しくささやく。 「そんな、何、この感じ、何かが、いやあ、やめて……あ、あう」 ぐりぐりと足で股間を刺激されて喘ぐ正輝。 だが椅子に座った保奈美はその行為をやめようとしない。男雛は保奈美の体を奪った正輝を演じ続ける。 「ふふふ、君は俺になってしまうんだ。そしたら俺はこのままずっと君になってあげるから。保奈美ちゃん、いいや正輝君、男の快感を感じている君はもう正輝君なんだよ」 「い、いや、こんな、あなたほんとに正輝君なの? なんだか……やめて、ねえやめて、はううう」 ぐりぐりぐり 「や、やめて、あ、あう」 ぐりぐりぐり 「あ、ああん、や、やめてよ、なんか変な感じが、なにかが出そう」 「ほら、いっちゃいなさい。男の子でしょう正輝君」 「違う、あたしは保奈……美」 ぐりぐりぐり 「ほらほらほら、気持ちいいでしょう、いいのよ我慢しなくても。うわぁ、こんなに大きく硬くしちゃって、いやらしいんだ。正輝君のえっち」 ぐりぐりぐり 「ああん、何か、いや、何か出てくる、だめ、なんか、ああ、でちゃうううう」 その瞬間、正輝の股間で極限まで膨らんだペニスの先端からからびゅびゅっと精液が噴出した。 それはみるみる保奈美の足を伝って床に垂れていく。 「ああ、あたし、いっちゃったの? これが男の人の……あたし、いや、おれ」 意思を無くしたかのように、両脚を投げ出したまま呆然と呟く正輝。 「そう、あなたはその体でいっちゃったの。男として。あなたは正輝君なの。あたしの、神宮寺保奈美の友だちの中島正輝君、そうでしょう」 足についた正輝の精液をティッシュでふき取った保奈美は、椅子に座ったままにやにやと自分が誰なのかわからなくなり始めた正輝を見詰めた。 「正輝……俺が……中島正輝」 「そうよ、ほら、そんなにいっぱい出しちゃって、正輝君のお母さんに怒られちゃうわね。でも」 正輝の股間に顔を近づけると、保奈美は艶かしく舌を出し、まだ白い精液が付着したままの正輝のペニスをかぷっと口に含んでゆっくりと舐め始めた。 「ああ、いい、気持ち……いい」 「そうよ、気持ちいいでしょう、正輝君、ほら、もう一回出しなさい。そしてあなたは身も心も中島正輝になるの」 「ちがう、おれは……あ、ああ、いい」 保奈美の舌使いに再び膨らみを増す正輝のペニス。そして正輝の体で刺激を受け続ける保奈美の意識はますます混沌とし始めていた。 「ああ、出る、保奈美、俺の為にこんなこと……好きだ……好きだ保奈美」 自分のペニスにしゃぶりついてた保奈美の体を抱き締める正輝。 「ね、いいでしょう、それが男の、正輝君の感じなのよ、そのまま正輝になっちゃになさい」 「保奈美、保奈美、保奈美」 保奈美の体を押し倒して、硬くなった己のモノを彼女の股間に当てがった正輝は、もう自ら腰を使い始めていた。 (やめろ、やめてくれ、保奈美、お前は俺じゃないんだ、やめろ、やめろお!) メイドフィギュアとして何もできずにその光景をじっと見ているしかない正輝は、心の中で叫び出していた。 だがその叫びは正輝化した保奈美に届かない。 「うっ、いくっ!」 やがて腰を動かしていた正輝がピンと背筋を伸ばす。押し倒された保奈美が「あん」と声を上げる。 正輝が保奈美の中でイッた瞬間だった。 「はぁはぁはぁ」 「気持ちよかったね、正輝君」 「ああ、よかったよ、保奈美」 荒い息をしながら保奈美を抱き寄せる正輝。 「でもね」 正輝の腕の中で、正輝を見上げる保奈美。 「ん?」 「でもあなたはやっぱり正輝君じゃないの。あなたは神宮寺保奈美でしょう。そう、あなたは自分で自分の体を抱いたのよ、犯しちゃったの、ほら、これはあなたが自分自身の中に出したものよ、あっははは」 「え? はっ」 正輝の腕を解いて目の前で股を大きく広げる保奈美。閉じきってない隙間から白い濁液がしたたり落ちる。 いつのまにか自分のことを正輝だと思い込んでいたことに気がついた保奈美は、目の前にいるもう一人の自分の姿を見て息を飲む。 「い、いやああああ!」 (ほなみいいいいい!) 保奈美の絶叫が部屋に響く。 その瞬間、保奈美と一部始終を目の前で見せ付けられていた正輝は意識を失った。 「え? はっ」 正輝が気がついて顔を上げると、そこはやはり自分の部屋だった。昼間の疲れと勉強疲れでうとうとしてしまったらしい。 「ほっ、ゆ、夢だったのか。でも何てひどい夢だ」 ほっと胸をなで下ろす正輝。だが後でくすっと笑う気配に振り向くと、ベッドに保奈美が腰掛けている。 「正輝君、気がついた?」 