さわりたい 第2話
作:toshi9


家に戻った俺はシャワーを浴びてベッドの毛布にもぐると、店での事を思い出していた。

確かに『脱魂丹』という薬を飲んだら魂が体から抜け出て、バニーガールの有香ちゃんのお尻にさわれたり乗り移って自分のものになった彼女のお尻の感触を楽しんだり、他のコスプレした女の子たちのお尻をさわりまくれたんだ。
いくらさわっても自分自身が怒られることも犯罪者呼ばわりされる事もないんだから、こりゃ良いよな。

それにしても、全く不思議な体験だった。ほんとにあれは現実の出来事だったんだろうか。酔っぱらっていたんじゃないだろうな……って、実際酔ってたんだが。でもあの出来事は確かに現実だった。だってなぁ。

そう思いながら手を握り締める。
俺の手の平にはまだ、さわった時のお尻の感触が残っていた。
そしてマネージャーの綾乃さんからもらった残りの二種類の丸薬がある。
二種類の丸薬、それを両方とも試して彼女にどんな効果なのか説明しないといけないんだが、さて次はどちらを試してみようか。

ベッドの上で寝そべったままビンを傾けると、中から1個の丸薬がころころと転がり出てきた。手の平に乗せた丸薬を、俺はぎゅっと握り締めた。
出てきたのは小さいほうの丸薬『分魂丹』だった。それは魂を分けるという名前の薬だ。

さてこの『分魂丹』にはどんな効果があるんだろう。まあ何にしても死ぬことはないっていうし、善は急げだ。早速こいつも試してみるか。

いろいろな思いを巡らしつつも、俺は思い切って手の平に乗った『分魂丹』を口に放り込んだ。それをごくりと飲み込むと、段々と視界がピントがずれていくようにぼやけていく。
やがて俺の目に映る光景は、二つの映像が重なり合った奇妙なものになっていた。
座ったままの視界から見えていた光景と、そんな俺を上から見下ろしている光景。
だが座ったほうの視界は徐々にうっすらとなって消えてしまった。俺の目に映る光景は部屋を上から見下ろしたものだけになる。どうやら魂が抜け出たらしいが、一瞬で抜け出た『脱魂丹』とは感覚が違っていた。そしてもっと驚いたのは、魂が抜け出たはずの俺の体が起きたままだということだ。

「うわわ、俺が起きている!?」

今の俺は、魂が幽体離脱して空中に浮いているのは間違いない。だが、魂の抜け出た俺の体は意識を失なっていなかった。
目を開いてパチパチとまばたきしながら、ぼーっと天井を見上げていた。
「俺がここにいるのになんで? 『脱魂丹』の時は、体は眠っていたぞ」
戸惑う俺を他所に、俺の体は「ネットでも見るか」とつぶやくと、ベッドを下りてパソコンを起動させると画面を見入りはじめた。
「俺の体が勝手に動いてる? どういうことだ」
自分の体が自分の意志とは無関係に勝手に行動しているのは、見ていてちょっと気持ちが悪い。よく見ると、『脱魂丹』を飲んだ時と同じように俺と俺の体との間には細い赤い糸が見えた。その赤い糸と自分の体を見下ろしながら、俺はじっと考えた。

「そうか『分魂』というのは、そういうことか」

たぶん俺の魂が分かれて、体に一部が残っているのだろう。最初に視界がぶれていたのはそのせいだ。でもあっちの体の感覚も意識も感じないから、あくまでも本体は俺だ。残った魂の一部が俺の体をうまくコントロールしてくれてるというわけだ。

それは変な効果だったが、よく考えると便利だ。魂が抜けた後の自分の体の事を心配する必要がないのだ。しかも今の俺が他人に乗り移って行動できるとしたら、使い方次第で面白い事ができそうだ。
「ふ〜ん、どんな事ができるんだろう」
いろいろ考えているうちに一つの考えに行き当たった。

「体に魂の一部が残っているということは、元に戻った時に体が経験した記憶や感覚を共有できるかもしれないな」
そこまで考えるとわくわくしてきた。
「これは使えるな」
とにかく今思いついた事が本当にできるのか、俺はすぐに試してみたくなった。
「隣の、女性大生の島崎真澄ちゃん、彼女で試してみるか……うひひ」

