teruさん総合
『皮剥丸異譚』 2・新しい生活 「双葉、起きろ。 いつまで寝てるんだ。朝飯が出来たぞ」 「ん?なんだ?」 「あぁ、メシか……」 「パジャマの間に手を入れて腹を掻くんじゃねぇ!お前はオヤジか! 今まで何を食ってたか知らないが、贅沢は言うなよ? ウチは昔から米の飯に決まってんだから、パンとかサラダなんて出ないからな」 ふと、壁に掛かった時計を見れば八時…… 俺、そんなに寝てたのか? 見れば紀善はすでにちゃんと服を着ているし、朝食の用意も一人で済ましたようだ。 いつもは俺と一緒に朝食を作るのに。 「すまないな、手伝わなくて」 「それで、お前は昼間はどうするんだ?」 「ん?一応、俺の行方を捜してみるつもりだが?」 「事実は事実だからな? お前もいい加減俺を父親だと認めろ?」 「で、お前は自分探しの旅に出るんだ?」 「そのまま帰ってこなくていいぞ?」 「まぁ、それでも親父から何の連絡もないことは事実だからな。 とりあえず警察に行って捜索願だけは出しにいくよ。 後は夜の店の準備だな。 親父が居ないから一人でやらないと時間が掛かるしな」 「なんだ?お前、料理できるのか?」 お前よりも料理歴は長いよ!と心で思いながら笑顔を向け 「ふぅん、まぁ、話半分に聞いておこう」 * 朝食が終わると俺は着替えて「自分探し」を行う事に、紀善は警察に相談に行って俺の捜査願いを出す事になった。 俺も一緒に行こうかと言ったが「お前が来るとややこしくなりそうだから来るな」と紀善に言われてしまった。 まぁ、否定は出来ないので指示に従うことにした。 「さてと、弟の遺体を運ぶのにレンタカーを借りたそうだからレンタカー屋から探すことにするか?」 レンタカー屋はすぐに見つかった。 思った通り、俺の免許証で車は借りられていた。 が、判ったのはそこまでだった…… この皮を着てから覚えた色仕掛けや泣き落としを使ってわかったのは借りられたレンタカーは夕べ遅くに隣町の支店に返却されたということ。走行距離は三百キロを超えていたこと位だった…… って、最大半径百五十キロが行動範囲ってムチャクチャ広すぎるだろ? 結局、手詰まりだった。 あの女性は弟を訪ねてやってきて、弟を見つけたがボロボロで昏睡状態に落ち、病院に搬送された時にはすでに手遅れだった。 傷心の女性は近くの居酒屋まで食事に出たところで災難に見舞われる。 そこで居酒屋の店主の皮を奪った女性は、俺になりすまし、その免許証を使ってレンタカーを借りて弟の遺体と共に田舎へ帰った。 めでたしめでたし…… 「って、めでたしじゃねぇよ! 半径百五十キロ圏内って殆ど絶望的じゃねぇか!そのまま田舎に引っ込まれたら絶対に見つけられねぇよ!」 「大体、俺の免許所を使うって本人は免許証持ってないのか!?無免許運転?無免許運転なのか? 事故を起こしたらどうすんだよ、俺の身体! 車が帰って来たって事は無事なんだよな?」 まさか身体が損傷してしまって二度と俺はこの身体から出られないなんて事はないよな? すっと、女のままで男と寝る事になったりは…… 「お前は何を楽しそうに往来の真ん中で叫いてるんだ?」 「あ?紀善」 「紀善じゃないだろ? 紀善さん、または御主人様だろ?」 「何を血迷ってるんだ?現時点では俺はお前の雇い主だぞ?」 「え?あ、そういう意味か? あぁ、驚いた」 「? どういう意味だよ?」 「ぶっ!! ねぇよ! 何が悲しくてお前と俺が結婚する為にバラエティ番組でやるようなドッキリ企画を企まなきゃならねぇんだよ!」 「いや、親父ならそんな悪趣味なことを考えないでもない……が、そこまでは考えすぎか?」 「それでお前は警察に行って来たのか?」 「紀善さんは警察に行って来たんですか?」 「まぁな。 昼までに親父の立ち寄りそうな所に片っ端から電話を掛けて聞いて見たが手がかりがまったくなかったから行って来たよ。 