ゼリージュース!(赤色)後編
 
 

電車の中・・・
 

座れなかったので二人してドアにもたれかかる。
3駅なので10分と少しくらいか?
 

雪菜(広幸):「どんな魚がいるのかな?」
 

俺は別に魚に興味があるわけでは無かったが、質問してやればしゃべり始めるだろう。
だって電車に乗ってからは一言もしゃべろうとしないのだから。
 

省吾:「う〜ん・・サメとかもいるんじゃないかな」

雪菜(広幸):「へぇ・・サメもいるんだ。大きいだろうな」

省吾:「うん・・たぶん」

雪菜(広幸):「ねえ、他には珍しい魚っているの?」

省吾:「結構いると思うよ。俺もまだ行った事ないから」

雪菜(広幸):「あっ、そっか。そうだったよね」
 

気付いていても気付かないフリ・・・
 

省吾は水族館に行ったことが無いような話し方をしているけど、俺にはよく分かる。
指で鼻の横をこすりながら話す時は、大概(たいがい)ウソを付いているときだ。
 

10分あまりで目的の駅に着くと、今度はバスに乗りこむ。
このバスも結構込んでいた。
俺たちと同じように水族館に行くのだろう。
子供連れの家族が何組も乗っている。
俺は転倒しないようにわざと省吾の腕にしっかりとしがみつく。
省吾は窓の上に飾ってある広告をじっと眺めているだけだった・・・
 

そして水族館。
省吾がいちいち指示、説明してくれるので何も考えずにそのまま任せる。
デートというよりは、二人だけのツアーみたいだ。
ただ肯き、相槌を打つくらいか。たまには驚いてやる。
俺、本当に魚には興味なかったから。
 

しかしよく調べたもんだ・・・

そう思いながらゆっくりと魚たちを眺めること1時間半。

そろそろお昼の時間になった。
俺は結構腹が空いていたので、区切りのいいところで昼食の催促をする事にした。
 

雪菜(広幸):「省吾さん、そろそろお昼食べない?」

省吾:「そうだね。俺もお腹空いてきたし。しゃべりすぎて喉が渇いちゃったよ」
 

しゃべりすぎというか、説明しすぎというか・・・
 

雪菜(広幸):「じゃあ何食べる?」

省吾:「何が食べたい?」

雪菜(広幸):「何でもいいよ。好き嫌いないから」

省吾:「そっか。じゃあ・・・・」
 

省吾がまたペラペラと手帳を捲り始めた。
 

省吾:「和、洋、中のどれが好みだい?」

雪菜(広幸):「う〜ん、どれでもいいけど・・・ハンバーガーかな」

省吾:「ハンバーガーでいいの?」
 

意外な顔をする省吾。
高い物を食べたいとでも思っていたのだろうか?
 

雪菜(広幸):「私、あの店のウィンナーレタスダブルバーガーが好きなの」

省吾:「そ、そうなんだ・・・」
 

省吾はあっけに取られたような表情をしていたが、俺が好きだと言ったので
その店に入ることにした。

店が込んでいたので先に席を取る。
そして、省吾が席を取っている間に俺が買いに行く事にした。
ちゃっかりお金だけもらう。
 

省吾:「あ、俺は・・」

雪菜(広幸):「あ、言わないで。ちゃんと分かってるから」

省吾:「え、分かってるって・・・どういう事?」

雪菜(広幸):「いいからいいからっ!」
 

俺は省吾のメニューを聞かずに列に並んだ。
いつもアイツが食べる物、知ってるから。

5分、いや、10分くらい経ったかもしれない。
俺はトレーに乗せたハンバーガーセットを持って省吾のいるテーブルまで戻った。
さすがに雪菜の身体では2つのトレーを持つのがつらい。
手をプルプル震わせながら、何とかテーブルに置いた。
 