うちの右隣の部屋には女性大生が一人で暮らしている。スタイルが良くて美人なのだが、彼女のお尻ばかり見ている俺のことをあまり快く思っていないのか、話しかけても挨拶程度しか返ってこない。
あのお尻をもっとじっくり見てみたい、さわってみたい。
『分魂丹』も『脱魂丹』と同じように、このままさわれたり他人の体に乗り移る効果があるとしたら……。
空中からパソコンに向かってマウスを動かしている俺の背中を見下ろしながら、俺はにやっと笑った。

「よし、まずは壁抜けができるか試してみるか」

魂だけなら、壁を通り抜けて隣の部屋に入ることができないかと思って壁に向かって移動した。だが魂は壁にぶつかって抜けることができない。

「う〜ん、壁抜けまではできないのか」
だがその時、バニーガールの有香の体の中に入った時の事を思い出した
「あの時は『ぶつかる』って考える暇もなかったんだよな。ぶつかると怖いからぶつかる。もし絶対にぶつからないって思ったら? 壁を意識しなかったら?」
そう思って目をつぶって壁の事を意識せずに進んでみると、すっと壁を抜けて隣の部屋に入ることができた。

「よし、また新しい効果を見つけることができたぞ」

右手で小さくガッツポーズをして真澄ちゃんの居所を探すと、彼女はベッドに寝そべってスマホをいじっていた。メールを打っているらしい。室内に浮いて上から見下ろしている俺に、ジーンズ地のショートパンツに包まれたぷりっとしたお尻を向けている。
「よし、さわってみよ〜っと」
俺は、両手を前に出し、飛び込みの姿勢で彼女の向かって体をおろしていった。
さわさわと撫でてみる。
ジーンを盛り上げているお尻の感触が実に気持ちいい。
「ひぃっ!」
真澄ちゃんは小さく悲鳴を上げると、スマホを打つ指の動きを止めた。
怪訝そうに半身をひねって、こっちを見ている。だがその視線には俺は映っていないようだ。
「おっかしいな、誰かにさわられたような気がしたけど」
彼女は部屋をキョロキョロと見回していたが、室内に自分以外に誰もいないことを確かめると、再びスマホに目を移してメールを打ちはじめた。
「もう一度さわってみようか、いや、今度は……よお〜し」
俺はもういちど真澄ちゃんに向かって体をおろしていった。ぶつからない、彼女の中に入れると心の中で強く念じながら。
すると、今度は俺の魂はずぶずぶと彼女の中に潜り込んでいった。
「ひいぃぃ」
彼女がびくっと体を震わせたのがわかった。
そして次の瞬間、俺は彼女がいじっていたスマホの画面を見ていた。スマホを打っている指は細くしなやかで、桜色の爪がきれいに切り揃えられている。

「よし、やったぜ、真澄ちゃんに乗り移ったんだ」
ベッドから起き上がって、姿見の前に立つと、俺の代わりにTシャツにジーンズのショートパンツという部屋着姿の真澄ちゃんが映っていた。
「かわいいよな、これが俺なんてな。そして、ここも」
腰をひねって、姿見に自分のお尻を映す。
ぷりっとしたお尻、これが今の俺のお尻。
「よおし、早速揉むぞ」
俺は両手を後ろに回し、思いっきり自分の尻を揉みしだいた。
女性特有の柔らかくてぷりぷりしたお肉の感触が伝わってくる。
「気持ちいい〜〜、これだよこれ」
自分以外に誰もいない部屋で、誰はばかることなくお尻をひたすら揉み続ける。
天国だった。

「ふう〜、ほんとに気持ちいい素敵なお尻だよ。それにしてもこんな事ができるなんて、薬をくれた綾乃さんに感謝しなくちゃいけないな」
そこまで考えて、ふと我にかえった。
「おっと、この薬の効果はこんなもんじゃないよな。こんな事してられない、早く試してみないと。あ〜あ〜あ〜、あたしの名前は島崎真澄。嶋さん、あたしは真澄よ。うん大丈夫だろう」
声を出してみると、体が覚えているのか自然に女言葉をしゃべられるようだ。
よおし、俺の部屋に行ってみるとするか。
俺は部屋着のまま真澄ちゃんの部屋を出た。

