スキンマスター(後編)

作:toshi9






「う、うーん」

 気が付くとひんやりしたタイルの感触を、お尻や太ももの裏に感じる。

 俺は裸になっていた。
 裸のまま、大きく開いた両脚を投げ出したまま浴室に座り込んでいた。

 体を見下ろすと、両胸が大きく盛り上がり、しかもその先っちょがぴんと突き出している。
そしてその先に見える投げ出した脚は本来の俺のものとは全く違い、すっと長く、
そして白かった。

 俺はにんまりと笑うと、自分の胸に大きく盛り上がっている両乳房をぎゅっと両手で
揉みしだいてみた。

「はひゃ! 何だよ、この感じって。あ、あひっ……うう、う、うん……い、いい」

 とんがった乳首を指先でこりこりっと刺激すると、さらにぞくぞくっとした快感が湧き上がる。

 浴室の鏡には、上気して自分の胸を揉んでいる美波さんが映っていた。 

「あ、あははっ、やったぜ、『スキン・チェンジ』も成功だ。この俺が美波さんになったんだ」

 ふと気が付くと、さっきまで俺が成りすましていたジャンが、呆然とした表情で俺を
見上げていた。
 中身は勿論本物の美波さんだ。
 そう、『スキン・チェンジ』の呪文は、自分が交換したい相手の体と皮を入れかえる呪文だ。

 つまり俺は、美波さんと今まで俺が入り込んでいた子犬のジャンの姿を入れかえた
という訳だ。
 今や俺は美波さんの姿に、そして美波さんはジャンの姿になってしまっている。
 勿論美波さんには何が起きたのか全く理解できないだろうがな。

(ふふふ、さてと、これからどうしようかな……そうだ!)

 心の中でぺろっと舌を出しながら、俺はさらなる悪企みを思いついていた。

「ご主人様、どうやら僕たち体が入れ替わっちゃったみたいですね」

 俺はまるでジャンが美波さんの体になってしまったかのように、子犬のジャンになって呆然
としている美波さんに話しかた。
 そう、美波さんとジャンが入れ替わってしまったかのように振る舞ってみることにしたのだ。

「えへへ、今までよくも僕のことをおもちゃにしてきましたね。
 僕がどんな気持ちでご主人様のアソコを舐めていたかわかりますか?」

「わんわんわん」

 美波さんは何かを訴えかけるかのように必死で吠えている。

「ご主人様、そんなに吠えても、もうあなたが何て言いたいのかよくわかりませんよ。
だって今は僕は人間で、あなたは犬なんですから」

「・・・・・・・・・・・・」

「そう、そうなんですよ。
 これからは僕があなたのご主人様なんです。
 そしてご主人様は僕、つまり、今はご主人様のほうが僕のペットなんですよ。
 うふふふふ」

 そう言いながら、俺は再び両手で自分の大きな両胸をむんずと掴んだ。

 ふにゅっ。

「ああ、これがご主人様の胸。柔らかくって、ふかふかして、き、気持ちいい〜」

 ゆっくりと手を動かす。そして乳首をまた親指でさすってみた。

「はうっ、う、ううう、これって……うあっ……いい、いいよ、これが……」

(そう、こ、これが女性の快感なんだ。
 もっと、もっともっと知りたいよ。
 さっきの美波さんのように。
 ねえ美波さん)

 俺は自分のものになった美波さんの胸を弄びながら、悲しげな表情でそんな俺を見ている
美波さんを見てにやっと笑った。

「あはん、いい、いい気持ちだ、はぁ〜。
 そ、それにしてもどうして僕とご主人様の体って入れ替わっちゃったんでしょうね。
 僕がご主人様のことを舌でいかせちゃったからかなぁ。
 ってことは、もしかしたら、今度はご主人様が僕のことをいかせてくれたら、
僕たちは元に戻れるんじゃないのかなぁ。は、はひぃ」

