白い部屋

作:toshi9




 目が覚めると、そこは白一色の部屋だった。

 周りを見回してみたものの、俺以外には誰もいない。

 ガランとした部屋の中には、その真ん中に一台の古いコンポーネントステレオだけがぽつんと置かれていた。

 俺って確かベッドに寝そべって、フリーマーケットで買ったCD聴いていて……それから……。

 CDを聴きながら何時の間にか眠ってしまったんだろうか。それにしても、いつこの部屋に入ったのか、全く記憶が無い。

 勿論この奇妙な部屋は俺の部屋ではない。全く見知らぬ部屋だ。

「何処なんだ、ここは。大体扉も窓も無いじゃないか」

 どうやってこんな部屋に入ったんだ、いやこれって誰かに閉じ込められた? 立ち上がった俺はそんなことを思い巡らしながら、部屋の中に存在する只一つのもの・・ステレオに向かってゆっくりと近寄った。

 突然音も無くステレオの上部の蓋が開く。

「へっ!?」

 誰もいないのに何で? そう思いながらも好奇心に捉われた俺は扉の中を覗き込んだ。

「これってレコードプレーヤー……だよな」

 中にはレコードプレーヤーが組み込まれていた。

 小さい頃父親の部屋にあったものを見たことがあるが、最近ではこんな一体型のコンポーネントステレオを見かけるなんてことはほとんどない。

 プレーヤーのターンテーブルには一枚のレコードがセットされていた。

 何のレコードだろうかと顔を近づけると、今度は突然ステレオにパチリと電源が入り、ターンテーブルがゆっくりと回り始めた。そしてアームが自動的に動き出し、取り付けられたキラリと光るダイヤモンド製のレコード針が1分間に33回転で回り続けるそのレコード盤の上にゆっくりと移動していく。

 そしてレコード針はまるで飛行機が滑走路に着陸するかのように、すうっとレコード盤に下りていった。

 チリチリチリッとレコード盤上のゴミを拾う音がスピーカーから流れ出す。

 だがレコードの音楽はなかなか奏でられない。

「なんだ故障しているのか」

 いぶかしげにステレオを眺め続けていると、突然スピーカーから音楽が流れ始めた。

「おっと、ようやく始まったよ」

 バンドの演奏で始まったその曲は、女性ボーカルの物憂げな歌だった。

『眠くなるまで、何をしましょう……』

 うーん、この声、このメロディ、どっかで聴いたような……。

 そう思ったものの、誰の何て歌だったのかどうしても思い出せない。

 確か親父と一緒に車に乗った時に聴いたような気がするんだが・・誰だったっけ。

 そんな俺の疑問を全く無視して、部屋の中に歌が流れ続ける。
  
『ひとりぼっちの、白い部屋の中……』

 その時俺の目の前の白い壁の中から鏡が浮かび出てきた。

「な、なんだあ??」

 少し古そうだけど大きな丸いその姿見は、驚いた表情をしている俺の顔を、そして痩せた全身をきれいに映し出していた。

「どこからわいてきたんだよ、この鏡……それにしてもほんとに何なんだ、この部屋は」

『丸い鏡にうつる姿は、まるで私と違うひとみたい……』

 歌が部屋の中に流れ続ける。

 ポコッポコッ

 と、突然四方の白い壁から吹き出物でも沸いたかのようにぶつぶつした突起物が湧き出し、それがどんどんと丸く大きくなっていった。

 プツッ プツッ

 やがて直径15cmほどに成長したそれらは次々と壁から千切れ出て、部屋の空間を浮遊し始めた。

「げげっ、何だこれ、気持ち悪い」

 部屋の中を浮遊する泡状のそれはどんどんと部屋の中に充満し、ふわふわと俺のほうに集まってくる。

 だめだ、逃げないと。

 直感的にその泡に危険な匂いを感じた俺は、辺りを見回した。だが扉も窓も無い部屋の中にはどこにも泡の群れから逃げられそうな場所は無かった。おまけに駆け出そうとする俺の足はピクリとも動かない。

「ひえっ!?」

 足元を見下ろすと床から何本もの白い触手が生え出て俺の脚に絡み付いていた。

「げげげげ、何だ、何なんだこいつらは!?」

 触手は後から後からニョキニョキと床から伸び出てくる。そして長く伸びた何本かの触手は俺の着ている服をよってたかって脱がせ始めた。

「ひっ! こら、や、止めろお。ひぇ、く、くすぐったい」

 触手に腕を掴まれバンザイさせられると、トレーナーとTシャツを同時にペロリと剥かれてしまった。そしてベルトが器用に外されると、ズボンが無理やり引き下ろされ俺の脚から引っぺがされてしまった。

