(前回のあらすじ)

 パワーアップしたシャドウガールに助けられて、謙二に取り付いていたブルーイソギンチャクを倒したハニィ。しかし未久に成りすましていた謎の男、いや井荻恭四郎は再び行方を眩ましてしまった。

 それから数日後、2年C組の朝のホームルームの始まりと共に校長先生に連れられて一人の男が教室に入ってきた。

 爽やかに笑う男。歓喜する桜井幸。

 しかしその男を見てハニィは呆気に取られていた。

 お、俺だ。

 そして呆然とするハニィに向かってその男、如月光雄は思いもよらぬ言葉を投げつける。

「全くひどい目に遭ったよ。俺は今まで生田生体研究所の地下室に監禁されていたんだ。お前はひどいやつだ生田蜜樹、いやスウィートハニィ!」






戦え!スウィートハニィU

第5話「偽りの現実」


作:toshi9






 え? 何が起きているんだ。俺が俺の前に現れて、それも今まで生田生体研究所に監禁されていただなんて……そんな馬鹿な。

 如月光雄、即ち本来の自分が目の前に立っているのを見て、ハニィはすっかり混乱していた。

(先生、先生落ち着いてください。今はあたしの姿をしていると言っても先生が如月光雄でしょう)

「え? あ、ああ、そうだよな。だがあそこに立っているのは確かに俺だ。俺がもう一人いるってどういうことなんだ。もしあれも俺だとしたら、指輪が割れて元に戻れなくなってしまったあの時に、あいつが生まれたっていうことなのか?」

(指輪にそこまでの力はなかったと思うんですけど。先生、私にもよくわからないんです)

「それとも俺の偽者? まさか恭四郎か!」

(よくわからないんですけど、でも、あの感じは恭四郎ではないと思う)

「そうか……」

「ちょっとハニィ、どういうことなの? 説明して頂戴」

 その時立ち上がっていた桜井幸が、怒りに満ちた目でハニィを睨みつけた。



「「そうだそうだ、どういうことだ」」

「「スウィートハニィって??」」

「「ほら、あの怪人襲撃事件の時に現れた変身美少女」」

「「そうか、ハニィって誰かに似てると思ってたけれど、あの時の変身美少女に似てるんだ。
っていうか如月先生は彼女があの時の変身美少女だって言ってるのか。じゃあハニィとあの時現れた怪人たちはグルだったってことか??」」

「「馬鹿、あの時あの変身美少女は怪人と戦っていたじゃないか」」

「「でもあの時彼女が、ハニィが先生を連れ去ったという訳なんだろう。そして今まで俺たちにそれを隠していたんだ」」

「「いや、そんな風に決め付けるのはまだ早いんじゃないか」」

「「じゃあ如月先生の言ってることが嘘だって言うの」」

「「いや、そうじゃないけど……」」



 わいわいがやがやと喧騒に包まれた教室は、いつしか異様な雰囲気に包まれていた。そして謙二らごく一部を除く大部分のクラスメイトは怒りの目でハニィを見詰めていた。

 今までハニィに騙されていた。

 如月光雄の言葉に、そこにいたほとんどの人間はそう思い始めていたのだ。

「如月先生の言っていることって本当なの、ねえハニィ答えて!」

「そ、それは」

「あたしにちゃんと説明できないの? じゃあ先生の言っていることはやっぱり本当なのね」

「違う、幸、あいつは如月先生じゃない……」

「何をわけのわからないこと言っているのよ。先生のどこが先生じゃないって言うの。先生よ、先生があたしの元に帰ってきてくれたの。紛れも無くあたしの如月先生よ」

 そんな幸の様子を見て教壇に立つ如月光雄は一瞬にやりと笑った。だが幸もハニィもそれに気が付かない。ただ一人だけ彼の表情の一瞬の変化に気が付いた者がいた。

(あれ? 今の笑い顔って? そう言えば何で先生が生田生体研究所に監禁されなければならないんだ。そもそもあの生田家の人たちがそんなことをするなんてとても思えないし)

 今まで見たことの無いような光雄の怪しげな笑い顔を不審に思う謙二だった。

 だがそんな教室のざわめきを打ち払うように教壇の如月光雄が再び口を開いた。

「静かにしてくれ、みんな。俺が今まで学校に来れなかったのはそういうわけだったんだが、まあ彼女もどうやらこのクラスの一員になっているようだし、もう終わったことだ。今までのことは水に流して一緒に勉強していこうじゃないか」

