夜も10時を回り、あたしは2階にある自分の部屋に戻った。

どうすれば香菜を元通りに戻す事が出来るのだろうか?
あの男は香菜の身体から出てきたピンク色のゼリーのような物を「保険」だと言っていた。
きっとあのゼリーがあれば香菜を元通りに戻す事が出来るんだ…

そんな事を思いながらベッドの布団に潜り込こむ。
あたしは白い天井を見ながら、何とか男が持っているピンク色のゼリーが入ったペットボトルを奪う事を考えていた。
あれさえ手に入れれば本当の香菜を…
 
 
 
 
 

続・天使と悪魔の間に(後編)

原作:toshi9
作:Tira
 
 
 

コンコン…
 

小さくドアを叩く音。

「…誰?」

「おねえちゃん」

「か…」

あたしはドアの向こうから聞こえる声に、「香菜?」と返事をしようとした。
でもすぐに口を閉じる。それはドアの向こうにいるのが本当の香菜じゃないから。

ドアがゆっくりと開き、黄色いパジャマを着た香菜が部屋の中に入ってくる。
あたしはベッドの上、掛け布団を頭からすっぽりと被ると視界から香菜を遠ざけた。

「おねえちゃん。香菜、眠れないの」

布団に潜り込んでいるあたしに、香菜が話しかけてくる。
寂しそうではなく、どちらかと言うとうれしそうな声。
あたしはその声が聞こえないように、両手で耳を塞いだ。
すると、「ゴー」という血液が流れているような音が聞こえてきて、香菜の声を遮ってくれる。
しばらくそのまま耳を塞いでいると、香菜がベッドに近づいてきたような気配がした。
布団に潜り込んでくるんじゃないかと思ったけど、ベッドに上がっては来なかったようだ。
あたしに何をしてくるわけでもない。そして、あたしの周りに香菜の気配を感じる事は無かった…
 
 
 

どれくらいの時間が経ったのだろう?

あたしは耳を塞いでいた手をそっと離した。
何も聞こえない……いや、かすかに香菜の声が聞こえる。
でもその声は妙に上ずっていた。

じっと聞いていると恥ずかしくなるような声。
これって…まさか、香菜の身体で!

ハッとしたあたしはガバッと起き上がると、声が聞こえてくる方に視線を向けた。

「なっ……」

あたしはその光景を見て何も言葉を失ってしまった。
絨毯の上で、あたしの方に小さな裸体を向けて座っている香菜。
大きくM字に足を開き、まだ幼い股間を一生懸命刺激している。
肩をきゅっと小さくして身体を丸め、股間を覗きこむようにしながら喘いでいる香菜。

「あっ…ここすごい…まだ小学生のくせして…ちゃ…ちゃんと感じるじゃないか…はうっ…」

「や…やだっ…か、香菜の身体で変な事しないでっ!」

「うおっ…こうやって擦ると…す、すごい…ああっ…信じられないな…んぐっ…」

「やめてっ!!」

あたしはそう叫びながらベッドから飛び降りると、目をトロンとさせながら快感に酔いしれている香菜を押し倒した。

「きゃぁっ!」

香菜が可愛い声を出して絨毯の上に倒れこむ。
あたしは香菜の上に跨って、その両手を押さえ込んだ。

「二度と香菜の身体でそんな事しないでっ!」

「……何言ってるんだ?お前にそんな事を言う権利があると思うのか?俺の方が立場が上だって分かってるんだろ」

香菜が可愛い声に似つかない言葉をあたしに浴びせる。

「…お願いだから香菜の身体から出てって。もう十分に楽しんだでしょ」

「はぁ?俺に惨めな人生へ戻れって言っているのか?そんな事出来るはずないだろ。俺はお前の妹の香菜として
 一生を過ごすのさ。このまま中学へ行って高校へ行って…。この身体が大きくなってセーラー服を着るようになるんだ。
俺がセーラー服を着るんだぜ。信じられないよなぁ」

「な、何勝手な事、言ってるのよっ。香菜は…香菜はあたしの大事な妹なんだからっ」

「分かってる分かってる。そんな事お前に言われなくても分かってるさ。ずっとお前たち二人を見てきたんだからな。
仲のいい二人をさ」

「そ…それが分かってるんだったら……早く香菜を返してっ!!!」

「だから俺が香菜として接してやるって言ってるだろ。その内、俺の事なんか忘れて本当の香菜としか思えなくしてやるよ。
 今から…明日も明後日も…そして死ぬまでお前の前では香菜として接してやる。へへへ」

「な……ひ、酷い…」

ニヒッと笑った男は、すぐに香菜の顔をしかめて痛そうな表情を作った。

「痛いよおねえちゃん。香菜、手がしびれちゃう」

「う…五月蝿いっ。二度と香菜の真似なんかするなっ!」
 

パシッ!
 