雪菜(広幸):「はい、トリプルバーガーセット」

省吾:「えっ!どうして分かったの?」

雪菜(広幸):「へへっ、ひ・み・つ!」
 

俺は軽くウィンクをした後、ポテトを食べ始めた。
不思議そうな表情をしながら俺の顔をみる省吾。
 

雪菜(広幸):「どうしたの省吾さん、食べないの?」
 

俺はジュースを飲んだあと、ハンバーガーを一口かじった。
 

省吾:「い、いや・・何でもないんだけど・・」
 

そう言ってハンバーガーを口に運んだ。
しばらくして・・・
 

省吾:「まるで広幸といるみたいだ」

雪菜(広幸):「ゲホッ・・ゲホッ・・・」
 

またジュースを飲んでいた俺は、核心をついたその言葉に思わず咳き込んでしまった。
 

省吾:「だ、大丈夫かい、雪菜・・ちゃん」

雪菜(広幸):「う、うん・・・だ、大丈夫・・・それより雪菜でいいから」
 

俺は涙目になりながらも紙ナプキンで口を拭いた。
 

雪菜(広幸):「ううん・・・でもどうして私が広幸・・・お兄ちゃんみたいなの?」

省吾:「だって・・俺がいつも頼むメニューを知ってるのは広幸だけだし」

雪菜(広幸):「それは・・・お兄ちゃんが前に話していたから・・・」

省吾:「広幸は雪菜・・ちゃんに俺の事を話してるのかい?」

雪菜(広幸):「あ・・・た、たまにね・・・それより呼び捨てでいいよ」

省吾:「そっか・・・でも、それだけじゃないよ」

雪菜(広幸):「それだけじゃないって?」

省吾:「雪菜・・・・が頼んだメニューも広幸が頼むものだし、食べる順番だって
          広幸そのものなんだから」

雪菜(広幸):「食べる順番?」
 

そう言われればそのとおりだ。
こうやって食べている順番は、いつも俺が食べているのと同じ。
しかしよくそこまで見ているものだ・・・
 

省吾:「兄妹ってそんなところまで似るのかなあ・・・」

雪菜(広幸):「そ、そうかもしれない。私、お兄ちゃんと一緒にハンバーガー
                  食べたことないし・・エヘッ!」
 

わざとらしい笑顔を作ったが、上手くごまかせただろうか?
まあ、今俺が広幸だと言っても、この雪菜の姿を見ていたらまず信用しないだろうが・・・
今度は雪菜らしく?左手で耳に掛かる髪をかき上げながらジュースを飲んだ。
 

省吾:「面白いね、兄妹って」

雪菜(広幸):「そう?でも私、お兄ちゃん2人いるの知ってた?」

省吾:「ああ、広幸から聞いてるよ。歳が少し離れてるんでしょ」

雪菜(広幸):「うん。あんまり家には帰ってこないけどね」

省吾:「そうなんだ」

雪菜(広幸):「うん。でもお兄ちゃんがいるから・・・あ、広幸お兄ちゃんの事ね。
                  別に寂しくないの」

省吾:「へぇ・・・お兄ちゃん=広幸なんだ」

雪菜(広幸):「うん。お兄ちゃんと呼ぶときは広幸兄ちゃんの事なの」

省吾:「そっか」

雪菜(広幸):「おかしい?」

省吾:「いや、おかしくないよ」

雪菜(広幸):「そっか・・・」
 

何とかごまかしたぞ・・・

兄さんの話題に振ってよかった。

この後、俺たちは昼食を取り終えるとまた水族館を
見て回った。再入場するのは半券を持っていればよかったから・・・
 

水族館で結構時間を潰した俺たちは、次に大きなビル内にある遊園地へと
向かった。電車に乗って移動する。

とある駅前の高いビルの中をジェットコースターが走るのでとてもスリルがある。
まるで外に放り投げられそうな感覚。
早速乗り込んだ俺はマジで怖いと思った。
こればかりは省吾のためというわけではなく、自分から進んで
省吾の腕にへばりついた。

遠慮なく声を上げる。
 

雪菜(広幸):「きゃ〜!きゃ〜!」
 

男なら「うわぁ〜」とでも叫ぶだろう。
でも、こうやって雪菜の声できゃ〜と叫ぶと、なんだか本当の女なんだと実感してしまう。
怖い怖いと思いながらも、ちゃんと女の子のように叫ぶ俺は、まだ心底怖いとは
思っていないのかもしれない・・・

省吾の方はというと、俺が頑(かたく)なにしがみついているものだから男らしいところを
見せようと、じっと前を向いて声一つ漏らしていなかった。

結構男らしいじゃないか・・・

そう感じていたが、ジェットコースターが止まって外へ出ようとしたときに
思い切りふらついていたところを見ると、やっぱり怖かったようだ。
 

雪菜(広幸):「すっごく怖かったね!」

省吾:「かなりスリルがあったね。ビルの中から放りだされるかと思ったよ」

雪菜(広幸):「私もよ。ごめんね、ずっとしがみついちゃって。痛かったでしょ」

省吾:「そんな事ないよ。全然平気だから」

雪菜(広幸):「そっか。それならよかった!」
 
 
 

・・・俺たちは他にも数種類のアトラクションを楽しんだ後、同じビル内にある
映画館へと向かった。

省吾が見せたい映画があるというので何が上映されているのかと期待していると、
それは恋愛物の映画。
省吾のことだからアクション映画だと思っていた俺はちょっとがっかりしたが、
俺を・・・雪菜を泣かせようとする魂胆(こんたん)なのだろうか?
 

俺、別に恋愛ドラマや映画みても泣かないのになあ・・
それならアクション映画でも見て楽しみたかったなあ・・・
 

あらかじめ買っていたチケットを手渡された俺は、省吾と共に映画館の中に入った。
お決まりのジュースとポップコーンを買う。
公開されてから、かなり時が経っている映画なので少し空席が目立つ。
俺たちは見やすい席をキープすると、予告が流れる大きなスクリーンを眺めながら
ポップコーンを食べ始めた。
 

雪菜(広幸):「どんなストーリーなの?」

省吾:「うん。二人の男性が一人の女性を好きになっちゃって、その女性がどちらの
          男性を選ぶか悩むような映画」

雪菜(広幸):「二股かけた女性の映画?」

省吾:「いやいや、そうじゃないよ。ちゃんとしたストーリーさ」

雪菜(広幸):「ふ〜ん・・」
 

館内にブザーが鳴り響くと、よりいっそう暗くなる。
そして上映が始まった。
 

久しぶりの映画だな・・・
 

前に映画館に来たのは小学生の時だからもう6年以上経っている。
こうやって大画面、大音響で映画を楽しむのも何だか新鮮な気だ。

淡々と進むストーリー。

俺にはこんな恋愛なんて出来ないなあと思いながらジュースを飲む。
 

そう言えば今日は朝早かったんだっけ・・・

暗い場所で迫力の無い映像。

俺はだんだん眠気を催してきた。
あくびをしたら省吾に悪いな・・・
 

左手を鼻に沿え、口を開かないようにしてあくびをする。
すると、涙腺(るいせん)が緩(ゆる)んで目に涙が貯まるのだ。

あくびの後、涙の貯まった目をこすっていると、なぜか省吾が
そっとハンカチを手渡してくれる。
 

もしかして映画を見て泣いているのだと勘違いしてる?
 

