Hotspots

作:夏目彩香(2002年7月17日初公開)


 

どんよりとした雲が空一面に広がる中、僕はあるコーヒーショップにいました。昼食を終えるといつもここに来るのが僕の習慣だから。繁華街からは少し離れているけれど、大学が近くにあるから店の中にいるお客さんは学生さんが多くて、特に若い女性が多いから目の保養にもなっています。今日もいつものように「いつものコーヒー」を飲んでいると、店の中の掲示でパソコンを持ち込んでインターネットができることを知りました。最近はやりのホットスポットと言われるもので、無線を利用して店内のLANにつなぐ仕組みだとか、無線LAN対応のパソコンを持ってる僕としてはなんだか使ってみたくなって、今度来るときはパソコンを持ってくることにしました。もちろん、ノートパソコン。

今日は昨日と違って天気がものすごくいいです。こんな日でもやっぱり昼食のあとはここの店に来ないと気が納まりません。それで、今日はパソコンを持ってきました。持ち運びが便利なんだけれど、なかなか外で使うような機会がなくて日の目をみることの無かった物がようやくここで使えるようになりました。店に入るとコンセントのある席が用意されていていました。ここに腰を落ち着かせると「いつものコーヒー」を頼んできます。さすがに今日は天気がいいだけあって人は少な目です。

この席からは何人かのお客さんしか見えません、しかも女性ばかり。ここで無線LANに入るための設定を店の人から教えてもらうことになったのですが、「いつものコーヒー」をいつも頼んでくれているということで、特別にエクストラネットに入れてもらえることになったんです。どうやら普通の無線LANの他にもう一つのネットをもっていて、そっちの方はちょっと特殊なプロトコルを使ってるために特殊なソフトが必要だってことも教えてくれました。さっそくそれをダウンロードしてきます。その間に「いつものコーヒー」を持ってきてくれて、店の人はここから離れて行きました。

エクストラネットに入るためのソフトをダウンしたあとで、セットアップをすると、ここの店内の座席配置がでてきました。これで座っている席が一目瞭然です。エクストラネットってどこが特別なのかなぁって思って、また店の人に来てもらうと、座っている座席の上でクリックをするそうです。そのときに、できるだけ自分の気に入った人の上でクリックをすることって言われて、僕はここの17番の座席の上でクリックをしてみました。ここからだと3つ前のテーブルに座っている女の子が座る席です。

クリックが終わるとまた新たなウィンドウが開かれます。すると、こには17番に座っている子の詳細なデータがでてくるではないですか。あまりにも大量のデータなので、保存というボタンをクリックして僕のパソコンに思わず保存してしまいました。これを使えばここにいる女の子に関するデータが全て手に入るんです。僕は今までの退屈な人生から、こんな新たな気持ちを受けたのはこの時が初めてでした。他の座席の女の子に関しても同じことをやろうと思ったのですが、さっき店の人が言っていた「できるだけ気に入った人の上でクリックをすること」という言葉を思い出しました。

そのため、17番のウィンドウをよく観察してみることに、そこには彼女の「視線」とか、彼女の「聞いてる音」というボタンがあるのです。僕はまず、彼女の視線というボタンをクリックしました。すると、パソコンの画面には店の中の風景が映るではないですか、しかも彼女が見ていると思われる画面です。そして、音声というボタンもクリックしました。パソコンのスピーカーから音がでるとまずいので、ヘッドホンをつけて聞いてみました。どうやら彼女が聞くことのできる音が流れてくるみたいです。試しに、僕がコーヒーのグラスを叩いた音は彼女から見て僕のいる方向に聞こえました。

これはすごいなぁと思って、他のボタンも試して見ようと思うと、隅の方に「操る」という操作ボタンがあったので、そこをクリックしてみました。すると、これはもっとすごくて僕が思ったとおりに彼女が動くではありませんか。彼女の視界がパソコンの前にあり、同時に聞いてる音も聞こえる上に、自由に動くことができるのです。そういえば、さっき店員の人がエクストラネットに入るためにはこのマウスが必要だって、それに交換したので、これがマウスの役割だったのでしょう。

こうなると僕は彼女を自分のいるところに歩かせました。できるだけ、彼女の魅力が引き出されるように、黒いワンピースをゆっくりとゆらしながら、黒い髪が大きく揺れながら、僕の方に近づいてくるのです。みるからに、この大学に通うとお嬢様と言った感じがします。僕の向かいの椅子に座らせました。パソコンの画面にはパソコンの裏側が映っています。彼女の顔を自分の顔の前まで近づけるようにマウスに念じました。すると、思った通りに彼女の顔が僕の目の前に近づいてきます。