でも捜索願いって警察が親父を探してくれるというより身元不明の死体が見つかったら調べてくれる程度らしいぞ?あまり期待はできそうにないな」 「それでお前の方は成果はあったのか?」 「ロクな成果はなかったな」 お前の親父の皮は百五十キロ圏内にあるらしいという事を言った処で何の役にも立たないだろうし。 * その後も俺は昼間は俺の身体を探す為にアチコチ歩き回ったが成果と呼べるものはなかった。 せめて彼女の田舎が西か東かどちら方向なのかでも判ればよかったのだが、まったく手がかりと呼べるものもなかった。 もっとも、管理人さんの話によれば恋人と言うよりも結婚詐欺だったんじゃないかと言うことだった。 何人か住民にも話を聞いたが、弟がそこに住んでいた事も知らないようだった。 近所づきあいがないというのは都会の弊害だよな? 聞き込みの方ははかどらなかったが、こっちが若い女の姿なものだから若い男に誘われるのには参った。 * 「双葉、考え事をしてないでこれをテーブルに持っていけ」 「はいはい、お待たせしましたぁ」 「イヤだ、おじさんったらお上手なんだからぁ」 「ふふ、ダメですよ。 奥さんに怒られますよ」 いや、もう女性従業員としてこの程度の接客が出来るようになった俺が怖い…… 「紀善君、働き者のいい娘じゃないか?」 「以外と働き者だって事は認めますけどね。ちょっと頭が可哀想な所がねぇ?」 「可哀想ってなんだよ!可哀想って!」 「あぁ、双葉ちゃん、まだ自分が親父さんだって言ってるんだ?」 「あはは、田中さん。余計な事はいわな〜い」 「こら、双葉!お客さんの頭をお盆で叩くんじゃない!」 それにしても俺が木下清彦だと言う主張がネタとして皆に広まっているのが歯がゆい! そんな生活が半月ほど続いたある日の朝…… 「え?」 「お〜い、双葉。 いつまで入ってるんだ? 便秘か?」 「えっと…… 紀善さん? 双葉、ちょっとお願いがあるのですが?」 「いや、ちょっと今は出にくい事情があってですね……」 「はぁ?生理用品を買ってこいだぁ!?」 「お前、それぐらい用意してねぇのか?」 「初めてってお前はいくつだ!初潮でもあるまいし」 「男がそんな物を買って来れるか!」 「そんなもの、トイレットペーパーでも巻いて股に挟んでいけ!」 「大丈夫だよ!そんなにドバドバ出てねぇだろ?薬局かコンビニに行くくらいは持つよ!」 「巫山戯るな、ここは客も使うんだぞ?」 「いや、マジでこれが判らないんだよ。 トイレットペーパーでどこまで持つかとか、ジーパンに染みてこないかとか?」 「………… しょうがないな。 待ってろ」 行ってくれたか…… それにしても…… これがあるって事は俺の身体の中に完璧な子宮があるって事だよな? 皮が俺の身体をもう完全に女性のものに変えてしまったという事か? なおも股間から染み出してくるものを覗き込んでため息を付く。 つまり、今の俺の身体は男にヤられたら赤ちゃんを宿してしまう可能性がある、と……うぅ…… 鬱になるなぁ…… まだ、皮さえ取り戻したら戻れる可能性があるとはいえ、それまではこの身体を使って行かなくっちゃいけないんだからな。 この身体で赤ちゃんを産みましたけど皮を取り替えて下さい、なんて言ったら激怒されるだろうなぁ。 トイレで鬱々としていると裏口の方に人の気配がした。 「双葉、買って来てやったぞ!さっさとこのドアを開けろ!」 「ご、ごくろうさま」 「ムチャクチャ恥ずかしかったんだからな!この恩は大きいぞ、覚えておけ!」 俺が袋を受け取ると紀善がドアをバタンと勢いよく閉める。 「あぁ、すまなかったな。本当に感謝してるから」 「なぁ、紀善?」 「なんだよ?」 「ナプキンってどうやって使うんだ? 股間に貼り付けるんじゃないのは判るが、これってどういうふうにパンツに付けるんだ?」 