俺は何も言わずに受け取ると、両目を当ててハンカチに涙を滲ませた。
そのハンカチからは洗濯仕立ての様ないい香りがする。

そのままハンカチを太ももの上に置き、俺は2時間あった映画を
最後まで見つづけた・・・・
 

省吾:「どうだった?結構感動したんじゃない?」

雪菜(広幸):「ふあ・・・う、うん。そうだね」
 

あと5分も見ていると完全に寝てしまっていた。
込み上げてくる涙は眠気から来るもの。
あくびを我慢するたびに涙が貯まるのだ。

省吾もちょっと目に涙を貯めている。
まあ、こいつの場合は本当に感動したんだろう。
 

ハンカチを返しながら映画館を出ると、もう陽の光は射していなかった。

水族館に遊園地、そして映画館・・・・

結構充実した1日。
だからかなり疲れてしまった。
身体が小さいと余計にそう感じるのかもしれない。
 

後は夕食を食べて帰るくらいかな・・・・
 

そう思いながら省吾が勧める洋風レストランへと足を運んだ。
だんだんと家との距離が近づいていくところなんかは、ちゃんと行き場所を
計算しているんだなと感心してしまう。
 

感心する事はもう一つ。
それは俺自身だ。
今朝、言葉でずっと悩んでいたにも関わらず、こうやって雪菜・・いや、
高1の女の子にしか思えないようなしゃべり方をマスターしているじゃないか。
すっかり「私」になっている。
こうやって頭の中では広幸なのに、口から出るのは雪菜なのだ。

俺って結構女の子できてるじゃない・・・

自画自賛しながら洋風レストランに入ると、やけに明るい照明が目に飛び込んできた。
 

省吾:「あの、予約していた藤尾ですが」

店員:「藤尾様ですね。どうぞこちらへ・・・」
 

予約していたのか・・
 

綺麗に磨いてあるフローリングの床を歩き、店の奥にあるテーブルへと案内される。
白いテーブルクロスは照明に照らされてよりいっそう白さを増している。

レディーファースト・・・
始めに店員が引いた椅子に腰掛けると、俺は目の前に並んでいる銀色の食器達を見て
唖然とした。
 

雪菜(広幸):「ね、ねえ省吾さん。こんなにたくさん使うの?」

省吾:「うん。外側から使うんだよ」

雪菜(広幸):「そ、外側から・・・」
 

レストランの癖に、やたら本格的な感じがしてすっかりビビってしまった。
こんな服装で食べていいのか?
 

ちょっと「浮いている」様に感じた俺に、
 

省吾:「緊張しなくてもいいよ。ここは高級フランス料理店じゃないんだから」
 

そう言ってくれる。
 

雪菜(広幸):「このお店、来た事あるの?」

省吾:「うん。家族で何度か来たことがあるんだ。結構美味しいから今日はここで
         食べようと決めてたんだ」

雪菜(広幸):「そ、そっか・・」
 

なんだ・・
省吾は何度も来た事があるのか・・
だからやけに落ち着いているんだ・・・
 

出された水を一口飲んで気分を落ち着かせる。

省吾がよく知っているのなら大丈夫だろう。
俺は前菜のスープが届くと、省吾を真似しながらスプーンを使って飲み始めた。

時間を見計らって次々と出てくる料理。
省吾の食べ方を見ながら、外側に置いてある食器を順番に使っていく。
料理はとても美味しかった。でも、食べ方を気にしながらというのは
ちょっと窮屈で嫌な感じ。

結構無口で食べている省吾に対して、俺は色々と質問してやった。
省吾の趣味や学校の事、休日に何をしているのかなど・・・

自分の事ならスラスラとしゃべっている。
やっぱり会話がないと俺だって楽しくないからな・・

雪菜の事を色々と聞かれるとまずいので、とにかく俺が話をリードする。

そして最後のデザートを食べ終わり、今日のデートもこれにて終了・・・

いつもなら食べたりないと思うのだろうが、小さな雪菜の身体。
胃袋を十分に満たしている。
ゲップをするわけにも行かず、食道から込み上げてくる空気を
喉元で処理するのは結構難しかった。
 

省吾:「先に出ててよ」

雪菜(広幸):「うん・・・」
 

省吾が勘定を済ませる間、俺は店の前で真っ暗になった夜空を眺めていた。
今日はよく晴れているのでたくさんの星たちが見える。
 

省吾:「お待たせ」

雪菜(広幸):「うん。高かったでしょ」

省吾:「そんな事ないよ」

雪菜(広幸):「バイトくらいじゃなかなかお金できないのに」

省吾:「ううん。さっきも話したけど俺、結構割りのいいバイトしてるんだ」

雪菜(広幸):「ごめんね」

省吾:「いいって。俺が勝手に予約していたんだしさ。美味しいと思ってくれたのなら」

雪菜(広幸):「うん、美味しかった。ご馳走さま」

省吾:「どういたしまして」
 

省吾がニコッと笑って俺を見ている。
俺も笑顔で見つめ返してやった。
 

省吾:「ねえ、今日は何時まで大丈夫なの?」

雪菜(広幸):「えっ?」
 

何だよ、もう帰るんじゃないのか?
 