どうしてこの真澄ちゃんの体で俺の部屋に行くかって?
俺はこの薬の使い道を考えているうち、あるアイデアを思いついた。
それは俺が乗り移ったこの体を俺の体に揉ませたらどうなるんだろうというものだ。
もしかしたら元に戻った後で、魂の俺が覚えている揉まれた時の快感と、俺の体に残った魂が覚えている揉んだ時の快感の両方を反芻できるかもしれない。
それともうひとつ、真澄ちゃんの体になった今の俺が、もし俺が揉むのを素直に受け入れたら? いや、俺の体にもっとたくさん揉んでもらいたいって思ったら? もしも嶋さん大好きって思ったら? もしかしたら真澄ちゃんの俺への好感も大きく変わるかもしれない。
そう思うと、すぐにでも実行してみたくなってというわけだ。

俺は真澄ちゃんの部屋を出ると、俺の部屋のインターホンを押した
もう23時を過ぎているが、ほどなくしてインターホン越しに俺の声が聞こえてきた
「こんな時間にどなた様ですか?」
「あの、隣の島崎ですけど」
俺は、インターホンに向かってしおらしく話しかけた。
「島崎さん? こんな時間にどうしたんですか?」
「ちょっとお願いがあって。よろしいですか?」
すぐにドアが開いて、俺がすきまから顔をのぞかせる。
「あの、どんな用件で?」
「ええっと、中に入れていただけません?」
俺の体が躊躇しているのがわかった。普段真澄ちゃんのほうから声をかけてくることなんてほとんど無かったからだろう。緊張しているのが手にとるようにわかる。
こんな時間に女のほうから来てやっているのにだらしねえな、俺の体。
内心、くすっと笑いながら言葉を続けた。
「あの、心配しないでください。大した事ではないですから」
俺の言葉に、ドアが大きく開く。
「どうぞ」
俺の体に促されて、俺は中に入った。

「で、用件って?」
「実は……ええっと、急に腰がこってきて我慢できなくなったんです。誰かに揉んでもらえないかなって考えていたら、お隣の嶋さんのことを思い出しちゃって。ダメですか?」
上目使いのちょっと甘えるようなしぐさで俺に問いかけた。
俺の体のほうは、真澄ちゃんの思わぬ依頼に、たぶん腰だけじゃなくお尻をさわれるかもしれないなんて考えているんだろう。だから願ったりなのだろうが、それを表情には出していない。
おい、そんなに我慢しなくてもいいぞ。

「ええっと、肩じゃなくて腰なんですか?」
ポリポリと指で頬をかく俺の体。
ええい、じれったい。そんな質問してもしょうがないだろうが。
「だめ……ですか、それじゃあたし、我慢して寝ます。ぐすん」
「いや、だめなんて、でもどうすれば?」
「ソファーに横になってもいいですか? 上から腰を揉んでもらえれば」
そう言うなり、俺はソファーにねそべった
「早くぅ、お願いします」
「あ、ああ」

俺の体が腰を揉み始める。
うつ伏せになりながら、俺は笑いをこらえるのに必死だった。
お前の揉みたいのはそこじゃないだろう。
「ええっと、もっと下をお願いします」
「もっと下って?」
「とにかくもっと下です」
揉んでいる俺の手が腰から段々下に下がっていく
そして臀部の柔らかい膨らみに触れた。
「あ、そこ」
「ええ? でもここは腰じゃなくてお尻」
「いいの、もっと揉んでください」
「いいんですか?」
「いいのよ、お願い」

女にここまでやらせておいて「いいんですか」も無いもんだ。一気にやれよ、俺。
どんな顔をして俺のお尻を揉もうとしているのか見たかったが、うつ伏せでは見ることができない。
だがショートパンツ越しにごつい手が俺のお尻を揉み始めた。
こうして横になってお尻を揉まれるというのも、何となく気持ちいい。

