オンラインワールド2

作:マロエ




2025年――
現在の技術で、ゲームの中に自分の精神を移すことが可能になった。
ゲームの値段はすごく高く、人気もありなかなか手にはいらない。

だが、僕は、それを、手に入れた。

ひょろりとしていて現実でいじめられてる僕は、正反対のがっしりした筋肉質の男キャラクターを作って、弱いものを守るヒーローになりたかった。
だけど、ちょっとした操作ミスで、僕は女性剣士としてオンラインワールドの世界に入ることになってしまったのだった――。







「ログイン完了〜! 何度来ても、この草原は気持ちいいな」
気が付くと、見慣れた僕の部屋ではなく、見渡す限りの草原だった。

僕の唇からは1オクターブくらい高いんじゃないかという、綺麗な声が自然にでる。
視線を草原から自分の体に向けると、見慣れたひょろひょろの身体ではない。
青い鎧に包まれていてもわかる豊満な胸に、白いひらひらとしたロングスカートを履いた両脚がそこにはある。



初めてログインしたときは、大変な目にあった。
無理やり、身動きできなくさせられて、僕の……初めてを……。
変なことを思い出したせいか、顔が火照ってくる。
僕はぶんぶんと首を振ると、腰まで届く金色の髪が遅れて揺れる。

「あーもぅ……! でも、今はあの時の僕とは違うぞっ!」
頬に両手を添えて、パンパンと軽く叩いて、気合を入れた。

意気込み、草原を歩く僕のLVはもう20になっていた。
アイテム袋から取り出す装備、剣と盾も、もう使い古されている。
攻略WIKIで検索したところによると、最初の草原の適正LVは1〜5。
僕はスライムとゴブリンだけで、LVを20まで上げてしまったのだ。

最初のログイン時に無理やり犯されたのが、軽いトラウマになっって、早く強くならなきゃと焦っていたのかもしれない。
でも、今日はさすがに、始まりの街で買い物を済まして、次のフィールドに行く予定だ。
いつまでも、最初の草原にいても僕の旅は始まらない。

白く綺麗な脚を包む革のサンダルで、一歩一歩オンラインワールドの大地を踏みしめる。
歩くたびにスカートのやさしい生地が擦れる。
草原をなびかせる風が、ふわりとスカートを揺らす。
とっさにスカートが捲くれ上がらないように押さえるのも、もう手馴れたもんだ。

途中、スライムとゴブリンを一撃で倒しながら、僕は始まりの街に到着した。



始まりの街は、真ん中に大きな噴水がある街だ。
その噴水まわりには、初心者をギルドクラブに勧誘したり、安くアイテムを売ってあげようという商人達。
そして、それらについてくるプレイヤー達で、賑わっていた。
人見知りの僕は、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)からアイテムを購入しようと目立たないように隅っこを歩いていたのに、
「可愛い子発見ー! ねぇねぇ、初心者? 俺らのギルドクラブ入らない?」
と、チャラそうな男に声をかけられてしまった。
そこで思い出した。僕は女剣士だったんだ。
周りを見渡しても、僕ほど綺麗な女キャラはいない。
「え、いぇ、あの、ぼ、私は……」
苦手とするタイプの男に声をかけられ、僕は後ずさる。
チャラそうな男は、
「えー、いいじゃん、楽しいよ? 装備とかアイテムとかあげるしさ〜」
ニヤニヤしながら、詰め寄ってくる。
「ご、ごめんなさい、まだギルドクラブとかは……」
「大丈夫だって、気軽にいこーよ、気軽にさ〜」
馴れ馴れしい手つきで肩に手を回される。
そして、顔をぐっと近づけて耳元で囁いてきた。
『スリープ』
僕は急に眠気に襲われて、立つこともできなくなり、その場に尻餅をついた。
そのまま倒れる僕が最後に見たのは、口元を釣り上げているチャラそうな男だった。
攻略WIKIの知識によれば……『スリープ』は、プレイヤーを状態異常『眠り』にするスキルだ。







「ん、んぅ……あぁ……」
全身を撫で回されているような気がする……。
「あぁ、ダメ……やめ……あぅんんぅ……」
声は自然に溢れる。
「あぁ、そこ……気持ちぃ……んっ」
胸騒ぎがするのに、睡魔が強くて、瞼が持ち上がらない。頭も回らない。
男の声が聞こえる。
「へへへ、こいつは上玉だな」
「だろ、初心者は『眠り』抵抗ないからな、一発だぜ」
「おい、そろそろ『スリープ』の効果がきれるぞ」

