美人上司

作:夏目彩香(2003年11月3日初公開)


「ちょっと、田村く~ん」

システム営業課の課長である一ノ瀬英里香(いちのせえりか)が呼びつけた田村とは田村亮平(たむらりょうへい)のこと、亮平は英里香が抱える部下の一人、もちろんただの平社員である。以前は外回りの営業をしていたのだが、英里香がシステム営業課長になってからはなぜかこの部署に移って営業支援を担当するようになった。

英里香は大卒入社5年目の27歳、英文科を主席で卒業したほどの才能の持ち主。入社当時は結婚の噂が広がっており、腰掛け入社だと思われていた。しかし、縁談が1年で破局してしまい、それからは突然業務に専念するようになった。ということで20代後半の若さで課長のポストに就き、いくら中小企業とは言っても出世街道まっしぐらであった。

課長になる前までは他の女子社員同様に、会社の制服を着ていたのだが、課長になってからはスーツを着て仕事をしている。今日の場合は、グレーのパンツスーツを着ていた。ロングヘアーは仕事がやりにくいからと、背中まであった髪を肩よりも上の位置でばっさりと切ってしまった。

元々、男勝りの性格と言うこともあって、男性社員とも対等に張り合う彼女は他の女子社員からも尊敬の眼差しで見られる程。こういった部分が、会社からの信頼を勝ち得ているのかも知れない。

一方、田村亮平はというと英里香と同期入社だが高卒の23歳、ずっと外回りを担当して来ただけに、人と接することと体力には自信があったが、突然、システム営業課なる部署ができて英里香が課長になると同時にこの部署へ移って来た。英里香とは同期だが、大卒と高卒の差を見せられたようで、英里香に対していい印象は持っていなかった。

亮平は外見こそ男らしいが、時々失敗してはすぐに気を落とすこともあれば、営業先の相手を怒らせてしまい喧嘩沙汰になったりと、気性の激しい性格だったので、会社からはちょっと低めの評価を受けていた。

今は、外回り支援システムの開発プロジェクトを担当し始め、英里香に何度も呼ばれるのは日常茶飯事のことであった。今日もまた怒られるのかと思うと、気が引けてしまうのだが、英里香に呼ばれると顔を向けないわけにはいかない。亮平は斜め向かいに座っている英里香の方を向いた。

「何でしょうか、課長」

「さっきの書類だけど、ミスばっかりだったわ。もう一度確認して私にメールしておいてくれる?」

英里香は呆れたような口調で亮平に突きつけた。

「それとね。その仕事が終わったら、私がメールで送った書類をコピーして来てくれる。社内会議で使うので、ちゃんとステープラーで綴じるのを忘れないように。以上です」

「はい」

素早い口調で立て続けに言われたので、亮平の口からは力の無い返事しかできなかった。(どうして同期入社だって言うのに、こんなに冷たくあたるんだよ……)亮平はそう心の中でつぶやいていたが、心の中で思っていることと、行動を伴わせることはできなかった。そして、自分のパソコンの中から言われた書類の修正を黙々とはじめるのだった。

外回りをしていた亮平にとっては室内での仕事は退屈でしょうがないといった感じ、英里香のように営業回りをしたことも無いのに課長の席に座っているというのは妬ましいことでもあった。こうして亮平は毎日の業務を英里香と共に行うことでその妬みが溜まっていくのだった。


そして、数週間後……

亮平は相変わらず英里香にこき使われていた。本来の業務よりも雑務の方が多く、いつも一人で残業をすることになっていた。この努力も報われず、英里香は仕事をテキパキとこなしていると会社の評価を受けているのに対して、亮平はいつも仕事が遅いとまで思われていた。

今日も一人残って残業となった。英里香はコンサートに行くからと言ってさっさと帰ってしまったのに、頼まれたら嫌といえない性格も災いして残業処理に追われていた。これなら外回りをやっていた方がよっぽど楽しかった。前はもっと自分のペースで仕事をしていたのだから、亮平はいつの間にか英里香に対して妬みが恨みへと変わって来たようだ。

