流行前線(その3)

作:夏目彩香(2003年4月13日初公開)



一方、グレーのパンプスを響かせながら美野の家に向かうの方の美野は順調に家の前まで到着しました。閑静な住宅街に建つ一軒家。家の門を開けると玄関に着きます。インターホンを鳴らすと美野の母親が応対しました。
「お母さん。わたし」
そう言ってから少し経って玄関が開き、中からはもちろん美野の母親が出迎えました。
「あら。早かったのね。今日は図書館で勉強だって言ってたじゃない」
美野はちょっとびくびくしながらも堂々と母親に話だしました。
「そうだったんだけど。ちょっと忘れ物を取りに来たんだ。私、また学校に行くから」
「そうなの?」
そう言って、美野は玄関にパンプスを脱ぎ捨て階段を上がろうとします。
「美野!靴をちゃんと揃えなさい。いつも言ってるじゃないの」
階段の2段目から玄関に戻るとパンプスを揃える美野。
「お母さん。これでいい?」
美野の母親は首を立てに振って居間へと消えて行きました。美野は改めて2階に上がると、自分の部屋を探します。2階には扉が4つあるのですが、もちろんその中の1つが美野の部屋です。美野が一番奥の部屋を開けると、そこは黄色系の色でまとめられた部屋でした。

机には美野の高校時代の写真が飾ってあって、本棚にはまだ高校の教科書が残っていました。さっそくクローゼットを開けると、そこには高校の時の制服が残っていたのです。美野はこの制服を取り出すとベッドの上に置きました。グレーのセーラー服。襟と袖には2本のホワイトラインが引いてありました。これを着れば写真の中にいる美野のようになるのは当然のこと。高校を卒業したばかりのあどけなさが残る美野にはセーラー服の方が似合っている気がします。

美野は自分の着ているものを一つ一つ脱いで行きます。そして、下着姿のままベッドの上に置いておいたセーラー服を着始めました。まずはスカートを履いて、腰の位置でホックを留めます。さっき履いていたスカートよりも丈の短いミニスカート。次に上着を着ることに、横についているファスナーを引くと、頭からかぶるようにして上着を身につけました。最後に、スカートのポケットの中にあったスカーフを結んで完成です。

美野の部屋にある大きな姿見を見てみると紛れもなく、高校生の美野が立っていました。すると、美野はカバンの中に入れておいたデジタルカメラを机の上に置きました。このデジカメは美野の物では無くて、美野に変身した彼のもの。セルフ撮影でこの姿を何枚か納めると、次は動画撮影に切り替えました。

「この制服を着ると高校時代のことを思い出すわ。そう、初恋の人と出会った時もこの制服を着てたのよね」
デジカメの前で美野は好き勝手に言葉を続けます。
「スカートが短いって怒られたこともあったけど、私はやっぱぁ〜これ位がちょうどいいと思うんだよね」
そう言って、デジカメでスカートの中を撮影します。
「私ってまだ高校生の方が似合ってるんじゃないかなぁ。この中も可愛いよね」
スカートの中からデジカメを取り出すと自分の上半身が写るようにします。
「サークルの先輩方、よろしくお願いしますね」
そう言って指をV字にしてから撮影を終了させました。
「やっぱり、美野って制服姿がいいや。あいつは裸が好きだって言うけど、俺はこの格好の方が好きだからな」
どうやらあいつと言うのは美野になったサークル棟の彼のことを指しているようです。
「こんなことばかりしてられないな。急いで着替えを持って行かなきゃ。いや、待てよ?」
美野の部屋の中からボストンバッグを見つけると、その中にさっきまで自分が着ていた服を詰め込みます。それに新しい下着を多めにクローゼットから取り出して詰めました。

美野はセーラー服を脱ぐと、クローゼットの中から新しい服を取り出しました。白のノースリーブワンピースです。背中のファスナーをゆっくりと下ろして、足を入れると後ろに手を回して背中にあるファスナーを上まで閉めました。クローゼットに置いてある乾燥剤の匂いが少し残っているこのワンピースはどうやら今年になって始めて着たようです。

裾は膝丈でさっきの服よりもより大人の雰囲気を醸し出しています。このワンピースの上から黄色のカーディガンをかけると、また新しい美野が完成しました。やっぱりこの姿になってもデジカメでセルフ撮影をします。そして、大きな鏡の前でニコッと微笑む美野に引き込まれてしまいました。思わず鏡の向こうにいる美野に唇をつけました。しかし、鏡のひんやりとした感覚が伝わってくるだけで、実際にキスをしているわけでは無いのです。

ボストンバッグの中にさっき持っていたカバンの中から財布と携帯電話、それに化粧セットを移し入れると玄関へ行きました。これまたさっきまで履いていたグレーのパンプスを靴袋に入れるとボストンバックの中に仕舞い入れました。

美野は下駄箱の中から黄色いハイヒールを取り出して、黄色いストッキングを履いた足を入れました。
「お母さん〜。わたし行ってくるね〜」
玄関に現れた美野の母親は驚いた表情をしています。
「美野。服まで着替えたの?忘れ物はちゃんと持ったんでしょうね?」
そう言うと、美野はぺろっと舌を出して言って来ました。
「わたし、今日からサークルに入ったんだけどいきなり1泊2日の合宿があるの。行ってきていいでしょ。お母さん」
「えっ?いきなり何言ってるの?美野?」
美野は母親の目をじっと見つめてくる。母親はその熱い視線に負けてしまいました。
「許さなくても、今日はどうしても行くつもりね。今回だけは特別に認めるわ。でも、何が合っても自分で責任を持って行動しなさいね。わかった?」
「ありがとう。お母さん」
そう言うと美野は母親の頬にキスをして、ボストンバッグを持ち慣れないハイヒールを履いて玄関を出て行きました。


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