ゼリージュース!(赤色)後編
電車の中・・・ 座れなかったので二人してドアにもたれかかる。 雪菜(広幸):「どんな魚がいるのかな?」 俺は別に魚に興味があるわけでは無かったが、質問してやればしゃべり始めるだろう。 省吾:「う〜ん・・サメとかもいるんじゃないかな」 雪菜(広幸):「へぇ・・サメもいるんだ。大きいだろうな」 省吾:「うん・・たぶん」 雪菜(広幸):「ねえ、他には珍しい魚っているの?」 省吾:「結構いると思うよ。俺もまだ行った事ないから」 雪菜(広幸):「あっ、そっか。そうだったよね」 気付いていても気付かないフリ・・・ 省吾は水族館に行ったことが無いような話し方をしているけど、俺にはよく分かる。 10分あまりで目的の駅に着くと、今度はバスに乗りこむ。 そして水族館。 しかしよく調べたもんだ・・・ そう思いながらゆっくりと魚たちを眺めること1時間半。 そろそろお昼の時間になった。 雪菜(広幸):「省吾さん、そろそろお昼食べない?」 省吾:「そうだね。俺もお腹空いてきたし。しゃべりすぎて喉が渇いちゃったよ」 しゃべりすぎというか、説明しすぎというか・・・ 雪菜(広幸):「じゃあ何食べる?」 省吾:「何が食べたい?」 雪菜(広幸):「何でもいいよ。好き嫌いないから」 省吾:「そっか。じゃあ・・・・」 省吾がまたペラペラと手帳を捲り始めた。 省吾:「和、洋、中のどれが好みだい?」 雪菜(広幸):「う〜ん、どれでもいいけど・・・ハンバーガーかな」 省吾:「ハンバーガーでいいの?」 意外な顔をする省吾。 雪菜(広幸):「私、あの店のウィンナーレタスダブルバーガーが好きなの」 省吾:「そ、そうなんだ・・・」 省吾はあっけに取られたような表情をしていたが、俺が好きだと言ったので 店が込んでいたので先に席を取る。 省吾:「あ、俺は・・」 雪菜(広幸):「あ、言わないで。ちゃんと分かってるから」 省吾:「え、分かってるって・・・どういう事?」 雪菜(広幸):「いいからいいからっ!」 俺は省吾のメニューを聞かずに列に並んだ。 5分、いや、10分くらい経ったかもしれない。 雪菜(広幸):「はい、トリプルバーガーセット」 省吾:「えっ!どうして分かったの?」 雪菜(広幸):「へへっ、ひ・み・つ!」 俺は軽くウィンクをした後、ポテトを食べ始めた。 雪菜(広幸):「どうしたの省吾さん、食べないの?」 俺はジュースを飲んだあと、ハンバーガーを一口かじった。 省吾:「い、いや・・何でもないんだけど・・」 そう言ってハンバーガーを口に運んだ。 省吾:「まるで広幸といるみたいだ」 雪菜(広幸):「ゲホッ・・ゲホッ・・・」 またジュースを飲んでいた俺は、核心をついたその言葉に思わず咳き込んでしまった。 省吾:「だ、大丈夫かい、雪菜・・ちゃん」 雪菜(広幸):「う、うん・・・だ、大丈夫・・・それより雪菜でいいから」 俺は涙目になりながらも紙ナプキンで口を拭いた。 雪菜(広幸):「ううん・・・でもどうして私が広幸・・・お兄ちゃんみたいなの?」 省吾:「だって・・俺がいつも頼むメニューを知ってるのは広幸だけだし」 雪菜(広幸):「それは・・・お兄ちゃんが前に話していたから・・・」 省吾:「広幸は雪菜・・ちゃんに俺の事を話してるのかい?」 雪菜(広幸):「あ・・・た、たまにね・・・それより呼び捨てでいいよ」 省吾:「そっか・・・でも、それだけじゃないよ」 雪菜(広幸):「それだけじゃないって?」 省吾:「雪菜・・・・が頼んだメニューも広幸が頼むものだし、食べる順番だって 雪菜(広幸):「食べる順番?」 そう言われればそのとおりだ。 省吾:「兄妹ってそんなところまで似るのかなあ・・・」 雪菜(広幸):「そ、そうかもしれない。