ウルトラマンサヤ 第2話 -姿なき逆襲者- 作:toshi9 瓦礫の中の放り出された3人の悩みはそれぞれ全く違う。 紗矢は、裸になって家を壊されているこの状況を、まだ仕事から戻ってきていない両親にどう説明しようかと悩んでいた。 薫は、なんとなく着てしまった怪人スーツの脱ぎ方もわからず、「こんな怪人の姿でこれから先どうやって生きていくのよ〜」とパニックになりかかっていいた。 一方、聖也は「僕がなりたかったのは美少女だ。こんなふたなり少女じゃない」と、半ば斜め上の悩みにとらわれてた。 3人の中で最初に気を取り直したのは紗矢だった。 とにかくすっぱだかのままでいるわけにはいかない。何か着るものを見つけないといけないと、瓦礫の中から自分の服を探し始めた。 だが……突如湧いた濃い霧が瓦礫全体をすっぽりと覆いつくすと、3分後に瓦礫は元の家の姿を取り戻していた。 (すまなかった。私の力で君の家は元に戻しておいた) 「え? あなたは?」 (私はウルトラマン。異世界からの侵略者を阻止する者だ) 「空に飛んでいったんじゃなかったんだ」 (あれは幻にすぎない。既に私と君は一心同体だ) 「いっし…」 「紗矢!」 紗矢が「一心同体って、どういうことよ!」と聞こうとした瞬間、頭の中の声は途切れた。気がつくと薫が紗矢に声をかけていた。 「紗矢、ねえ紗矢、たった今まで瓦礫だったのに、いつのまにか元通りになってる。いったいどうなっているの?」 怪しげな怪人の姿に似合わない、ころころした薫の声だ。 「ウルトラマンが、壊れた家を元に戻しておいたって」 「え? 紗矢ってウルトラマンとお話ができるの?」 「えーっと、まあね」 「すご〜い、それじゃあたしの姿も元に戻せないのかな」 「うーん、それについては何も言ってなかったから」 「そんなあ、こんな気味の悪い怪人の姿なんて嫌! ねえ元に戻して、これ脱がせてよ、ウルトラマンにお願いしてよ」 紗矢の両肩を掴んでゆするように懇願する薫。だが怪人スーツの背中を見ても、背中にあったはずのファスナーは見当たらない。ウルトラマンの声も聞こえない。 「そ、そんなこと私に言われても」 「いやあ! 元のあたしに戻りたいよ〜」 叫ぶ薫。だがその姿が変化を始める。体全体が小さく、そしてスリムになっていく。肩幅が狭くなり、胸が膨らむ。そして黒一色だったその姿が明るさを取り戻すと、彼女の姿は本来の菱見薫の姿に戻っていた。 「あれ? 薫ったらちゃんと戻れたじゃない」 「う、うん、良かった」 ほおっと息を吐く薫。だが……次の瞬間、彼女の姿は再びごつい怪人の姿に変化してしまった。 「あれれ? どうして?」 「ねえ薫、もう一度自分の姿を思い浮かべてみたら?」 「え? ええ」 薫が(元に戻りたい)と自分の姿を思い浮かべながら念じると、その姿は再び制服姿の薫に変わる。 「あ、また」 「その怪人スーツって、もしかして他人に変身できる能力があるんじゃないの? スーツの変身能力で、薫の姿に変身しているとか」 「え? 私が私に変身?」 薫が顎に手を当てて考えている。 「それって……結局今のあたしは、あたしの姿をしていても怪人のままってこと?」 「そ、そうなるわね」 「そんなあ、そんなの嫌よ!」 「大丈夫、大丈夫よ、その怪人スーツだっていつかきっと脱げるよ。それに、その姿なら家族に怪しまれずにお家に帰れるでしょう。学校にも行けるし、これからゆっくり脱ぎ方を考えましょうよ、ねっ薫」 そう言って紗矢は薫の肩に手を寄せて慰めた。 「……うん」 薫は観念したように頷いたのだが、突然その姿が変化し始める。 今度は、スーツ姿の長身イケメン男子の姿に変わってしまった。 人気アイドルの上月翔だった。 「うわぁ、ちゃんと成れた! あたしが翔ちゃんだなんて、信じられない」 「薫、ど、どうしたのよ」 「試しに念じてみたの、上月翔になれって、そしたらなれちゃった。