「な、なにを……」

 ハニィが反論しようとするのを無視して話し続ける光雄。

「なあハニィ、これから俺は君の担任だ。君は俺のかわいい生徒の一人さ。よろしく頼むよ」

 再び爽やかに笑う如月光雄。

「さっすが先生。ハニィ、先生に感謝しなさい」

 両手を組んで光雄をきらきらとした瞳で見詰め、返す刀でハニィをきっと睨む幸。まあ彼女らしいと言えば彼女らしいのだが……。

「み、みゆき……」

「ごほん、じゃあ如月先生、後は頼みましたよ」

 事情が飲み込めず話題にすっかり取り残された校長先生が、咳払いして口を開く。

「はい、校長先生。どうもお手数かけました」

 お辞儀する如月光雄、そして校長先生は皆に手を振ると両手を後ろ手に組んで教室を出て行った。

「じゃあホームルームはこれで終わりだ。今日はこのまま1時間目の授業を始めるぞ。みんな、教科書を出してくれ」


「「え゛〜〜〜」」


 そのまま授業を始める光雄。

 そしてハニィはそこで再び驚かされることになる。

 1時間目が彼の授業だと知っているのはまだいい。授業が始まると、彼の教え方は失踪する前の光雄と全く変わるところが無かったのだ。

 やっぱりあれは俺なのか。

 ますます混乱するハニィだった。




 そして瞬く間に1日が過ぎた。

 職員室でも光雄は話題の中心となっていたが、彼の様子は失踪前と何ら変わるところがなく、誰もが彼の復帰を喜んでいた。

「如月先生、本当に生田さんのところに監禁されていたんですか。だとしたらちょっと問題ですよ」

「まあいろいろありましたがもう済んだことです」

「警察には連絡したんですか?」

「いえ、そんなことは……生徒の家を犯罪者の家にする訳にはいきませんよ」

「え? じゃあやはり何か良からぬことが」

「いえいえ、気にしないでください。まあ何があったのかはお話できませんが、この問題は担任の私と生田さんの二人でよく話し合って処理しますんで」

 爽やかに他の先生たちの疑問に答える光雄だった。

「そうですか、いやあ如月先生って本当に生徒思いなんですね」

 それ以上追求することなく、そんな彼のことを改めて見直す同僚たちだった。





 一方、放課後の2年C組である。

「みゆき、一緒に帰ろう」

「ふん!」

 誘うハニィを無視してカバンを片手に出て行く幸。

「桜井……」

 置き去りにされたハニィは右手を幸のほうに向かって伸ばしかけたが、やがて寂しそうにゆっくりとその手を下ろした。

 教室に残っている生徒のほとんどはそんな彼女を冷ややかに見詰めている。

 そう、人気者だった彼女は1日にしてその座を滑り落ちていたのだ。それどころか彼女の言動は無視され始めていた。

「なんで、なんでこんなことに……」

 いきなり元の自分が現れた上、クラスの中で除け者にされたハニィは少なからずショックを受けていた。

「ハニィ、一緒に帰ろうか」

「委員長、いいよ。一人で帰れるから」

「……そうか。それにしてもみんなひどいよな。お前やあのお母さんやお姉さんがそんなことをする訳ないのに何でそれが分からないんだ」

「如月先生がそう言うんだから、みんな信じちゃうよ」

 半ば自嘲気味に話すハニィだった。

「元気出せよ、元気の無いハニィなんてハニィらしくないぞ。俺はハニィのこと信じているから」

「ふふっ、ありがとう。でも大丈夫、あたしってそんなにやわじゃないから」

「うん、さすがハニィだ」

「じゃあまた明日」

「ああ、またな」






 そして一人学校を出るハニィ。

「それにしてもあの俺は何者なんだ。くそっ」

(先生、落ち着いてください)

「これが落ち着いていられるか。俺が俺に教えられているんだぞ、それも女子生徒として。おまけにあいつはほんとに俺そっくりの教え方をする。くっ、俺が担任として俺を指導する? こんなことってあるか」

(そうですね。でも不思議なんです)

「え? どういうことだ」

(あの先生って、先生のような感じもするし、違うような感じもするし、何だか変な感じなんです)

「???」

(ごめんなさい、おかしなことを言って。でもまた何か気が付いたらお話しますね)

「ああ、頼むよ。それにしてもほんとわからない。あの俺の正体って……そうだな、賢造さんや幸枝さんの意見も聞いてみることにするか」

 生田生体研究所の玄関のドアを開けるハニィ。

「ただいま〜」

 しーん

「あれ? 誰もいない? おっかしいなぁ」

「きゃあ〜〜〜」

 突然庭の方から女性の悲鳴が上がった。

「あの声、幸枝さん?」

(先生!)