 そう言いながら、俺は胸をふにゅふにゅと揉み続けた左手を、自分の股間に下ろして
いった。

 ぬるっとした感触が指先を濡らす。

 そんな俺を、ジャンになった美波さんは今度は睨みつけていた。
 いかにもそんなこと誰がするもんかって表情だ。

「そんなに睨まないでくださいよ。
 これって元はと言えばご主人様のせいなんですよ。
 僕は何も悪くないんですからね」

(いや、やっぱり俺のせいだよな)

 俺は笑いを堪えながら、美波さんに向かってさらに話し続けた。

「わかりましたよ、やる気はないんですね。
 それじゃあこれからずっと僕がご主人様だ。
 ご主人様は一生僕のペットになるということでいいんですね。あ、あうん」

 俺は喋りながら乳首を指先でさすり続けた。

「あ、何ていい気持ち……いい、いいよ、ご主人様の体って
 ……いいえ、これってもうあたしの体……ああ、あたしの体って最高!」

 右手で乳首を摩り、左手で濡れた股間をくちゅくちゅと弄ぶ。
 そして股間を摩っている左手の中指をゆっくりと中のほうに入れてみた。

 途端に、電流が流れるような快感が体中を駆け巡る。

「あうぅ……う、う、あうっ……あ、あああ、いい、いいよぉ」

「きゃん、きゃんきゃん」

「なあに、ジャンったらそんなに吠えて。
 ご主人様に向かってそんなに吠えちゃ駄目でしょう」

 体を弄び、今度は美波さんの口調を真似しながら、俺はにやにやと笑った。

 悲しげな表情で美波さんが再び吠えた。

「きゃんきゃんきゃん」

「ふふふ、ようやくわかったようですね。
 それじゃあご主人様、舐めてください。
 ご主人様のココを、今のあなたの舌でね」

 俺はそう言いながら、自分の両脚をさっきの美波さんのように左右に大きく開いた。
 鏡にぱっくりと口を開いたままの美波さんの股間が晒される。
 そして淫猥な表情をした美波さんが怪しい手付きでそこを摩っていた。

「ひゃうっ」

 指先がずぶずぶとその奥に潜り込んでいく。

(あひぃ、美波さんの……ここ……い、いい)

「さあ、ご主人様、いいえ、ジャン、早くココを舐めて」

 俺は股間から手を離すと、再び両手で胸を揉み続けながら彼女の前にぱっくりと
開いたままのソコをぐっと突き出した。

「く〜ん」

 子犬の美波さんはまだ躊躇している。

「どうしたの、元に戻れなくてもいいの、は、はうっっ」

 ようやく観念したのか、歩み寄った子犬はうな垂れて股間に顔を埋めると、
俺の、いや美波さん自身のアソコをぺろぺろと舐めた。

「いひゃ!」

(き、気持ちいい、舌のざらざらが……あ、ああ……指なんて比べ物にならないよ)

「あん、あああ、いい……いい気持ち。ねえジャン、もっと舐めて」

 ぺろぺろ。

「あ、ああ、ん、んんん、んあっ!」

 ざらざらした舌の感触が、俺のものとなっている美波さんのアソコを遠慮なく刺激する。

 ぺろぺろ。

「あ、あう……う、く、くぅ〜。い、いい、あ、あん……な、なんか、奥から」

 ぺろぺろ。

「あ……ひ……いい、だ、だめ、で、でる、なんか、あうう」

 切ない。ああ、何かが込み上げてくる。

「ああ、あああ……い、、いく、いい、いくう〜」

 その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
 頭の中が真っ白になり、そして力の抜けた股間から堪えきれない何かがぷしゅーっと
吹き出してきたのを感じた。