「知るか、ボケッ! 自分で考えろ!」 仕方なく俺はナプキンを調べながらなんとかパンツに装着して、それに足を通して引き上げる。 いや、それにしても若い女性客が来ないウチの中で、多分、初めてビデなる装置を使うのが俺になるとは 「おーい、紀善。 終わったから使ってもいいぞぉ? あれ、いない?」 俺も少しは紀善に信用されてきたのか先日から紀善の部屋を俺の部屋として与えられている。 そして、紀善は俺の部屋にした。 まぁ、下の座敷で俺が寝泊まりしていると着替え中に障子を開けてしまったり、グループ客が使いたいと言ってきたりした時に支障も出るからなんだろうけど。 とりあえず、余ったナプキンをタンスにしまう。 あれ?まだ、袋の中には何かが残っているな? 予備のパンツまで買ってきてるのか? おぉ、半分が優しさで出来ている薬まで! あいつ、何のかんのと文句を言っていてもちゃんと考えてくれているな。 いや、こんな優しい男に育てた親御さんの顔が見て見たいもんだ、うん。 階下に降りていくと紀善が裏口から帰ってきたところだった。 「なんだ?どこをほっつき歩いてたんだよ?」 俺はシュークリームを一つ取りだして袋を開けて食いつく。 「食うか?」 袋の中にはまだいくつかのスイーツが入っている。 食い切れないことはないのだが…… 最近、甘い物が美味くってしょうがないのはやはり女性化の影響なんだろうか? 料理の腕も…… 一度、料理を作ったら紀善に、腕は確かにいいけど味付けが薄すぎて店の味ではないと言われた。 舌の味覚がこの女性のものになってしまったのだろう。 それがショックで以来、俺は厨房に立っていない。 「はぁぁ、いつまでこの身体なんだろうなぁ?」 「紀善。 俺、ちょっと出て来るから」 「店の冷蔵庫に私物を入れるんじゃねぇよ。 なんだ、また自分探しの旅か?」 「なんだ?漫画か?」 「いや、俺に聞かれてもしらねぇよ?」 「って、お前、女の癖に今までどうやって生きてきたんだよ?」 * いつの間にか俺は自分の店で紀善の手伝いのバイト店員という立場になれてきてしまっていた。 あの女性の手がかりも見つけられないまま、探すという行為も止まっていた。 一応、あのマンションの管理人には斎藤家の縁者が尋ねてきたら連絡をしてくれるようにという約束はしていたが、それも期待はできそうになかった。 俺はそれなりに毎日を楽しく過ごしていた。 毎日の紀善との漫才のような掛け合いは楽しかったし、客達との接客も面白かった。 そんなある日、衝撃の事実がもたらされた。 「ごめんください。ここは木下清彦さんのお宅でしょうか?」 「はい、清彦はウチの親父ですが今は行方不明で……」 「それが清彦さんの遺体が見つかりまして……、縁者の方に遺体の確認を」 「まさか、そんな……」 * 「……俺だ。 間違いなく俺の身体だ」 遺体安置所で対面したのは間違いなく俺の身体だった。 「どうして?どうして俺が死んでるんだ?」 話はこうだ。 3日前の朝、この街のホテルの裏で倒れているのを異音を聞いて出て来たホテルの従業員が見つけ、救急車を呼んで病院に運ばれたがすでに手遅れだった。 どうもホテルの非常階段から足を滑らせたらしいと結論づけられた。 なぜ非常階段にいたかというと、宿泊したはずの俺が無一文だったからだ。 刑事が語るには、前日の夜に俺と連れの女性の二人で宿泊したのだがいつの間にか女性の姿が消えていて、俺だけが取り残された。 所持金も身元を証明するものも何もない状態で。 俺と一緒に宿泊した女性は昏睡強盗や美人局等で前から警察がマークしていた女性らしかった。 つまり、俺の皮を着たあの女は、俺の姿で女と一夜を楽しもうとホテルに泊まったが女に全てを持ち去られてしまい、払う金がなくなり裏の非常口からこっそりと逃げようとして足を滑らせたらしい、と…… 「「な、なんてバカな死に方をしてくれたんだ!」」 