雪菜(広幸):「ど、どうして?」

省吾:「あのさ、最後にカラオケにでも行かない?」

雪菜(広幸):「カラオケ?」

省吾:「うん。ほら、あそこに見えてるカラオケボックス。あそこって結構たくさん
         曲がエントリーされているんだよね」

雪菜(広幸):「そうなんだ・・」
 

俺も知ってるって!前にお前と行ったじゃない・・・
 

省吾:「遅くなったらやっぱりお父さんやお母さんに怒られるのかな・・」

雪菜(広幸):「あ、そ‥そんな事無いけど・・・」
 

本人はとっくに家に帰ってるし・・・
俺はよく遊びほうけてるからな・・・多少は大丈夫だけど・・・
 

省吾:「10時30分には家に着くようにするから」

雪菜(広幸):「あ、うん・・・・別に・・・いいよ」

省吾:「よかった。じゃあ早速行こう!」

雪菜(広幸):「・・・・」
 

別に時間が遅くなるのは構わなかった。
どちらかと言えばその方が都合もいいし。
ただ、カラオケボックスに行っても・・・・

俺、女の曲なんて歌った事ないし・・・
 

そう考えているうちにカラオケボックスのカウンターに着いてしまった。
 

バイト:「何時間にしますか?」

省吾:「2時間で」

雪菜(広幸):「え・・2時間も歌うの?」

省吾:「2時間歌っても10時半には帰れるよ」

雪菜(広幸):「そ、そうだけど・・」
 

2時間も何を歌うんだ?