「ぎゃん!」

 股間から吹き出したものが、股間を舐めていた子犬の、美波さんの顔を直撃し、
美波さんは悲鳴を、いや泣き声を上げていた。

「はぁはぁはぁ、とっても良かった。
 ジャン…いいえ、ご主人様……はぁはぁはぁ。
 で、でも僕たちやっぱり元に戻れないみたいですねえ」

 俺は立ち竦むジャンを見てにやっと笑った。

「きゃん、きゃん」

 子犬が抗議するかのように吠える。
 大方「話が違う、あたしを元の姿に戻して」って言ってるんだろうな。
 でももう少し楽しませてもらうよ。

「うるさいなあ、いくら吠えてもしょうがないでしょう。
 あなたはもう子犬のジャン、あたしのペットなのよ。うふふふふ」

 そう言いながら立ち上がると、俺は火照りの残った体でシャワーを浴びた。

 シャワーも気持ちいい〜。

「ほら、あなたもきれいにしなさい」

 ジャンになった美波さんにもシャワーを浴びせる。

「きゃんきゃん」

「シャワーが好きなんでしょう。
 おっと、今の体じゃ苦手かな」

 さてと。

 浴室から上がって体を拭くと、美波さんが着替える為に用意していた下着を身に着ける。

 よいしょっと。

 生地が少なくて何とも頼りないショーツに脚を通してぐっと腰まで引き上げると、
ぴちっと俺の股間に布地が密着する。
 何も無いそこを布地の上から摩ってみると、またおかしな気分になってきた。

 よっ……とっ……。
 
 ブラジャーのホックを何とか留める。

「へへへ、僕って色っぽいなぁ」

 ひとしきり鏡に映る下着姿の美波さんにいろんなポーズをとらせて楽しむと、
さっき美波さんが着ていた白のミニスカートを穿き、そしてキャミソールを頭から被った。

「これで出来上がりっと。
 それじゃあジャン、あなたも拭いてあげるね」

 ずぶ濡れのジャンの体をバスタオルで拭く。

「さあ、これできれいになった。
 ご主人様、それじゃあ外に出かけようか。
 あ、そうだ、飼い犬ってわかるように首輪を付けてあげなきゃいけないね」

「わんわん……きゃん」

 必死で抵抗するジャンに、俺は首輪を嵌めた。

 街中で犬を散歩させる、誰もが振り返るミニスカート姿の美女。
 でもその美女は実はこの俺で、首輪で繋がれた犬のほうが本当の美女。
 それなのに誰もそのことに気づくことはないんだ。

 そんな光景を想像して、俺はぞくぞくしていた。

「ほら、行くわよ!」

 引きずるように部屋から引っ張り出すと、外に出かけようとした。

「ただいま〜」

 その時玄関の扉が開く。

(お! 津和野さん)

 そこには制服姿の津和野渚が立っていた。







「あれ? おねえちゃん、どうしたの?」

「え? あ、あの、ジャンを散歩に連れて行こうかなって思って」

「ええ?? おねえちゃんあたしが出かける前に散歩に連れてくって出かけたんじゃ
なかったっけ」

「そ、そうだけど、暇だからもう一度行こうかなと思って」

「わんわんわん」

 首輪を付けられたジャンが、渚に向かって必死に吠える。

「どうしたのジャン」

「くーん、くーん」

「ジャ、ジャンったらさっきから様子がおかしいのよ」

「何か怯えてるよ。それに大好きなおねえちゃんのことを睨んでるし」

「そ、そうかな」

「おねえ……ちゃん!?」

「な、なによ」

「おねえちゃん、何かへん」

(や、やばい、気づかれた)

「そ、そんなことないよ」

「何か違和感が、何だろう……さっきから妙にどもってるし、何だか……」

「何だか、どうしたの、渚」

「おねえちゃんじゃないみたい」

「渚ったら、なに変なことを言っているの」

「だって、おねえちゃんはそんな喋り方……」

「あら、あたしってどんな喋り方してたかなぁ」

「どんなって……」

 じりっと後ずさる渚。

「どうしたの渚、さあ、こっちに来て」

 渚の顔が段々引きつってくる。
 どうやら様子がおかしいことに気が付いたようだ。

(それにしても、こうして間近で見ると、津和野さんってほんとかわいいよ。
 ふふふ、そうだ、今の俺なら目の前の津和野さんの姿も……)