パッと、さっきまでの眠気が嘘のように消えた。
僕は、起き上がろうと身体を起こそうとするが、身動きひとつできなかった。
身体を大の字にさせられ、ベッドに両手両足をしばられていたからだ。
「お目覚めかい?」
チャラそうな男が、すぐ目の前に現れる。
「な、なに、なにをしたの!?」
「君をギルドハウスに案内してあげたんだよ」
「た、頼んでなんかない!」
僕は、ビビリながらも叫ぶ。
だが、そんな僕をあざ笑うかのように
「頼んでなんかない! だって、可愛い〜〜」
ひゃははと、笑い声が聞こえる。
あたりを見回すと、3人の男が立っていた。
ベッドにくくりつけられた、僕を見下すように、舐めまわすように見つめている。

僕はついに、恐怖で身体が震えだした。
現実世界で苛められてる僕は、これまでのことも思い出し、怖くて何もできない。
震えを止めようと必死になるが、男達の笑い声だけで、すくみあがってしまう。
「い、いや……この世界でも……こんな……」
「へへへ、じゃあ楽しませてもらうかな」
ガシっと胸を掴まれる。
「ひゃぁぅんっ!!」
それで気がついた。今僕は何も装備していない。
なんで、今まで気づかなかったのだろうか。
すでに、乳首は痛いほど勃起し、股間は疼き濡れていた。
男の大きな手でも掴みきれない、僕の胸を、むにゅんむにゅんとこね回される度に、小さな痛みと、大きな不安、そして甘い快感に包まれる。
「や、やめ……て……」
「やめませんー!」
ひゃははと、笑いながら3人はそれぞれ、僕の胸、髪の毛、足を触り続ける。
その度に、ピクンピクンと身体が嫌でも反応してしまう。
甘い疼きが全身に広がる。このままじゃ、僕はまた前みたいに……。
目からは自然に涙が溢れた。
「もうやめて、お願いします……」
潤んだ瞳で男を見つめる。
すると、そこでピタリと男達の手が止まった。
男達は一瞬呆けた顔になり、
「あ、あぶね……可愛すぎて……一瞬固まっちまった」
「あ、あぁ……やばいな……『チャーム』かと思ったぜ、さっさと犯しちゃおうぜ」
男達が揃ってズボンのベルトをカチャカチャさせた。その時だった。



『スタンインパクト』
叫び声が聞こえた。
バタバタと、男達はズボンを脱ぎかけたまま、白目をむき、その場に倒れていく。
なにがおきたのか、僕は、声をした方を見る。
そこには、大剣を床に突き刺した……勇者がいた。
いや、勇者に見えたが、大剣を得意とするクラス『戦士』だ。
鍛えられた身体に、鉄の鎧を身につけている。
「大丈夫かい? 今助けるからね」
縛られてる僕を見て、戦士は優しく声をかけてくれた。
ドクンッと、胸がたかなった。
なんだ今のは? 男の僕が、男を見て、ときめいたとでもいうのか?
「あ、ありがとうございます……」
緊張した声でお礼を言う。
戦士は、ロープを短刀で切ると、裸の僕に優しくマントを掛けてくれた。
「とりあえず、ここをでよう。『スタン』の効果がいつまで続くかわからない」
そう言って、僕を抱き上げた。
「ひゃっ!」
お姫様だっこだ。
ひょろひょろの僕だけど、まさか、される側になるなんて思ってもみなかった。
おもわず、しがみついてしまったのが、よくなかった。
すぐ近くで聞こえる戦士の息遣い。
僕を抱えたまま、必死に走るその表情。
「君が、男に担がれてるのを広場で見かけてね、嫌な予感がしたんだ」
走りながら、僕を助けた経緯を話してくれる。
安心させようと声をかけてくれる。
不覚にもどうしようもなく、胸がぎゅーと締めつけらた。
なんだ、これは、なんでこんなにドキドキしてるんだ僕は……。
マント一枚しか、装備していない僕は、そのまま借りてきた猫のように大人しく抱かれたままだった。



「ここまでこれば、大丈夫だな」
と、戦士は僕を地面に下ろした。
僕は、首に回していた手を解くのに、名残おしさを感じてしまった。
そんな、気持ちを打ち消そうと、大きな声でお礼を言う。
「本当に、ありがとうございましたっ」
「いや、君が無事でよかった」
戦士はニコリと微笑んだ。
僕は、その微笑みをぼーっと見つめ続けた。

僕は、弱いものを助けるヒーローになりたかった。
目の前にいる戦士は、僕の理想そのものだ。
これじゃまるで、僕は助けられるヒロインだ。
でも、それでよかったのかもしれない。

現実世界では、いじめられていても、助けてくれる人なんていなかった。
でも、この世界なら、助けてくれる人がいる。
それは、今僕が女キャラだからなのかもしれない。でもそれでもいいんだ。

僕はずっと、誰かに助けて欲しかったんだ。
僕は、もうヒーローになんて、ならなくてもいい……。

僕はマントの下で、そっと自分の胸に触れる。
心臓がドクンドクンと早鐘をうっているのがわかる。
頬が熱を帯びていく。
僕は言う。

「あの、ぼ、わ、私をパーティにいれてくださいっ!」

僕の冒険はこれから始まる。





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