システム営業課の他にも幾つかの課が集まって営業部を構成しており、営業部だけで1つのフロアを占有していた。このフロアについにただ一人残った亮平。終電時間も過ぎたので、今日は会社で寝泊まりすることを決めた。

最後の業務を片づけてから時計を見ると夜の3時にもなっていた。早い人だと7時には会社へやって来るので、一人であと4時間を過ごすことになった。家に帰ってもすぐに帰って来なくてはならない時間だったので、ここで寝泊まりをするのは正解だった。会社で一人っきりになったのはこれがはじめてのこと、開き直ってみると意外と楽しい気分になって来た。

亮平は自分の席を立ち上がり、すぐそばにある英里香の席に座ってみた。そして、自分の席を見ながら英里香の口調を真似てみる。

「ちょっと、田村く~ん。さっきメールで送った書類を50部コピーして来てくれる?」

誰もいない営業部のフロアに響き渡ったが、誰も聞いているはずが無かった。英里香の机の上は整理されていて、書類でいっぱいの亮平の机とは大違いだった。デスクマットの中には課のスケジュールが挟まっていた。それを見ているだけでも亮平の業務量が半端で無いような気がしてしまった。

(お互いの立場が逆だったらどんなに気分がすっきりするものか)

英里香の机に座っている亮平は、そこから自分の席を見つめながら心の中で思っていた。お互いの立場が逆ならどうなるのか、そんなことを考えているうちにだんだんと疲れが襲って来た。


窓から新しい朝の日差しをまぶたに感じ取ると、亮平は自然に目が覚めた。するとどうだろう、深夜まで会社の中にいたはずなのに、どういうわけか見知らぬ場所にいるらしかった。そして、それだけでは無かった。どうやら自分の体に異変が起こったのに気づいた。

軽く手を動かしてみると、細い指が滑らかに動いた。その手を胸の方に織り込むと胸が膨らんでいた。驚いたまま上半身だけ体を起こすと、回りがぼやけてよく見えなかった。かなり目が悪いらしく、枕の周辺を手探りで探すと眼鏡があった。それをかけるとようやく視界がはっきりとした。そのまま下を見てみると、やはり大きくなった胸元が見えた。

そのままベッドから起きあがり、化粧台があったので、そこに近づいて見た。するとどうだろう。鏡の中には知的な女性がこちらを見ていた。にっこりと微笑むと鏡の中からも微笑み返される。眼鏡をかけていると気づかなかったが、どうやらそれは英里香の顔だったのだ。

いつも憎らしく思っていた英里香もこうやって見てみると意外といい女に見えた。自分が女になったのはさっきからわかっていたが、まさか英里香になっているとは思わなかった。英里香の体だとわかると、ベッドの上にあぐらをかいて座ってみた。鏡が見える位置にいたので、鏡の中でもあぐらをかいている英里香がいた。こんな姿を見ることはなかなかできないこと、着ている黒いネグリジェをまくりあげて、下半身を露出させた。

その時だった。携帯電話の着信音が聞こえたのだ。携帯を手に取ると、電話は亮平の携帯電話からかかって来た。まさかと思って、そのまま電話に出てみることにした。

『もしもし』

それは自分がよく知っている声だった。まぎれもなく自分の声だ。

「もしもし」

『あなた誰なの?これってどういうことなの?』

「そっちこそ誰なんですか?こっちだって驚いているんです」

『あっ。もしかして、あなた田村くん?』

「えっ。ということは課長なんですか?」

『そっか。田村くんなのね。私の嫌な予想が当たってしまったけど、とにかく会社に出勤して来なさい。私が欠勤だなんてサマになんないんだから。ちゃんと着替えてくるのよ。化粧道具はいつも通勤用に使っているショルダーバッグに入ってるから、それを持ってきて早く会社に来なさい。みんなが出社して来ないうちに来るのよ。わかった?』

