「さて、その内股の歩き方を治した方がよさそうですね」
「えっ……。あ、はい」
「広幸はもっと男らしい言葉を使いますよ」
「あっ……う、うん」
「ああ、くらいで丁度です」
「あ、ああ。こんな感じですか?」
「はい。でも、そうやって亜彩美さんの言葉に戻ったら意味が無いです」
「……そ、そう……だよな」
「そうそう。その調子」

広幸の体になっても、男らしく蟹股で歩けない亜彩美。
女性のようなナヨナヨしい仕草は、普段の広幸からは考えられない。
そのギャップに少し笑いながら、俊行兄さんは先に歩いた。




ゼリージュース!(黄色)
「兄弟と姉妹(その2)」


作:Tira




しばらく歩いていると、少しずつ足を開くことに慣れてきたようだ。
内股が治るだけでも、男の子という雰囲気が漂い始める。

「大丈夫か?広幸」
「……あ、ああ。俊行兄さん」

視線が合うと、広幸の顔が少し赤くなった。
亜彩美は、まだ男言葉を使うことにためらいを感じ、恥ずかしがっている様子。

「ほら、あそこが入り口だよ」
「うん」

二人して室内スポーツ場に入ると、たくさんの人で賑わっていた。
老若男女という言葉がふさわしい。
案内板を見ると、テニスやバドミントン、水泳や卓球、そしてバスケットボールなどのスポーツが楽しめるほかに、ビリヤードやコインゲームが出来るようなスペースもあった。

「広幸は何がしたいんだ?」
「私……あ、俺は……う〜ん」
「バッティングなんてどうだ?男らしいぞ」
「バッティング……。うん、一度やってみる。バットを振った事ないから」
「そうか。ならば早速」

俊行兄さんは、また内股に戻ってしまった広幸を連れてバッティングが出来るスペースに移動した。
打席は六つあり、今は全て使われている。
二人は一番投球速度が遅い打席に並んだ。

「どう?打てそうか?」
「……分からない。あのスピードが一番遅いの?」
「そうだな」
「出来るかしら」
「出来るかしらじゃなくて、出来るかな。だろ」
「ああ……そ、そうだった」
「それにほら、また内股に」
「あっ……ご、ごめん……」

そんな二人のやり取りがしばらく続いた後、広幸――亜彩美の番が来た。
不安そうに見つめる広幸と視線を合わせたくなかった俊行兄さんは、「早く入ってお金を入れないと」と促した。

「…………」

三百円を入れ、バットを握り締める。
そして、それなりに構えた瞬間、ボールが目の前を通り過ぎた。

「きゃっ!」

男の裏声と共に、尻餅をついた広幸。

「こ、こわ〜い」
「おい、そのしゃべり方はするなって言っただろ」
「だ、だって。きゃっ!」

自動的に投球されるので、慌てて後ずさりしている。
俊行兄さんはその情けない弟の姿に目も当てられず、ため息を付いたのだった。



結局、バッドにかすりもしなかった広幸がヨロヨロと出てきた。

「まあ、初めてだったし広幸の体になったからといっても感覚が全然分からないだろうから」
「ごめんなさい。私、広幸君の体なのに。周りの人は気持ち悪がってるみたい」
「仕方ないです。他のスポーツをしましょう」
「はい……」

すっかり女言葉に戻ってしまった広幸に、俊行兄さんは亜彩美を相手にしている話方をした。
無理に男らしくする必要はないか。直になれるだろうし。
俊行兄さんはそう思いながら、後ろでトボトボと付いてくる広幸を眺めた――。




その頃、亜彩美と体を入れ替えた広幸は紗結香と電車に揺られていた。

「ねえお姉ちゃん。何処に行きたい?」
「そうね。やっぱり女性しか入れないところかしら」
「ふ〜ん。ということは銭湯なんだ」
「うん。でも俊行さんに叱られるから」
「怖いんだ。叱られるのが」
「そりゃそうよ。何たって兄貴なんだから……って、ふふ。お兄さんなんだもの」

亜彩美がペロッと舌を出して言葉を修正した。

「じゃあ何処に行くの?」
「行きたいところは色々あるけど、まずは服を買って着替えたいわ」
「服を?」
「もう少し派手な服を着てみたいの」
「ふ〜ん。お姉ちゃんが派手な服を着るのってあまりみたことないな」
「でしょ。だから着てみたいのよ」
「着てみたいっていうか、着せてみたいんでしょ」
「それを言うなら着替えてみたいってこと!」
「そうなんだ。素直にお姉ちゃんの裸が見たいって言えばいいのに」
「そ、それが目的じゃなくて……」
「着替えるときはお姉ちゃんの下着姿がみれるもんね」
「も、もう。紗結香ったら。変なこと言わないのっ」
「ふ〜ん。でも、お姉ちゃんが満足する場所、あるんだけどな」
「え?満足する場所?」
「ほら、そこの広告」

紗結香が指差した広告を見た亜彩美はニヤニヤしながら答えた。

「いいわね亜彩美!ぜひ行きたいわ」
「お金を払えば全部貸してくれると思うし」
「ということは……へへ」
「お姉ちゃん、変な笑い方しないでよ」
「ごめんね。つい嬉しくて」

緩んだ表情が戻らない。紗結香は、その表情の後ろで広幸がニヤけている様子がはっきりと分かったような気がした。



「大人二人お願いします」
「はい。二千八百円です」
「何も持ってきていないので、全部貸して欲しいんですけど」
「承知しました」

二人は受付でお金を払って必要なものを全て借りた。
少し塩素の匂いがするような気がする。

「お姉ちゃん、ロッカーはこっちね」
「……入っていいのよね?」
「今更、何恥ずかしがってるの?」
「だって、いざ入るとなると緊張して……」
「変なの。先に行くよ」
「ああ、待ってよ」

亜彩美は紗結香の後を追うようにロッカールームへ入っていった。






ゼリージュース!(黄色)「兄弟と姉妹(その2)」……おわり







あとがき
う〜ん。約4年ほど経ってしまいました(汗っ
それにしては短いっ!
まるでオリンピックのような更新状況ですが、黄色のゼリージュースで互いの体を入れ替えた亜彩美と広幸は、それぞれの体を楽しもうと頑張っているようです。
亜彩美は広幸の体で男らしく行動したいのでしょうが、どうも羞恥心が勝っている様子。
一方、広幸はスケベ心をセーブしつつも、亜彩美を満喫すべく行動を起こしています。
さて、二人とも異性の体で満足できるのでしょうかw

本当はそれぞれの行動を同じ分量だけ書こうと思っていたのですが、私にはそれだけの力量がありませんので、亜彩美の体になった広幸をメインに書いてゆくことにします。
なので、タイトルも当初、仮に決めていたものから変更しました(^^

それでは最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
Tiraでした。


inserted by FC2 system