 触手は続いてトランクスさえも同じように引き下ろそうとする。

「こら、止めろ、それは……」

 だがトランクスを押さえつけた俺の手を再び強引に持ち上げると、触手はするすると抵抗なく俺のトランクスを引き下ろしていった。

 だらしなく股間に垂れ下がる俺のムスコが顕わになる。

 今やすっかり裸にされてしまった俺。しかも触手に両手両足をがっちりと掴まれ全く体を動かすことができない。

 鏡にはそんな情けない俺の姿が映っている。

「くそう、こいつら、この俺をどうしようって……」

 触手を何とか振り解こうとする俺の周囲ではふわふわと集まってきた無数の白い泡が相変わらずゆっくりと回り続けていた。

 が、突然その白い泡の輪はさらに狭まり、俺の体のあちこちに触れ始める。

 俺は思わず身を硬くした。

 パチン
 
 白い泡は俺の体に触れた途端に、まるで一杯に膨らませたフーセンガムが割れるかのように弾け、そしてベタリと俺の皮膚にくっついた。

 皮膚にくっついた泡は、俺の肌を白く染めていく。

 体のあちこちに触れて次々に弾ける白い泡。いつしかそれは俺の全身を白く変えようとしていた。

「な、何だよ、これ、くっついて・・取れない」

 肌にくっついたそれをひっぺがそうとするが、しっかりと貼り付いてまるで剥がれようとしない。

 そして俺の目の前には一際大きな泡が迫ってくる。

「うぷっ」

 顔に触れた泡がべたーりと俺の顔を覆い、やがて俺の顔はすっかり泡の中に入り込んでいた。

「く、苦しい」

 顔面をすっかり泡に塞がれ窒息しそうになるが、しばらく経つとうまい具合に鼻の穴の部分にポコッと空洞が開いた。

「ふう〜助かった」

 顔中を覆い尽くした泡の中で開けることが出来なかった目もやがて開けるようになった。

 だが俺の目に飛び込んだ鏡に映る今の自分の姿は、目と鼻の穴の部分は開いているものの、それ以外の全身を白い泡に覆われた、まるで出来損ないの彫刻を思わせる物体だった。

「これって……俺なのか?」

 俺はもう一度体を動かそうと試みた。だが依然として体の自由は手足に巻きついた数本の触手によって奪われたままだ。

 部屋の中に流れ続ける歌が、その時転調した。

『この頃何だか、女らしいのよ……』

 途端に再び床から真っ白い彫刻と化した俺の体に向かって無数の触手が伸び、一斉に俺の全身を這い回りながら、うねうねと動き始めた。

 俺の喉から下、胸の回りにも腰にも触手は幾重にも巻きつき、ずるずると動きながらその力を込めていく。

「ぐ、ぐえっ、く、苦しい!」 

 触手は俺の全身を絞り上げていた。

 このまま殺される! そんな恐怖を感じて身を硬くしたものの、不思議とそれ以上の痛みは感じなかった。だが、驚いたことに、体中を這い回る触手の動きに従って、鏡に映る真っ白になった俺の体の形は、段々と別のものに変形し始めていた。

 左右から触手に揉み上げられた俺の胸は、それぞれの乳首を中心に寄せられ、盛り上げられ、そこに二つの丘を形作っていった。

「お、おっぱいだって!?」

 そう、それは形に良い女性のおっぱいとしか見えないものだった。

 そして触手によって絞り上げられた俺の腰はどんどんか細くなっていく。

 首や肩に絡みついた触手が離れた時、俺の首はほっそりしたものに変わり、喉仏は消え失せていた。肩幅もすっかり狭くなっている。

「はうっ!」

 乳首の先をちょろちょろと触手が這い回る。さっきまで何も感じなかったのに、そこからは奇妙な快感が湧き上がり始めていた。

 気が付くと、大きな左右の乳房の先っちょで刺激された乳首が硬く膨らんでいる。

「う、ううう……うあっ、あひ、あひぃ」

 湧き上がる快感に思わず声が漏れる。その俺の声は細く甲高いものになっていた。

「あ、あう……あう、あうぅぅ……」

 自分の声の変化に気が付いた俺は最早声も出ず、ただ口をパクパクとさせるのみだった。

 触手によって体を固定されて半ば強引に鏡に映る己の姿を見せ付けられている俺の頭の中に、ふっと恐ろしい想像が浮かび上がった。

 こいつら、まさか俺の体を女に改造しようとしているのか? 