私、お兄ちゃんと一緒にハンバーガー わざとらしい笑顔を作ったが、上手くごまかせただろうか? 省吾:「面白いね、兄妹って」 雪菜(広幸):「そう?でも私、お兄ちゃん2人いるの知ってた?」 省吾:「ああ、広幸から聞いてるよ。歳が少し離れてるんでしょ」 雪菜(広幸):「うん。あんまり家には帰ってこないけどね」 省吾:「そうなんだ」 雪菜(広幸):「うん。でもお兄ちゃんがいるから・・・あ、広幸お兄ちゃんの事ね。 省吾:「へぇ・・・お兄ちゃん=広幸なんだ」 雪菜(広幸):「うん。お兄ちゃんと呼ぶときは広幸兄ちゃんの事なの」 省吾:「そっか」 雪菜(広幸):「おかしい?」 省吾:「いや、おかしくないよ」 雪菜(広幸):「そっか・・・」 何とかごまかしたぞ・・・ 兄さんの話題に振ってよかった。 この後、俺たちは昼食を取り終えるとまた水族館を 水族館で結構時間を潰した俺たちは、次に大きなビル内にある遊園地へと とある駅前の高いビルの中をジェットコースターが走るのでとてもスリルがある。 遠慮なく声を上げる。 雪菜(広幸):「きゃ〜!きゃ〜!」 男なら「うわぁ〜」とでも叫ぶだろう。 省吾の方はというと、俺が頑(かたく)なにしがみついているものだから男らしいところを 結構男らしいじゃないか・・・ そう感じていたが、ジェットコースターが止まって外へ出ようとしたときに 雪菜(広幸):「すっごく怖かったね!」 省吾:「かなりスリルがあったね。ビルの中から放りだされるかと思ったよ」 雪菜(広幸):「私もよ。ごめんね、ずっとしがみついちゃって。痛かったでしょ」 省吾:「そんな事ないよ。全然平気だから」 雪菜(広幸):「そっか。それならよかった!」 ・・・俺たちは他にも数種類のアトラクションを楽しんだ後、同じビル内にある 省吾が見せたい映画があるというので何が上映されているのかと期待していると、 俺、別に恋愛ドラマや映画みても泣かないのになあ・・ あらかじめ買っていたチケットを手渡された俺は、省吾と共に映画館の中に入った。 雪菜(広幸):「どんなストーリーなの?」 省吾:「うん。二人の男性が一人の女性を好きになっちゃって、その女性がどちらの 雪菜(広幸):「二股かけた女性の映画?」 省吾:「いやいや、そうじゃないよ。ちゃんとしたストーリーさ」 雪菜(広幸):「ふ〜ん・・」 館内にブザーが鳴り響くと、よりいっそう暗くなる。 久しぶりの映画だな・・・ 前に映画館に来たのは小学生の時だからもう6年以上経っている。 淡々と進むストーリー。 俺にはこんな恋愛なんて出来ないなあと思いながらジュースを飲む。 そう言えば今日は朝早かったんだっけ・・・ 暗い場所で迫力の無い映像。 俺はだんだん眠気を催してきた。 左手を鼻に沿え、口を開かないようにしてあくびをする。 あくびの後、涙の貯まった目をこすっていると、なぜか省吾が もしかして映画を見て泣いているのだと勘違いしてる? 俺は何も言わずに受け取ると、両目を当ててハンカチに涙を滲ませた。 そのままハンカチを太ももの上に置き、俺は2時間あった映画を 省吾:「どうだった?結構感動したんじゃない?」 雪菜(広幸):「ふあ・・・う、うん。そうだね」 あと5分も見ていると完全に寝てしまっていた。 省吾もちょっと目に涙を貯めている。 ハンカチを返しながら映画館を出ると、もう陽の光は射していなかった。 水族館に遊園地、そして映画館・・・・ 結構充実した1日。 後は夕食を食べて帰るくらいかな・・・・ そう思いながら省吾が勧める洋風レストランへと足を運んだ。 感心する事はもう一つ。 俺って結構女の子できてるじゃない・・・ 自画自賛しながら洋風レストランに入ると、やけに明るい照明が目に飛び込んできた。 省吾:「あの、予約していた藤尾ですが」 店員:「藤尾様ですね。