あたしはつい感情的になってしまって、汚い言葉を投げつけながら香菜の頬を思い切り引っぱたいてしまった。

「あ……ご、ごめ…」

「う…うわぁ〜んっ!」

香菜が大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ。
その声を聞いたお母さんが慌てて私の部屋に入ってきた。

「なっ…ゆ、優菜っ!何してるのっ!」

「あ…あたし…」

「早く香菜の上から降りなさいっ!!」

「あ……」

あたしはお母さんの酷く怖い表情に驚いて、馬乗りになっていた香菜の横に座り込んだ。

「香菜、大丈夫?」

優しい表情になったお母さんが裸の香菜を抱き寄せる。
まるで全てあたしが悪いように…

「うえ〜んっ!おかあさ〜んっ、おかあさ〜んっ。ヒック…ヒック…」

がむしゃらに泣いている香菜。
そんな香菜の頭を優しく撫でるお母さん。

「お、お母さん…」

「優菜っ!どうしてこんな事するのっ!」

「ち、違うのっ。香菜は…香菜は…」

「グスッ…おかあさ〜ん。怖かったよぉ〜」

「大丈夫よ。お母さんがついているから。もう泣かないで」

「そ、そんな…」

「早くパジャマを着なさい。風邪ひいちゃうわ」

「うん…グスッ…」

香菜は涙を啜りながらお母さんにパジャマを着させてもらっている。
あたしはただそれを見ていることしか出来なかった。
お母さんはまったく気づいていない。
香菜の中に、男が入っている事を。

「グスッ…ねえおかあさん、一緒に寝てもいい?」

「いいわよ。お父さんには別の部屋で寝てもらいましょうね」

「うん。おかあさん大好きっ!」

香菜はお母さんの首に両腕を巻きつけてぎゅっと抱きしめた。
お母さんも香菜の身体をしっかりと抱きしめている。

「な、何よそれ…あ、あたしが悪いの?」

「今日の優菜はおかしいわよ。学校で何かあったの?」

「違うの。ねえお母さん、香菜は…香菜はね、本当の香菜じゃないの」

「優菜…」

「信じてお母さん。そいつは香菜の皮を被った男なのよ」

「……今日はもう休みなさい。また明日ゆっくりと聞いてあげるから」

「信じてくれないの?お母さん、ねえっ。お母さんっ!」

お母さんはあたしの言う事をぜんぜん信じてくれない。
香菜の手を優しく握りながらあたしの部屋を出て行く。
ドアを閉める香菜の表情がニヤけていた事にあたしは気づいていた…
 
 
 

…誰にも信じてもらえない。
部屋で一人になったあたしは、今頃お母さんと一緒に寝ている香菜の事を考えた。
きっとあの男は香菜の振りをしてあたしの事を変な風に言っているに違いない。
それだけならまだしも、あたしの時のようにお母さんに悪戯したら…

そう考えると青ざめた。
まさかお母さんに手を出すような事は…
自分からバレるような事をするはずが無いと思っても、すごく心配になる。
嫌な胸騒ぎがしたあたしは音を立てないように階段を降りると、お母さんと香菜が寝ている寝室の前まで歩いて言った。
寝室のドアにそっと耳を当てると、篭った声がドアの向こうから聞こえてくる。

