叶えられた願いV
【その3】

作:toshi9



「へぇ〜、ここがテレビ局か」

 タイトスカートとリボン付きブラウス、そしてスカートと同色のジャケットというスーツ姿でテレビ局の正面玄関に仁王立ちした俺は、にやっと笑うと堂々と中に入った。そんな俺を誰も不審に思わない。当然だ、売れっ子美人レポーター坂本岬が取材から帰ってきたとしか見えない訳だから。

「おはようございま〜す」
「おはよ、岬ちゃん」

 顔見知りのスタッフがすれ違う度に挨拶する。勿論俺の顔見知りは一人もいない。坂本岬の顔見知りだ。

「さてと、これからどうしようか」

 考えながら歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

「よ、岬、元気!?」

 振り返ると、そこにはアイドルの桜木サトルが立っている。

「え? あっ」

 あれ? 胸がドキドキしてきた。

「今夜、空いてるかな」
「う、うん」
「じゃあ、いつもの場所でね」

 手を振って去っていく桜木サトルをぼーっと見ている俺の胸は、まだドキドキしている。
 え〜っと、そうか周囲に内緒であいつと交際しているのか。で、今夜もデートの約束をしたという訳だ。今までに何回か桜木サトルとえっちしているんだよな。うん、気持ち良かったって記憶が蘇ってきたぞ。

「ふむ、人気アイドルとセックスするというのも面白そうだよな。女の快感をあいつに味あわせてもらえる訳だ。さてどうする」

 じっと考えたが、だが俺は思い直した。

「ふふふ、この子も俺のものだ。美人アナウンサーの彼女ってのもいいよな」

 そう決めた俺は心の中で
(サトル君のことも好きだけど、あたしは小坂さんのことを愛しているの)
と念じながら、坂本岬の桜木サトルとの交際の記憶を俺と付き合っていたように書き換えてやった。

「小坂さんとのえっちってとっても素敵だった。ああん、あたし小坂さんとずっと一緒にいたいの」

 股間がむずむずとうずいてくる。

「ああ、どきどきしてきた。よし、俺とえっちするのを想像しながらオナニーしてやるか。さてトイレはっと」

 トイレを探しながらテレビ局内をうろうろしていると、通路の向こうからオーラを発散している女の子がこちらに歩いてきた。

「お! さおりんじゃないか」

 それは人気絶頂のアイドル、葛城さおりだった。
 チャンスだ、彼女になってみるか。人気絶頂のアイドルとして暮らしてみるのも面白そうだよな。
 俺はしめしめと思いながら、彼女とすれ違うのを待った。
 さおりんも近づいてくる俺に気がついたのか、ぺこりと会釈する。

「おはようございます」
「さおりちゃ‥」

 彼女に声をかけようとしたその時、ポンと後ろから肩を叩かれた。

「岬ちゃん、こんなところで何しているの? さっきから山口ディレクターが探していたよ」

 俺の後ろにはジーンズをはいた背の高い男が立っていた。どうやら番組スタッフの一人のようだ。

「え? ディレクターが?」
「ああ、Gスタに急いでくれよ」
「そう、わかったわ」

 俺たちが話をしている間に、さおりちゃんは横を通り過ぎていってしまった。ちぇっ。
 仕方なく記憶を頼りにGスタジオに行くと、俺の姿を見るなり男が駆け寄ってくる。それが山口ディレクターだった。

「岬ちゃん、遅かったじゃないか」
「ええ、朝丘美紀の取材が長引いちゃって」
「そうか、なあ急で悪いんだが頼みがあるんだ」
「頼みですか?」

 俺は小首をかしげてディレクターを見た。それは坂本岬のいつものくせだ。俺は自分でも気がつかないうちに、そんな彼女の仕草もこなしている。

「うん、今から東京カーサロンの取材に行ってもらいたいんだ」
「東京カーサロンですか?」
「ああ、予定してた都ちゃんが行けなくなったんだ。どうだ、代わりに取材してきてくれないか?」

