Ubiquitous Destination

作:夏目彩香(2003年3月21日初公開)




門限まであと1時間弱、萌ちゃんと一緒に私の家まで帰ることろです。門限の午後11時までには十分に間に合うのですが、さっきから胸の内は動揺していました。この時の萌ちゃんと言ったら、すっかり気分がよくなったみたいで、自分が隆だってことを取り戻していました。

実は、優子さんと一緒にいる時にも何度かばれそうな場面があったのは私は見逃していませんでした。時々、優子さんと話が合わないところがあったのです。2人の仲からすると同じことが出てこないとおかしいのに、優子さんが首をかしげていました。その時も萌ちゃんらしくしていたので、決してばれることはなかったので、この実験は成功となったわけです。

ということは、あとで、私の体に取り憑くことも決定ということですね。しょうがいないけど、約束したから守ってあげるつもりです。あんまり悪ふざけしないように最初から言っておかないと駄目だと思ううけどね。

それはそうと、萌ちゃんの初恋の相手が杉本隆だってのには驚きました。だから、この話は家に帰る道のりでしっかりと聞くことにしていたのです。優子さんの行きつけの居酒屋で別れてから5分くらい歩いたところで、萌ちゃんが突然歩みを止めました。

三枝萌(by杉本隆)「実験終わったから。もういいよな。彩香。」
ホッとした表情を浮かべる萌ちゃんの姿は隆の姿と重なっていました。
私「うん。いいけど。周りからは萌ちゃんに見えるんだから歩き方とかは気を付けてね。」
夜なので人通りは少ないですが、怪しく見られないように気を付けないと行けません。
三枝萌(by杉本隆)「わかってるわよ。俺の萌って完璧だったろう。」
すっかりと隆は鼻を高くしています。
私「まぁね。すっかり萌ちゃんしていたよね。実験成功したから、あとで私に取り憑いて自由に使ってよ。」
こんな奴に使われるならやめた方がいいかなって思うけど、約束したことだから。
三枝萌(by杉本隆)「そっか。彩香になれるのか。彩香の友達の写真でも撮りに行こうかな。」
隆の口から出てくるのはそんなことばかりです。
私「私の友達ってそんなに人数いないけど、好きにしてよ。」

もう私はやけくそで言いました。
三枝萌(by杉本隆)「ちゃんとやったから、しょうがないよな。」
こう言われると観念するしかありません。
私「はいはい。わかりました。ただし、犯罪になるようなことだけはやめてね。」
私はお灸をするように口を酸っぱく言いました。
三枝萌(by杉本隆)「もちろんです。彩香お姉様。」
冗談交じりのに答える隆ですが、しっかりと約束をしてくれました。

私の家まではあと歩いて数分のところまで差しかかったところで私の気になることを尋ねてみました。
私「そういえば、隆くん。さっきの話って本当?」
核心をついた話のわりには隆の態度はあっけらかんでした。
三枝萌(by杉本隆)「さっきの話って何?」
私「だから、萌ちゃんの初恋の人の話。」
私がこうやってきりださないと結局わからなかったよう。
三枝萌(by杉本隆)「ん……それはなぁ。俺も意外だったぜ。萌の記憶を読み取った時にわかっていたけどな。彩香に言うなんて思ってもいなかったから。」
そんなことまでわかっちゃうんだね。聞かなきゃよかったかな。
私「そっか。じゃあ、萌ちゃんの初恋の人って隆くんなんだね。」
三枝萌(by杉本隆)「そうよ。私の初恋の人は彩香も知ってる隆くんなの。」
やっぱり萌ちゃんは隆くんが初恋の人だったんだ。
私「隆の口調で言うよりもその方がいいな。家に帰るまでまた使ってくれる?」
からかい半分で私は言ってみたけれど、隆くんはすんなりと受け入れてくれました。
三枝萌(by杉本隆)「わかったわ。彩香。」
そう言って隆くん、いや萌ちゃんは話を続けます。
三枝萌(by杉本隆)「私が中学校3年になったばかりに、同じクラスで交通事故に遭った人がいて、それが隆くんだったの。」
萌ちゃんのハイヒールの音が響き渡りながら、話を続けています。
私「ふ〜ん。」