 俺は体に付いている金属片を素早く外して後ずさる渚に歩み寄ると、ぎゅっと抱きついた。

「おねえちゃん、やめて」

「うふふふ、渚ってかわいい。でもそのかわいい姿、あたしが、いや俺がいただくよ」

 そう囁きながら、俺は彼女のうなじに金属片を当てた。

「え!?」

 津和野さんにくっついた金属片をすっと引き下ろす。
 そしてうなじに隙間ができるのと同時に呪文を唱えた。

「ヌギナサイ」

 途端に津和野さんの……渚の目の焦点が合わなくなる。

「ヌギナサイ」

 再び呪文の言葉を繰り返す。

「は……い……」

 とろんとした表情の渚は、着ている制服を、そして下着を一枚、また一枚と脱いでいく。
 そしてすっかり裸になると、胸も股間も隠そうともせず、ぼんやりと俺の前に立っていた。

「きゃんきゃんきゃん」

 美波さんがぼんやりと立つ渚に向かって必死に吠える。
 でも彼女は何も反応しなかった。
 そう、もうすっかり俺の術中に陥っている。

「うるさいなぁ、ご主人様、静かにしてくださいよ」

 美波さんの表情で吠える子犬になった美波さんを睨みつける。
 すると美波さんは怯えるように押し黙ってしまった。

(ふふふふ さて……と)

 クラスメイトが、しかもクラスのアイドルと言っても良い美少女がその肢体を
俺の目の前に晒している。
 それは、今俺のものになっている彼女の姉の成熟した姿とは全く違う興奮を
俺にもたらしていた。

(渚……クラスのアイドル……その姿がもうすぐ俺のもの)

 早く津和野渚になってみたい、そんな気持ちが俺の中で猛烈に膨らんでいった。
 そして興奮してきた俺は、無意識に今の自分の大きな胸と股間に手を伸ばしていた。

「あ、う、あふぅん……っとっと、楽しみは後に取っておかなきゃ」 

 再び渚の姉、美波さんの体でオナニーをしようとして危うく堪えた俺は、
彼女の姿を手に入れるために「スキン・チェンジ」の呪文を唱えようとした。

 だが呪文を唱えようとしたその時、俺はふとあるアイデアを思いついた。

「そうだ、もっとじっくりと楽しませてもらうよ。
 そして、ふふふ……。
 ナギサ、モットヌギナサイ」

「は……い……」

 俺の言葉に答えるように、渚は裸の己のうなじに右手を伸ばし、金属片をすっと
下げていく。

 傷一つ無いそのうなじから背筋にかけて、黒く細長い隙間が開いていく。

「サア、モットヌギナサイ」

 渚はぼーっとした表情のまま隙間に手を掛け、服を脱ぐかのように自分の皮を
脱ぎ始めた。

 隙間の中から、まるで白い全身タイツに覆われたようなものが出てくる。
 そしてそれは渚の皮を全て脱ぎ捨てると、再びふらふらとその場に立っていた。

 その足元にはぺしゃりとひしゃげた渚の全身の皮が転がっている。
 俺がそれを取り上げて広げてみた。そう、それはまさしく渚の姿をした皮だった。

「渚の皮。
 これを俺が被ったら……。
 ふふふ、でもその前に」

 俺は渚の皮から金属片を外し、もう一度美波さんになっている自分の体に金属片を付け、
小さな隙間を作ると呪文を唱えた。

「フェーーード・アウト」

 その瞬間、俺は美波さんの体から抜け出て元の姿に戻った。
 俺が出ていって中身が無くなってしまった美波さんの体は、空気の抜けたゴム人形
のように、ふにゃりと床に転がっている。