何話してるんだろ…

息を殺しながら二人の会話に聞き耳を立てる。

「ねえおかあさん。おかあさんのおっぱい柔らかいね」

「もう、香菜は甘えん坊なんだから」

「だっておかあさんの事が大好きだもんっ」

「ふふふ。あん、そんなに強く揉んじゃダメでしょ」

「おかあさんのおっぱい、きもちいい〜」

「もう。香菜ったら…んっ…んふっ…」

信じられない会話だった。
やっぱり香菜の真似してお母さんに悪戯している。

どうして気づかないの?
香菜じゃないよ、香菜じゃないの…

あたしは心の中でそう叫んでいた。
でも、あたしの声はお母さんには聞こえない。
今ドアを開けてお母さんの前に行っても、きっとお母さんは香菜…ううん、あの男の味方をするのだ。

お母さん…

あの男にお母さんまで取られた感じがして、どうしようもない悲しみが湧き出てくる。
あたしは歯を食いしばりながら自分の部屋に戻ると、ベッドの布団に潜って思い切り泣いた…
 
 
 
 
 

「優菜、優菜っ、早く起きなさい。学校に遅れるわよ」

いつの間にか朝になって、部屋の中が明るくなっている。
あたしは頬に涙の跡をつけたまま眠ってしまったようだ。

お母さんの呼ぶ声で目が覚めたあたしは、昨日の事を思い出しながら1階のキッチンに向かった。
きっとキッチンでは男が香菜の姿で朝食を取っているに違いない。
そんな男と、これからずっと過ごさなければならないのだ。

「おはよう」

あたしはキッチンに着くと、まず一声出した。

「早く食べなさい。遅刻するでしょ」

「あれ、か…香菜は?」

あたしはキッチンテーブルに見えない香菜の姿を探した。

「まだ寝てるわよ。今日は学校休むんだって」

「そ、そう…お父さんは?」

「出張で早く出たのよ。昨日の夕食の時にそう言ってたでしょ」

「そ、そうだっけ…」

あの時はそれどころじゃなかったから全然覚えていない。
とりあえず椅子に座ってコーヒーとパンを食べ始めたあたしは、もう一度お母さんに香菜の事を話してみようと思った。
ずっと言い続ければ、いつかお母さんも気づいてくれるかもしれないから…