「うん、行ってみよう」

 慌てて庭の方にまわったハニィが見たもの、それは逃げ惑う3匹の猫を追いかける幸枝の姿だった。

 猫? いやちょっと違う?

「お母さん、どうしたの」

「ああ、蜜樹。良い所に来たわ。手伝って頂戴」

「ええ?」

「あの子たちを研究所の外に出さないで」

「あの子たちって……え?」

 庭の木に纏わりついてじゃれ合っている3匹の猫は、よくよく見ると女の子の姿をしていた。いやぴょこんと生えた猫の耳と尻尾もある。





「シャドウガール? いや違う。お母さん、どういうことなの」

「話はあと。あなたならあの子たちを捕まえるのってわけないでしょう。お願い」

「え? ええ」

 庭に駆け出すと、その猫娘たちの中の1匹の首根っこを掴むハニィ。

「みゃお、みゃお」

「ミュ〜、ミュー」

「みゃ〜〜〜」

 首を振っていやいやをする猫娘。

 がぶり

「いってぇ〜〜〜」

 その時、ハニィの足元で鳴いていた猫娘の1匹がハニィの腕に捕まると、その手をがぶりと噛んだ。

 たまらず掴んでいた手を放すハニィ。

「「にゃお、にゃおにゃお」」

 猫娘たちは3匹集まると、何やら話し合いをし始めた。

「みにゃ〜」

 相談がまとまったのだろうか。猫娘たちは互いににこりと笑うと、一斉にハニィのほうに振り向いた。

「え? なに?」

 その笑い顔を見て嫌な予感に囚われるハニィ。

 次の瞬間3匹の猫娘は同時にハニィに向かって飛び掛ってきた。

「いやあ〜」

 1匹がハニィの顔に覆いかぶさって、ハニィの顔をぺろぺろと舐め出した。

 ぺろぺろぺろぺろ

「ちょ、ちょっと、うぷっ」

 叫ぶ彼女の口に舌を入れて舐め始める猫娘。

「うぷっ、や、やめ、うぷぷぷ」

 堪らず座り込むハニィ。そしてもう1匹が彼女の胸によじ登ってきた。

「え、あ、い、や、やめ……」

 2匹目の猫娘はハニィの胸を足場にして彼女の首筋をぺろぺろと舐め出した。

「いやぁ、やめて、くすぐったい、いや、い……ひゃ、あ、あん、ちょ、ちょっと」

 そして3匹目は尻餅をついているハニィのスカートの中に潜り込むと、その内太股をぺろりと舐めたのだ。

「ちょ、ちょっと、止めなさい、ひっ、う、ううう、こら……はぅっ、う、うくぅ」

 ぺろぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ

 顔、首筋、内太股を一斉に猫娘たちに舐められ続けるハニィ。おまけに2匹目が足場にしている胸もその足が動くたびにくにゅくにゅと刺激される。

 ハニィの頬は心なしか赤く染まり始めていた。

(あ、ああん……な、何だこの感じ。あ、あううぅ、舐められるって何か……ざらざらして……気持ち……いい……あ、ああ……胸が……何か……何か火照って……へん……あ、ああん)

(あ、あのう、先生……)

