藤野弘美(仮名)29歳 OL


私はあるエステによく通っているのですが、まさかあんなことが起きるなんて・・・・・
今からそのことをお話しします。


私には、つきあい始めて間もない彼氏がいました。

その日は特別。大切なデートに備えて徹底的に綺麗にしないといけません。
私は、普段行くエステサロンに足を運んでいました。


「いらっしゃいませ。」

到着すると、受付の店員さんが迎えてくれます。
「では、オーナーを呼んで参ります。しばらくお待ち下さい。」
そう言って、店員さんは奥へと消えていきました。
5分後・・・・・
「いらっしゃいませ藤野さん、お待ちしていましたわ。」
私の担当をしてくれるエステティシャンの真木ひとみさんが挨拶してくれました。

身長は私と同じくらいなのに綺麗なスタイル。
体にピッタリとフィットした白いチュニック、そして黒のパンツスタイルの彼女。
彼女のくびれがはっきりと分かります。
髪を後ろで束ねたその姿には一切の無駄がなく、女性の私から見ても綺麗だと思います。
「今日はスペシャルメニューでしたね。腕によりをかけてやらせていただきますわ。」

笑顔でそう言う真木さん。
頼もしいと思う反面、少しばかり色っぽさもありました。

私は更衣室で服を脱ぎ、タオルを巻いただけの状態で、施術台に俯せになります。

「それでは、ボディケアを行いますね。」
真木さんは手のひらにオイルを塗り、なじませてから私の背中に塗りつけます。
いつになく念入りに体の隅々まで彼女の手がまとわりついてきます。
一瞬その手つきに違和感を覚えましたが、往復するしなやかな手の動き。
緩急のついた指使い。そしてオイルの温度。
いつになく気持ち良いマッサージに私はうっとりとしてしまいました。
「あぁ・・・・・」
思わず、ため息をついてしまうほどに。

「ふふふ。気持ちよさそうですね。」
真木さんが私に声を掛けます。
「はい・・・・とっても・・・・・」

「そうですか。もっと気持ち良くなれますわ。」

そう言うと、真木さんは私の首の付け根辺りを指圧してきました。

「!?」

突然の衝撃に私は驚きました。
体が言うことをきかないのです。動く力の一切を失ったように脱力してしまいます。

「突然ごめんなさいね。今の指圧は体の余計な力を抜くためのツボです。
 その上、脱力しきることで、体のあちこちが敏感になりますわ。」

笑みを浮かべて言う真木さん。
彼女はそのまま、私の首から肩に掛けてを指でなぞりました。

「ああああああ・・・・!!!!!!」

その瞬間、私の脳内を今まで感じたことのない刺激が襲いました。

「すごいでしょう?性感を刺激することは女性ホルモンの分泌を
 活性化させて女性を磨くとも言います。しばらくこのままされてみませんか?」

相も変わらず笑顔で言う真木さん。
私はこのときぞっとする何かを感じていましたが、
この甘美な感覚をもっと味わいたくもなっていました。
私はいつしかこくりと頷き、目を閉じました。

「かしこまりました。では・・・・・・」

真木さんは、敏感になってしまった私の躰のあちこちを触り始めました。
言われるがまま仰向けにされ、鎖骨あたりや太ももの内側などを入念に指圧されました。
「ああ・・・・・こ、こんなの・・・す、すご・・・い・・・・・あぁ・・・・」

私は、真木さんの技に翻弄されるしかできませんでした・・・・・



「はい、ボディマッサージはこれで終了です。いかがでしたか?」

真木さんがそう言ったころには、私はもうぐったりしてしまいました。
このエステサロンには何度か通っており、真木さんにしてもらったのも初めてではありません。
ですが、スペシャルコースがこんなに気持ちいいマッサージをしてくれるなんて・・・・・・

「さて、今日は特別なフェイシャルを行います。」

そう言うと真木さんはバケツに入った何かを運んできました。
バケツの中身はどろっとした肌色の液体でした。

「これは肌に良い成分を配合した特殊な液体なんです。
 これで顔の隅々まで覆うんですのよ。肌の細胞一つ一つによく染みこみますわ。」

私は真木さんに言われるまま呼吸確保用のチューブを加えさせられ、
あの肌色の液体を顔中に塗りたくられました。
目を瞑るよう指示されていたので、どうなっているか分かりません。
その液体の温度はオイルと同じくらい温かいもので、先ほど体中刺激されたことも
あってか、私の意識は闇に堕ちていきました・・・・・・