すっご〜い」 「ちょ、ちょっと、やめなよ、街中でそんなことしたら本物の怪人だって思われちゃうわよ、防衛軍に殺されちゃうんだから」 真剣な顔で体をゆする紗矢に、興奮していた薫も落ち着きを取り戻す。 「そうか、そうかもね」 そう言うと、薫は再び元の自分の姿に戻った。 とにもかくにも、落ち着きを取り戻した薫にほっと一息つく紗矢だった。 一方…… 「僕だってこんな中途半端な恰好は嫌なんだけど」 「あら? あなた結構気に入ってたみたいだったけど」 「僕は正真正銘の女の子になりたかったんだ。こんな中途半端な姿なんて我慢できないよ」 「いいじゃないの、そんなにかわいい女の子の姿になれたんだから」 「いや、だからこれだと女の子じゃないって」 そう言って聖也はスカートをまくり上げる。 露わになったショーツの真ん中がもっこりと盛り上がっている。しかも結構大きい。 「ちょっと、やめなさいよ、女の子がはしたない」 薫が聖也のあられもない格好に顔をしかめる。 だが紗矢は聖也の姿を見ているうちに、あることを思いついていた。 「あんたって、そこ以外はどう見ても女の子よね。それもとびきりの美少女だし」 確かに今の聖也の姿は、フリルのついた黒いゴスロリ衣装を着た美少女だった。カワモノ人1号によって加工された股間を除いては。 「あの怪人、そのスーツの子はコスプレイヤーだったって言ってたっけ。でもなんか妙に雰囲気あるし、本物の魔法少女だったりして。……ねえ魔法とか使えないの?」 「そんなの知らない…え?」 そう言う何もない聖也の右手に、突然バラの花をあしらった黒いステッキが現れる。 「ええっと、これってどこから」 「……魔法のステッキ……なのかな?」 「そうかも……ね、何かやってみたら?」 マジ? 内心そう思いつつステッキを手にした聖也を見つめる紗矢と薫。 「パラレル・ミラクル」 聖也はステッキを大きく弧状に振ると、頭の中に浮かんできた呪文を唱えてみた。すると股間のナニは消えてしまった。 「あ、無くなった、これ本物の女の子のだ」 パンティに手を差し入れて喜ぶ聖也に、顔を赤くして目を逸らす紗矢だった。 「え〜っと……だから止めなさいって。そんなあられもない格好、こっちが恥ずかしいんだから」 薫が赤面する。 一方、紗矢は別なことを考えていた。 (薫のスーツが本物の変身怪人で聖也君のスーツは本物の魔法少女。どっちもこの世界にいるはずないわよね。どういうこと?) 二人が使った能力に首をかしげるばかりだった。 そんな3人の様子を、一体のカワモノ人が桜井家の窓外からうかがっていた。その姿はフクロウそのものだ。 「くそう、1号がやられたか、さすがウルトラマン。だがこのままでは済まさんぞ」 そう吐き捨てると、羽ばたきながらその場を離れていった。 地球に侵入したカワモノ人は一体ではなかった。 様々な異世界の住人をスーツ化し、コレクションとして携えたカワモノ人がウルトラマン抹殺の命を受けて活動していたのだ。 二体はある共同作戦を立てた。カワモノ人1号が漆黒の変身怪人のスーツをかぶってウルトラマンを挑発し、2号は言葉巧みに魔法少女のスーツを着せた聖也を人質に仕立てた上で、怪獣の皮をかぶってウルトラマンを挟撃するという作戦を。 それは夕陽の中の戦いで一度は成功するかと思われたが、ウルトラマンは皮にされても強靭なその自意識を失わなかった。 皮になったウルトラマンを抹殺せずに完全に己の支配下に置こうと欲張ったカワモノ人1号は次なる作戦を立てた。紗矢にウルトラマンの皮を着せてウルトラマンを女性化した上でふたなり少女姿の聖也に犯させることで、ウルトラマンの自意識を完全に破壊し、消去するという作戦を。だがウルトラマンと意識を通じた紗矢の思わぬ反撃によって失敗に終わったのだった。 カワモノ人2号は空から地上を観察しつつ次の策を巡らした。 「うん、アレがいい」 3人の通う学校から出てきた一人の人物に狙いを定めると、その背中めがけて急降下していった。 