 思わず内太ももの筋肉をきゅっと締める。そして己の股間にまだ自分のモノが存在しているのを感じてほっとしたのだが、それもつかの間、俺の上半身の改造を終えた触手は二手に別れ、ざわざわと頭と下半身に向かって移動していった。

 俺の頭は移動してきた触手の群れにすっかり覆い尽くされる。自分の顔の上をにゅるにゅるとおぞましい触手の感触が蠢くのを感じ、背筋をぞくりとしたものが駆け抜けていった。

 そしてそれと同時に、下半身に移動していった触手が俺の下腹部と脚をすっかりと覆い尽くしているのを肌で感じていた。

「あ、あは、あああ、いい……い……い、痛っ!」

 股間に垂れ下がる自分のモノにグニュグニュと触手が絡まっていく。その周囲で蠢く感覚はまるでエッチしているかのような感覚を俺のモノにもたらした。みるみるそこが硬くなっていくのがわかる。

 だが、突然股の間から無理やり何かがキューっと吸い出されるような痛みを感じた。

「え?」 

 そしてその次の瞬間、今度は逆にそこから触手が俺の中に入ってくるような感覚に襲われた。

「あ、あ……ああ、あん、あふ、あ、あああ、あうっ」

 股間の奥に向かってずんずんと突き込まれるその感触、それは男の俺にとって有り得ざるものだった。

 その時顔を覆っていた触手がざわざわと離れ始めた。視界が回復した時、俺の目に飛び込んできた鏡に映る己の姿はさっきまでの白い彫刻像ではなかった。

 それは四肢を触手によって縛られた一糸纏わぬ姿の髪の長い色白の美少女。

 大きな乳房、細い腰、そして股間の翳りの中には無数の触手が潜り込んでいた。

 その触手の群れがにゅるにゅるとそこから抜け出てくる。

「は、はうぅ、う、うひぃ」

 触手が俺の中で蠢くと、俺の全身がぶるっと震えた。

「何だこれ‥気持ち‥いい、あ、あうぅ……ああぁ」

 足の力が抜け、膝立ちになってしまう俺の股間からはすっかり触手は抜け出て、美少女の股間には、ぬらっと光ったピンクのクレパスが姿を見せていた。

 え? これって……俺の? 俺のモノは?

 鏡の中で顔を上げた膝立ちの全裸の美少女が驚いたような表情を見せる。

 そして呆気にとられて、鏡に映るその少女を見詰める俺。

 部屋の中には、歌声が流れ続ける。

『自分で自分に驚くの、黒い髪白い爪赤い頬……』

 変わり果てた己の姿に俺は最早声も出なかった。だが、鏡の中の裸の美少女を見詰めているうちに俺の心の中で何かが変り始めていた。

『‥いいわ』 

 うっとりと自分の姿を見つめる

 そう鏡に映る今の俺は、自分で思わず抱きしめたくなるような俺好みの美少女だった。

 でもこの姿、何処かで……。

 そう、今の俺の姿、この清純そうな美少女ってどこかで見たことがある。

 だがそんな俺に考える間を与えず、触手はどこから持ち出してきたのか、俺の体に服を着せ始めた。

 脚を持ち上げられ、フリルの付いた白いショーツを穿かされる。
 
 両脚の間をするすると引き上げられていくショーツは、何もなくなってしまった俺の股間にぴたりと密着した。

 レースのあしらわれた白いブラジャーが俺の胸の周りに巻かれ、背中でパチリとそのホックを留められる。

 そして触手が俺の目の前に広げた服は清楚なミニのエプロンドレスだった。

 アルプス地方の民族衣装を思わせるその衣装を頭から被せられる。

 長い髪に器用に櫛が入れられ、すっきりしたストレートヘアに整えられていく

『私が私でなくなるみたい、あのひとは何一つ気づかない……』

 やがて部屋の中に一人の男が浮かび上がってきた。

 俺から少し離れたところに立ったその男は、にっこりと笑っていた。

 どくん

 曲が変わった。

 男は左手で小さく投げキッスしてきた。

 どくん

 え?

 今度は、「こっちにおいでよ」とでも言うかのように俺に向かって同じ左手で手招きした。

 どくん

 俺の足が勝手に動き出し、そいつの元に近づいていく。 

 どくん

 あいつは、いえあの人は。

 あたしはその時全てを思い出していた。

 そう、あの左ききの男は、いいえ、あの人は、私の彼。

 彼があたしの名前を呼ぶ。

「めぐみちゃ〜ん」

 あたしは彼の元に向かって駆け出した。





(了)


                                      2004年10月18日脱稿


後書き

 hopeさん「Change Project」9万ヒットおめでとうございます!
 サイトオープン以来陰ながら(笑)応援してきましたが、その実オープンから今まで何にも参加できず仕舞いですみませんでした。でもhopeさんが常連さんと築き上げた「Change Project」の世界、どんどんと広がってますね。これからもどうぞがんばってください。ますますの発展をお祈りしています。

 さて、この作品は「Change Project」の「白い密室」シリーズをヒントに書いてみたものです。でも、なにやら訳の分からない作品になってしまいましたね。さて元になっているネタってお分かりでしょうか。
 まあそれはともかく、ここまで拙作をお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。

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