「ね、ねえお母さん。香菜の事なんだけど」

「ん〜」

「あのね、昨日の香菜、おかしくなかった?」

「どういう風に?」

お母さんは用事をしていた手を止めてあたしの話を聞いてくれた。

「お母さんと一緒に寝たんでしょ。香菜、いつもと違うと思わなかった?」

「そうね。少し甘え過ぎだと思ったくらいかしら」

「そ、それだけ?」

「ええ。それだけよ」

「あの…き、昨日も言ったんだけど…香菜は…香菜じゃないの」

「どういう事?優菜、昨日もそんな事言ってたわね」

お母さんは真剣な顔つきであたしを見つめている。
そうやって聞いてくれるお母さんの事がうれしく思えた。

「実はね…」

あたしは昨日の出来事を詳細に話した。
お母さんはあたしの話を聞いた後、難しい顔をしながらしばらく考えて…

「信じられないけど…それじゃあ香菜の中にその男が入っているという事なの?」

「そうなのっ。本当なのお母さんっ!あたしが言ってる事、本当なのっ!」

お母さんが信じてくれているっ!
そう思ったあたしは、必死にお母さんに訴えた。
するとお母さんは優しい表情をして、

「信じるわ。優菜が言っている事」

そう言ってくれたのだ。

「お母さん…」

あたしは嬉しくてたまらなかった。
絶対誰にも信じてもらえないと思っていたのに、お母さんはあたしの言う事を信じてくれたのだ。

「お母さん、病院に連れて行けば何とかなるかも知れないよ。あの男が持っているピンク色のゼリーと
一緒に持って行けば、香菜、元に戻るかもしれないっ」

「そうね、元に戻るかもしれないわ」

そう言ったお母さんは、私が座っている椅子の横に来た。
あたしを後ろから抱きしめてくれる。
お母さんのいいにおいがあたしを包み込むようだった。

「ありがとう、お母さん。あたしの言う事信じてくれて」

「当たり前じゃないの。優菜がそんな嘘を付くはず無いんだから」

クスッと笑ったお母さん。
あたしも嬉しくて涙が出たけど、ニコッと笑い返した。

「でもね、優菜。香菜は多分元に戻れないと思う」

「え…」

「きっと二度と戻れないんじゃないかしら」

「そ、そんなこと無いよ。だってあいつが保険だって言ってピンク色のゼリーを持っていたんだから」

「そのピンク色のゼリーって、ペットボトルに入ってたんでしょ」

「そうよ」

「それ、私が今朝ごみと一緒に捨ててしまったのよ…」

「う…うそ…そ、そんな…」

「ごめんね…早くその話を聞いていれば…」

お母さんの顔色が曇った。
あたしもどうしていいのか分からず、これ以上言葉が出なかった。

「……仕方がないわ。もう香菜の事は忘れましょ」

「え!?」

「だって元に戻れないんでしょ」

「だ、だって…そんな…お、お母さん、それでもいいの?香菜じゃないんだよ。知らない男なんだよっ」

「私にはどうすることも出来ないでしょ。それに香菜はもういないのよ」

「い、いないって?」

「実はね。さっき香菜の部屋に行ったら、いなかったのよ」

「だ、だってお母さん、さっき香菜が学校休むって…」

「あれは嘘なのよ。優菜に心配をかけない方がいいと思って」

「…じ、じゃあ…香菜は…香菜はもうどこにもいなくなっちゃったの?」

あの男が香菜の身体のままどこかに出て行ってしまったのだろうか?
そんな…それじゃあ香菜は二度とあたしの前には現れないの?
 

お母さんは少し間をおいて、また口を開いた。

「いなくなったわけじゃないのよ」

「……?」

「正確に言うとね、私の身体の中にいるのよ」

お母さんは自分の胸を指差しながらそう言った。

「お、お母さんの身体の中に?」

「ええ。そうなの。私の身体の中にね」

お母さんが後ろからあたしの頭を優しく撫でると、今度はその手であたしの胸を触ってきた。

「お、お母さんっ!?」


 


「やっぱり小学生はもうひとつだったの。優菜のお母さんって歳の割にはすごく綺麗じゃない。
それに大人の身体だからすごく感じるのよ。優菜も高校生なんだから結構感じるんでしょ」

「やだっ!お母さん、何言ってるのっ!」

「ん?私ね、もう昨日までのお母さんじゃないのよ。分かる?」

ニヤニヤするお母さん。
その表情は、昨日男が香菜の顔で作っていた表情に似ていた。

「ま…まさか…」

「ふふ。分かった?」

「そ、そんな…」

私は目の前が真っ暗になるのを感じていた。
まさか…あの男がお母さんの身体まで…

「まだ半分余ってたのよ。それをお母さんに飲ませたの。で、香菜の身体のままお母さんの皮を
着たのよ」

「そんな…お、お母さんまで……や…やだ……い…いやあ〜〜っ!」

そう叫んだ後、あたしは気絶してしまった…
 
 
 
 
 
 

それから数日後…
警察が香菜の行方を捜している。
お母さんは毎日のように刑事さんと心配そうな表情で話をしていた。
お父さんも仕事が手につかないようで、しばらく休みをもらうと言っていた。

私だけが全てを知っている。

でも、誰も信じてくれない。

目の前にいるお母さんの姿をした男が犯人なのに!
それなのに…
それなのに…
 
 

あたしはどうする事も出来ず、ただお母さんの姿をする男と一緒に過ごさなければならなかった。
たまにお母さんの姿をした男に悪戯されるあたし。

「い、いやぁ…やめて…あっ…あうっ…」

「おとなしくしておけば悪いようにはしないからな。でももし逆らったら…
今度はお前の身体を頂くぞ」

「ひ、酷いよ…そんなのあんまりだよ…んんっ…ううう…」

毎回殺し文句を言われ、いつかはあの男に成りすまされてしまうのではないかという恐怖心を抱くあたし。
こんな男と、あたしはずっと生きていかなくてはならない…
 
 
 
 

続・天使と悪魔の間に(後編)…おわり
 
 
 
 

あとがき
きっちりダークな雰囲気で終われました(^^
だんだん男の性格がエグくなっているようなきもしますが(苦笑
恐ろしいゼリージュースですね。
こんな悲劇になるのなら、さすがに使いたいとは思わないかも!?
でも…そこが魅力的だったりします(笑
toshi9さん、話が変な方向に進んでしまって申し訳ありませんでした(苦笑
それでは最後まで読んでくださった皆様、ありがとうござました。
Tiraでした。
 
 
 
  inserted by FC2 system