「じゃあ、あたし帰る」 「僕も」 「あんた、その恰好で大丈夫なの?」 「せっかく女の子になったんだから、この格好でちょっと街中を歩いてみたいんだ。僕が女の子で、街中で注目されて、誰もが僕に振り向く。ああ、夢みたいだ」 そう言って、聖也は己の身体を抱きしめる。 「ちょ、ちょっと、その服じゃ目立ち過ぎでしょう」 「そうかな、それじゃ……パラレル・ミラクル」 聖也が再びステッキを振ると、着ていた黒いゴスロリ服は清楚な白いブラウスと釣りバンドつきのひざ丈の黒いスカートに変わった。そして胸には赤いリボンタイが現れ、脚は黒いタイツに包まれる。釣りバンドに挟まれた大きな胸が薄地の白いブラウスをこんもりと盛り上げている。 ステッキはバラの花型の飾りのついた黒いヘアバンドに変化して聖也のさらさらの黒髪の中に納まった。 「これでいいかな」 「どっかのアニメで見たような服だけど、さっきのよりましかもね」 「それじゃ、またね」 聖也はそう言うと、薫の後について桜井家を出ていった。うきうきとスカートをひるがえしながら。 薫と聖也が桜井家を出ていくと、ほどなく紗矢の母親が帰ってきた。 「おかえりなさい」 「ただいま、街のほうは騒がしかったけど何もなかった?」 「う、うん、大丈夫だったよ」 ちょっとひきつった顔で母親に答える紗矢だった。 その夜、戻ってきた父親も交えて何事もなかったかのように夕食を食べ終えた紗矢は、ようやく自分の部屋に戻った。 「はぁ〜、いろいろあったな。どうなるんだろう、あたし」 ベッドの上にバタンと寝転がって天井を見上げながら呟いた紗矢は、いつしかすーすーと寝息を立て始めていた。 紗矢は夢を見ていた それはウルトラマンになった夢。 いや、体がムキムキの逞しいウルトラマンのボディになっているのに、なぜか顔はウルトラマンではなく自分のままなのだ。 「なによ、これ変だよ」 紗矢の姿を見た薫や聖也が笑い転げている。 「いや、見ないで」 だが、二人の笑い声は高まるばかりだ。 「いや、こんなの、いや!」 そこで紗矢は目を覚ました。 びっしょりと汗をかいている。 ふと体を見下ろすとパジャマを着ていない。 紗矢はベッドの上でショーツ一枚の姿になっていた。しかも暑いようなかゆいような感覚を覚える。 「あたし、いつのまにパジャマを脱いだの?」 ぼーっとした頭で考える間もなく、その体が徐々に変貌していく。 体が白っぽくなり、そして全身に赤い模様が入っていくと同時に大きくごつくなっていく。 160cmほどの紗矢の身体は、180cmを超える筋肉隆々たる男の体に変わっていった。 「何よ! これ、ウルトラマン!?」 起き上がって鏡を見ると、何と首から下だけ身体がウルトラマンと化していた。 「ええ!? あれって正夢? こ、こんな中途半端な恰好……どうしちゃったのよ、あたし」 両頬を両手で押さえてひきつる紗矢。 (すまない、私の影響が君の身体に出てしまったようだ) 頭の中に声が響く。 「だれ?」 (ウルトラマンだ。君の中にいる) 「あたしの中って、そんな、えっち」 (えっちではない。昼の出来事を忘れたのか) 「うーん、なんだかあれって夢のようで。でも、あなたも男なんでしょう」 (……我々は異世界の侵入者から地球を守る為にこの地にいる。だが普段は誰かに宿っていなければ活動できないのだ) 紗矢の問いを無視して話を逸らそうとするウルトラマン。 「でも、なにもあたしじゃなくても」 (君が私の体を着たのだろう。そしてそれはあの時、君が望んだことだ) 「え? あたしOKしたっけ」 (もう私と君は一心同体なのだ) あくまでも紗矢の疑問から話を逸らすウルトラマンだった。 「……でもこのままじゃ、あたし外に出られない。これ、どうするのよ」 (これを使うといい) 紗矢の机の上に、見慣れない太めのシャープペンシルが姿を現す。 「シャープペンシル? あたしに小説でも書けって言うの?」 (ちが〜う! これを使えば) 「使えば?」 (ふっふっふっ) 頭の中の声はそこで消えた。 「もう、使えばどうだって言うのよ」 シャープペンシルを手に取る紗矢。 その瞬間、彼女の体は元の姿に戻っていた。 (もし困ったときにはそのボタンを押すのだ) 「え? 困った時って?」 だがその後、紗矢の問いにウルトラマンが答えることはなかった。 翌日、紗矢のクラスの朝のホームルームにクラスの担任、高杉芙美香が一人の女子生徒を伴ってクラスに入ってきた。 「転校生を紹介します。北野さん、自己紹介して」 「北野聖羅(きたの・せいら)です、よろしくね!」 Vサインをすると、横に倒して目にかざしてポーズをとる。 セー〇ー・ムー〇のポーズだ。 「かわいい!」 「美人だ!」 転校生の美少女を前に、クラスが大騒ぎになる。 紗矢と薫のクラスにやってきた美少女転校生、それはもちろん聖也だった。 「机は……あそこが空いているから座りなさい」 「はい」 高杉先生が指さした紗矢の隣の席、それは男だった時の北野聖也が昨日まで座っていた席だ。 「え?」 疑問に思う紗矢だったが、美少女転校生は躊躇することなく窓際のその席に座る。 「よろしくね、桜井さん」 紗矢と同じ学校指定の女子制服を着た聖也はうきうきと紗矢に声をかけた。そんな二人をクラスメイトたちが注視している。 いろいろ聞きたかった紗矢だったが、その雰囲気の中ではただあいさつを返すしかなかった。 「よ、よろしく、北野……さん」 ホームルーム後、聖也はさっそくクラスメイトたちに囲まれた。 取り囲んだクラスメイトたちをかき分けるかのように、紗矢は聖也を廊下に引っ張り出した。 「あんた、どういうことよ」 「ステッキを振ったら、僕は女子転校生ということになったみたいなんだ」 「だって、あんた在校生でしょう」 「そうなんだけど、家に戻ったら僕の部屋が女の子の部屋みたいに変わっていて、壁には女子の制服が掛けられてて、ドレッサーの中に入っているのも女の子の服や下着ばかりで、とにかく昨日はもう最高だったよ」 ぽっと頬を赤くする聖也。 「お父さんとお母さんは?」 「帰ったら、当たり前のように僕の事を娘として扱ってくれたよ。名前も聖也から聖羅に変わっていたんだ。今朝も『聖羅、転校初日だから遅れないでね』ってお母さんに送り出されたんだ。 「ふーん、学校でも家でも女子転校生として認識されてるんだ」 「うん、この体が使える魔法のおかげだと思うんだ。憧れだったこの女子の制服を着て学校に通えるなんて、夢みたいだ。そうだ、放課後になったらチアリーディング部に僕も連れてってよ。入部したいんだ。そしたらあのユニフォームを着て、それからあのユニフォームで僕もみんなと一緒にダンスして……」 自分のチアリーダー姿を想像しているのだろう、聖也は自分の体を抱きしめて体をくねらせる。 「全くぅ」 そして放課後、紗矢と薫の後についていった聖也は、チアリーディング部の部室に入るとその場で部長に入部届を差し出した。 「あなた、転校生なの?」 「はい、今日あたしのクラスに入った北野さんです」 紗矢がフォローする。 「そう。うん、悪くないわね」 部長はそう言いながら聖也の全身をじろじろを見ている。 「あなた、前の学校で経験は?」 「無いんですけど、桜井さんからチアリーディング部があるって聞いて。あたしチアリーディングをやりたかったんです」 そう言って、聖也はちらりと紗矢を見る。フォローしてくれという合図だ。 「えーっと、あ、あたしも彼女と一緒に踊ってみたい……かも。今からでも練習すればきっと大丈夫です。部長」 紗矢の言葉に、部長はこくりと頷いた。 「わかったわ、それじゃ今日からあなたは仲間ね、一緒にがんばりましょう」 「はい!」 聖也に右手を差し出す部長、嬉しそうにその日焼けした細い手を握る聖也だった。 「さっそく今日から練習よ。着換えは、あなたの身長だと……そうね、今日はあたしのユニフォームの予備を貸してあげる、着換えてらっしゃい」 「ありがとうございます!」 