――ふふふ、できたぞ。こいつを使えば、かねてからの計画に移行できる・・・

 暗い部屋の中に、白衣を着た男の姿があった。誇らしげに灰色の液体が入った試験管を掲げている。その液体からは湯気のようなものが立ち昇り、その色と相俟って、怪しい雰囲気をかもし出している。

 男のかけている眼鏡が、申し訳程度に照らされている光に反射してきらめいた――




届け物

作:Sato




ピンポ〜ン♪

「ん?は〜い!」

「宅急便で〜す」

「え、はい。ハンコハンコっと」

 おれは慌てて印鑑を探した。確か引き出しのこの段に・・・・あ、あった。おれは玄関の扉を開けた。

 外にいたのは、宅急便の制服を着た普通の男だ。おれよりも一つ二つは年上だろうか。手には思ったほど大きくはない荷物を持っている。

「ではここにハンコをお願いします・・・・・はい、どうもありがとうございました〜」

 おれに荷物を受け渡すと、男はさっさと帰っていってしまった。

――それにしても、誰からなのだろう?今の時期に荷物が届く心当たりなどない。部屋の中に戻ったおれは、箱に書かれた差出人欄を見てみる。

「なになに?(有)千歳屋?住所は・・・北海道だって!?知らないぞ、こんなの」

全然知らない名前だった。しかし、届け先は確かにおれの名前になっているし、住所も間違いなく合っている。おおかた、同窓会名簿なんかで連絡先を知ったのだろう。

「しかし、何が入っているんだろ・・・」

 荷物は本当に小さなもので、10センチ角ほどのダンボール箱だった。重さも全く感じず、金属類が入っているようには思われない。何より、「千歳屋」などといわれても、それだけでは中身を類推することなどできなかった。

「怪しいなあ。果たして開けていいものか・・・」

 おれは箱を机の上に置いて、しばらくにらめっこしていた。しかし――

「あ、そろそろ大学に行かないと。根来の授業があるんだった!」

 根来、というのは材料力学の講師で、出席点が足りないと、容赦なく欠点にされるという人物なのだ。さすがにその授業をキャンセルすることはできない。おれは慌ててリュックを背負って大学へと向かった。



「ふう・・・・」

 授業のあと、サークルに出たおれは、5人ほどでカラオケに出かけ、歌に酒に興じてから、ようやく帰ってきた。机の上を見た瞬間、ようやく「荷物」のことを思い出した。

「そうだ。これがあったんだった・・・」

 酒に酔った勢い、というものだろうか。おれは何のためらいもなく、その箱の封を解き、箱を開けてしまった。

 中には新聞紙が大量に詰め込まれており、中にあるものを確認することができない。おれは新聞紙を掻き分けて、中にあるものを探した。

「あ、これか?」

 ようやく新聞紙以外のものを探り当てたおれは、それを箱の中から取り出した。

「なんだ、これ!?」

 おれの手の中にあったもの、それは透明なビニール袋で、ファスナーがついていて中のものが密封してある形になっている。そしてその中には、妙なものが入っていたのだ。

「こ、これって・・・皮!?しかも人間のか?」

 色から考えると、そうとしか思えなかった。いくらおれでも、それがビニールでできた作り物かどうかぐらいのことは判別できる。おれはおそるおそる袋の中からそれを取り出した。

「これってやっぱりアレだよな・・・」

 取り出してみると、やはりこれが人間の肌であることはすぐに分かった。そしてこれがどこの部分であるのかも。「皮」の中央部にある明らかに色の違う部分――それが雄弁にどこの部分なのかを語っていた。

「こ、これが一体なんだっていうのだろう?」

 おれは再び段ボール箱に視線を戻した。まだ新聞紙の束は全部は取り出してはいない。もしかすると、この中にまだ何か入っているかもしれない。おれは残りの新聞紙をすべて箱から出した。すると、やはり思ったとおりビニールでカバーされた、怪しげな紙片が見つかったのだ。

「どれどれ・・・」

 おれは紙を取り出して、内容を確認した。中には3枚ほどの紙が入っていた。ひとつはこれが説明書なのだろう。ぎっしりと文章が書いてある一枚ものの紙だ。もうひとつは封筒だった。さっきの「千歳屋」の住所が記されている。そして最後のひとつは、どうやら申し込み用紙か何かのようだった。