 そんなハニィの様子を幸枝は呆れ顔で見ていた。

「蜜樹? 大丈夫?」

「え? あ、あ!」

 はっと我に返るハニィ。

「くっ、こらぁ!」

 慌ててハニィの体から飛びのく猫娘たちだったが、その顔は屈託の無い笑い顔に溢れていた。

「全くもお」

 恐る恐る再び彼女に近寄ってくる猫娘たちを1匹、2匹とゆっくりと抱き上げるハニィ。

「駄目だよ、こんな悪戯しちゃぁ」

「「みゅ〜みゅ〜」」

 ハニィも笑い返すと、猫娘たちは彼女に抱きかかえられたまま、その赤みの差した頬をぺろりと舐めた。

「ひゃん!」

「ありがとう、蜜樹。でも大丈夫? あなた頬が赤いわよ」

「え、あ、その」

 ……感じてしまったなんて言えない。

 付け根がちょっと湿っぽくなってしまった少し開いた両脚をぎゅっと閉じて、ますます頬が赤くなるハニィだった。

 それにしても……。

「お母さん、あの、何があったんですか。この娘たちっていったい……」

「指輪のことはお父さんから聞いた?」

「え? あ、あの指輪の資料が見つかったっていう話のことですか」

「ええ。やっとあたしなりに資料が解析できたんで試作機を作ってみたの。尤もまだあの指輪のように小さくはできないけれど」

「それとこの猫娘とどういう関係が」

「猫を使って試作機の効果を実験してみたの。そしたら何回やっても中途半端にしか変身しなくって……てへっ♪」

「何が……てへっ♪ですか。お母さんったら、全くこの娘たちどうするんですか」

「うーん、そうね……そうだ! 装置が完成するまであの怪人さんたちに面倒みてもらうってのはどお」

「はあ? シャドウレディたちのこと?」

「ええ彼女たちの所ならこの子たちを預けても安心じゃないかな。蜜樹、じゃあこの子たちのことよろしくお願いね」

「そ、そんなあ」

 3匹の猫娘を抱きかかえたまま途方に暮れるハニィだった。

「さてと、それからそういうことだから」

「え? まだなにか」

「あの指輪の修理を終えるにはまだまだ時間がかかるっていうことね」

「そうか、そうなんですね」

「蜜樹!」

「え?」

「そんな他人行儀な言葉もう使わないで。あたしたちって母娘でしょう」

「え、う、うん」

 真剣に自分のことを見詰める幸枝の目を見て何だかくすぐったくなるハニィだった。
 
「あ、あの、ところでお父さんや宝田さんは」

「警察病院に行っているわ。何でも澤田さんって医者が元の姿に戻ったとかで、事情を聞きに行っているわ」

「何だって! それってどういうこと?」 

(つまり二人は一時的に姿を交換していた、いえ、させられていただけだったというわけですね)

「じゃあ今恭四郎が使っている力っていうのは有効期限があるってことか」

(はい。未久ちゃんが元に戻ったのも、もしかしたらそのせいかもしれませんね)

「しかし、あいつは以前ずっと幸枝さん……いえ、お母さんに憑依していたのに」

 幸枝が自分のほうをじっと見詰めているのに気が付いたハニィは慌てて言い直した。

「蜜樹、誰と話をしているの」

「あ、あの、あたしの中の……もう一人のあたしと」

「そう♪」

 にっこりと微笑む幸枝だった。

(お母さんったら……ええっと、先生、今の恭四郎が使える機械とか薬って種類が限られているってことなんじゃないんでしょうか。この研究所の設備は使えない訳ですし、あの他人に乗り移る変な薬も手に入れていない)

「なるほど。それで今は期間限定の変身しかできないってことか」

(はい)

「じゃあ今頃あいつも元の姿に戻っているのか?」

(そうですね、多分)

「じゃあ今がチャンスじゃないか」

(でも一体何処にいるのか、尻尾が掴めませんよね)

「そうなんだよなぁ」

 無意識に猫娘の尻尾をぎゅっと握るハニィ。

「ふんぎゃぁ〜」

「あ、ごめんごめん」




 結局何の対策も取れないまま賢造たちの帰りを待つしかないハニィだった。

 しかしハニィはその時あることをすっかり忘れていた。

 即ち如月光雄が現れた今、桜井幸がどんな行動を取るかということだ。

 そしてその桜井幸にある危機が訪れようとしていた。
 



 時間を少し遡る。

 放課後、彼女はハニィを置き去りにして教室を出るとその足で職員室に向かい、職員室から出てきた光雄にべったりとくっついていた。

 光雄と腕を組んで歩く幸。その顔は彼女の名前の通り幸せに満ち溢れていた。

「先生、ねえもう絶対何処にも行かないで」

「俺自身が姿をくらました訳じゃないさ」

「全く、ハニィったら先生に何てひどいこと。あたし彼女のことを絶対許さない」

「ふふふふ」

「え? なに? 先生」

「いいや、なんでもないよ」

「先生って今どこに住んでいるんですか。あのアパートじゃないんでしょう」

「ああ」

「ねえ、先生のお家にあたしも連れて行って」

「ああ、構わないよ」

「嬉しい! じゃあ今日は二人で先生の復帰祝いね」

 嬉しそうにぎゅっと光雄の腕に身体を寄せる幸を笑いながら見下ろす光雄。だがその目の光は何時の間にか爬虫類のような冷たいものへと化していた。





(続く)


                                       2004年5月31日脱稿



後書き

 今回のお話は難しかったですね。今月は個人的にいろいろと立て込んだこともあって充分構想を考える余裕が無く、もう一つ上手く話をまとめることができませんでした。どうもすみません。
 さて、突然現れたもう一人の如月光雄の正体は未だ謎のままです。まあ判る人は判るでしょうが(笑
 そして彼に付いていく幸は果たして大丈夫なのか。全ては次のイラスト次第ということで。
 それでは次回をお楽しみに。そして拙作をお読み頂いた皆様、どうもありがとうございました。

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