「わんわんわん」

 俺の姿を見た美波さんが再び吠える。

「ふふふ、俺は『スキン・マスター』。
 これが本当の俺の姿さ、ご主人様、くっくくく、あっははは。
 そうさ、あなたをその犬の姿にしたのはこの俺なんだよ。
 でも俺の邪魔をしないで大人しくしていれば、元の姿に戻してあげるさ」

 俺の言葉を聞くと、美波さんはじっと俺を睨みつつも、うるさく吠えるのを止めた。

 美波さんの皮から金属片を外した俺は、今度は自分の体にそれを付けて隙間を作ると、
新しい呪文を唱えた。

「スキン・ダブーーール」

 呪文を唱えた途端に体がむずむずとしてくる。
 慌てて俺は服を脱いだ。

 かゆい。

 無意識にうなじの金属片をさらに下ろしていく。

 すると俺の背中にぴっと隙間が広がる。
 そして脱皮でもするかのように、するりときれいに俺の皮が剥けていった。

 そう、俺も渚と同じように全身の皮を脱ぎ捨てたのだ。

 渚と違うのは、皮を脱ぎ捨てた後の渚が、顔も胸の膨らみも何も無い白いのっぺらぼう
の体になってしまったのに対し、俺は元の自分の姿を保っていることだ。

「サア、コレヲキナサイ」

 ふらふら立っている白いのっぺらぼうの渚に、俺の皮を渡す。
 促された渚は、俺の皮に脚を通し、そしてそれを被っていった。

 渚がぎこちなくその小柄な体を全部俺の大きな皮の中に潜り込ませると、
ぶかぶかの皮に変化が起こった。

 腕も首も太く膨れていく。
 体つきもぶくぶくと内側から肉が盛り上げり、小太りなおれ本来のものに変わり始めた。
 そして数分後、俺の目の前にはふらふらと焦点の合わない目をした裸の俺が立っていた。
 その股間では、ゆらゆらと男の象徴が力なく揺れている。

「ふふふ、これで津和野渚はもういない。
 ここに立っているのは吉川修二。
 そして俺が渚の皮を被れば、その時から俺が津和野渚だ」

 そう、この俺が俺を振ったクラスメイトの美少女になるんだ。

 渚の全身の皮を両手で広げて、俺は例えようもなく興奮していた。
 股間のものがピンピンと怒張している。

 ぞくぞくした快感が全身を駆け巡った。

「ううう、さあ、着るぞ」

 両足を背中の隙間から差し入れ、渚の足の皮の中にするすると入れていく。
 くしゃくしゃになった渚の足の皮が、俺という中身を取り戻してピンとした張りを取り戻して
いく。

 腰までくいっと引き上げると、怒張しきった俺のモノも渚の皮の中に潜り込んだ。

 下腹部の皮の表面には、その太く細長い盛り上がりがくっきりと浮き出ていた。

 渚の皮の上からそれをさすってみる。

「うっ、何か……出そう」

 俺の興奮はもう限界まできていたが、危うく堪えてさらに皮をぐっと引き上げた。
 腕を渚の細い腕の皮の中に潜らせていく。
 そして指先が皮の先端に達すると、俺はその感触を確かめるように
ぎゅっと拳を握り締めてみるた。
 段々と手足の感覚が馴染んでいくように感じる。

「はぁはぁ、これで最後だ。これで」

 はぁはぁと息が荒くなる。
 俺は意を決して自分の頭を渚の皮の背中に開いた隙間の中に突っ込んだ。
 そして渚の頭の皮を手で動かして、自分の頭に合わせていく。

「俺は渚に、津和野渚に変わるんだ」

 完全にその中に潜り込んだ俺の体に、渚の皮がぴたりと密着していく。
 そして突き出た腹が、腕が、脚が、俺の全身が締め付けられていくのを感じた。

 鏡の中で、俺の体型そのままにでっぷり太っていた渚の姿が、段々と小柄でスリムな
渚本来の体型に変形していく。
 その様子を見ながら、俺の全身を例えようのない快感が駆け回っていた。

