「え?」

携帯電話を弄りながら歩いていたおれは、誰かが肩越しにすれ違った気配を感じて思わずそちらを振り返ったのだが、そこには誰の姿もなかった。
驚きのあまり、思わず歩みを止めてしまう。

確かに、人が通った筈だ。
勘違いではない。
誰かが足早に去って行ったわけでは、決してない。
何故なら、気配だけはまだそこあるからだ。

おれは目を凝らし、その場を凝視した。
すると更に信じられないものを見てしまった。

何かが、いる――
まるでその場所だけに陽炎が現れたかのように、目の前の空間が「歪んで」いた。
しかもその陽炎は、人の形をしていたのだ!

「と、透明人間……?」

おれは頭に思い描いたものを、無意識に口に出していた。
今、自分の目が捉えているのは、映画などで観たことがあるVFXで表現された透明人間と同質の存在だった。
いや、そもそも透明なら目視できるはずもないんだが……他にどう表現すればいいのか分からない。
周囲に広がる景色でただ一点、背後にある風景と「ズレ」が生じたように切り取られた空間が人型のシルエットとして浮かび上がっているのが、今のおれにはハッキリと確認できるのだ。
しかし、そんなものが現実に存在するのか……?

透明人間の動きを目で追っていくと、奴は足早に向こうにいる人影を目指し走っているようだった。
カジュアルな服装をしたショートカットの女性が、こちらに背を向けて歩いている。
当然、背後から迫る存在には気付いていない。
どうするかと思ったら、なんと透明人間はその女性にいきなり後ろから抱きついたのだ!

「ひいいっ!?」

女性は悲鳴を上げ、その場で棒立ちになってしまった。
おいおい、透明人間の痴漢かよ!?
おれは慌てて、彼女の側に駆け寄る。

透明人間は女性にへばりつき、破廉恥にも一心不乱に腰を激しく振っていた。
彼女は両腕を拘束されているらしく、バンザイをするような恰好を取ったまま、驚いた顔で立ち尽くしている。
しかし腰だけが無理やり前後にカクカクと動かされていた。
背後に立つ男の存在に気付かない者が見たら、女性自身が突然道端で踊りだしたのかと勘違いされそうだ。

「お……おい、お前!」

おれはなんとかヤツの行為を止めさせようと、勇気を振り絞って透明人間に非難の声を飛ばした。
しかし。
反応は、予想外のところからあった。
石像のように固まっていた女性の方が、脊髄反射のような速さで首だけを巡らせ、おれを見たのだ。

「へぇ〜、お前……俺様のことが見えるのか?」

女性はニヤリと口を歪ませるような笑みを浮かべると、そんなことを言った。
首だけでなく体そのものをゆっくりと俺に向き直らせ、近づいてくる。

「え……ちょっと、あなた……だ、大丈夫なんですか?」

おれは訳が分からず、しかし直感的な恐怖を覚え、後退りした。
女性はそんなこちらの様子を、小馬鹿にしたような顔でただ見詰めている。
服装からして、女子大生だろうか?

「どうやら霊感が強いようだなぁ?んふっ、ここまではっきりと気付かれたのは久しぶりだぜ〜……あふっ」

意味不明の言葉を発しながら、時々気持ちよさそうに吐息を漏らす。
その間も、腰だけは相変わらずリズミカルに振り続けている。
まるでノリのいいラッパーの物真似でもしているようで思わず笑いそうになったが、そんなふざけた状況では絶対にないだろう。
見えない「何か」に抱きつかれたことに混乱し、頭がおかしくなってしまったのか?