そんなバカな。 俺の身体が死んでしまったら二度と元には戻れないじゃないか? 「刑事さん、この人、短刀を持ってませんでしたか? 柄が10pほどで、刃は5pあるかないかの短い変わった形の短刀なんです!」 「え?さぁ?この人は何も所持品を持ってませんでしたよ? 免許証だって、夕べ、ホテルの外のゴミ箱から発見されて警察に届けられたからやっと身元が判明したんですから。 多分、お父さんの財布を持っていった女が免許証だけ不要だと思って捨てたんでしょうな」 つまり、俺はもう一生この皮を脱ぐことはできなくなり、女として生きていかなくてはならないという事で…… 今まではとにかくこの女性を見つけて謝り倒せば時間が掛かろうとも元に戻れると信じていた。 この姿は仮の姿だと頭の隅では気楽に考えていたと思う。 単なる女装の延長線上だと思っていた。 しかし、もう元には戻れない…… 男に戻れない。 俺は力なく立ち上がり、寝ている俺の身体に縋って泣いた。 背後でショックから立ち直ったらしい紀善が刑事と何か今後のことを話しているのを感じながら…… * 「お前が……、お前が本当に親父だったらよかったのにな……」 俺だって、もう元に戻れないのが確定されてしまった今、父親を名乗る意味を失ってしまった気がする。 それっきり、帰るまでタクシーの中での会話は途絶えた…… 夕方に俺の皮を着た遺体が帰ってきて、死因に事件性はなく事故であると告げられた。 「ただ……」 「なんでしょうか?」 「いや、べつに…… まぁ、高血圧気味ではありましたけど……」 「司法解剖結果、傷を負わされたりという痕跡はなかったのですが……」 「なんです?はっきり言って下さい」 「お父さんの身体の中にはできかけの子宮と消えかけの精巣があったんです。 担当した医者が言うにはお父さんはTS病に掛かっていたのでは、と……」 違う、多分、逆だ。 本当は彼女の子宮が消えかけていて、俺の皮を着たせいで精巣が作られようとしていたのだろう。 「TS病? TS病ってなんですか?」 どうやら、警察は俺はTS病に掛かってそれを苦に家出をしたとみているらしい。 司法解剖で睡眠薬の痕跡が発見されたので、俺はホテルで睡眠薬強盗にあった可能性があるとみて消えた女性の行方を追っていくと言って刑事は帰っていった。 「親父が病気だった…… 一緒に暮らしていたがまったく気づかなかったな……」 そのあと、紀善は俺の葬式の準備に追われ、俺も複雑な気分で喪服を着て自分の葬式の手伝いをしたのだった。 * 俺の葬式から1週間が過ぎた。 親戚がいない俺の葬式には常連客の連中が来てくれたおかげで、それなりな葬式だった。 紀善は葬式の翌日から店を開けた。 ウチのような店はいつまでも休んでいると死活問題になるからな。 俺の遺体が見つかった以上、紀善が俺をここに置いておく理由はなくなったのだが、紀善は俺に出て行けとは言わなかったので行く先のない俺はそのまま、店のバイトとして手伝いを続けた。 ……が。 「なぁ。双葉? お前いつまでここに居るつもりだ?」 「え?なに?それは私に出て行けって事ですか?」 「まぁ、私だって身元不明の人間ですから行く当てはありませんからね」 「でさ。 いつまでもバイトのままじゃ不便だろ?」 「…………」 「えっと、紀善さん?」 「………… えっ!? はぁ?えっ、えっ、えっ? なに?結婚? だ、誰と?誰が?え?」 「俺とお前がだよ。バカ……」 「はい?私と紀善さんが?」 「ダメか? お前、俺の事は嫌いか?」 しかし、結婚となるとなると夫婦生活を行わないといけないワケで…… 特に夜の営みは…… 「すいません、少し考えさせて下さい」 「ダメなのか……」 いやいやいや、お父さんとしては息子に嫁が来るのは大歓迎ですよ? でもですね?