それからどのくらい時間が経ったのでしょう?
私はぼんやりと意識を取り戻しました。
あまりの気持ちよさに眠ってしまったようでした。
「!?!?!?」
しかし、その眠気は一瞬で消し飛びました。
なんと、私は裸のまま施術台に縛り付けられていたのです!!
手首足首がそれぞれ固定され、体中を縄が這い回っています。
オイルの効果で体中はつやつや。
しかし、裸の状態で体を固定されており、手や脚で隠すことも出来ません。
それを姿見で強制的に見せられているのです。
「目が覚めましたか?藤野さん?」
私を呼ぶ声がしたと思ったら、姿見の奥に真木さんの姿が見えました。
しかし、何故か私に背を向けています。
「いかがでしたか?私どもの施術は?生まれ変わった気分でしょう?」
背を向けたまま言う彼女。
「ええ、それはもう・・・って!これは何ですか!?悪ふざけはやめてください!」
私は怒りを露わにして彼女に食ってかかります。
「いいえ、悪ふざけなどではございませんわ。」
真木さんが私の方を振り返ります。
「・・・・・・!!!!!」
そのとき、私は驚きで言葉も出ませんでした。
振り返った真木さんの顔は、私の顔になっていたのです!
髪型は先ほどの真木さんのようにオールバックで束ねていましたが、
顔の形は紛れもなく私だったのです!!
真木さん?は私の顔で笑みを浮かべます。

「ふふふ、私の施術のおかげで貴女は綺麗になれたわ。
 そんな貴女になって、効果を確かめてみたいのよ。」

私の顔から真木さんの声が出てくるのは不気味でしかありません。
しかし、彼女が頬を引っ張ると、薄く長くその頬の皮が伸びていくのです。
彼女が指を離すとパチンと音をたてて戻っていきました。


「ふ、ふざけないでください!!!どうしてこんな・・・!!!」
「どうして?って、貴女が綺麗な女性だからに決まってるじゃないの。」
そう言って彼女は、ある物体を出しました。
それは、私の顔を象ったものでした。
「貴女の顔、象らせてもらったわ。
 そこからこの顔を作ったの。どう?そっくりでしょ?」
私の顔であっけらかんとした表情で言う彼女に戦慄しました。
彼女には罪悪感がひとかけらもないのです。
そんな私をよそに、彼女は髪をセットします。
束ねた髪を下ろし、櫛で丁寧にといていくと、5分も経たずに
私と同じストレートヘアにセットしてしまいました。
「ちょっと失礼するわ。」

そう言って、彼女は私の前から姿を消しました。

5分して彼女は戻ってきました。
「・・・・・・!!!!」

私は完全に言葉を失いました。
彼女は更衣室に残していた私の服を完璧に着こなしていました。
水色の膝丈ワンピースにダークブラウンのストッキング、黒のパンプス。
私以上に私といった不思議な感覚です。体型についても、彼女と私では
若干なり差があるはずなのに、端から見る限り違和感がありませんでした。
仕草も私そっくりでした。

「どうかしら?綺麗に見えるかしら?声もこうして・・・
・・・アーアー、ふふふ、どうかしら?これで藤野弘美になれたわよ。」

「あ・・・あああ・・・・・」

私は狼狽するしかありませんでした。
顔も声も仕草も、彼女は私というアイデンティティを完璧に乗っ取ってしまったのです。

「これからこの顔で外出させていただくわね。
 確か貴女デートだったわね?
 安心して、今日私が"貴女"としてデートを成功させるわ。
 その前に・・・・貴女をしまって置かないとね。 
 だって、藤野弘美が2人もいたらおかしいじゃないの・・・・」
そう言って真木さん・・・いえ、もう1人の私は引き出しから真っ赤な
物を取り出します。
いわゆる猿轡というものでした。

「しばらくおとなしくしててね・・・・・」

もう1人の私は喜々とした表情で私の口にそれを噛ませます。

「むーーーっ!!!むむーーっ!!!」

私は叫ぼうとするも、猿轡で声を塞がれ、叫ぶことが出来ません。
さらにもう一人の私は、施術台ごと私を奥の暗い部屋に運び出しました。
暗くてよく見えません。そこでもう一人の私が電気を点けました。
「・・・・・・・!!!!!」

その中で、私と同じように縛られている女性が2人もいました。
1人は、入り口で私を出迎えていた店員さん。
なんと、最後の1人が真木さんだったのです!!!
私と同じように、施術台の上で裸になって縛られています。
では私に施術していた彼女はいったい誰だというのでしょうか?
彼女は私に何かを伝えようとしていますが、私と同じく口に猿轡を噛まされ言葉が出せません。
悲痛そうな視線を私に向けることしか出来ないのです。

「夜になったら戻るわ。それまで、仲良くしているのよ。」

もう一人の私はそれだけ言って、部屋の明かりを消して立ち去りました。


「「むーふううー!!!むうううううううううんんんん!!!」」

暗い部屋に、私達のくぐもった悲鳴が響くばかりでした・・・・・・




その後私達3人は深夜になって解放されました。


あれ以降、彼氏とは怖いくらいうまく行っています。
一体私に化けたあの偽者は私に成りすまして彼に何をしていたのか・・・・・
あの偽者に感謝する反面、不気味に思うのです・・・・・・





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