「そんなこといっても、課長」

亮平がそう言葉を続けた頃には電話が切れていた。これで亮平と英里香はお互いが入れ替わってしまったことに気づいた。英里香になった亮平はとにかく急いで会社へでかける準備をはじめた。ウォーキングクローゼットを開けると、様々な衣装が目に飛び込んで来る。会社で見る英里香からは考えつかないくらい派手なものもあった。この時、亮平は英里香に仕返しをしようとある企みを思いついたのだった。


英里香は亮平の体のまま亮平が来るのを会社で待っていた。知らないうちにお互いが入れ替わってしまった。ということを誰に話したって信用されるはずも無い。とにかく、亮平には早くここへ到着してもらわ無いと困るからだ。しかし、いくら待ってもなかなか亮平はやって来ない。

始業時間まではまだ早いとは言っても、今の状況を知っているのは自分以外には亮平しかいないのだ。会社に人がやって来るたびに他の人は英里香のことを亮平だと思って挨拶をして来る。亮平らしく振る舞うのにもなかなか慣れない英里香は、亮平の席でじっと亮平を待つしか無かったのだ。

そして、英里香がいつも会社に登場する時間になって、ようやく亮平がやって来た。もちろん姿形は英里香そのものだった。亮平(=英里香)は英里香(=亮平)を見かけた途端、英里香(=亮平)へと近づいて行った。すると亮平(=英里香)は英里香(=亮平)の格好を見て驚いてしまった。

英里香(=亮平)の格好は普段のグレーのパンツスーツでは無く、まるでお水の世界のようなベージュのツーピーススーツ姿。目測で膝上20センチのミニスカートからは太ももが丸見えで、ダイヤ柄のショートストッキング、足元にはヒールが6センチのシャンパンゴールドのセパレートパンプスを履いていた。

「ちょっとどういうことなのよ。これじゃ、私のスタイルが丸つぶれじゃないの」

亮平(=英里香)が英里香(=亮平)にこう耳打ちをすると、亮平(=英里香)は英里香(=亮平)をすぐそばに空いていた会議室へ英里香(=亮平)のスーツの袖を掴み無理矢理連れ込んだ。

「何するんですか。課長の体なんですよ。痛めつけないでくださいよ」

「あっ。ごめんなさい。つい興奮しちゃったわ。まさか会社にそんな格好で来るとは思わなかったから」

「課長だっていいスタイルをしてるんですから、たまにはこんな格好をして会社に来るのもいいかと思ったんです。駄目でしたか?」

英里香(=亮平)は上目遣いに亮平(=英里香)を見つめながら可愛い顔をして来る。亮平(=英里香)はいくら自分の顔とはいえ、そんな表情で見つめられると気持ちが伝わって来る。

「わかったわ。着替えるのものも無いし、しょうがないわ。今日のところはそれで過ごしましょう。あら、化粧は結構うまくできたみたいね。でも、そのリップの色は濃すぎない?仕事用にはもっと色の薄いのを使っているんだから」

「そうですか。課長にはこの色が似合うと思って塗ったんですけど」

すると英里香(=亮平)は顔をうつむけて寂しげな表情を見せる。

「そうね。あなたが一生懸命してくれたんだから、こんな風にうるさくいう必要は無いわね」

「よかったです。じゃあ、これから僕は課長のように振る舞いますから、課長も気をつけてくださいね。元に戻る方法がわかるまでは課長も僕のふりをしてくださいね」

「そうよね。わかったわ。あなたのいうことも正しいわ。元に戻る方法が見つかるまでは私もあなたのように振る舞うから」

こうして英里香(=亮平)と亮平(=英里香)はお互いのふりをすることになったのだ。会議室から出ると英里香(=亮平)は課長の席に着いて亮平(=英里香)は亮平の席に着いて一日の業務がはじまった。