 申し込み用紙はとりあえず無視して、おれは「説明書」を読みはじめた。一度通しでざっと読んだあと、もう一度一言一句を噛みしめるように読んで、頭の中で消化していく。

「ふむふむ・・・・う〜む・・・」

 読めば読むほどに興味がわいてくる。おれは改めてさっきの袋を眺めた。「皮」が、怪しげな光を放っているようにさえ見える。おれの手が吸い込まれるように袋に伸びた――

「これをここにつけて・・・」

 おれは袋から「皮」を取り出すと、自分の左胸にきっちりと重ね合わせた。はがれないように、右手でそっと押さえていると、やがてその部分がムズムズとしてきた。

「お、きたか!?」

 説明書に書いてあったとおり、皮を被せた部分が熱を帯びはじめ、そこに変化が訪れはじめていることが、押さえている手を通じても分かる。

「あ、これは・・・胸が膨らんで・・・!?あの説明書に書いてあることは本当だったのか!」

 胸を押さえつけている右手が、段々と押し返されてきていた。もはや「皮」は完全に定着してしまっているようで、皮が被さっている、という感覚はなかった。そこにはただ、胸が盛り上がってきている、という感覚だけがあるのみだった。

「う・・・と、止まったのか?」

 どうやら変化が終わったようだ。ずっと感じていたムズムズ感ももはやない。おれは押さえていた右手をそっと離した。右手を離した瞬間、ようやく開放された胸がポヨンと弾む。

「うわ・・・ホントに膨らんでるよ・・・」

 おれは改めて自分の胸を眺めた。左の胸だけが、明らかにふくよかに膨らんでいる。おれは今度は左手で、自分に備わった乳房を下から持ち上げてみた。ほんわりとしたやわらかさに加えて、しっかりとした重量感もあり、そこにちゃんと肉が詰まっていることを証明していた。

 上下に揺すると、それに逆らうように乳房も上下に弾んでいく。うれしくなったおれは、何度も胸をぽんぽんと弾ませてやって、その弾力を楽しんだ。

「間違いなく女の胸だな、こりゃ。じゃあ、ちょっと楽しませてもらおうかな♪」

 テンションが上がってきたおれは、「乳房」をゆっくりと、やさしく揉みはじめた。体の中に温かい何かが流れてくる。それが体が興奮している、ということなのだと気づく頃には、おれの手の動きはすっかり激しくなってしまっていた。

「う・・・これは・・・乳首が堅くなっているのか!よし・・・」

 おれはすっかり固くなってとがってきている乳首を指でつまんで、ぐりぐりと刺激を与えはじめた。

「はぁ!スゲエ・・・これが女の感覚なのか・・・ここだけでも男と同じくらいあるな・・・」

 気がつけば、おれのモノはギンギンになってしまっていた。もはやどうすることもできないところまできていると判断したおれは、急いでズボンとトランクスを脱いだ。

 左手で乳首をもてあそびながら、右手でモノをしごいていく。もう寸前まで出来上がっていたおれは、あっという間に達してしまった。

「う・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・いつもとは比べもんにならない・・すげえな、女の体ってやつは・・・胸だけでここまですごいのか・・・・」

 呼吸が整ったおれは、風呂場へと向かった。汗を流す、ということもあるが、「体を元に戻す」という目的があったからだ。説明書によると、「皮」はその部分にお湯をかけると、きれいにはがれて元に戻ることができるらしい。

 そのとおり、シャワーを浴びると、ペロリときれいに「皮」ははがれてしまった。当然のごとく、胸にあった膨らみはなくなってしまっていた。

「なるほど。こいつは便利だ!」

 これでおれは、いつでも女の「おっぱい」を体験することができる。おれはこれが入っていたビニール袋に再び「皮」を入れると、机の引き出しの中に大事にしまった。



「ああ、イクッ!!」

 今日もおれは絶頂を迎えていた。激しく飛び出す白濁液。その勢いはとどまるところを知らない。

 しかし、慣れとは恐ろしいもので、こんなゼイタクな状況にも、やがては体が順応してしまったのだ。初期ほどの快感が得られなくなっている。おれの欲求不満は日増しに募った。

 おれはあの「箱」に説明書と一緒に入っていた申し込み用紙のことを思い出した。

 そこにはこう書いてある。

『他の「部分」をお望みの方。すぐにこちらの申し込み用紙に必要事項を記入し、同封の封筒に入れてこちらへご発送ください。記入例はこちら――』

 おれはペンを手に取った―――――

「次は・・・・」



(おわり)



あとがき

はい。皮モノなのですが、部分の要素も入れてみました。
言ってみれば「部分皮」と言ったところでしょうか。
で、設定ですが。
基本としては、「黒」と「白」のゼリージュースのミックスと考えています。
それゆえに「灰色」だったのですが。
使い方としては、相手の体に「塗る」ことで、皮を製造できるわけです。
この使用法はゼリージュースの本分から外れてしまってますが、
つまり、ジュースですらなくなってますが、
ゼリージュースを調合した薬品と言う事でご理解ください。

それでは読んで頂いた方、ありがとうございました!

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