 どうやらレポーターのピンチヒッターということらしい。

(ちぇっめんどくせーな、早いとこさおりちゃんになりたいのに)
 内心舌打ちしたものの、待てよと思い直した。
 東京カーサロンということは美人コンパニオンが一杯だよな。ふふふ、コンパニオンになってみるというのも面白そうだな。

「りょーかい、それじゃ取材に行ってきま〜す」
「ああ、急ですまないが頼んだよ」

 俺の興味は留まることを知らない。担当のカメラマンと連れ立ってテレビ局からほど近い国際展示場に向かうと、取材バッジを見せて会場の中に入った。




 会場の中に設けられた各自動車メーカーのブースでは、展示された車をバックにヘソ丸出しの短いスカートやショートパンツのユニフォーム姿、或いは肌も顕わなレオタード姿のコンパニオンが車の前でポーズをとっている。その前にはカメラや携帯を持った男どもが押し寄せてシャッター音を響かせていた。
 中でもひときわ男どもが多く群がっている場所を覗いてみると、その中ではハイレッグの赤いレオタードを着たコンパニオンがポーズを取っていた。
 彼女がきゅっと体を捻ると、おおっと歓声が上がる。

「うわぁ、綺麗な子だな。よし、次のターゲットはあの子に決めた」

 俺は「取材です、すみません通してください」と人ごみを掻き分けて、そのコンパニオンの前にたどり着いた。

「テレビ局ですけど、ちょっといいですか?」

 取材陣、即ち俺たちの姿を見て、コンパニオンがにこりと笑う。

「それじゃはい、これを持ってください」

 俺はマイクの代わりに人形を差し出した。
 不思議そうな表情で人形を受け取るコンパニオン。

「あひっ」

 次の瞬間、ピチっと張り付いた生地の感触が体に感じる。俺は見事なプロポーションの肢体に赤いハイレッグのレオタードをぴたりと体に密着させたそのコンパニオンになっていた。

「よしよし、成功だぜ」

 ハイヒールで一歩二歩と歩くと、パンティストッキング越しに股間に食い込んでくるレオタードの感触に、思わずピクっと反応してしまう。
 俺は目の前できょろきょろと回りを見回している坂本岬に「ご苦労様」と言ってにこりと微笑んだ。
 彼女は「はあ」と呟くと、小首をかしげながら人ごみの中に消えていった。
 一方の俺は新車の前で悩ましいポーズを取り続けた。
 俺がポーズを取るたびに「うお」っという歓声が上がる。
 くるりと体を回転させて腰を突き出すと、「おお!!」と大きな歓声があがる。

「へへへ、注目されるって気持ちいいな。えーっと、あたしの名前は宮村飛鳥か。レースクイーンもやっている人気モデルな訳ね。へへっ、中身が俺だとも知らずに、馬鹿な男どもだぜ」

 カメラや携帯の砲列が俺の一挙手一投足を捉え、ポーズをとる度にシャッター音が響く。

「よ〜し、サービスだ」

 俺はレオタードからこぼれんばかりの胸を両手で持ち上げながら、股をがばっと大きく開いた。

「うぉおおお」

 さらに片手を胸にぎゅっと強く食い込ませ、もう一方の片手は広げた股間を隠すように添えると、悩ましい目つきで観衆を見渡す。

「おおおおお」

 俺と目線を合わせた男共は、一様に自分の股間を押さえていた。

「まったく男ってやらしいんだから、ほんと馬鹿ね。くくっ」

 ごく自然にそんな彼女の気持ちがわきあがる。
 俺は次々とえっちなポーズを取り続けた。
 ますます観客が増えて、ブースの前は大混雑に陥っていた。

「君きみ」

 あまりの騒ぎに業を煮やしたのか、車メーカーの関係者らしき50歳くらいのスーツ姿の男が険しい顔をして駆け寄ってきた。

「何してるんだ、やりすぎだろう。困るよ、そんな変なポーズをされちゃ我が社の新車のイメージが台無しだろう」
「あら、いいじゃありませんか、サービスですよサービス」
「サービスって君、勝手なことをするんじゃないよ」