どうぞこちらへ・・・」 予約していたのか・・ 綺麗に磨いてあるフローリングの床を歩き、店の奥にあるテーブルへと案内される。 レディーファースト・・・ 雪菜(広幸):「ね、ねえ省吾さん。こんなにたくさん使うの?」 省吾:「うん。外側から使うんだよ」 雪菜(広幸):「そ、外側から・・・」 レストランの癖に、やたら本格的な感じがしてすっかりビビってしまった。 ちょっと「浮いている」様に感じた俺に、 省吾:「緊張しなくてもいいよ。ここは高級フランス料理店じゃないんだから」 そう言ってくれる。 雪菜(広幸):「このお店、来た事あるの?」 省吾:「うん。家族で何度か来たことがあるんだ。結構美味しいから今日はここで 雪菜(広幸):「そ、そっか・・」 なんだ・・ 出された水を一口飲んで気分を落ち着かせる。 省吾がよく知っているのなら大丈夫だろう。 時間を見計らって次々と出てくる料理。 結構無口で食べている省吾に対して、俺は色々と質問してやった。 自分の事ならスラスラとしゃべっている。 雪菜の事を色々と聞かれるとまずいので、とにかく俺が話をリードする。 そして最後のデザートを食べ終わり、今日のデートもこれにて終了・・・ いつもなら食べたりないと思うのだろうが、小さな雪菜の身体。 省吾:「先に出ててよ」 雪菜(広幸):「うん・・・」 省吾が勘定を済ませる間、俺は店の前で真っ暗になった夜空を眺めていた。 省吾:「お待たせ」 雪菜(広幸):「うん。高かったでしょ」 省吾:「そんな事ないよ」 雪菜(広幸):「バイトくらいじゃなかなかお金できないのに」 省吾:「ううん。さっきも話したけど俺、結構割りのいいバイトしてるんだ」 雪菜(広幸):「ごめんね」 省吾:「いいって。俺が勝手に予約していたんだしさ。美味しいと思ってくれたのなら」 雪菜(広幸):「うん、美味しかった。ご馳走さま」 省吾:「どういたしまして」 省吾がニコッと笑って俺を見ている。 省吾:「ねえ、今日は何時まで大丈夫なの?」 雪菜(広幸):「えっ?」 何だよ、もう帰るんじゃないのか? 雪菜(広幸):「ど、どうして?」 省吾:「あのさ、最後にカラオケにでも行かない?」 雪菜(広幸):「カラオケ?」 省吾:「うん。ほら、あそこに見えてるカラオケボックス。あそこって結構たくさん 雪菜(広幸):「そうなんだ・・」 俺も知ってるって!前にお前と行ったじゃない・・・ 省吾:「遅くなったらやっぱりお父さんやお母さんに怒られるのかな・・」 雪菜(広幸):「あ、そ‥そんな事無いけど・・・」 本人はとっくに家に帰ってるし・・・ 省吾:「10時30分には家に着くようにするから」 雪菜(広幸):「あ、うん・・・・別に・・・いいよ」 省吾:「よかった。じゃあ早速行こう!」 雪菜(広幸):「・・・・」 別に時間が遅くなるのは構わなかった。 俺、女の曲なんて歌った事ないし・・・ そう考えているうちにカラオケボックスのカウンターに着いてしまった。 バイト:「何時間にしますか?」 省吾:「2時間で」 雪菜(広幸):「え・・2時間も歌うの?」 省吾:「2時間歌っても10時半には帰れるよ」 雪菜(広幸):「そ、そうだけど・・」 2時間も何を歌うんだ? 間が持たないぞ・・・ ドリンクを頼み、部屋へと案内される。 省吾:「最後はパァッと歌ってすっきりして帰ろうね」 雪菜(広幸):「う、うん・・」 省吾:「雪菜はどんな曲を歌うの?」 雪菜(広幸):「わ、私は・・・」 どんな曲と言われても・・ 省吾:「楽しみだよ。こうやって女の子と二人きりでカラオケボックスに来たの、 雪菜(広幸):「ははは・・・」 省吾は先に曲を予約するとマイクを持って歌い始めた。 でも今日はやけにノッてるなあ・・・・ 4分ほどすると、省吾がマイクをテーブルの上に置く。 