「こっちを見ろ、こっちを。俺様の姿、見えているんだろう〜?」

呆然とする俺に対し、女子大生の背後にいたものが左手の拘束だけを解いた。
ガクッと、彼女の片腕が意思を失くしたように垂れ下がる。
そして透明人間がふざけたように離した手をおれに振って見せたのだ。
しかし喋っているのは女子大生自身だ。
まるで手を振っているのは自分だとばかりに、満面の笑みを浮かべている。
本来の腕を体の脇でぶらつかせたまま。
口を利けない透明人間の、その言葉を代弁しているかのように。

「お……お前が、彼女に喋らせているのか……?」

「ご名答〜♪」

恐る恐る答えたおれに、女子大生がまさにラッパーのように身を屈ませ、こちらを指さしながらおどけて見せた。
背後にいる者が、イタコのように彼女の口を使って喋っているとでも……?
女子大生の言動が普通ではないのは明らかだ。
友達同士の悪ふざけならともかく、いきなり見知らぬ誰かに背中にへばりつかれて、こんな行動を取れるとは思えないが……
とは言え、にわかにそんな話を鵜呑みに出来るはずもなかった。

「そんな馬鹿な……」

「へへっ、まあ俺様のことは『幽体人間』とでも呼んでくれや」

再び女子大生の腕と自分の腕を重ね、背後に立つ男はおれの質問に彼女の声を借りて答えた。

「ユウタイ人間?」

「人の体ってのは「肉体」「幽体」「霊体」の3つで出来ていてな。今のお前のように生身の人間が持っているのが肉体、魂を包むいちばん外側の殻だ。で、そいつを脱ぎ捨てた状態を幽体と呼ぶのさ……「幽体離脱」なんて言葉くらいは聞いたことがあるだろう?」

「あ、ああ……」

「肉体と言う物質から抜け出た存在……いわば半物質ってところか?「幽霊」と言った方が一般人には分かりやすいかもな。で、それすら脱ぎ捨て、あの世に行っちまうのが霊体ってわけ。だから俺様は、とっくに肉体を失くして幽体だけで活動している人間、つまり幽体人間なんだよ」

女子大生は嬉々とした顔で、オカルトじみた講釈を続けた。
こちらとしては、前にいる彼女を見ればいいのか後ろにいる存在、透明人間――ではなく、幽体人間?を見ればいいのか分からなくなる。

「当然、肉体を持たない今の俺様は物に触ることが出来ない。それに普通の人間には幽体と言う存在は知覚することすら出来ない……お前のような霊感が強い一部の連中は、別だがな」

「いやいや、おかしいだろ。物に触れないお前が、なんでその子の体を動かしているんだよ!?」

「へっへっへぇ〜!それこそが、この幽体の最大の特徴なのさ……半物質状態である幽体は確かに物には触れねえが、「同じ状態」のものには干渉できる……つまり、「他人の幽体」には触ることが可能なのさ。そして俺という幽体が、無理やり他人の幽体に干渉するとどうなるか……?何と、その体を浸食することが出来るんだよ!つまり俺様は、他人の幽体と自分の幽体を同化させ、他者の体をまるで自分のように動かせる存在なのさ!こんな風にな!!」

そう言って、女子大生は口の端を吊り上げた奇怪な笑みを浮かべたまま、エアギターでも披露するかのように両手でギターをかき鳴らすポーズを取り、腰を今まで以上に激しく振って見せた。
背後にいる幽体人間も、同じ動きをしている。

ヤツはこの女子大生の体に張り付くことで、彼女の意思や行動を操っていると言うのか?
今の女子大生は操り人形――いや、この場合は人形浄瑠璃と言うべきなのか。
彼女が人形で、背後に立つ男が人形遣いだと……

って、どう考えてもそんな話、信じられるわけがないっての!
やはり、何がしかのトリックを使った後ろの男と女が、グルになっておれをからかっているだけなんじゃないのか……?