いくらなんでもお父さんを嫁にするのは如何なものかと…… まぁ、俺の身体はこの女性の身体へと変化してしまってるから紀善とはもう身体的には他人なんだろうし、生理もあるようだから赤ちゃんだって産めるんだろうけど…… 「いえ、ダメじゃないけど…… 私は頭が可哀想な女ですよ?」 だからぁ、男の癖に捨てられた子犬のような目で俺を見るんじゃないって! 結婚だぞ、結婚!一緒に生活するだけなら問題はないけど、セックスするんだぞ?男の、息子のペニスを自分の股間の穴に入れるんだぞ? 息子の希望は叶えてやりたいが、俺の覚悟が…… 「すいません、もう少しだけ返事は待って下さい」 「そうか、いきなりだったからな。 すまない」 やがて夕方になり、店を開けたが俺は上の空で仕事が手に付かなかった。 息子の嫁、息子の嫁、セックス、セックス…… そんな単語が頭の中を回り続けた。 このまま女として一生生きていくのなら、身元の不確かな俺には結婚は有効な手段だろう。 まぁ、戸籍も不確かなせいで内縁の妻という立場にしかなれないが。 愛のない結婚かと言えば、紀善はどうやら俺に惚れているらしいし、俺も紀善の事は(息子として)好きだ。でも、肉体的も他人…… 紀善との結婚……、それは一生を女として生きていく俺に残されたベストな選択かもしれないが…… 何度考えても、後は俺の覚悟の問題か…… * 店も終わり、誰もいなくなった店内。 この皮を着てから俺はずっと自分の身体を意識しないようにしていた。 身体も必要以上に触らないようにしていた。 あの女性に対しての遠慮もあったし、自分が女であるという現実を受け入れたくもなかったからだ。 でも、今日からは俺は女として生きる。 覚悟は出来た! 「紀善!」 「な、なんだ、なんだ?双葉ぁ? こんな夜中に俺の部屋に何の用だ?」 「お前、本当に俺と結婚したいのか?」 「お前?酔ってんのか? 酒に弱いんだろ?どうしたんだよ?」 「俺が酔ってようが酔っていまいが関係ない。 俺はお前が本気で俺と結婚したいのかと聞いてるんだ」 「質問に答えないって事は昼間のことはただの冗談だったんだな?」 「よし、わかった。 だったら今すぐ俺を犯せ。 上手く犯せたらお前の嫁になってやる」 「俺は男で処女だからセックスが怖ぇんだよ! お前が俺を犯さない限り、俺は結婚に躊躇し続けるぞ? 「そんな事はどうでもいい。 どうなんだよ? 俺を犯せなければ結婚の話は無しだ」 「お前に昼間、求婚された時から考え抜いた結果だから後悔はないよ! 後で酒のせいにはしたりしないから安心しろ」 「酔っ払いに言われてもなぁ? わかった。 言っておくが、後で後悔するなよ」 その勢いで俺は後ろにひっくり返り、体勢が逆転する。 「なんだ、怖いのか?」 「そうか……」 「はうぅっ」 露わになったシミ一つない俺の女の身体。 俺はこれから息子を受け入れる…… 「緊張しなくていいから、俺に全部任せておけ」 「あぁん……」 「足を閉じるんじゃないよ。力を抜いて」 くそっ、なんで俺はこんなにも女な反応をしてしまうんだ?それにしても紀善のヤツ、こんなテクニックをどこで覚えたんだ? 紀善の指が股間の穴の入り口をなで、その中へと…… 途端に全身に稲妻が走る。 「色気のない喘ぎ声だな?」 「なんだ?」 「合格?」 「おい?」 「な、なんでしょうか?」 「いや、紀善君は私の試験に合格しました。 とても素晴らしいテクニックでした。それでは今夜はこの辺で……」 「何を誤魔化そうとしてるんだよ? テストだってんならこれからが本番だろうが?」 「お前、初めてで怖い気持ちは判らんでもないが、お前から誘ってきたんだぞ? 夜の夜中に叩き起こされて、ここまで男の性欲を昂ぶらせておいてお預け食わす気か?」 「いや、それは……」 「か、身体?」 