省吾:「雪菜はまだ入れてないの?」 雪菜(広幸):「う、うん・・・まだなんだ」 省吾:「もしかしてあんまりカラオケボックス行かないのかな?」 雪菜(広幸):「そ、そんな事無いけど・・」 省吾:「ねえねえっ、じゃあデュエットしない?」 雪菜(広幸):「デュエット?」 省吾:「それなら歌えるでしょ」 デュエットか・・それなら幾つか知ってるな・・・ 雪菜(広幸):「うん。それならこの曲が・・」 俺はペラペラと本を捲って、知っているデュエット曲を指定した。 省吾:「それなら俺も知ってるよ。じゃあこれにしようか」 雪菜(広幸):「うん」 省吾はリモコンのボタンを押して予約を始める。 しかし、急に元気になったなあ・・・ 歌に自信がある証拠かな・・・・ 俺にマイクを渡し、自分も別のマイクを持つ。 俺は自分の番が来るのをなぜかドキドキしながら待っている。 雪菜(広幸):「♪あなたの〜瞳に吸い込まれるように〜」 俺の持つマイクに吹き込んだ雪菜の声が、スピーカーから流れ出す。 俺が歌っているけれど・・・雪菜の声なんだ・・・ すごく不思議な感覚。 上手い・・・・ そう思った。 自分が歌っている声に陶酔しながら二人で最後まで歌いきる。 省吾:「すごく上手いよ。めちゃくちゃ素敵な歌声だった。うん、最高だよ」 省吾がやたらと褒めまくる。 雪菜(広幸):「わ、私・・・」 省吾:「今度は一人で歌ってみてよ。ゆっくりと聞きたいんだ」 雪菜(広幸):「一人で・・・」 省吾:「うん。どんな曲でもいいから」 雪菜(広幸):「・・・・」 どんな曲といわれても・・・・ 俺が知っていると言っても、彼女が歌う曲くらいしか知らないからなぁ・・・・ でも・・・まあ何とかなるか・・ 雪菜(広幸):「それじゃあ・・」 俺は前にカラオケボックスに来た時、彼女が歌っていた曲を予約した。 省吾:「がんばれっ!」 雪菜(広幸):「うん・・」 伴奏が流れ出すと、省吾が手拍子する。 雪菜(広幸):「♪昨日の事は〜、あなたの心を〜」 知らないなりにも、とにかく歌う。 省吾はニコニコしながら手拍子をしている。 何とか無事に?最後まで歌いきった俺は、額に汗を掻きながら 省吾が激しく拍手する。 省吾:「すごいすごいっ!俺なんかより遥かに上手いよ。もう完璧っ」 雪菜(広幸):「そ、そうかな・・・へへへ・・」 いやいや、ずいぶん間違えたって・・・ 省吾:「もっと聞かせてよ。その歌声を!」 偉く惚れこまれたものだ。 この声で十八番を歌ってみたい・・・ そう思うようになった。 雪菜(広幸):「私、男の人の歌、歌って見てもいい?」 省吾:「え、男の歌?ぜんぜんOKだよ。でも知ってるの?」 雪菜(広幸):「恥ずかしいんだけど・・・男の人の歌の方がよく知ってるの」 省吾:「恥ずかしくなんかないよ。女の子ってみんな男性アイドルが好きなんだし」 そっか・・・そう言われればそうだな・・・ 俺はニコッと笑うと、省吾も知っている俺の十八番の曲を予約した。 省吾:「あ、この曲って広幸の十八番だ」 雪菜(広幸):「うん。お兄ちゃん、いつも家で口ずさんでいるから」 そう言うと俺はいつものとおり歌い始めた。 この激しい曲を雪菜が歌うと、こんな感じになるんだ・・ いつも歌ってる時のようにキーの設定を低くしていたのだが、 途中でキーの設定をもどした俺は、雪菜の声で思い切り歌いはじけた。 全然かすれない雪菜の声。 最後まで歌いきった俺は、少し息を切らせながら省吾の顔を見た。 省吾:「めちゃくちゃすごいよ。上手すぎる!それに、その歌い方、広幸に 雪菜(広幸):「そ、そう?お兄ちゃんもこんな歌い方なの?」 省吾:「ああ、もうそっくりだよ。伸ばすところ、止めるところ、溜めるところ・・・ 雪菜(広幸):「そ・・そっか・・・お兄ちゃんが口ずさんでいるの、うつっちゃったかな」
