異国にて
(その1)

漫画&小説原案:SKNさん
小説  :toshi9    


  


それは、俺がとある異国の地に海外出張に来て3日目の事だった。

夕方の便で日本に帰ることになっているが、早めに仕事が終わり、まだたっぷり時間がある。

「そうだ、あそこに行ってみるか」



この国特有の蒸し暑さに噴き出す汗を拭いながら、俺はとある裏通りをブラブラと歩いていた。

高層ビルの並ぶ整然とした表通りとは全く雰囲気が違う、昔ながらの面影を残した裏通りの雰囲気が好きな俺は、この国で時間があるとここを訪れる。

界隈の店店はどこも古びているが、日本で見たことのないような商品が所狭しと並べられている。

時折店の前で立ち止まっては店先に並んだ商品を眺めながら通りを歩いていると、ある店の前に立っていた中年の男と視線が合った。

店主なのだろうか、その男は俺に向かって声をかけ、手招きをしてくる。

現地語で早口でまくしたてられる言葉は何を言っているのかさっぱりわからないが、どうやらとても面白い商品が入荷したから買って欲しいと言っているようだった。

半ば強引にその男に店内に引っ張り込まれた俺は、ふと興味を覚えて商品を見てみることにした。



男は様々な商品が並べられている店内を抜けて、さらに奥の部屋に俺を連れて行く。

ドアを開けると、その部屋の中にはただ古びた木製のテーブルひとつあるばかりで、雑然とした店内と違ってがらんとしていた。

男はテーブルの上を指さし、俺に向かってまくしたてる。

テーブルの上には奇妙なものが置かれていた。


女の仮面!?

いや、それは仮面というよりも、まるで女性の頭の皮をそっくり剥がしたようなリアルなマスクだった。

手に取ると、その手触りは繊細な女性の肌そのもののようだった。さらさらとした髪も、とても作り物とは思えない出来だ。

マスクの傍らには何やら説明書きらしきものが置かれていた。そこには「日本渡客。27歳的女子」と書かれている。

27歳の日本女性?
どういう意味だ。このマスクのモデルとでもいうのか?

俺は怪訝そうに男を見ると、男は電卓を取出してキーを叩き、俺に向かって差し出した。電卓のディスプレイに並んだ数字で示された値段はびっくりするほど高かった。だが俺の中には、そのマスクに対する言いようのない興味が湧いていた。

このマスクをかぶってみたい。
そんな思いに囚われていた。
でもちょっと高いよなあ。

マスクをじっと眺めて悩んでいる俺を見ていた男は、さらに部屋の隅に置かれていた女性もののキャスターバッグと大きな紙袋を持ってくると、ニコニコと笑いながら俺にそれを押し付けてきた。

これもおまけに付けるというわけか。

紙袋の中を覗くと、肌色のタイツのようなものが入っていた。

なんだ、このタイツは。それにキャスターバッグには何が入っているんだ?

結局俺は、それを購入した。マスクをかぶってみたいという奇妙な衝動と、そして紙袋とキャスターバッグの中身への興味は、法外な値段に対する警戒感を上回っていた。
金を支払うと、男は伝票らしきものを俺に差し出した。
そこには名前と携帯番号とメールアドレスの記入欄があった。どうやら顧客伝票のようだ。

面白いものが入荷したら、また買いに来いってか。

やれやれと思いながらも、俺はその伝票に必要事項を記入した。
男は満面の笑みでキャスターバッグとマスクを一緒に入れた大きな紙袋を俺に手渡した。



店を出た俺はホテルに戻ると、部屋のベッドの上に荷物の中身を広げてみた。

「な……なんだこれは、いったい……」

キャスターバッグを開くと、中には女物の服に下着、ストッキング、靴、化粧用具一式が詰め込まれていた、そしてバッグのポケットにはパスポートに免許証、保険証といった海外旅行客に必要な身分証明証が入っている。
免許証にはマスクそっくりの女性の写真と「二条沙耶奈」という名前が記されていた。

「マジ、これってマスクのモデルの持ち物か。それじゃあ盗品じゃないか。紙袋のほうは……げっ!」

包み紙にくるまれたマスクを紙袋から出し、その下の肌色のタイツを広げてみると、それは全身タイツ……というより女性の姿を模ったボディスーツだった。いや、その精巧さは、まるで女性の全身の皮そのものだった。

品物を全てベッドの上に並べ、俺は呆気にとられていた。


(続く)







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