間が持たないぞ・・・
 

ドリンクを頼み、部屋へと案内される。
 

省吾:「最後はパァッと歌ってすっきりして帰ろうね」

雪菜(広幸):「う、うん・・」

省吾:「雪菜はどんな曲を歌うの?」

雪菜(広幸):「わ、私は・・・」
 

どんな曲と言われても・・
お前がよく知ってる曲しか知らないんだけどな・・・
 

省吾:「楽しみだよ。こうやって女の子と二人きりでカラオケボックスに来たの、
          初めてだからさ」

雪菜(広幸):「ははは・・・」
 

省吾は先に曲を予約するとマイクを持って歌い始めた。
いつも聞く曲だ。

でも今日はやけにノッてるなあ・・・・
俺と・・雪菜といるからだろうな・・・
 

4分ほどすると、省吾がマイクをテーブルの上に置く。
 

省吾:「雪菜はまだ入れてないの?」

雪菜(広幸):「う、うん・・・まだなんだ」

省吾:「もしかしてあんまりカラオケボックス行かないのかな?」

雪菜(広幸):「そ、そんな事無いけど・・」

省吾:「ねえねえっ、じゃあデュエットしない?」

雪菜(広幸):「デュエット?」

省吾:「それなら歌えるでしょ」
 

デュエットか・・それなら幾つか知ってるな・・・
 

雪菜(広幸):「うん。それならこの曲が・・」
 

俺はペラペラと本を捲って、知っているデュエット曲を指定した。
 

省吾:「それなら俺も知ってるよ。じゃあこれにしようか」

雪菜(広幸):「うん」
 

省吾はリモコンのボタンを押して予約を始める。

しかし、急に元気になったなあ・・・
カラオケボックスに来たとたん、今までの頼りなさそうな省吾が
別人のようにしっかりとしている。

歌に自信がある証拠かな・・・・

俺にマイクを渡し、自分も別のマイクを持つ。
そして伴奏が始まると、先に省吾が歌い始めた。

俺は自分の番が来るのをなぜかドキドキしながら待っている。
省吾が妙にかっこよく歌った後、俺のフレーズになった。
 

雪菜(広幸):「♪あなたの〜瞳に吸い込まれるように〜」
 

俺の持つマイクに吹き込んだ雪菜の声が、スピーカーから流れ出す。
いつも聞いている雪菜の声が俺の耳に届く。

俺が歌っているけれど・・・雪菜の声なんだ・・・

すごく不思議な感覚。
しゃべっている時はそれほど感じなかった違和感を今感じている。
音程をつけて歌っている雪菜の声は・・・俺が出しているなんて思えなかった・・・
 

上手い・・・・
 

そう思った。
いつも歌っている俺よりも上手いと感じる。
女性の声で歌うってこんな感じなんだ・・・

自分が歌っている声に陶酔しながら二人で最後まで歌いきる。
 

省吾:「すごく上手いよ。めちゃくちゃ素敵な歌声だった。うん、最高だよ」
 

省吾がやたらと褒めまくる。
俺も・・・そう思った。
 

雪菜(広幸):「わ、私・・・」

省吾:「今度は一人で歌ってみてよ。ゆっくりと聞きたいんだ」

雪菜(広幸):「一人で・・・」

省吾:「うん。どんな曲でもいいから」

雪菜(広幸):「・・・・」
 

どんな曲といわれても・・・・

俺が知っていると言っても、彼女が歌う曲くらいしか知らないからなぁ・・・・
それもうる覚えだし・・・

でも・・・まあ何とかなるか・・
 

雪菜(広幸):「それじゃあ・・」
 

俺は前にカラオケボックスに来た時、彼女が歌っていた曲を予約した。
サビの部分はコマーシャルでも流れているから分かるけど、
その他の部分はあやふやだ。
 

省吾:「がんばれっ!」

雪菜(広幸):「うん・・」
 

伴奏が流れ出すと、省吾が手拍子する。
俺は半分顔を引きつらせながらも歌を歌い始めた。
 

雪菜(広幸):「♪昨日の事は〜、あなたの心を〜」
 

知らないなりにも、とにかく歌う。
スピーカーからは相変わらず雪菜の声が聞こえてくる。
間違えながらもそれなりに歌として聞こえるところが不思議だ。

省吾はニコニコしながら手拍子をしている。
きっとこの曲、知らないんだ。
俺が間違えても分からないんだろう。

何とか無事に?最後まで歌いきった俺は、額に汗を掻きながら
テーブルにマイクを置いた。

省吾が激しく拍手する。
 

省吾:「すごいすごいっ!俺なんかより遥かに上手いよ。もう完璧っ」

雪菜(広幸):「そ、そうかな・・・へへへ・・」
 

いやいや、ずいぶん間違えたって・・・
 

省吾:「もっと聞かせてよ。その歌声を!」
 

偉く惚れこまれたものだ。
でも、俺もこの声・・・雪菜の声が好きだ!
妹の声をこんな風に思うなんておかしいよな・・・
今まで思ったことの無い感情だよ・・・

この声で十八番を歌ってみたい・・・

そう思うようになった。
 

雪菜(広幸):「私、男の人の歌、歌って見てもいい?」

省吾:「え、男の歌?ぜんぜんOKだよ。でも知ってるの?」

雪菜(広幸):「恥ずかしいんだけど・・・男の人の歌の方がよく知ってるの」

省吾:「恥ずかしくなんかないよ。女の子ってみんな男性アイドルが好きなんだし」
 

そっか・・・そう言われればそうだな・・・
 

俺はニコッと笑うと、省吾も知っている俺の十八番の曲を予約した。
 

省吾:「あ、この曲って広幸の十八番だ」

雪菜(広幸):「うん。お兄ちゃん、いつも家で口ずさんでいるから」
 

そう言うと俺はいつものとおり歌い始めた。
雪菜の声で・・・

この激しい曲を雪菜が歌うと、こんな感じになるんだ・・

いつも歌ってる時のようにキーの設定を低くしていたのだが、
どうやらそんな事する必要は無かった。
だって雪菜の声は俺よりも遥かに高い音までカバーできるのだから。

途中でキーの設定をもどした俺は、雪菜の声で思い切り歌いはじけた。

全然かすれない雪菜の声。
出そうと思えば更に高い音程だって出せそうだ。
 

最後まで歌いきった俺は、少し息を切らせながら省吾の顔を見た。
省吾は感動しているようだ。
 

省吾:「めちゃくちゃすごいよ。上手すぎる!それに、その歌い方、広幸に
          そっくりだ。やっぱり兄妹なんだなあ・・」

雪菜(広幸):「そ、そう?お兄ちゃんもこんな歌い方なの?」

省吾:「ああ、もうそっくりだよ。伸ばすところ、止めるところ、溜めるところ・・・
          全部広幸だ」

雪菜(広幸):「そ・・そっか・・・お兄ちゃんが口ずさんでいるの、うつっちゃったかな」
 

などとごまかす。
これじゃあ何曲も歌っているうちに広幸だってばれちゃうかな・・・
ちょっと歌い方を変えるか・・・
 

この後、俺たちは交代でひたすら歌いまくった。
椅子に座って歌っていた俺も、そのうち前の小さなステージで歌うようになり、
軽く腰を動かす仕草や、たまに見せる後姿は省吾もご満悦のようだった。