部長が出したユニフォームをお辞儀して受け取ると、聖也はロッカーに向かっていった。 見かけは美少女でもあれの中身は男なのにと、やれやれといった表情でその背中を見る紗矢だった。 「あなたたちも着換えないの?」 「え? そうですね、薫、行こうか」 「そ、そうね」 元男の聖也と一緒に着替えることに抵抗を覚える二人だったが、ロッカーに入ると、その見事な下着姿に見とれてしまう。 薄いピンク色のブラジャーとパンティに包まれた大きな胸、豊満なお尻、長く張りのある脚、そしてきゅっと絞れた腰。 己の控え目な胸と見比べてちょっとむっとする薫だったが、やがてその胸がみるみる膨らんでくる。 「薫、その胸……」 「へへへ、これなら負けてないでしょう」 「能力使ったの? やめなさいよ、そんなんで張り合うの。それに急にそんなに大きくなったら変でしょう」 「ちぇっ」 不満そうにぷっと頬を膨らませる薫だが、その膨らんだ胸は元の大きさに戻っていった。 そして練習が始まる。聖也が加わった紗矢たちの所属するチアリーディング部は全国大会の常連で練習も厳しいものだったが、白いラインの入った真っ赤なノースリーブのシャツとミニスカートに着替えて紗矢や薫たちと踊る聖也は、玉のような汗を頬に浮かべつつ嬉しそうだった。 厳しい練習が終わり、シャワーを浴びて制服に着換えた紗矢と薫と聖也は一緒に部室を出た。 「はぁ〜、ほんとにあなたってすっかり女の子なのね」 シャワーを浴びた後、バスタオルで身体をぬぐう裸の聖也の股間をちらっと眼にした時の事を思い出しつつ、薫はただ呆れるばかりだった。 「紗矢さん、ちょっと」 「あ、高杉先生」 校門を出ようとする3人を後ろから呼び止めたのは担任の高杉先生だった。 「部活の帰りで申し訳ないんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」 「あたしですか?」 「ええ。桜井さん、あなたにお願いしたいんだけど」 「あたしたちも手伝いましょうか?」 薫が声を挟む。 だが高杉先生は首を横に振る。 「いいえ、桜井さん一人で十分だから」 「わかりました先生。じゃあ、あたし先生と行ってくるから二人は先に帰って」 「うん、じゃあ紗矢、また明日」 「桜井さん、あの気を付けて」 「え?」 「その、僕が初めて会った時、怪人って一人じゃなかったんだ。どこであの怪人の仲間が狙っているかわからないから」 「うん、気をつける。じゃあまたね」 気遣う聖也ににこっと笑い返すと、紗矢は校門の前で二人と分かれた。 「ついてらっしゃい」 高杉はそう言ったっきり、黙り込んだまま体育館に向かって歩いていく。紗矢はその後ろをついていった。 体育館に着くと、高杉は中に入らず体育館を回り込んで体育館倉庫の扉の前で歩みを止めた。 「中のものを整理したいんだけど、あなたにも手伝ってもらいたいの」 「整理ですか? それだったらあたし一人だけより薫たちもいたほうがはかどったのに」 「だって、彼女たちにはこんなもの見せられないでしょう。邪魔だしね」 そう言って重いスライドドアを片手で軽々と開けると、高杉は倉庫の中に入った。紗矢も後に続く。 倉庫の中には、皮状になった多くの先生や生徒が折り重なっていた。 「え? これって……高杉先生……まさか」 紗矢はキッと表情を引き締めて高杉を見る。振り返った高杉はにや〜っと薄ら笑いを浮かべていた。 「ふっふっふっ、私はカワモノ人2号だ。1号の仇を取らせてもらうぞ、ウルトラマン」 「それじゃあ高杉先生は」 「昨日1号が敗れた後、皮にして私が着させてもらったよ。この女はもう私の思うがままだ。1号は失敗したが、お前も皮にして私の思うがままにしてくれる。そして今度こそあいつらのように我々カワモノ人のしもべとなるのだ、やれ!」 その言葉に、皮状になって折り重なっていた先生や生徒たちが膨らみを取り戻していく。 