などとごまかす。 この後、俺たちは交代でひたすら歌いまくった。 俺自身、まるで女性アイドルにでもなったかのように楽しく歌っていた。 胸に軽く手を当てて歌う仕草なんか男の俺がしても気持ちが悪いだけ。 切ない表情をしたり、首を傾げてみたり・・・ 雪菜の持つ魅力を惜しげもなく披露する。 髪を掻きあげ、耳元からうなじの辺りを強調する。 いつの間にか、俺は雪菜の魅力を省吾に見せ付けたかったのかもしれない・・・ 気付くとあっという間の2時間だった。 省吾:「絶対上手いと思うよ。歌手になれるんじゃない?」 雪菜(広幸):「そうかな・・へへへ・・」 そう言いながら俺も納得していた。 省吾:「今日は楽しかったよ。初めてかなあ・・こんなに楽しい1日を過ごしたのは」 雪菜(広幸):「そ、そっか・・それならよかったよ・・」 省吾:「うん・・・じゃあ帰ろっか」 雪菜(広幸):「・・・・うん・・・」 何だか急に寂しい空気が流れる。 雪菜(広幸):「ここでいいよ」 省吾:「家まで送るよ。もう時間も遅いしさ」 雪菜(広幸):「ううん、いいの。家近いしね」 省吾:「でも・・・」 省吾はとても寂しそうだ。 雪菜(広幸):「今日は楽しかったよ、うん」 省吾:「お、俺もだよ・・」 雪菜(広幸):「ごめんね」 省吾:「何が?」 雪菜(広幸):「楽しかったんだけど・・・私・・」 省吾:「・・・・・うん、分かってるって。約束だったんだから。1日だけデートだって」 雪菜(広幸):「うん・・・」 省吾:「で、でもさ。また気が向いたら俺と遊んでくれないかな・・・その・・・やっぱり・・・」
省吾は俯きながら言葉を詰まらせる。 でも・・・・俺はこれ以上、省吾を期待させるわけにはいかない・・・ 雪菜(広幸):「・・・・ごめんね、省吾さん・・・」 俺は省吾に次の言葉をしゃべらさなかった。 省吾:「ごめん、ウソ。ウソだよ。今日、十分に楽しめたからさ。広幸によろしく伝え 雪菜(広幸):「うん・・・わかった」 省吾:「じゃあね」 雪菜(広幸):「うん、それじゃ・・・・」 省吾は急に背を向けると、振り向きもせず1直線に家に向かって走り去ってしまった。 雪菜(広幸):「なんだか逆に悪い事したかなあ・・・」 そう思った俺は、ポリポリと頭をかきながら家の近くの公園へと歩いて行った。 もう雪菜には会わないだろうな・・・ 俺が省吾の立場ならそうするだろう。 色々考えながら公園にたどり着く。 雪菜(広幸):「まだ11時前か・・・12時にならないとみんな寝てないだろうな・・・」
両親は11時には就寝するはず。 とにかく俺は、11時30分になるまで公園でいることにした。 俺は出来るだけ目立たないようにひっそりとベンチに座っていた・・・ そして11時30分。 雪菜(広幸):「よし・・・・」 俺はリュックから鍵を取り出し、音を立てないように扉を開けた。 「ん?雪菜か。お前もう寝たんじゃなかったのか?」 暗い部屋、パソコンのディスプレイの明かりだけが部屋の中を照らしている。 雪菜(広幸):「に・・・・兄さん・・・どうして・・・」 パタンとドアが閉まると、兄さんは部屋の電気をつけた。 「お前、いつからそんな格好するようになったんだ?」 雪菜(広幸):「あ・・・あの・・その・・」 「今から遊びに行くのか?父さんや母さんに黙って」 雪菜(広幸):「ち‥違うんだ・・・・の・・・お・・・私・・」 「まったく・・・・お前も雪菜の身体になんか化けるなよ」 雪菜(広幸):「ご・・ごめん・・・・って、ええっ!?」 広幸だって事バレてる?? 「お前、ゼリージュース飲んだんだろ」 雪菜(広幸):「・・・・」 「いつの間に買ったのかは知らないけど、誰にも言うなよ」 雪菜(広幸):「ど・・・どうして兄さんが知ってるんだ??」 