「ま〜だ信じられねえようだなぁ……お?じゃあ、口で説明するよりも実際にもう一度見せてやるか!」

こちらの疑わしい視線を感じ取ったのか、女子大生がおれの背後に視線を送ったまま、獣のように舌なめずりをした。
つられておれも、後ろを振り返る。

向こうから、一人の女性が歩いてくるのが確認できた。
黒いスーツを着たOLらしき人だ。

「もう一度見せるって……え?」

前に向き直りどういう意味か問いただそうとしたが、その時にはすでに幽体人間は、女子大生の体からその幽体を引き離していた。

「……っ?あれ?」

幽体人間が剥がれた途端、女子大生は動画の一時停止ボタンを押したかのように動きを止めたが、目を瞬かせると不思議そうな顔で辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「えっと……あたし、一体何を……?」

首を傾げ、ブツブツと独り言をつぶやきながら、おれたちを無視してその場を去っていく。
まるで今までの出来事がなかったかのように。
幽体人間の話が本当だとしても、自分の体を好き勝手に動かされていたことにさえ気づいていないようだ。

じゃあ、本当にヤツが彼女の体を乗っ取っていたって言うのか……!?
慌てて幽体人間の姿を探すと、すでに近づいてきたOLの背後に回り込んでいた。

傍で見るとものすごい美人だ。
背中まで伸ばした茶色く綺麗な髪と、鋭い眼差しが特徴的である。
そんな彼女の背中に――姿なき男が音もなく忍び寄り、ガバッと抱きついた。

「ひゃうっ!?」

その途端、OLがしゃっくりのような奇妙な悲鳴を上げて肩を竦ませると、先程の女子大生のようにその場に棒立ちになった。
驚いた拍子に、持っていたハンドバッグを落としてしまう。
おれは反射的に拾い上げてやろうとするが、その前に緊張を解いたOL自身が、平然とした動作で落ちたバッグを拾い上げていた。

「んっふっふっふ……ど〜うよ?これが、この幽体人間様の偉大な能力さ……!」

顔を上げ、こちらを見たOLは――すでに女子大生と同じ、何かを企むような邪悪な笑みを顔に張り付かせていた。

「マ、マジかよ……!」

ここまでまざまざと証明されたら、認めるしかない。
集団で行われたドッキリ番組のロケでもなければ、たまたま通りかかったOLがこんな悪ふざけに付き合うとは絶対に思えない。
つまり、ここにいるのは本物の、姿を持たず、他者の肉体を乗っ取る存在なんだ……!

「しっかしラッキーだな……こんな上玉を手に入れたのは久しぶりだぜ〜?」

OLと化した幽体人間は、ハンドバッグの中身をその場にぶちまけ、手鏡を見つけるとそれを開いて彼女の顔をじっくりと眺めだした。
当然、先程の女子大生同様、抱きつかれた瞬間からOLもそのタイトスカートに包まれた腰を前後に振り続けている。

「幽霊って本当にいたんだな……」

「おいおい、この俺様を成仏できねえ魂どもと一緒にするなよ?こちとら自ら望んで、この体を手に入れたんだからな……呼ぶ時はちゃんと『幽体人間』と呼びな」

おれは腹をくくり、目の前に立つ幽体人間の存在を受け入れ、あらためてその姿をジロジロと観察した。
しかし当の本人は、不服そうにOLの顔にしかめっ面を浮かび上がらせている。
表情も思いのまま、ってことか。
他人の肉体を自由に動かせるなんて、一体どういう仕組みになっているんだ?

「さっきの子、あんたに取り憑かれていた間のことは覚えていないようだったけど……その人の意識は今、ちゃんと覚醒しているのか?」

「ふふん、俺様の支配力をなめるなよ?乗っ取っちまえば、その体の持ち主の意識はキレイさっぱり封じ込められちまう。だからその間は、何をしたところで本人は気付きもしないのさ……!」

そう言って、幽体人間はOLに腰振りを続けさせたまま、両手を激しく上下に振ってモンキーダンスを踊りだした。
しかも両足をがに股に開かせている。
膝上までの短いタイトスカートでそんな激しい踊りを披露しているから、中に履いている下着がこちらからは丸見えだ。

こんな美人が、こんな道端でこんな恥ずかしい行動なんて絶対に取らないだろう。
肉体を乗っ取ってしまえば、そんな破廉恥な行動も思いのままってわけか。
おれは幽体人間の身勝手な行動に腹を立てつつも、内心では次第に興奮を覚え始めていた。