俺自身、まるで女性アイドルにでもなったかのように楽しく歌っていた。

胸に軽く手を当てて歌う仕草なんか男の俺がしても気持ちが悪いだけ。
でもこうやって雪菜の身体でやると、女の子らしさを強調する仕草となるのだ。

切ない表情をしたり、首を傾げてみたり・・・

雪菜の持つ魅力を惜しげもなく披露する。

髪を掻きあげ、耳元からうなじの辺りを強調する。
 

いつの間にか、俺は雪菜の魅力を省吾に見せ付けたかったのかもしれない・・・
 

気付くとあっという間の2時間だった。
十分に堪能したという気分でカラオケボックスを後にする。
 

省吾:「絶対上手いと思うよ。歌手になれるんじゃない?」

雪菜(広幸):「そうかな・・へへへ・・」
 

そう言いながら俺も納得していた。
でも、実際の雪菜は歌が上手いかどうかなんて分からない。
 

省吾:「今日は楽しかったよ。初めてかなあ・・こんなに楽しい1日を過ごしたのは」

雪菜(広幸):「そ、そっか・・それならよかったよ・・」

省吾:「うん・・・じゃあ帰ろっか」

雪菜(広幸):「・・・・うん・・・」
 

何だか急に寂しい空気が流れる。
今朝、待ち合わせをした駅前の広場。
 

雪菜(広幸):「ここでいいよ」

省吾:「家まで送るよ。もう時間も遅いしさ」

雪菜(広幸):「ううん、いいの。家近いしね」

省吾:「でも・・・」
 

省吾はとても寂しそうだ。
と言っても、家まで送ってもらう訳にはいかないのだ。
 

雪菜(広幸):「今日は楽しかったよ、うん」

省吾:「お、俺もだよ・・」

雪菜(広幸):「ごめんね」

省吾:「何が?」

雪菜(広幸):「楽しかったんだけど・・・私・・」

省吾:「・・・・・うん、分かってるって。約束だったんだから。1日だけデートだって」

雪菜(広幸):「うん・・・」

省吾:「で、でもさ。また気が向いたら俺と遊んでくれないかな・・・その・・・やっぱり・・・」
 

省吾は俯きながら言葉を詰まらせる。

でも・・・・俺はこれ以上、省吾を期待させるわけにはいかない・・・
 

雪菜(広幸):「・・・・ごめんね、省吾さん・・・」
 

俺は省吾に次の言葉をしゃべらさなかった。
 

省吾:「ごめん、ウソ。ウソだよ。今日、十分に楽しめたからさ。広幸によろしく伝え
          といてくれる?楽しい1日、サンキューって」

雪菜(広幸):「うん・・・わかった」
 

省吾:「じゃあね」

雪菜(広幸):「うん、それじゃ・・・・」
 

省吾は急に背を向けると、振り向きもせず1直線に家に向かって走り去ってしまった。
 
 
 

雪菜(広幸):「なんだか逆に悪い事したかなあ・・・」
 

そう思った俺は、ポリポリと頭をかきながら家の近くの公園へと歩いて行った。
 

もう雪菜には会わないだろうな・・・

俺が省吾の立場ならそうするだろう。
逆に会われたら話のつじつまが合わなってしまう。
雪菜は今日のこと、全然知らないのだから・・・
 

色々考えながら公園にたどり着く。
ゆっくり歩いていたので11時前になってしまった。
 

雪菜(広幸):「まだ11時前か・・・12時にならないとみんな寝てないだろうな・・・」
 

両親は11時には就寝するはず。
雪菜は・・・分からないのだ。
たぶん12時には寝ているだろう。
でも今日は部活だって言ってたから、疲れてもう寝ているかもしれないし・・・・

とにかく俺は、11時30分になるまで公園でいることにした。
こんなに遅い時間なのに、犬を散歩させている老人もいる。

俺は出来るだけ目立たないようにひっそりとベンチに座っていた・・・
 

そして11時30分。
よく考えれば先にそうすればよかったのだが、俺は1度家の前まで歩いて行った。
ぐるりと家の周りを見てみると、どの部屋も電気がついていない様だ。
という事は、みんな寝静まったのかな・・・
 

雪菜(広幸):「よし・・・・」
 

俺はリュックから鍵を取り出し、音を立てないように扉を開けた。
薄暗い廊下。
靴を脱いで元通りの場所に戻すと、気付かれないようにゆっくりと階段を上った。
そして、何とか部屋の前にたどり着いた俺は、そっとドアノブをねじり、
部屋の中へ入った・・・・・が、その光景に心臓が止まりそうになった!
 

「ん?雪菜か。お前もう寝たんじゃなかったのか?」
 

暗い部屋、パソコンのディスプレイの明かりだけが部屋の中を照らしている。
 

雪菜(広幸):「に・・・・兄さん・・・どうして・・・」
 

パタンとドアが閉まると、兄さんは部屋の電気をつけた。
急に部屋が明るくなったので目がくらんでしまう。
 

「お前、いつからそんな格好するようになったんだ?」

雪菜(広幸):「あ・・・あの・・その・・」

「今から遊びに行くのか?父さんや母さんに黙って」

雪菜(広幸):「ち‥違うんだ・・・・の・・・お・・・私・・」

「まったく・・・・お前も雪菜の身体になんか化けるなよ」

雪菜(広幸):「ご・・ごめん・・・・って、ええっ!?」
 

広幸だって事バレてる??
 

「お前、ゼリージュース飲んだんだろ」

雪菜(広幸):「・・・・」

「いつの間に買ったのかは知らないけど、誰にも言うなよ」

雪菜(広幸):「ど・・・どうして兄さんが知ってるんだ??」
 

俺の問いに、兄さんはすました顔で答えた。
 

「当たり前だろ。俺がそのゼリージュースの開発者なんだからさ」

雪菜(広幸):「・・・・・」
 

俺は目が点になった。
兄さんがゼリージュースの開発者?
そんなに偉かったっけ?
 