 男はぐだぐだと俺に向かって説教を始める。
 うるっせぇなぁ。

「大体君はだな、んぐぐ」

 俺は男に抱きつくと、ぶちゅっとディープキスしてやった。
 大きな胸を男に押し付け、口を唇で塞いで舌をねっとりと絡めつかせると、男の動きが止まる。

「ぷはっ!」

 呆然とする男に、俺は口をぬぐいながらぱちっとウィンクした。

「部長、今夜あたし暇なんですけど、ご一緒しません?」
「う、うむ、そうか」
「じゃあ待ってますね」

 口にキスマークをつけたままにやける男にやれやれと思いながら、俺は観衆に投げキッスをするとブースを降りた。
 突然股間がぶるっと震える。
 尿意をもよおしてきたのだ。
 でもこんな衣装でどうやって用を足すんだ。
 だがそんな心配は無用だった。
 女子トイレの個室に入ると、コンパニオン宮村飛鳥の記憶に従って手際よくレオタード、ストッキングを脱ぐと、紐のような小さなパンティを下ろして、便座に腰を下ろした。

 シャ〜〜〜
 
 陰毛を形良く剃った俺の股の間から、勢い良く尿がほとばしり出る。
 ほんと、この開放感は男も女も変わらないよな。
 俺は体の中に溜まっていた尿を全て排泄してふぅ〜と一息つくと、トイレットペーパーで股間を拭きながらぼんやりと考えた。
(あの部長を誘ったけど何か勿体無いよな。うん、この子にも俺を好きになってもらうとしますか)
 俺は深呼吸すると、俺の顔を思い浮かべながら念じた。

「あたし、小坂明雄さんのことが大好きなの。一目惚れしちゃったんだ。そうよ、もう忘れることなんでできないんだから。ああん、小坂さん、大好き」

 便座に座ったまま両足を大きく開いて、股間を両手でまさぐった。

「ああん、いい、いいの、ここに小坂さんのアレが欲しいのぉ」

 左右4本の指で撫でるように刺激していると、ほどなくそこは湿り気を帯び始める。

「あふん」

 ずぶずぶと俺のほっそりとした指が1本2本と俺の中に潜り込んでいく。
 ゆっくりと出し入れすると、その刺激にピクッと顔を仰け反らせる。

「ああん、小坂さん、あたしのことを愛して」

 乳首がこりこりと硬くなって膨らんでいく。一方の手を股間から胸に移して揉む。乳首を撫で回す。白く大きな胸は手の平の中で柔らかい餅のように変形した。

「ああ、いい気持ち、いい、あ、あん」

 指の動きが段々激しくなる。
 ぱっくりと開き始めた股間から、だらだらと粘液が便器の中にしたたり落ちていく。

「あ、いい、いく、いく、いくぅ〜〜」

 プシュ〜〜〜

 瞬間、激しいほとばしりが股間から便器の中に噴出する。
 俺は潮を吹いていた。

「はぁはぁはぁ、あ〜気持ちよかった」

 俺は裸で便座に腰を下ろしたまま、肩で息をしていた。

 ドンドンドン

 その時、個室のドアが叩かれる。

「誰かいるの? そこでなにしているの?」
「あ、あの、ちょっと気分が悪くなって。でも大丈夫ですから」

 えっちなよがり声を出しておいて、気分が悪くなったも無いもんだ。うーん、オナニーしている事を感づかれちゃったかな。
 慌てて股を拭いてパンティとパンティストッキングを履きなおすとレオタードを着込む。
 強く拭いたせいか、股がひりひりして痛い。
 だがこれ以上中に入っている訳にもいかない。俺は意を決してトイレの個室のドアをそっと開けた。
 鏡の前で数人のコンパニオンがメイクを直している。だが振り向いたコンパニオンたちは皆一様に侮蔑の表情を浮かべている。

「あちゃ〜、やっぱり感づかれちゃったみたいだな。まああれだけあえぎ声を漏らしたんだから仕方ないか」

 それにしても視線の集中砲火は居心地悪い。
 俺は無言で手洗いの前で白い目で見ているコンパニオンたちの間に割って入ろうとした。
 だが俺の持った人形が青いブラジャーとミニスカート姿のコンパニオンのグループの一人に触れてしまった。