「ひひっ!その目、だいぶこの俺様の凄さに興味を持ってきたって感じか?だったら更にとっくりと他人を乗っ取る楽しさを教えてやるよ……」

そんなおれの心を読み取ったのか、幽体人間はOLにニンマリと妖艶な笑みを浮かばせた。

「『俺様』の股間をよ〜く見ていな」

傍目には恥ずかしい踊りを続けたまま、腰をこちらに向けて捻る。
何をするつもりだ……?とおれが注視していると、幽体人間はあれだけ密着させていた腰を、突然OLから引きはがした。
正確には、変わらず上半身は背後に張り付いたまま、「腰だけ」を後ろに退いたのだ。

「かふっ!……?」

するとOLが途端に踊りを止め、腕を振り上げたポーズのまま、目を瞬かせた。
またしても、女子大生と同じリアクションだ。

「え?え?何よ……何なの!?」

やはり正気に戻ったらしい。
相手の意識を乗っ取るのには、股間を密着させることが必要ってことなのか?
しかし女子大生と違うのは、正気に戻った今でも彫像のように固まったまま、その場から動かないでいることだ。
振り上げられた腕は相変わらず幽体人間が掴んでいるので、体は依然拘束されたままなのだろう。

と言うか、一体ヤツは何を見せつけたいんだ?
「股間を見ろ」って……
おれは引きはがされた幽体人間の股間を凝視し――絶句した。

見ればヤツの股間は、中心から棒でも生えたかのように膨らんでいたのだ!
言うまでもなくそれは、ペニスなのだろう。
まるで思春期真っ盛りの中学生が書いた卑猥な落書きのようだ。
公衆トイレの男性のシンボルマークの股間にマジックで膨らみを付け足したような、まさにそんな姿だった。
目も鼻も口もないくせに、しっかりと男の象徴だけは存在していたってのかよ……?

おれが目撃したのを確認すると、幽体人間は限界まで弦を引いた弓のように腰を引き絞り、再びOLの尻目がけて刺し貫く勢いで、それを叩き付けた。

「ちょ、ちょっとそこの人!黙って見てないで助け、てっ!――へへへっ、ちゃ〜んと見ていただろうなぁ?俺様の自慢のムスコの雄姿を……!」

おれに気付いたOLが助けを求めてきたが、それを言い切る前にまたしても意識を幽体人間に奪われてしまったらしい。
美しい顔を苦悶に歪めていたのに、一瞬のうちにその表情が、男のような淫蕩な笑みに切り替わる。

「……物には触れないって言ってたくせに、そんな姿で本当にその人を犯してやがったのか……!」

「ひひひ、相手の幽体には干渉できるって言ったろう〜?こいつを、この女の幽体に差し込んだ瞬間はなぁ……」

口元を歪ませながら、腰をグリグリと左右に小刻みに揺らす。

「あっ!あっ!トンデモなく気持ちいい刺激が全身を駆け巡るんだぜ〜?あふっ!」

ウットリとした顔で、半開きになった口から涎さえ垂らしている。
それはまさに快感に酔いしれる女性の顔以外のなにものでもなかった。

「俺様はこの行為を霊姦(レイプ)と呼んでいるんだがな。まあ、ペニスってのは男の象徴だ。幽体になった所で変わりはねえ。その大事な部分を相手にぶっ刺しちまえば、股間を通して繋がった幽体すべてがこの俺様の支配下に置かれるって理屈なのかもな?」

肉を打つ音さえ聞こえてきそうな勢いで腰を激しく動かしながら、幽体人間はOLの口でまたしても独自のオカルト講義を披露した。

「肉体を通り抜け、相手の幽体にイチモツの先端が入り込んだ瞬間の快感は、言葉にはできねえぜ〜?しかも乗っ取ったこの女の感覚も、今の俺様には自分のもののように感じる事が出来るんだからな……女の体がこんなにも気持ちいいだなんて、まったく世の中は不公平だぜ……!」

そう言って、OLはその細い腕で自分の体を抱き締め、オーガズムに達したように喉を反らせて身悶えた。
喋る度に喘いでいたあの昂ぶりは彼女自身の、そして先程の女子大生自身の体が感じていた性的興奮だったってことか……!
おれは無意識のうちに、生唾を飲み込んでいた。