「保奈美、お前どうしてここに」 「どうして? だってさっきからずーと一緒だったじゃない」 「一緒? まさかあれは夢じゃないって言うのか、いや、だって……まさかお前、お前は保奈美だよな」 「ふふふ、彼女はもうここにはいないよ。彼女は僕たちの狙い通り心を閉ざしてしまった。だからこの体はもう僕たちの思うままに使うことができる。まあ初めからそのつもりだったんだけどね」 「き、貴様、誰なんだ」 「誰って、もう忘れちゃったのかい? ほら」 保奈美が手を広げると、その上に女雛が現れる。どこか保奈美に似たその顔は涙で濡れていた。 「その女雛……まさかその中に保奈美がいるって言うのか?」 「その通り、そして君ももうすぐこうなるんだ。体はもう一つ必要だからね」 「男雛か」 「その通りさ。君は僕たちの代わりに封印された雛人形の中で生きていくのさ」 「くっ、そんなこと……お前達、何者なんだ」 「僕たちは夢使い、他人の夢に入ってその夢を思い通りにできるんだ。いろんな人間の夢の中に入ってはいろいろ楽しませてもらってたんだけど、ある日運悪くここの宮司にこの人形に封印されてしまったんだよ。今より何百年も昔の話さ。でも君たちがこうして解放してくれてから、人間に戻ることができた。感謝するよ」 「何が感謝するだ、保奈美を元に戻せ!」 「ふふふふ」 「何がおかしい」 「今起きてるこれは現実だと思うかい? 正輝君」 「え? どういうことだ」 「今僕たちが話しているここは、まだ君の夢の中なんだよ。君にはもっと楽しんでもらって、その果てに心を閉ざしてもらう。そして君の体をいただくよ。全くあれだけやってあげても壊れないなんてね、そろそろ最後の仕上げをしてあげるよ」 そう言って近づいた保奈美は、正輝の首に手を回すと、いきなり唇を彼の唇に押し付けてきた。 (んーんーんー……) 唇に保奈美の唇が触れ、そこからぞくぞくっとした快感が正輝の体全体を駆け巡る。 (はうう、なんて気持ちいい……) 無意識にぎゅっと保奈美を抱きしめる正輝。だがその意識はとろとろに溶けていくかのように段々と薄れていった。 「はっ!」 一瞬薄れた意識を取り戻した正輝は、慌てて彼を抱き締めている保奈美を引き離した。 「や、やめろ。これ以上保奈美を……え!?」 叫んだと同時に、正輝は慌てて己の口を手で塞いだ。 (お、俺の声じゃない!) 「どうだい、気分は。正輝くん、いいや、保奈美ちゃん」 正輝の目の前の人物は正輝よりも背が高かった。その為、抱き締められていた彼の視界には人物の着ている服しか入らない。 だが、抱かれたまま見上げた正輝はその顔を見て呆然してしまった。 彼を見下ろしてにやりと笑っているのは彼自身だったのだ。 「おれだって? そんな馬鹿な」 「僕は中島正輝、たった今からね。そして君が代わりに神宮寺保奈美ちゃんになったんだ。役割交代という訳さ」 「保奈美? 俺が保奈美だって!?」 体を見下ろすと、彼は自分がデニムのミニスカートをはいているのに気が付いた。ピンクのセーターの胸は盛り上がり、そしてスカートの裾からは剥き出しのすらりとした足が伸びている。気が付くとじっとりと濡れた下着が自分の股間に張り付いているのを感じた。 「こんな、ば、馬鹿な」 「さあ保奈美ちゃん、お楽しみはこれからだ。今から僕が君を犯してあげるよ。硬くなった君の、いや僕のコレでね」 己の股間にもぞもぞと手をあて、ぎらぎらとした欲望をその目に湛えるもう一人の正輝。元々自分自身である筈のその姿を見て、保奈美になってしまった正輝の背筋をぞっとした冷気が駆け抜けた。 (こいつ本気で俺を? お、俺が俺に犯される? そ、そんな!) 腕を振りほどいて慌てて逃げようとする保奈美と化した正輝。だがそんな彼の腕を、もう一人の正輝がぎゅっと握り締める。 「おっと、どこに行こうっていうんだい、保奈美ちゃん。いくら逃げようとしても無駄さ。だってここは夢の中なんだからね」 「や、や、やめろ、やめ……あうっ」 保奈美の両胸を背中越しに両手でまさぐるもう一人の正輝。 「うひゃ〜、やわらかい。やっぱり男に揉まれるより、男として保奈美ちゃんの胸を揉んだほうが気持ちいいね」 「あ、あう、あ、あん」 もぞもぞと正輝の手のひらが動く度に胸先から吹き上がってくる快感から必死で逃れようとする保奈美。 だが最早体がいうことを聞かない。 「だめだ、力が……入らない」 「かわいいよ、保奈美ちゃん。ほら、ここもすっかり濡れちゃって。ああ、これはさっき僕が濡らしたものか。くふふふ」 正輝は手を保奈美のミニスカートの中に潜り込ませると、濡れたショーツの中に指を差し込んだ。 