英里香にとっては今までの恨みを晴らすチャンスとばかりのこと、英里香はいつものように亮平に指示を出す。

「ちょっと、田村く~ん」

「なんですか、課長(こう呼ばないといけないのよね)」

「プロジェクトの会議資料を全部コピーしてくれない? 次の部課長会議で使うの。それぞれ10部ずつでいいからコピーして来て」

「えっ。それはもう必要無い資料じゃないんですか?」

「あなたって私の言うことに反発するの? 私が指示することができないなんてことはないでしょ。今すぐ用意しなさい」

亮平は英里香に言われてしぶしぶ資料をコピーしにコピー機の前へ行った。亮平はそれがもうすでに必要の無いものだと思っていた。しかし、普段は亮平が英里香に反発することが無いので、周りから変な目で見られないように、素直にいうことを聞いたのだ。

亮平がようやくのことでコピーした資料を運んで来ると机の上にどさっと置いた。パソコンの画面には英里香からのメールが溜まっている。どうやら次の指示が出てるらしい、英里香は席にいなかったが、どうやら会議に入ったらしい。

亮平はメールを確認すると、コピーした資料を整理してステープラーで綴じていく。いつもは亮平にやらせていることを自分でやっているうちになんだか虚しさを感じてしまう。気の弱い人間ならここで気落ちしてしまうことだろう。

(私がこんなことをやらないといけないなんて、なんだか情けないわ)

英里香がいない間は同じ課にいる他の社員は気が楽そうに見える。亮平の前に座っている須田瞳(すだひとみ)も英里香が直接指示を出す部下だが、英里香がいる間には二人が話をしているのをあまり見たことが無かったが、英里香が席にいないためか作業中に話かけて来た。

「田村さん、田村さん。また変なこと頼まれましたね。課長っていつも田村さんばかりに仕事を頼みますよね。私がやったっていいんですが、田村さんにやらせてって言われてるので済みません。そう言えば、今日の課長っていつもと変わってましたよね。何があったのか知りませんが、いいことでもあったみたいで……」

「そう……でしたか?確かにいつもと違った服装でしたね」

「普段だったら絶対にあんな格好で会社に来るような課長じゃ無いのに、華麗な服装に替わっちゃって、あれはきっと何かありましたよ。あんな課長も格好いいですよね」

「そうかな。課長はもっと落ち着いた服装で来るべきだよ。あんな派手にやられちゃ、こっちだって参っちゃうしね」

「そうですか。私は、あんな課長も素敵だと思いますよ。田村さんっていつも課長にいじめられてますからね。そんな風にしか見えないんでしょう」

「そんなこと無いよ。とにかく、無駄な話をしている時間があるなら仕事しよう」

目の前に座ってる瞳からは、亮平はいつに無く仕事熱心に見えるし、なにやら課長のことがいつも以上に気になってるらしい雰囲気があった。


一方、英里香は会議を終えて会議室から出て来た。会議室を出たところで営業部長の田島均(たじまひとし)に呼び止められた。英里香は自分の様子が変わったことに気づかれたのかと思って、ちょっとおびえながら立ち止まって部長の方を振り向いた。

「なんですか?部長」

「一ノ瀬くん。一緒にお茶でもいかがかな」

「はい」

英里香は素直に田島部長のあとをついて行くと、会社の1階にある喫茶店へと連れて行かれた。カウンター席に2人が座ると、田島部長はいつものように注文をした。

「マスター、コーヒー2杯。いつもので」

返事はしないが喫茶店のマスターは無表情のままコーヒーを煎れ始めた。

「ここに2人で来たのは久しぶりだね。今日の会議での一ノ瀬さんの姿を見ているといつもと違ってよかったよ。服装が変わっただけじゃ無くて、何か性格も少し変わったように見えたよ」