「正直な事を言うと、お前と寝たくってたまらない夜は一夜や二夜じゃなかったんだからな! 特にお前が二階で寝るようになってからは障子一つ隔てた向こうにお前が寝ていると思うと、今すぐにでも踏み込んでお前を犯したいとどれだけ思ったか……」 うわぁ、そうだったのか。双葉ちゃん、大ピンチだったんだ? 俺の方は相手が息子だと思って安心して安眠してたよ? 「ずっと、耐えていたのに……」 いや、君は偉い。 それに耐えられなかった男は、今、罰が当たって女にされた挙げ句に息子に手籠めにされようとしてるんですよ? 「それでやっと、お前から許可が出たと思ったらその仕打ちか? お前は鬼か?」 やっていいよと言った女から、銃を暴発させる寸前に中止を要請されたらヘビの生殺しもいいとこですよね。 俺は今、それをやってしまったわけで…… 「わかった、悪かった。 続けてくれ」 「いいのか、本当に?」 「蹂躙って……、お前なぁ? ……いいのか?」 俺は下から腕を上げて紀善の首に回し、顔を引き寄せる。 紀善の驚く顔に向かって口を寄せていく。 正直、男とキスをするのは抵抗があるが、こうでもしないと紀善は手を出してこないだろう。 俺は紀善の口に舌を入れて舌を絡みつかせると、すぐに紀善は舌を絡みつかせ返してきた。 再び紀善の手が俺の胸に伸び、あいた手が俺の股間を刺激しはじめる。 「あ、あふっ、あぁん…… あひっ、あふぅ」 紀善の手が俺の全身を這い回る。 そのたびに俺の口から恥ずかしい喘ぎ声が漏れる。 「あ、あ、あぁ、あふぅ、ヤ、も、もう……、りゃめ……」 息子に弄ばれて痴態を演じてしまう事に自らに戸惑いを覚える。 いいのか?本当にいいのか? 「どうだ?そろそろ入れていいか?」 こいつ、なかなかいい身体してるじゃないか?子供だ子供だと思っていたが…… 「え?」 「え?えっ?」 「…………、って。 ちょっと待て! まさか、それを俺に入れる気じゃないだろうな!?」 「いや、いやいやいや!入らないだろ? 無理無理無理!無理だって! そんなにでっかいモノを入れられたら壊れるって! 「いや、まて。 あ、あぁん、ひゃう……」 いや、それよりも今は俺の股間に銃口が突きつけられようとしていることが問題で…… でも…… 「は、初めてだから優しくしてね?」 しかし、こんな定番なセリフが俺の口から出る日が来るとは…… 「大丈夫。 俺を信じろ」 「はい……」 「痛い、痛い、痛いっ! ミシっていった!ミシっていった!ミシっていった! 股間が、あそこが引きつれる! 裂ける、裂ける、裂けるって!」 「大丈夫だって。 ほら、逃げるな」 「大丈夫って、お前は男だから挿入される側の気持ちなんてわからないんだよ!」 しかし、俺の抗議を無視するかのように紀善のペニスは暴力的に俺の中に入ってくる。 いやいやいや、この痛みのどこにお前を信じる要素がある? ズブズブ、ミシミシ…… そんな擬音が俺の耳に聞こえてきそうな気がする。 「ほら?奥まではいった。 別にそれほど痛くなかっただろ?」 「痛かったわ! てか、今も痛いよ! もういいだろ、抜け!抜いてくれ!」 いや、マジで股間がジンジンする。 紀善のペニスを全身で包み込んでいるような感覚…… まるで自分自身が巨大なペニスケースにでもなったような…… もうそこにしか神経が伝わってないような…… 「抜けって、これからが本番だって事はお前も理解してるだろ?」 「何を言ってるんだ? 動くぞ?いいか?」 「い、痛い痛い、痛いって! まだ、了承してないだろ!」 "やってるだろ?" あぁ、息子に上から目線で女として犯される屈辱が…… でも、その"何か"に身をゆだねてしまうと"何か"が決定的に変わってしまいそうな予感が…… 「あっ、あ、あ、あ……」 「どうだ、双葉?まだ痛いのか?」 