「それより早く元の身体に戻れよ。雪菜の姿でそんな格好されたら
 何となく変な感じだからさ」
 

そう言うと俺に向かって薬のようなものを放り投げた。
 

雪菜(広幸):「これって・・・」

「下剤だよ、下剤。お前、用意してたのか?」

雪菜(広幸):「あ、あとで取りに行こうと思ってたんだ・・」

「まったく・・・お前は相変わらず準備が悪い奴だな」

雪菜(広幸):「そんな事言わなくったってさ・・」
 

俺は自分のトランクスとパジャマを取り出すと、雪菜の身体のまま着替えを始めた。
 

「おいおい、俺の前で脱ぐなよ。お前は雪菜の身体なんだからな」

雪菜(広幸):「そんな事言ったって、ここは俺の部屋なんだし」

「向こう向いて着替えろ。俺はお前と違って妹の身体になんか興味ないんだ」

雪菜(広幸):「お、俺だって・・・・・」
 

言いたい事言って・・・
 

俺は兄さんに背を向けると、Tシャツ、マイクロショートパンツ、そして下着を脱いで
裸になった。
その後、お尻がつっかえながらもトランクスを穿いてパジャマに着替える。
ダブダブのパジャマのまま、1階に下りると今日着ていたボーダーシャツやスカート、下着を
洗濯籠の奥に入れたあと、キッチンで水と一緒に下剤を飲んで
しばらくトイレに篭(こも)っていた。
 

このゼリージュースで変身したあと、元に戻る方法は簡単だ。
身体の中から排泄すればいいのだから。

しばらくするとお腹が痛くなり、俺は全てを排泄した。

すると、徐々に雪菜の身体が俺の身体へと変化してゆく。
髪の毛が短くなり、胸やお尻の膨らみも無くなる。
身長も伸びて男らしい体つきへと変化する・・・
もちろん股間も。

そして、トイレから出てきた俺は変身する前の広幸に身体に戻っていた。

そのまま兄さんのいる俺の部屋へと向かう。
 

「おう、元に戻ったようだな」

広幸:「うん」

「お前、妹の身体になって何やってたんだ?」

広幸:「それは・・・」
 

俺は兄さんに事情を説明した。
 

「へぇ・・・お前って結構、友達想いなんだなぁ」

広幸:「まあね」

「でもバレたらどうするんだよ。雪菜は全然知らないんだろ」

広幸:「そうなんだけどさ。まあ省吾はもう雪菜には会わないと思うし」

「知らないぞ。後で変な事になっても」

広幸:「大丈夫だよ。何とかなるって」

「そう言えば、お前の靴があるのにお前がいないって不思議がってたぞ」

広幸:「あ・・・誰が?」

「みんなが」

広幸:「うそ・・・」

「裸足で出て行ったんじゃないかってさ」

広幸:「ま、まずい・・・」

「そんなの適当にごまかせばいいんだよ。新しい靴買っといたんだとかさ」

広幸:「あ、そっか」

「お前ってほんとに計画性が無いよな」

広幸:「う、うるさいな・・」
 

兄さんには敵わないな・・・
 

「しかしなあ・・・お前にバレるとは思ってなかったな・・・」

広幸:「何が?」

「お前のパソコンで試すんじゃなかった。接続用ソフトをスタートアップに入れっぱなしに
 した俺が悪いんだけどさ」

広幸:「接続用ソフト?」

「ああ。お前、食品会社のサイトを見て買ったんだろ。あのページは普通見れないんだよ」

広幸:「そうなんだ・・」

「当たり前だろ。あんなものが一般的に出回ってみろ。大変な事になるじゃないか」

広幸:「それはそうだけど・・」

「だから特定の端末からでないと見れない様にしてたんだ。それがこの接続ソフトを
使っている端末ってわけさ」

広幸:「そっか・・・」

「でも本当に偶然だな。どうしてあの食品会社のサイトにたどり着いたんだよ」

広幸:「それは・・・適当に探してたら見つかったんだよ」

「そうか・・これも運命だったのかもな・・・」
 

そんな運命なんてないだろ・・・

そう思いながらも、うちの兄さんはとんでもない事に足を突っ込んでるんだなって思った。
 

「まだイチゴ味しか試してないのか?」

広幸:「うん。だってこの前初めて知ったところだし、1つずつしか買えないって店の人が言ってたから」

「そうか・・・ま、それならもうやめとけって」

広幸:「な、何でだよ。俺、もっと試してみたいよ、他の味のゼリージュースもっ」

「やめとけって。1度使うと病みつきになってしまうからさ」

広幸:「そ、そんな事無いさ」

「お前さ、雪菜に変身してどうだったよ?」

広幸:「えっ・・・」

「異性に変身してどうだったかって聞いてるんだ」

広幸:「どうだったって言われても・・・俺は・・」

「楽しかっただろ」

広幸:「ま・・・まあ・・・」

「女性の身体が自分の物になるって感覚、たまらないだろ」

広幸:「・・・」

「また女性の身体になりたいって思ったんだろ」

広幸:「そんな事・・・・」

「それならどうしてもっと試したいんだよ。男の身体にでもなりたかったのか?」

広幸:「・・・・」

「もうだめなんだよ。お前は既に女性の身体になりたいって気持ちが芽生えて
  しまったんだ」

広幸:「・・・・」
 

俺は・・・・そうだ。
女の子の身体になりたいんだ・・・
 

広幸:「そ・・そうかもしれないけど・・・」

「前にこのゼリージュースの効果を試そうと極秘にモニターを募った事があったんだ。
 結局参加した男性10人はみんな女性願望が芽生えちゃってさ。同じように女性も
 10人いたんだけど、彼女達もまた男性願望が芽生えてしまったんだよ。
 異性になる楽しみってやつかな。
 今まで知らなかった異性の秘密を知ってしまったんだ。特に男性のモニターは女性の
 魅力に取り付かれてしまったようで、モニター期間が終わっても売ってくれ売ってくれって
 大変だったんだ」