「そんな。褒めすぎですよ、部長。私はいつものようにしていたつもりですけど」

「そうかな。今日の一ノ瀬さんはいつもよりも魅力的だよ。以前よりも明るい性格になったように見えるし、やはりうちの会社で期待される人だけありますね」

「嫌ですわ。部長からそんな風にいわれるほど実力があるわけではありませんよ」

「そうかな。一ノ瀬さんの部下で何て言ったっけ、彼は夜遅くまで頑張ってるようだし、一生懸命な部下を持ってるのも一ノ瀬さんの実力じゃないかな」

「そうですか?ありがとうございます。部長からそんなことを言ってもらうと彼も喜ぶと思います。あとで言っておきますね」

コーヒーの深い香りが立ちこめて来たかと思うとマスターができたてのコーヒーを置いてくれた。

「私はブラックのままだけど。一ノ瀬さんはたしか、砂糖とミルクが必要だったよね」

「いいえ、今日はブラックで結構です」

英里香はそう言ってブラックのままでコーヒーを一口含んだ。

「たまにはブラックのままで飲むこともあるんだね。今まで何度か一緒に来たのに何も入れないと言ったのははじめてだ。やっぱり、今日の一ノ瀬さんは何か別人のようにも思うよ」

「そうですよ。別人なんですよ」

「別人か、そうだね。今日の一ノ瀬さんは別人だよ。こんな風に楽しい人になったなら、このまま食事にでも誘うんだったなぁ。時間があるんだったら今日の夜でもどうだい?」

「部長と一緒に食事ですか。部長のおごりでしたらすぐにでも行きたいところです」

「じゃあ決まった。今日の夜は一緒にうまいものでも食べに行こう」

そういうと、田島部長は時計にさっと目をやった。時計の針を確認すると用事を思い浮かべたかのような表情をした。

「これから、外出する予定があったんだ。夜までには帰って来るから準備していなさい」

「はい、わかりました」

そういうと田島部長が喫茶店を先に出て行き。カウンターには英里香が残された格好となった。英里香がコーヒーを飲み終えてからすぐ上にある会社に戻る。課長の席に座るとすぐに亮平に呼びつけられた。

「課長。どこ行ってたんですか?会議はとっくに終わったと思うんですが」

「ちょっと、部長に呼ばれてただけよ。今夜、食事に誘われたから夜のお仕事は任せたわね」

「えっ!部長に誘われたの?」

「そうです。部長に誘われたから断れないわ」

「課長、ちょっとだけ僕に付いて来て下さい」

亮平は英里香を空いている会議室に連れて行った。

「あなたってどういう風の吹き回しなのよ。私のことを何も考えないで、部長に食事に誘われたから行ってきますってどういうことよ」

亮平の口からは久しぶりに女言葉が出て来た。

「だって。部長に誘われたんだから仕方ないですよ」

「仕方が無いってね。あなたったら今の状況を楽しんでるんじゃないの?」

「……」

「はっきり答えなさいよ。私と入れ替わって今までの恨みを晴らそうと思ってるんでしょ」

「……」

「何か言ったらどうなの?」

ずっと俯いたままで顔をあげない英里香は、何を思ったのか薄気味悪く笑いはじめた。

「クックックッ。そうか、そうだよな。課長はまだこの状況をよくわかってなかったんですね。僕たちって突然入れ替わったんですから。元に戻れるなんてわからないじゃないですか」

「何でそんなことが言えるのよ」

「じゃあ、入れ替わった理由を説明してみてください。それだって言えないでしょ」

「それがどうしたっていうの?」

「そうなんです。今の僕は周りからどう見たって一ノ瀬絵里香にしか見えないんですよ。そして、課長は田村亮平にしか見えない。元に戻るなんてことがわからないんなら。体と同じようにお互いの生活も入れ替えるしか無いんです」

「何ですって?」

「これからは僕が一ノ瀬絵里香として過ごしてみせます。成りすますわけでは無いですよ。私こそが一ノ瀬絵里香なんですからね。田村くんわかりましたか?」

「わかんないわよ。確かに、私たちっていつ元に戻るかわからないわね。でも、元に戻る努力をする必要があると思うわ」

「私にはそうは思わないわよ。これって神が与えてくれたチャンスなの、だからこれからは田村亮平として過ごしてくださいね、課長。大丈夫、これからは前よりも仕事を楽にしてあげますって」

そういい残すと英里香は先に出て行ってしまった。
一人会議室に残された亮平の目からは一筋の涙が流れていた。







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