紀善のペニスを感じる余裕が生まれ始めている。 俺の中のアレが膣壁を擦りあげる。 「声が変わってきてるぞ?」 「可愛いな、双葉は。 最初は変なヤツだと思ってたが、慣れてくるとそのおかしさが愛おしい……」 「あぁん、あん、あん、いい…… いいよ、紀善……、もっと、もっと激しく……」 「ひゃ!あ、あん、ひゃん、ひゃん、ひゃん、あん、あん……」 「いいか、双葉? 出すぞ?」「え?なに?」 「え?あ、あぁぁぁぁん!」 「はぁ、はぁ、はぁ……、こ、このやろう……」 「よかったよ、双葉」 くそっ、なんでだ?そんな事をされるのが嬉しい…… 「どうだ?これで俺と結婚してくれるよな?」 「…………」 「なんだ?まだ不満なのか?俺と結婚するのはイヤなのか?」 「わかった。それじゃもう一度、双葉を説得するとしようか」 「ひゃぁん、な、なにを……」 「うわっ、なんだ、なんだ! お前、いま出したばかりだろ!な、なんでそんなに立派なんだよ!」 「はぁん……」 「双葉もその気になってきてるんじゃないのか?」 「それがその気になってる証拠だろ?」 「あ、あぁん…… ひゃぁん」 「あうぅ、あん、だめぇ」 「ダメと言いながらも、力が入ってないぞ?」 「ひゃぁん、あん、あ、あぁん、りゃめ、感じちゃう……」 その指先はテラテラと濡れて糸を引いている。 これが俺の愛液?恥ずかしさで顔がかぁっと熱くなる。 「ふふ、双葉、顔が赤いぞ?」 「と言いながら双葉の手は何をしてるのかなぁ?」 「いや、えっと、ちがう!」 いや、マジで違う、おかしい、おかしい、おかしい!俺は男なんだからペニスに興味なんか…… その後、俺は紀善に身体中を愛撫され、いつの間にか紀善のモノを自分から受け入れていた。 一回目と違って今度の紀善は優しく全身を包み込むように性感を刺激してくる。 考えてみれば…… この皮を着たせいで体内が女性化してしまうのなら、脳も例外なはずがない。 それに気づく頃、私は自分から腰を使って紀善のペニスの快感に酔っていた。 「どうだ、双葉?俺と結婚してくれるよな?」 「なんだ?本当にイヤなのか?」 「…… く、くくく。 なんだ、この可愛いヤツめ。 さっきまでイヤだ、やめろって叫んでたのに」 「よおし、わかった。 今晩は双葉を完全に俺色に染め抜いてやろうな」 「あん、だめぇ〜♪」 * 翌朝、私は紀善さんの胸の中で眠りから覚めた。 「起きたかい、双葉」 その優しさがなんだか、恥ずかしい。 いいのだろうか?このまま紀善さんに身をゆだねてしまって…… 「どうしたんだ?双葉」 「本当に私でいいんですか? 世の中には他にもちゃんとした女性がいるんですよ?」 「お前はもう俺のモノだからな? これからは俺が守ってやるから俺に付いてこい」 ぎゅっと抱きしめられた事で私の中の"女"が悦びを覚える。 なにしろ、この人は私の息子なのだから。 スケベではあるが頼りにならないワケがない…… 「はい。あなた」 私は彼の目を見つめ、羞じらいながら返事をした。 * そしてその後、俺の生命保険が下りた金を頭金にして、あの女性の弟が住んでいた管理人さんの縁で表通りに格安の店舗を買う事が出来た。 前からの常連客に加え、新しい常連客も出来て、私達はまずまずな生活を送る事が出来るようになったのだった。 そして、私も新しい常連客の中にその手の事に詳しい弁護士さんがいて、新しい戸籍を作る事に協力してもらい紀善さんの正式な妻の座に着く事が出来たのだった。 結婚式こそ挙げなかったが、一応、紀善さんの希望でウエディングドレスで記念写真は撮った…… 少し照れくさかった。 「双葉さん、暫く見ない内に益々お腹が大きくなったね。 おめでとう」 そう、私のお腹の中には今、赤ちゃんがいるのだ。 息子であり、孫でもある赤ちゃんが…… 本当に世の中はなにが起こるかわからないものだ。 |