広幸:「・・・・」

「お前、雪菜の身体で女性としての快感を得たのか?」

広幸:「そんな・・俺、妹の身体でそんな事する訳ないってっ!」
 

しようとしたけど出来なかっただけなんだけど・・・
 

「それならまだ大丈夫かもしれないな。このジュースの事はもう忘れるんだ。分かったな」

広幸:「そんな・・・」

「接続ソフトもアンインストールしておいた。ショップにもお前には売らない様にお願いしておくよ」

広幸:「ま、待ってくれよ兄さん。俺・・・まだ・・・」

「いいか広幸。俺はお前のために言ってるんだぞ。これに携わるとまともな人生歩めなくなるんだからな」

広幸:「そんな事言ったって・・・それならどうして兄さんはそんなジュース作ったんだよっ」

「・・・・」

広幸:「兄さんが女性願望あるんじゃないのかっ?」

「・・・・あるよ」

広幸:「えっ・・」

「あるから作ったんだ。そして、その恐ろしさが分かっているからお前には飲ませないんだ」

広幸:「・・・だ、だって・・・」

「・・・今のお前は気持ちが高ぶってる。続きはまた明日話そうか。俺も今日帰ってきたばっかりだから
 疲れてるんだ。もう寝よう・・」

広幸:「・・・・」
 

兄さんは一つあくびをすると、2階の一番奥にある自分の部屋へを戻ってしまった。
 

広幸:「兄さん・・・」
 

俺の頭の中には、もはや省吾や雪菜の事なんか全然なかった。
兄さんが開発したゼリージュース。
そのことだけで一杯だったのだ・・・・
 
 

次の朝。

キッチンで家族と共に朝食を取る。
父親は日曜日だというのに仕事に行ってすでにいなかった。
 

母親:「昨日はどこに行ってたの?連絡もしないで遅くまで・・・」

広幸:「ツレと遊んでたんだよ。いつもの事さ」

雪菜:「裸足で?それも朝早くから」

広幸:「何言ってんの?」

雪菜:「だって玄関に靴が置きっぱなしだったんだもん」

広幸:「新しい靴を買ってたからそれを穿いて行ったんだよ」

雪菜:「ふ〜ん・・・」

広幸:「あれ、そう言えば兄さんは?」

母親:「朝早くどこかに出て行ったわよ。突然帰ってきたかと思うと
          また出て行っちゃって・・・何やってるのかしら・・・」

広幸:「そ、そうなんだ・・・」
 

今日、またゼリージュースの事、話そうって言ってたのにな・・・・
 

朝食を済ませると部屋に戻る。
ふと携帯を見るとメールが入っていた。
省吾からだ。
 

#昨日は雪菜ちゃんとデートさせてくれてありがとなっ!
  めちゃくちゃ面白かったよ。
  俺さ、ずっと緊張してて上手く話せなかったんだけど、雪菜ちゃんは
  気を使って話し掛けてくれるんだ。そんでさ、カラオケに行ったんだけど
  雪菜ちゃん、すごく上手だったぜ。歌手になれるんじゃないかな。
  1日だけだったけど、雪菜ちゃんとのデート、生涯忘れないよ。
  また詳しい事は学校で話すから。
  雪菜ちゃんに迷惑かけたねって伝えといてよ。
  じゃあな!
  サンキュー!
 
 

よかったなぁ。
雪菜とデートできてさ。

俺も昨日の事を思い出していた。
雪菜になって省吾とデートしたこと。
雪菜の身体で外に出て歩き回ったこと。
そして雪菜の声で歌ったこと・・・・
 

やっぱり・・また女の子になってみたい・・・
 

そんな気持ちが沸々と湧いてくる。

兄さんはまた戻って来る。
そしたらもう1度話そう。

俺、また女の子になりたいんだ。
そして・・他のゼリージュースも試してみたいっ!

時間が経てば経つほど、俺の気持ちは膨らんでいった・・・・
 
 
 
 
 

ゼリージュース!(赤色)後編・・・・・・おわり
 
 
 
 

あとがき

あれ・・・・
話が途中からズレてきてる?

いやいや、とりあえず雪菜とデートした省吾。
緊張していたせいで情緒不安定だったのかもしれませんね。
雪菜の前でしっかりと自分をアピールできなかったようです。
まあ、初めてのデートなら仕方が無いか(^^
張り切りすぎて空回りする時だってあるのだし・・・
彼の場合は大人し過ぎたのかもしれませんが・・・

広幸は女性願望に目覚めてしまったようです。
妹の雪菜になり、女性の素晴らしさを認識したのでしょう。
といっても、性的なものではなく、異性としての
素晴らしさなのでしょうが・・・

途中から広幸の兄さんが登場しました。
さて、ゼリージュースの開発者である兄さんは広幸に対して
どう接するのでしょうか?
広幸のためだといいながらゼリージュースの使用を禁止した
兄さん。
雪菜も兄さんも、広幸に対してはちょっと冷たい態度を
とっている様ですが、さて、この後の展開は?

ゼリージュース!(赤色)はひとまずおわりですが、
この後別の色へと続きます。
ゼリージュースの存在を知っているお兄さんが加わる事で、
この兄弟のストーリーは更に広がるのです。

まだまだ書き足りないところもありますが、今回はこれにて。

ちなみに兄さんの名前は次に出て来ます(^^

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
Tiraでした。

 

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