「あっ!」

 次の瞬間、俺はその青いセパレートタイプの衣装を着た小柄なコンパニオンになっていた。
 俺の目の前では赤いレオタードを着た背の高いコンパニオンが心地悪そうに股をもじもじさせている。

「どうしたんですか〜?」

 俺はちょっと意地悪な口調でそのコンパニオン、即ち宮村飛鳥に聞いた。

「あ、いえ、何でもありません」

 顔を真っ赤にした彼女は、飛び出すようにトイレを出て行った。足取りが少しがに股になっている。

「強く拭き過ぎたかな。ひりひり痛かったんだよな」
「なにぶつぶつ言ってるの。麻衣、いくわよ」
「はい、リーダー!」

 グループのリーダーに元気よく答える。
 そう、俺はグループの中で最年少の女の子になっていた。名前は山中麻衣か、ええっと、なんだまだ女子高生じゃないか。この子って現役女子高生モデルなんだ。なるほど、色気むんむんの他のコンパニオンと違って青い果実って雰囲気だけど、まあいいか。
 そう思いながら、俺はグループの一番後ろについていった。
 このコンパニオングループのメンバーはなかなかの美人揃いだ。この姿なら近くにいても怪しまれないし、ふふふ、こりゃいい目の保養だぜ。

「どうしたの、麻衣ちゃん」
「何でもありません、リーダー」

 結局その後はグループの一員としてコンパニオンの仕事をこなしてみた。
 ブースの前でポーズをとったり、訪れるお客さんに車の説明をしたり。
 グループ全員でポーズ取る時には決められたポーズに加えて他のメンバーと体を密着させたり、頬と頬を合わせたり、男の時には絶対できないようなことをやってみた。
 グループの最年少で背が低くマスコット的な存在の山中麻衣にはそんな行動がよく似合うものだから、どんなに俺が他のメンバーにべたべたしても全く疑われなかった。

「お姉さま〜」
「麻衣ちゃん、お客さんの前だから」
「いいじゃないですか、ほらみんな喜んでますよ」

 メンバーの一人に後ろから抱きつきポーズを取る。回した右手で彼女の胸を揉み、左手でVサインをすると、観衆からわ〜っと歓声が上がってシャッター音が響き渡る。
 
 そんな風にコンパニオンをしているるうちに、時間はあっという間に過ぎていく。
 そしてイベントの終了を告げるアナウンスが会場に流れた。 

「お疲れ様〜」
「うん、明日が最終日だから、麻衣ちゃん、もう一日がんばってね」
「はい、お姉さまたちも」

 一緒にロッカールームに入ると、皆でコンパニオンの衣装から普段着に着替える。
 半ば裸になって着替えるメンバーたちの姿を堪能しつつ、俺も麻衣の着てきた学校の制服に着替えた。
 そしてグループの女性たちと別れて会場を後にした。

「なかなか面白かったぜ。さーて、これからどうしようか」

 会場脇の駐車場に停めたバイクからヘルメットを取り出すと、頭から被ってバイクにまたがった。
 彼女はバイクで会場に通っているらしいのだ。
 スカートのポケットからキーを取り出してエンジンを始動すると、俺はバイクを走らせた。
 国道に出て車の横を猛スピードで走り抜けると、男性ドライバーがちらちらと俺のほうを見る。

「うーん、気持ちいい」

 俺はバイクは運転できない。だが今の俺は当たり前のようにバイクを操って車の間を疾走していた。
 ヘルメットからはみ出した長い髪が風でなびく。制服のプリーツスカートの中に吹き込んでくる風も、信号待ちで車の男共が寄せる視線も心地よかった。

「さてと、どこに行くかな。このままこの麻衣ちゃんの家に行って女子高生の暮らしを味わってみるのもいいけど……待てよ、そうだ由布子と俺は会社が終ったらデートする筈だよな」