その数およそ10体ほどだろうか。 彼らは一人、また一人と立ち上がると、両手を前に突き出してゆらゆらと紗矢の周りを取り囲んでいった。 「き、気持ち悪い、みんな目を覚まして」 「無駄だ、こいつらの中身は空っぽだからな」 「そんな、もう元には戻らないの」 「私を倒せば……おっと、余計な事を。ふふふ、これで逃げられまい。大人しく皮になるのだ、その少女の皮に、ウルトラマン」 囲みをじりじりと狭める先生生徒たちの群れ。そして輪の中から1歩前に出て紗矢に歩み寄る、高杉に化けたカワモノ人2号。その手が刃物のように変形していく。その手で紗矢を切り裂こうというのか。 立ちすくむ紗矢。 「くっ! どうすれば」 だがその時、倉庫に二人の影が飛び込んでくる。 「さや!」 薫と聖也だった。 「なんかおかしいと思って戻ってきたんだけど、なによこれ。みんなどうしたの?」 「助けて、薫。この囲みを何とかして!」 「よし、僕が」 聖也が手を差し上げるとヘアバンドがステッキに変化してその手に収まる。 聖也がそのステッキを振ると、着ていた制服が黒いゴスロリ服に変わり、靴も髪型も変わっていく。 聖也は魔法少女の姿に変わっていた。 「パラレル・ミラクル!」 「「うがっ」」 聖也が呪文と唱えると両手で持つステッキの先から旋風が巻き起こり、紗矢を囲んでいた生徒たちがなぎ倒される。 「紗矢大丈夫? 高杉先生も大丈夫ですか? え、その手は」 刃物状になっている高杉の両腕に驚く薫。 「みんなはこいつに操られているの、この高杉先生は偽物よ」 「ええ? 先生が偽物って」 「うふふ、そんなことないわ、言う事をきかない桜井さんにお仕置きしているの」 そう言うと、カワモノ人2号は紗矢に向かって腕を振り上げた。 「紗矢、逃げて!」 薫が叫ぶ。 紗矢は旋風になぎ倒されて起き上がれない生徒の間を縫って囲みを出ると、倉庫の入り口に向かって駆け出した。 「逃がさんぞ」 高杉先生のスーツを脱ぎ捨てて、その背中からむくむくと出てくるカワモノ人2号。それはフクロウのような姿をした怪人だった。 怪人はみるみる巨大化して、体育館の屋根を突き破る。 崩れる体育館の中から危うく3人は脱出していた。 「ああ、操られていたみんなが」 「大丈夫、魔法でみんな校庭に移しておいたから」 「すごいわね、あなたの魔法」 「僕のじゃないさ、この身体の力だよ」 「どっちでも一緒よ、それじゃあたしもがんばらないとね」 そう言うなり漆黒の怪人姿に変身した薫はむくむくと巨大化すると、フクロウ巨人型に変形したカワモノ人2号に飛びかかっていく。 だがカワモノ人2号は羽を振って薫を易々とはじき返してしまう。 「きゃっ!」 「邪魔なやつらだ、ウルトラマン、お前をしもべにするのは諦めた。だが1号の仇は取らせてもらうぞ」 立ち尽くす紗矢に狙いを定めると、カワモノ人2号は巨大な羽をゆっさゆっさと振りながら巨大な脚で紗矢を踏みつぶそうとする。 「1号の仇だ、死ね」 「い、いやっ」 立ちすくむ紗矢、その胸にウルトラマンの言葉がよみがえる。 (困った時には、これを使え) 紗矢はポケットからあのシャープペンシルを取り出すと、空にかざしてボタンを押した。 まばゆい光が彼女を包む。 その光の中から、巨大化したウルトラマンがその雄姿を現わした。 「デュワッ!」 ファイティングポーズをとるウルトラマンサヤ。 「くくく、現れたか、だが私は1号とは違うぞ」 そう言って羽を振るうカワモノ人2号。 旋風がウルトラマンサヤを包んだ。 「う、うが!」 腕で顔を隠して苦しむウルトラマンサヤ。だが旋風がおさまった時、そこにカワモノ人2号の姿はなかった。 「ふふふ、どうだ、私がどこにいるかわからんだろう」 カワモノ人2号の声だけが周囲に響く。 周囲を見回すウルトラマンサヤ。 だが皮モノ人2号は見当たらない。 「ウルトラマンサヤ、そこっ」 魔法少女姿になった聖也はステッキを振るうと、透明になっていたカワモノ人2号がおぼろげな姿を現した。 