「はうっ、や、やめ、ううう、いや、やめ……ろ……」 「ほらほら、気持ちいいだろう。ほら、ほらほらほら」 「い、いや、やめて……くれえ。ああ、力が……抜けて……ああん」 その場にしゃがみ込む保奈美。正輝は、そんな保奈美の濡れたショーツを手際よく脱がせると、己もトランクスごとズボン脱ぎ、彼女の両脚の間に下半身を押し付けた。 「い、が、あぐう」 自分のものが自分の中にぐいぐいと入り込んでくる。その感触にショックを受けながらも、やがて保奈美は体の内側から吹き上がってきた快感に体を震わせてもだえ始めた。 「あ、ああ。俺の中で動いてる、俺の、俺が」 「そうだ、君を犯しているのは僕、中島正輝だ。ああ、保奈美ちゃん、君の中ってとっても気持ちいいよ。暖かくって、僕のモノをきゅっと締めつけて。ああ……いい」 そう言いながら覆いかぶさった腰を上下させる正輝。 「あうっ、あうっ、あうっ」 (俺の目の前にいるのは誰だ。俺? じゃあ俺は誰だ) 「お前は、だれだ。俺、俺は……だれなんだ」 「ふふふ、僕は中島正輝。君は神宮寺保奈美ちゃん。僕が君を、保奈美ちゃんを犯しているんだよ」 「い、いやあ、そんなの」 「ほら、もうすぐだ、もうすぐいく、あ、いい、いく、いくぞ」 「だめ、やめ、やめ、あうう、やめ……て」 「うぉーーーー」 その瞬間、保奈美の両脚に間に埋まった正輝の体から彼の精液が保奈美の中に勢いよくほとばしった。 「あうっ、あうっ、あうっ」 体をがくがくと震わせながら、それを受け止める保奈美。いや……。 「犯された。俺が俺に……く、くふふ、ふははは」 「ああ、君の体、とっても気持ちよかったよ」 そう言いながら、保奈美の中からペニスを抜き出した正輝は、体を投げ出した保奈美の前に悠然と立っていた。 「貴様、よくもよくも」 「どうだい、女の快感は。君も気持ちよかっただろう、初めてだったんだろう保奈美ちゃん」 「そんな、違う、俺は俺で、俺は俺に、いや……ううう」 「言っただろう、君は保奈美ちゃんなんだって。それとも保奈美ちゃんの体は嫌かい?」 「当たり前だ」 「ふふっ、そう言うのを待っていた。それじゃその体も僕たちがもらったよ」 「え? ちょっと待って……」 「君にはこの体をあげるよ。良かったね、これからずっと保奈美ちゃんと一緒で」 正輝はそう言うと、手の平の上に男雛を出した。 その目がきらりと光る。 「そ、そんな、そんなの、う、うわぁあああああ」 「「はっ!」」 床に倒れていた二人が目覚めた。そこは宝物庫だった。 すす払いをしている途中で、二人はいつの間にか眠ってしまったらしい。 窓からは既に赤い西陽が差し込んでいる。 「……ふぅ夢か」 「う、うーん」 「おや、保奈美も目を覚ましたようだな」 「あ、正輝君」 「俺たち寝ちまったようだな」 「うん、あたしたち夢を見ていたみたいね」 「そうだな、良い夢だったな」 「そうね、良い夢」 にやりと笑う保奈美、そしてそれに合わせて正輝もにやりと笑う。 「さて、掃除も終ったし、今から遊びに行かないか?」 「そうね何百年ぶりだもんね、あ、それよりこれこれ」 保奈美はポケットから千切れた紙紐を取り出す。 そして床に置かれた男雛と女雛を結び直すと、置かれていた台に戻した。 「じゃあ正輝君、行こうか」 「ふふふ、行こうか、保奈美」 立ち上がって宝物庫を出ようとする二人。 扉に手をかけた保奈美が振り返る。 「ばいばい」 「…………」 二人は宝物庫の重い扉を閉めて錠前をガチャリとかけた。 男女の雛人形は真っ暗な宝物庫の中、涙の滲んだ目で閉じられた扉をただじっと見ていた。 (終わり) 後書き この作品は元々2006年夏コミの「新入れかえ魂Vol2」用に書き始めたものですが、途中ですっかり行き詰まって中断してしまったものです。結局「新入れかえ魂」には、がらりと設定を変えた「目覚めても悪夢」を出稿したんですが、今回「強制モノ企画」の為に、中断していたものに大幅に加筆修正を加えて完成させました。 内容についてですが、序盤の「さて……。」から後、二人が最後に宝物庫で目覚めるまでの間は、ずっと二人の夢の中のお話です。全ては宝物庫のすす払いの最中に二人が雛人形によって眠らされた数時間の間に起きた出来事で、目覚めた時には二人の中身は既に……という訳です。 二重の入れ替わりを描くのが難しくて少し読みにくかったかもしれませんが、楽しんでいただけましたでしょうか。 それでは最後まで読んでいただきました皆様、どうもありがとうございました。 |