「笑えるぜ?穴もねえのにズブズブとおれの肉棒……この場合は幽棒か?が入り込んでいくんだからなぁ……一度この感覚を味わっちまえば、誰だって病み付きになるっての!」

「そ、そんなに気持ちいいのか……?」

「ああ、男のオナニーなんて臍で茶が沸くレベルだぜ……!」

幽体人間となったOLは、くねらせた腰をそのまま横に突き出し、自らの手でまるで痴漢のようにくびれたラインを撫で回した。

「んふ……っ!あぁ〜、たぁまんねぇ〜……こいつ、涼しそうな顔してトンデモなく淫乱な体してんじゃねえか……!!」

道端に立ったまま、OLの痴態は続く。
おれは最早――姿なき凌辱者を非難する立場にはなく、すでに男に乗っ取られた女によって繰り広げられるストリップの観客と化していた。

「特別サービスだ♪幽体を手に入れれば、こんな真似だってできるんだぜ……?」

OLは腰を摩っていた手を剥がすと、スーツを盛り上げる豊満な乳房を見せつけるように胸を張り、仁王立ちになった。
幽体人間がまたしても片方の腕を、彼女から切り離す。
そのままOLの脇の下から前に通し、胸めがけてその見えざる手を突っ込んだ。
当然物理的な存在ではないので、スーツの中へとめり込んでいく。
しかしその手がぐりぐりと円を描くように動くと、ブラウスを盛り上げる女性の胸も形を変化させているのか、生地がモゾモゾと動き出したのである。

「あはっ……♪今、俺様が触っているのは、この女の「幽体の乳房」だ……幽体越しにも分かるこの巨乳!気持ち良すぎて気が狂いそうだぜ……!!」

OLは唇をぷるぷると震わせ、湧き上がるエクスタシーを反芻している。
どうやら幽体の乳房を揉むことで、肉体もそれに引っ張られ連動しているようだ。
幽体に接触すると、肉体にまでその影響が及ぶと言うことなのか?
もはや何でもアリだな……

「ただ体触るだけでこれだぜ……?セックスで味わう衝撃は、まさに脳がぶっ飛ぶほどだ。こうして幽体越しにおれのブツをぶち込むのもたまんねえが、マン○にギンギンにおっ起ったチン○をぶち込まれた時の破壊力と言ったら……あふっ、想像だけでイッちまいそうだぜ……!」

股間を手で擦りながら腰をくねらせるOL。
俺はその艶めかしく動く腰から目を離す事が出来なくなっていた。
まるで花に吸い寄せられる蝶のように、股間が跳ねる度に一歩一歩、彼女に近づいていく。

「お前と逢ったのも何かの縁だ。こんな上物のボディを手に入れたのも久しぶりだしな……今ならた〜っぷりとサービスしてやるが……どうする?」

幽体人間が、OLが、指をくねらせながら手を差し出してきた。
おれは、ダンスの誘いを受けるような自然な動作で――それを受け取っていた。

「うふふふふっ♪」

吸いつきたくなるような唇を可愛らしく綻ばせ、OLはおれの腕を取って先導するように歩き始める。
体を摺り寄せ、並んで歩くおれたちの姿は、端から見れば仲睦まじい普通のカップルに見えるだろう。
背中に姿なき男を纏わせ、イヤらしく腰を振り続けているのを除けば、だが。

幽体人間と共に彼女の体を味わおうとするおれは、他者からは共犯者と呼ばれてしまうのか?
しかし今はどうでもいい。
これから体験する未知の快楽以外のことなど、何も考えたくはない。

おれたちは鼻息を荒くしたまま、近場のラブホテルへと姿を消した――


<おわり>



・本作品はフィクションであり、実際の人物、団体とは一切関係ありません。
・本作品を無断に複製、転載する事はご遠慮下さい。
・本作品に対するご意見、ご要望があれば、grave_of_wolf@yahoo.co.jpまでお願いします。

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