 クラスのアイドルで、成績優秀で明るくって女子にも男子にも人気のある美少女・渚。

 サッカー部のキャプテン・山口先輩と恋人同士という噂で、彼女は俺のことなどほとんど
眼中になかったし、クラスの中では目立たない存在の俺のほうも、内心好きだと思いつつ
彼女とろくすっぽ口を訊けないでいた。

 たまに彼女と話す機会があっても、どもってうまく喋られない。

 だが、自分の思いを堪えきれなくなった俺は、意を決して告白メールを送った。
 そして、ものの見事に拒否されてしまった。

 その渚に俺がとって変わる。
 そう、今からこの俺が津和野渚になるんだ。  

 体型の変化は既に終わろうとしていた。

 胸とお尻はふっくらと膨らんでいるものの、体全体はスレンダーな体型に変わっている。
 心なしか、体が軽い。下腹にもっこりと浮き出ていた膨らみは何時の間にか消え失せ、
のっぺりとしたものになっていた。

 指を股間に滑らしていく。

 「あうっ」

 そこにあるのは渚のモノ。
 しかもさっきまで怒張させていた俺の興奮に呼応するかのように、湿り気を帯び、
閉じていたソコは何時の間にかその中のピンクの肉襞が見えるほどに開き始めていた。

「あうう、何か、もやもやして……駄目だ、ここに何か」

 自分の指を突っ込んでみる。

 びくびくっとした快感が巻き起こり、俺の指をその部分がぎゅっと締め付ける。

「いひぃ、気持ちいい」

(気持ちいい、何か、ここに、欲しい)

 ふと気が付くと、さっきまで渚だった俺がまだふらふらと立っている。

「お前は今から吉川修二だ」

「アタシ……チガウ……アタシハ……」

「お前はヨシカワシュウジ、さあ、自分で言うんだ『オレハ、ヨシカワシュウジダ』って」

「アタシは……」

「オレハ!」

「オレハ……」

「オレハ、ヨシカワシュウジ」

「俺は、吉川修二」

「そうよ、あなたはあたしの、この津和野渚のクラスメイトの吉川修二よ」

「俺は、吉川修二。津和野渚のクラスメイト」

「そう、それでいい。そして……あうっ」

 火照った体で床に座った俺は、目の前の俺になった渚を誘うように両脚を大きく広げる。

「あなたはあたしを抱きにきたの。あたしの部屋に入り込んで、おねえちゃんを縛り上げて、
あたしを待ち伏せしてたの」

「俺は、渚を抱きにこの家に侵入した。そして渚を……」

「さあ、あたしを抱くのよ。修二くん」

「う、ううう、うぉ〜〜」

 俺になった渚は、欲望に目をぎらつかせながら裸で股を広げた俺に向かって
抱きかかってきた。
 へへへ、もうすっかり自分が吉川修二だと思い込んでいる。
 渚だったという記憶はどうやら消去できたようだ。

「あん、修二くん、もっとやさしく……あうん、あ、ああ、あひっ」

「うぉっうぉっうぉっ」

 胸にしゃぶりつき、俺の乳首を吸うと、どんどんと怒張していくその股間のものが
俺の太股にぺたぺたと触れる。

「渚、俺は我慢できないんだ……俺のものになれ!」

「うん、いいよ、修二くん」

 はぁはぁと荒い息遣いで目の前の俺に答えた俺は、胸から、股間から、
全身から湧き上がる快感に身を震わせながら、心の中で笑っていた。

(渚、すっかり俺になりきっちゃって。
 はぁはぁ、ああ、いい、俺のモノ、あ、入ってくる、あ、ああ、動く、動くよ)