「ああ、気持ちいい、もっと……あ、パンツ脱がせてくれる?」
「ええ? パンツですか?」
「ショートパンツですよ、ね、早く」
うつ伏せのまま、俺は腹の下のショートパンツのボタンを外した。
「早く脱がせてちょうだい」
俺の催促に、俺の体の手が俺のはいているパンツに手をかけ、ずらすように下ろしていく。俺は軽く腰を上げ、脱げやすくしてやった。
ショートパンツは脱げて、下半身から圧迫感がなくなる。
開放感を感じた。

「あ、あの、パンティも一緒に脱げちゃいました」
「あらら、まあいいわ。それじゃ続けて。お願い」
「い、いいんですか?」
「いいって言ってるだろう。この意気地なしが」
「え?」
「あら、おほほほ、なんでもありませんわ、ねえ続けて」

再び俺の手の感触を感じる。しかも今度は直接手の温もりが感じられる。
「ああ〜いい〜いいきもちぃ」と、ちょっと悩まし気につぶやいてみた。
突然、俺の手に力が入る。
「真澄さん、俺もう……」
「もう、どうしたの、んがっ」
揉んでる手が胸に移動する。
「ちょ、ちょっと、そこは」
「ここまで誘われて……俺、もう我慢できないっす」
そう言うと、俺の体を起こして口づけをしてきた。
「ん〜ん〜ん〜」
さっきまであんなに煮え切らなかったのに、俺ってキレるとこんなに積極的になれるのか。
そんなことをぼんやり考えながら、まあ成り行きに任せてみるかと、俺の体になすがままにされてみた。

胸を揉まれ、キスされ、体中を愛撫され、そしてお尻を揉まれる。
段々と体の芯から湧き上がってくる快感に、いつしか俺の股間が濡れてきているのがわかった。
「真澄ちゃん、腰上げて」
俺はうつ伏せになったまま腰を持ち上げられ、尻を後ろにいる俺の体に突き出すような恰好にさせられた。
突然、股間に押し込まれてくる生暖かい異物感。
後背位! しかもそのまま挿入するなんて、生出しするつもりかよ。でも今日は安全日だし、いいか……って何考えているんだ、俺。

後背位のまま腰をつかまれ、股間に挿入された硬直したペニスが出たり入ったりのピストン運動を繰り返される。いつしか快感は俺の全身を覆っていた。
「ああ、いい、いいの、気持ちいいの、もっと突いて、もっと揉んで。好きよ、嶋さん、大好きなの」
快感が全身を駆け巡り、もう何も考えられなくなってくる。だが、何とか『嶋さん大好き』と言葉に出してみた。真澄ちゃんの好感度がこれで変わるかどうか……いや、もうそんなことどうでもいいの。
「もっと、嶋さんもっと」
俺の悩ましげな言葉に、俺の体の動きが一層激しくなる。
そして……。

「い、いく、出る」
「あ、いく、あたしもいっちゃう、いい、いく、あああああ
俺の膣に挿入されたペニスがぐぐっと膨らんで硬さを増したかと思うと、その先端から体の奥の子宮に向かって勢いよく精液が噴出されるのを感じた。
だが、それと同時に絶頂を迎えた俺は意識を失った。



「う、う〜ん」
意識が戻ると、俺は真澄ちゃんと体を重ねるようにベッドに伏していた。
彼女を見ると、俺に抱かれたままじっとこっちを見ているのに気がついた。
真澄ちゃんのほうが早く目を覚ましたらしい。
「あ、あの」
何か言おうとする俺の唇を、彼女が指で塞ぐ。
「いいの、謝らなくてもいいの。あたしのほうから誘っちゃったんだから。それに気持ちよかった。好きよ、嶋さん」
彼女の言葉は俺のとった行動を自分がやったものと認識していることを示していた。しかも俺のことを好きと言った。
昨日までどちらかというと俺の事を避けていた彼女の意識は、今やすっかり改変されていたのがわかった。

「あ、ありがとう」
「シャワー借りるね」
そう言ってベッドから起き上がった真澄ちゃんは、バスルームに入っていった。
ほどなくしてシャワーの音が聞こえてくる。そしてシャワーの音に紛れて彼女の鼻歌も聞こえていた。

「あの薬の効果か……すごい薬だな」


(第2話終わり)






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