「こいつぅ」 薫がおぼろげなカワモノ人2号の姿に向かってタックルをかました。 「うぐっ」 「今よ、サヤ!」 この声に答えるようにウルトラマンサヤが両手で十字を組むと、右手から快音を発しつつ光の帯が発射される。 対異世界人必殺のスペシウム光線だ。 だがその光線をかろうじて避けたカワモノ人2号は空に飛び上がって逃げようとした。聖也が飛び立ったカワモノ人に再びステッキを振るう。 途端に羽を広げたその身体は空中で静止してしまった。 「やっちゃえ、サヤ」 右腕をゆっくりと上げたウルトラマンサヤは、その腕をカワモノ人に向かって強く振る。 一閃、光の輪が腕から振り出されてカワモノ人2号に向かって飛んでいくと、シュパッという、いかにも切れ味の良い音を残してその身体を真っ二つに分断してしまった。 いかなるものも切り裂く、八つ裂き光輪だ。 分断されたカワモノ人2号に向けて再び十字を組むウルトラマンサヤ。 その手から左右に分断されたカワモノ人2号の半身に向けてスペシウム光線が発射されると、右半身も左半身も空中で爆発四散してしまった。 「やったあ!」 飛びあがって喜ぶ聖也の黒のフレアスカートがまくれ上がり、桃色のパンティがちらりと覗く。 「デュワッ!」 カワモノ人2号を倒したことを確認したウルトラマンは、両手を腰に置き空を見上げると飛び去っていった。 全壊した体育館と、呆然とそれを見ている元に戻った生徒たちを残して。 「おれたち、どうしたんだ」 「高杉先生に呼び出されて……それからどうしたんでしたっけ、高杉先生」 「ごめんなさい、あたしもよく覚えてないの」 体育館の前に集まった、元に戻った先生と生徒たちはわいわいと何が起こったのか問い合うが、誰もそれに答えられる者はいなかった。 一方、彼らとは少し離れた場所で紗矢は薫と聖也に合流した。 3人とも元の姿に戻っている。 「紗矢、カワモノ人の侵略ってこれで終わったのかな」 「ううん、違うと思う」 「まだ昨日と今日戦ったアレの仲間がいるってこと?」 「それはわからないけど、私の中のウルトラマンが異世界からの地球侵略の魔の手はまだまだ続くだろうって言ってた。それに、あたしたちの身体も元に戻ってないでしょう。あいつらが二人だけだったら、あたしたち3人は元に戻れているんじゃないの?」 紗矢の言葉に薫が頷く。 「そっか、それじゃあアレが現れたら、かたっぱしから倒すしかないのね。あたし、絶対に元に戻るんだから」 「僕はこのままでもいいんでけど……」 「何言ってるの、あんたに着られているその魔法少女の立場はどうするの。彼女はあなたに何も語りかけないの?」 「うん。僕には何も」 そう言って、聖也は首を横に振る。 「そう、それじゃしばらくあんたはそのまんまってことか。よかったわね、美少女転校生の聖羅ちゃん」 「えへへへ」 美少女と言われて、頭をかきながらにやける聖也。 (油断するなよ紗矢) 「え?」 「どうしたの紗矢」 「なんでもない。とにかく、いつか元に戻れるって信じて、がんばっていきましょう」 「そうだね」 瓦礫と化した体育館の向こうに夕陽が沈んでいく。 紗矢はその夕陽の中に、飛び去っていくウルトラマンの幻を見たような気がした。 (終わり) 後書き 以前リクエストに応えて書いた「ウルトラマンサヤ」、前作を書き上げた直後に続きを書き始めていたんですが、60%ほど書いたところでアイデアに詰まってしまい、執筆を中断していました。最近「令和元年変身モノ祭り」用作品を1本書き上げたのですが、その後でもう一度この作品の執筆の続きを書き始めたところ、今度は何とか書き上げることができました。紗矢と薫、そして聖也の活躍、少しだけですがお楽しみいただければありがたいです。 それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。toshi9 2019年8月5日 |