「修二くん、もっと、もっと、ああ、いいよ、いい、いく」

 両脚を腰に絡めてはぁはぁと喘ぐ俺の股間を、怒張したものが何度も出し入れされる。

「あああ、もう、いく……あ、あ、あう……い、いい、いく、いく、いくぅ…………」






「はぁはぁはぁ、とっても良かったよ、修二くん。
 でももう帰ってちょうだい。
 そして今日のことは全部忘れるのよ。
 明日からはいつもの吉川修二くんに戻ってね」

「はぁはぁ、はい」

「ほら、服を着て」

「はぁはぁ、はい」

 俺に促されて、俺になった渚がその太った体に俺の服を着ていく。

「ばいばい、渚。いや吉川修二くん」

 ふらふらと出て行く俺に向かって、俺は告げた。

 ばたんとドアを閉じて出て行く今までの俺。

「そう、ばいばいさ、今までの俺。
 そしてこんにちは、あ・た・し、ふっ、ふふふふ、あっはははは」

 閉じたドアを見詰めながら、俺は一人げらげらと笑った。

「さてと、俺も服を着るとするか。
 たった今まで渚が着ていた制服。
 でももうこれからは俺の服だ」

 俺はさっき渚が脱ぎ捨てていったショーツを取り上げた。
 美波さんのショーツは、生地が少なくってピンク色をした色っぽいものだったけれど、
渚のは清楚でシンプルな白のショーツだ。

 脚を通してくいっと引き上げる。
 きゅっと締まったお尻がその中に包み込まれる。
 そして美波さんより小さめだけど張りのある胸に、ブラジャーを宛がい、ぱちっとホック
を留める。

「きれいだ、渚。いいや、あたしって‥へへへ」

 俺は床に脱ぎ捨てられたプリーツスカートと上着を取り上げた。
 そう、それはうちの学校の女子の制服。

 俺はプリーツスカートに恐る恐る脚を通して引き上げると、自分のものとは思えない
己の細い腰でそのホックをパチリと留めた。
 そして上着を頭から被ると、脇のファスナーを引き下ろし、赤いリボンを胸元に付けた。
 最後に、しゃがみ込んで紺のハイソックスをはく。
 立ち上がった俺はゆっくりと姿見の前に歩いていった。