俺の問いに、兄さんはすました顔で答えた。 「当たり前だろ。俺がそのゼリージュースの開発者なんだからさ」 雪菜(広幸):「・・・・・」 俺は目が点になった。 「それより早く元の身体に戻れよ。雪菜の姿でそんな格好されたら そう言うと俺に向かって薬のようなものを放り投げた。 雪菜(広幸):「これって・・・」 「下剤だよ、下剤。お前、用意してたのか?」 雪菜(広幸):「あ、あとで取りに行こうと思ってたんだ・・」 「まったく・・・お前は相変わらず準備が悪い奴だな」 雪菜(広幸):「そんな事言わなくったってさ・・」 俺は自分のトランクスとパジャマを取り出すと、雪菜の身体のまま着替えを始めた。 「おいおい、俺の前で脱ぐなよ。お前は雪菜の身体なんだからな」 雪菜(広幸):「そんな事言ったって、ここは俺の部屋なんだし」 「向こう向いて着替えろ。俺はお前と違って妹の身体になんか興味ないんだ」 雪菜(広幸):「お、俺だって・・・・・」 言いたい事言って・・・ 俺は兄さんに背を向けると、Tシャツ、マイクロショートパンツ、そして下着を脱いで このゼリージュースで変身したあと、元に戻る方法は簡単だ。 しばらくするとお腹が痛くなり、俺は全てを排泄した。 すると、徐々に雪菜の身体が俺の身体へと変化してゆく。 そして、トイレから出てきた俺は変身する前の広幸に身体に戻っていた。 そのまま兄さんのいる俺の部屋へと向かう。 「おう、元に戻ったようだな」 広幸:「うん」 「お前、妹の身体になって何やってたんだ?」 広幸:「それは・・・」 俺は兄さんに事情を説明した。 「へぇ・・・お前って結構、友達想いなんだなぁ」 広幸:「まあね」 「でもバレたらどうするんだよ。雪菜は全然知らないんだろ」 広幸:「そうなんだけどさ。まあ省吾はもう雪菜には会わないと思うし」 「知らないぞ。後で変な事になっても」 広幸:「大丈夫だよ。何とかなるって」 「そう言えば、お前の靴があるのにお前がいないって不思議がってたぞ」 広幸:「あ・・・誰が?」 「みんなが」 広幸:「うそ・・・」 「裸足で出て行ったんじゃないかってさ」 広幸:「ま、まずい・・・」 「そんなの適当にごまかせばいいんだよ。新しい靴買っといたんだとかさ」 広幸:「あ、そっか」 「お前ってほんとに計画性が無いよな」 広幸:「う、うるさいな・・」 兄さんには敵わないな・・・ 「しかしなあ・・・お前にバレるとは思ってなかったな・・・」 広幸:「何が?」 「お前のパソコンで試すんじゃなかった。接続用ソフトをスタートアップに入れっぱなしに 広幸:「接続用ソフト?」 「ああ。お前、食品会社のサイトを見て買ったんだろ。あのページは普通見れないんだよ」 広幸:「そうなんだ・・」 「当たり前だろ。あんなものが一般的に出回ってみろ。大変な事になるじゃないか」 広幸:「それはそうだけど・・」 「だから特定の端末からでないと見れない様にしてたんだ。それがこの接続ソフトを 広幸:「そっか・・・」 「でも本当に偶然だな。どうしてあの食品会社のサイトにたどり着いたんだよ」 広幸:「それは・・・適当に探してたら見つかったんだよ」 「そうか・・これも運命だったのかもな・・・」 そんな運命なんてないだろ・・・ そう思いながらも、うちの兄さんはとんでもない事に足を突っ込んでるんだなって思った。 「まだイチゴ味しか試してないのか?」 広幸:「うん。だってこの前初めて知ったところだし、1つずつしか買えないって店の人が言ってたから」 「そうか・・・ま、それならもうやめとけって」 広幸:「な、何でだよ。俺、もっと試してみたいよ、他の味のゼリージュースもっ」 「やめとけって。1度使うと病みつきになってしまうからさ」 広幸:「そ、そんな事無いさ」 「お前さ、雪菜に変身してどうだったよ?」 