僕は彼女にキスをしてもらいました。しっとりと優しく甘いキスを……彼女の真紅の口紅が僕の唇についたので、彼女の手できれいに拭いてもらいました。それから、髪を上にすくうような仕草をさせてから。もう一度、キスをしてもらいます。今度は、さっきよりもたっぷりとしてもらいました。このとき、僕の息子はきついズボンの中でビンビンになっていました。なので、彼女の手で僕の息子を優しく触ってもらうことにしました。ゆっくりとなめるような感じで、気持ちがだいぶ落ち着くのです。彼女の顔をじっと見ても彼女は嫌な顔を一つもしません。完全に僕の操り人形と化したのです。

僕はこの日以来、更にこのコーヒーショップに通うようになりました。「いつものコーヒー」に飽き足らなくなって、だんだんと高いコーヒーを注文するようになりました。そして、ここの店にある一番高い商品を1ヶ月続けて頼んだときに、店の人がもうひとつ上のVIPネットに入れるようにしてくれました。もうその店の人とは顔なじみで、彼は僕に特別な部屋を用意してくれたのです。中にはベットが横たわっていて、全身の神経に針を刺していきます。しばらくすると僕は頭がぼーっとして来ました。針は痛点に当たらないから、全く痛くないのになぜか寝てしまったようです。

だんだんと目を覚ましてくると喫茶店の中が見えてきました。いつもとは違うけれど、どうやら向こうは僕のことに気づかないようです。いつもの店の人も気づいて無い様子。そのため、32番の席に座っている子の前に行きました。そして、その子は初めてここで無線LANを試した子でした。今日は水色と白色が一緒になったワンピースを着込んでいました。前と化粧が変わっていて、一層きれいになったように見えました。僕は彼女にキスをするような感じで、唇を突き出してみました。するとどうでしょう、誰にも見えない僕の体が彼女の中に入って行くでは無いですか……

一瞬意識がなくなってから、徐々に目の前が戻ってきました。そこには彼女が見えていたと思われる景色が広がっていたのです。なんと彼女の体の中に僕が入ってしまったのです。彼女の全てを自由に操れるし、彼女の全ての感覚は僕のものになっていました。そのまま、いつもの店の人を呼ぶと、自分が常連の客であることを話しました。彼は、ここの無線LANにはこんな仕掛けがしてあるけれど、お客さんに開放したのは僕が初めてだって言いました。実際に彼も何度か、お客さんの中に入ったことがあるって言っています。

今、僕はきれいなお姉さんになっているのですが、女としての喜びを試したくて、化粧室へと行きました。まだしたいわけでもないのに、便座に座ってみたり、そこで水を流してみました。もちろん、トイレットペーパーでお尻をふき取ることもやりました。洗面台の前では彼女の化粧を見よう見まねで直してみました。スッピンでも十分にきれいだと思うのですが、化粧をするとそれがより一層引き立つことがわかりました。座席に戻るとなつかしく「いつものコーヒー」を頼みました。彼女の口で飲むコーヒーの味は僕がいつも飲んでる味とは違っていました。ここのマスターはいつでも同じ味でだしてくれるので、人によって味が違うとうことをここで実際に知ったのです。

彼女の体のまま外へ出てみたくて、会計を済ませて、コーヒーショップの扉を開け、外を歩き始めました。しかし、だんだんと彼女の意識が目覚めてきて、自分の思ったように動かなくなったのです。そして、一瞬にして意識を失いました。再び意識が戻ってきた時には、コーヒーショップで案内された特別な部屋の中にいました。そこにいたのは針を刺されたままの姿でした。店の人はここで初めて告白してくれました。この無線LANはこのコーヒーショップの外にでると電波が弱ってしまうって、だから、彼女の体にいられないのはそのためだったって。

この機械で僕自身が無線LANの中に入っていたんだそうですよ。すごいことをまた知りました。電波を通じての感覚を今まで感じていたんです。だから、電波になってすり抜けているような感じがして、いろいろな人を操ることもできるってことがわかりました。今のところはお店の人もこの店を増やす予定は無いそうです。店の中で落ち着いてコーヒーを飲んでもらうのが役割だそうですから。






 

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