そのまま萌ちゃんは話を続けました。
三枝萌(by杉本隆)「クラスのみんなとお見舞いに行ったときのことなんだけど、どこにも行くところがないから私、その時毎日お見舞いに行っててね。」
なんで毎日お見舞いに行ったのか?その疑問については伏せることにしました。
私「そうだったんだ。じゃあ、どうしてその時につきあわなかったの?」
こうなると興味津々です。
三枝萌(by杉本隆)「隆くんね。退院したんだけど、お父さんが転勤するからって引っ越しちゃったのよ。告白の機会はなかったわ。」
そんなに時間がなかったんだ。なんだか可愛そうに思いました。
私「隆くんのその時の気持ちはどうだったの?」
三枝萌(by杉本隆)「隆の気持ちはね。私にはその時わからなかったけど。萌のこと好きだったよ。とっても。」
隆くんも好きだったなんて。両思いだってすぐに私はわかっていました。
私「へぇ〜。で、大学で再会になったんでしょ。」
大学が一緒なのは私がよく知ってることだからね。
三枝萌(by杉本隆)「そう、偶然に大学が同じになってね。萌の記憶を辿るとわかったんだけど、私は隆くんがここの大学に入るって予感がしていたんだよね。隆くんが思い入れのある大学だったから。」
思い入れって。もしかして……
私「どうしてそんなのがわかったの?」
三枝萌(by杉本隆)「俺…いや、私も不思議に思ったんだけど、ここの学校にしかない学科があるからだって。」
やっぱり、あれかなぁ。
私「それって、まさか、憑依学科じゃないの。」
三枝萌(by杉本隆)「そのまさかだった。俺…いや、隆くんは中学の時からそんな趣味があったから、きっとここに来るんじゃないかって思ってた。」
そんなことだったんだ。
私「なんか、運命的だよね。」
確かに、運命的かも知れないなって私は思いつつ。
三枝萌(by杉本隆)「そうでしょ。私たちって運命的でしょ。私が隆に戻ったら萌ちゃんに告白するつもりよ。」
本当にそんな気があるのかな?
私「告白かぁ。成功する?」
私はまるで野次馬になっていました。
三枝萌(by杉本隆)「あたりまえじゃん。萌の心もばっちりわかったからな。」
そうだよね。萌ちゃんしっかりやってたもんね。
三枝萌(by杉本隆)「隆くんに告られたら、絶対にOK出すよ。」

私「私、あと疑問があるんだけど、隆くんが出ていったら、私と萌ちゃんの関係ってどうなるの?」
これが解決できないと大問題にもなりかねないから。特に優子さんとの関係がおかしくなるからね。
三枝萌(by杉本隆)「それなんだけど。どうやら友情関係は保たれるはずよ。」
はずだって、TSアプリの説明書にでも書いてあったなら大丈夫だろうね。
私「じゃあ、さっさと出て行ってくれる?」
さっさと元に戻って告白したらいいと私は即座に考えつきました。
三枝萌(by杉本隆)「どうして?」
隆の鈍い考えにはついていけないところもあります。
私「元に戻ってうちに来て欲しいから、」
うちに来たら会えるからね。そこで、告白してってわけよ。
三枝萌(by杉本隆)「あっ。そうか。わかったよ。」
ようやく理解したみたいらしく、いよいよお別れとなりました。
私「今日はありがとう。」
三枝萌(by杉本隆)「こちらこそ、楽しかったよ。」
2人の応援をするように背中を押す一言をかけました。
私「これから頑張ってね。」
三枝萌(by杉本隆)「あぁ。すぐに戻ってくるよ。」
そう言うと隆は公衆電話に向かって、自分の携帯電話に電話をかけ暗証番号を入力しました。すると……

三枝萌「あれ?私ったらどうしてここに?」
ちゃんと私のことわかってるか、心配でしたが、どうにでもなれと言ってみました。
私「萌ちゃん、私の家はもう少しだよ。」
萌ちゃんの表情ははっきりと私の方を見てくれます。
三枝萌「思い出した。優子と彩香と飲みに行ったんだよね。で、彩香の家に行って着替えないとね。」
お酒で赤くなっている頬が更に赤くなったのを見逃しませんでした。
私「そうそう。萌ちゃん、意識しっかりした?」
ようやく萌ちゃんは状況を把握できたみたいでした。
三枝萌「うん。大丈夫。あっ、彩香。私の下着洗ってくれた?」
家を出るときに洗ってきたので、たぶん乾いているはずでした。
私「たぶん、家に帰ったら乾いてるよ。」
なんでそんなに気に入るのかなって思っていると、萌ちゃんは言いました。
三枝萌「あれ、お気に入りなもんだから。あれじゃないとできないよ。」
私から見るとちょっと隆の性格が残ってしまったようにも思えました。

こうして私の家に帰ると、萌ちゃんはシャワーまで浴びてもとの服に着替えました。着替えを終えて、萌ちゃんが家に帰ることになったのですが、ドアを開けるとそこには隆くんが立っていたのでした。告白は大成功、このあと隆くんは私の体も自由に使いたいと希望の日を決めて帰って行きました。予定日はまだ先なので、この続きがかけるようになったら、また書きたいと思います。





 

本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
・本作品についてのあらゆる著作権は、全て作者の夏目彩香が有するものとします。
・本作品を無断で転載、公開することはご遠慮願いします。

copyright 2015 Ayaka NATSUME.

inserted by FC2 system