 俺はバイクを会社に向かわせた。俺の体がどんな顔で由布子をデートするのか他人として、つまり今の女子高生ライダー山中麻衣の姿のまま見てみたくなったのだ。




 会社の前にバイクを停めてヘルメットを脱いでいると、丁度会社から俺が出てきた。

「お、丁度よかったみたいだな。なんだ、一人じゃないか。荻野由布子とデートしないのかよ。よーし、それならこの俺が」

 俺は、もう一人の俺に近づいて声をかけた。

「ねえお兄さん、これからあたしとデートしない?」
「なんだ、君は?」
「あたし? あたしは山中麻衣、現役女子高生でモデルもしているのよ」
「その君がどうして俺と?」
「え? そうね、お兄さんのことが好きになったみたいだから」

 不審そうな目で俺を見るもう一人の俺。まあ仕方ないけど、こんなかわいい女子高生が誘っているんだぞ。もう少し嬉しそうな反応してくれてもいいじゃないか。
 俺はもう一人の俺の態度にプライドを傷付けられたような気持ちになってしまった。これってこの子の気持ち?
 と、その時会社から荻野由布子が出てきた。
 なんだ、やっぱり今夜はデートになったんだ。

「小坂さん、待った? え?」

 にこやかにもう一人の俺に駆け寄る由布子、だが俺を見るなりきつい表情に一変した。

「なによ、あなた」
「え? あたしは……え〜っと、じゃあお兄さん、デートがんばってね」

 ぽかーんとした表情で俺を見ている二人を尻目に、内心うしうしと思いながらその場を去ろうとした。
 だがその時、俺たちの周りは4人の美女に取り囲まれてしまった。
 それは全員俺がよく知っている顔だった。
 即ち、今日俺が乗り移った人事部の斉藤杏子、ビーチバレーの朝丘美紀、アナウンサーの坂本岬、そしてコンパニオンの宮村飛鳥だ。

「誰だ、君たちは」

 いきなり取り囲んだ4人の美女に、もう一人の俺はうろたえている。

「小坂さんってこんな女と付き合っているの? 彼女は松中君とも付き合っているのよ」
「小坂さん、あたしずっと電車の中であなたを見てたんです。でももうじっと見ているだけじゃ我慢できない。決めたんです。告白します、あなたのことが好きです」
「ねえ小坂さん、あたしと一緒に番組に出てみない?」
「何でかわからないんだけど、小坂さんのことがずっと頭から離れなくって。どこで会ったんだっけ」

 取り囲んだ輪を狭めてもう一人の俺ににじり寄る4人。
 女子高生・山中麻衣になっている俺と荻野由布子もその輪の中に取り残される。

「ちょっと待ってよ、小坂さんはあたしと付き合っているんだから、邪魔しないでよ」

 もう一人の俺を守るように彼女たちの前に立ち塞がる荻野由布子。
 彼女と4人が口論になる。

「うるさいわね、この二股女。誰と付き合うかなんて彼が決めることでしょう」
「お願いです小坂さん、あたしとお付き合いしてください」
「あたしのパートナーとして一緒に働いて欲しいんだけど、駄目かな」
「そんなのほっといて、あたしと遊びに行こうよ。あなた邪魔よ、どいて」
「ちょ、ちょっと待ってよ、キャッ」

……生まれて初めてモテているような気がする。

 だが、事態は修羅場の様相を呈し始めていた。会社から出てきた他の社員が、何だ何だと俺たちを遠巻きに取り囲みつつあった。
 そう、会社の前は大混乱だった。
 このままではまずい。

「みんな落ち着いて、うわっ!」

 騒ぎを止めようとした俺は、結局6人の中に挟まれてもみくちゃにされてしまった。脱出しようにも誰かが腕を掴んで離そうとしない。
 しかも混乱の中で俺の持つ人形が誰かに触るたびに、俺の意識はもみ合う5人の女たちの間をぐるぐると転移していた。
 混乱の中で、気がつくと体が朝丘美紀になっていたり、宮村飛鳥になっていたりとどんどん変わり続けたのだ。
 まるでルーレットの中に放り込まれたかのように。
 もう自分が誰になっているのかよくわからない。

「うわぁ、こりゃたまらん。許せ、俺」

 大混乱の中、俺は必死の思いでその中から飛び出すと駆け出した。


(その4へ)


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