広幸:「えっ・・・」 「異性に変身してどうだったかって聞いてるんだ」 広幸:「どうだったって言われても・・・俺は・・」 「楽しかっただろ」 広幸:「ま・・・まあ・・・」 「女性の身体が自分の物になるって感覚、たまらないだろ」 広幸:「・・・」 「また女性の身体になりたいって思ったんだろ」 広幸:「そんな事・・・・」 「それならどうしてもっと試したいんだよ。男の身体にでもなりたかったのか?」 広幸:「・・・・」 「もうだめなんだよ。お前は既に女性の身体になりたいって気持ちが芽生えて 広幸:「・・・・」 俺は・・・・そうだ。 広幸:「そ・・そうかもしれないけど・・・」 「前にこのゼリージュースの効果を試そうと極秘にモニターを募った事があったんだ。 広幸:「・・・・」 「お前、雪菜の身体で女性としての快感を得たのか?」 広幸:「そんな・・俺、妹の身体でそんな事する訳ないってっ!」 しようとしたけど出来なかっただけなんだけど・・・ 「それならまだ大丈夫かもしれないな。このジュースの事はもう忘れるんだ。分かったな」 広幸:「そんな・・・」 「接続ソフトもアンインストールしておいた。ショップにもお前には売らない様にお願いしておくよ」 広幸:「ま、待ってくれよ兄さん。俺・・・まだ・・・」 「いいか広幸。俺はお前のために言ってるんだぞ。これに携わるとまともな人生歩めなくなるんだからな」 広幸:「そんな事言ったって・・・それならどうして兄さんはそんなジュース作ったんだよっ」 「・・・・」 広幸:「兄さんが女性願望あるんじゃないのかっ?」 「・・・・あるよ」 広幸:「えっ・・」 「あるから作ったんだ。そして、その恐ろしさが分かっているからお前には飲ませないんだ」 広幸:「・・・だ、だって・・・」 「・・・今のお前は気持ちが高ぶってる。続きはまた明日話そうか。俺も今日帰ってきたばっかりだから
広幸:「・・・・」 兄さんは一つあくびをすると、2階の一番奥にある自分の部屋へを戻ってしまった。 広幸:「兄さん・・・」 俺の頭の中には、もはや省吾や雪菜の事なんか全然なかった。 次の朝。 キッチンで家族と共に朝食を取る。 母親:「昨日はどこに行ってたの?連絡もしないで遅くまで・・・」 広幸:「ツレと遊んでたんだよ。いつもの事さ」 雪菜:「裸足で?それも朝早くから」 広幸:「何言ってんの?」 雪菜:「だって玄関に靴が置きっぱなしだったんだもん」 広幸:「新しい靴を買ってたからそれを穿いて行ったんだよ」 雪菜:「ふ〜ん・・・」 広幸:「あれ、そう言えば兄さんは?」 母親:「朝早くどこかに出て行ったわよ。突然帰ってきたかと思うと 広幸:「そ、そうなんだ・・・」 今日、またゼリージュースの事、話そうって言ってたのにな・・・・ 朝食を済ませると部屋に戻る。 #昨日は雪菜ちゃんとデートさせてくれてありがとなっ! よかったなぁ。 俺も昨日の事を思い出していた。 やっぱり・・また女の子になってみたい・・・ そんな気持ちが沸々と湧いてくる。 兄さんはまた戻って来る。 俺、また女の子になりたいんだ。 時間が経てば経つほど、俺の気持ちは膨らんでいった・・・・ ゼリージュース!(赤色)後編・・・・・・おわり あとがき あれ・・・・ いやいや、とりあえず雪菜とデートした省吾。 広幸は女性願望に目覚めてしまったようです。 途中から広幸の兄さんが登場しました。 ゼリージュース!(赤色)はひとまずおわりですが、 まだまだ書き足りないところもありますが、今回はこれにて。 ちなみに兄さんの名前は次に出て来ます(^^ それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
|