「出来た。これでもう俺は、誰が見ても津和野渚だ」

 鏡には、下品なうすら笑いを浮かべた制服姿の渚が映っていた。
 
「これが俺、俺なんだ。あ、あ、あふぅぅぅ」

 制服に包まれた己の胸をぎゅっと両手で抱きしめると、再び体の奥から快感が
湧き上がる。

「くーん、くーん」

 俺の傍らで、子犬になったままの美波さんが力なく鳴き声を上げる。
 その目には、涙が溢れていた。

 俺は床に転がったままの美波さんの皮を取り上げると、ばさと広げた。
 
「ふふふ、おねえちゃん、元の姿に戻りたい?」

「……わん」

「元に戻ったら、あたしのことを妹の渚として扱うのよ。
 もしあたしに逆らおうとしたらまた犬にしちゃうからね」

「……わんわん」

「ふふふ」

 俺は子犬の姿のままの美波さんを、美波さんの皮の中に放り込んだ。

 ひしゃげていたその姿がぶくぶくと膨れていく。
 しばらく後、美波さんは元に姿に戻っていた。

「はぁはぁはぁ」

「うふふふふ、お帰りなさい、おねえちゃん」

 両手と膝をついた四つんばいの格好のまま立ち上がろうともせずに、
美波さんは荒い息をしている。



「……渚を、妹を返して」

「何言ってるの、おねえちゃん、あたしならここにいるじゃない」

「あんたなんか、妹じゃない!」

「あたしが渚だよ。
 あたし以外の渚はもうどこにもいないよ。
 そうでしょう、おねえちゃん。
 それとも違うって言うの?」

 ぎろっと美波さんを睨む。

「・・・・・・・・・・・・・」

「さあ、あたしのことを、渚って呼ぶのよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「ほら!」

「……なぎさ」

「なあにおねえちゃん。ふふふ、あっははは」

「渚、渚、ぐすっぐすっ」

 美波さんは、床にぽろぽろと涙をこぼしていた。

「じゃあおねえちゃん、あたし自分の部屋に戻るね。
 おっと、あたしの部屋って何処」

「……2階」

「ありがとう、お・ね・え・ちゃん。あっははは」

 俺は嗚咽の声を上げる美波さんを残して、2階への階段を上っていった。

(ふふふ、さあ、明日からはこの俺が渚として学校に行くんだ、楽しみだぜ)

 クラスで目立たなかったこの俺が、明日からクラスのアイドル渚なんだ。
 みんなからちやほやされて、いつもみんなが俺の周りに集まってくるんだ。

 渚になった自分が教室に入る様子を想像しながら、俺はうきくきと渚の名札が掛けられた
部屋の扉を開くと、その中に入った。

「ええ?やけに地味な部屋だな。
 女の子の部屋ってもっと華やかなもんだって思って……って……違う! 
 違う、こ、この部屋は!?」

 そう、良く見ると、その部屋はよく見慣れた部屋だった。
 見覚えのあるベッド、壁に貼られたポスター。
 床に散らかった愛読の雑誌。

 俺のベッド、俺のポスター、そうだ、この部屋って……。

「何なんだ、どういうことだ。
 これって俺の部屋じゃないか」

「そうですよ。ここはあなたの、いいえ吉川修二の部屋です」

 部屋の奥から響くその声と同時にドアがバタンと閉じられた。
 薄明かりの部屋の奥に誰かが立っている。

「誰だ! え!? まさか!!」

 そこに立っていたのは、俺自身だった。

「お前、渚か」

「いいえ、違いますよ。私は吉川修二」

「吉川修二は俺だ」

「何をおっしゃいます、あなたは『スキンマスター』でしょう。
 そして今のあなたは、そのクラスメイトの津和野渚」

「俺が『スキンマスター』だって知っているお前は誰だ。まさか……」

「あなたが『スキンマスター』の力をどのように使われるか、私は楽しみにしてました。
 あなたなら或いはその力の呪縛から逃れられるんじゃないかと期待してたんですが。
 でも結果はやはり今までの『スキンマスター』と同じでしたね」

「今までのだと? 
 お前……まさか、あのおっさん」

「はい、あなたに『スキンマスター』の力を譲り渡した者です。
 そして私もかつてその力に溺れて、結局自分自身の姿を失った。
 でもゲームをクリアしたあなたに『スキンマスター』の称号を譲ることで、
ようやく元の世界で生きていくための姿を手に入れることができました。
 吉川修二という姿を」

「どういうことだ」

「スキンマスターの力、それはゲームの中だけのもの。
 スキンマスターの称号を受けた人間は、実はゲームの中に取り込まれてしまうんですよ。
 今のあなたのようにね」

 部屋の奥に立つ俺の方に駆け寄ろうとする俺の額に、ガツンと何かがぶつかる。

「痛っつう」

「ふふふ、そこはディスプレイの中。
 次に『スキンマスター』の称号を受ける者が現われるまで、あなたはそこから
出られませんよ。
 それまで待つのです。
 ああ、でもあなたが捨てた『吉川修二』はもう私のものですから、お返しできませんよ」

 どんどんどんと透明の壁を叩く。
 でもその見えない壁はびくともしなかった。
 後ろを振り返ると、そこには廊下も何も無く、何時の間にか真っ黒な空間が広がっていた。

「出せ! ここから出せ。返せ、俺の体」

「それでは、さようなら、修二さん。いえ『スキンマスター』」

 もう一人の俺が、透明な壁の下に手を伸ばす。
 スイッチを切る音と同時に、俺の周りは真っ暗になった。

 プツッ。




(終わり)


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