「いちご1/2%」
作:嵐山GO




「あー、よく晴れてる。出かけるにはもってこいの天気だ」
思いっきりカーテンを開けて、窓の外を見る。
初夏らしく、見事に澄み切った青空が広がっていた。

コンコン!
「お兄ちゃん?入っていい?」
「由美か?いいよ」
ガチャリッ
「準備出来たよ!ほらっ!」
少女は部屋に入るなり、くるりと回って見せた。
「準備って?…あ、それ。お前のお気に入りの洋服じゃん」
ベビーピンクのミニワンピに真っ白なレースの折り返しのついた
ソックスが見事に合っていた。
「そうよ。可愛いでしょ?今日はお兄ちゃんとデートだから
お洒落しちゃった。髪だって、ほら!」

少女が後ろで二つに分けてリボンで縛った髪を持ち上げて見せる。
「由美のツインテールなんて初めて見たよ。いや、それより
デートってなんだ?俺はそんな約束してないぞ」
「いやん、せっかくいい天気だし、お兄ちゃんの為に
おめかししたんだから由美とお出かけしようよぅ」
「嫌だよ。なんで俺がお前とデートなんかしなきゃいけないんだ?」
兄が両腕を組んで、妹を見下ろしながら言った。

「…だって、お兄ちゃんの事が好きなんだもん」
「だっ、誰がっ!お、お前・・・なんか、今日変だぞ。
変なモノでも食ったんじゃないの?それとも今頃、知恵熱でも出たか?」
妹のオデコに手を当てて熱をはかる仕草をする兄。 
「やだ、やだ、そんなんじゃないってば!ね、いいでしょ?
お願ーい。デートしようよぉ」
さらに甘い声で、おねだりする。

「俺、今から男友達に電話して遊びに行こうと思ってたんだけどな」
「いやーぁ、今日は由美とデートなのー。ね?ね?」
「兄妹でデートかよ。なんか情けねーじゃん」
「じゃ、今日は由美がデート代、全部もつからぁ。それなら、
いいでしょ?」
「あ、まじっ?そんならいいや。映画にしようぜ。
俺、観たいのあったんだよな」
「ぶぅー、ちゃっかりしてんのー。じゃ、早く行こ!お昼になっちゃうよ」
すぐに妹が兄の手を引っ張る。

「分かった、分かった」
「あん、財布忘れないでね」
「ああ、そうだな…じゃ、由美のポーチに入れといてくれよ」
「はーい」

こうして兄は渋々、妹とデートに出かける事に…。


  昼

「映画、面白かったなー。ランチも美味しかったし」
「…」
 二人は腕を組んで仲良く帰路に向っている。
「なんだよ、由美?元気ないじゃん」
「だって、私のオゴリだからって一杯、食べるんだもん」
「いいじゃんか。こんな事、めったにないし男は女と違って結構
入るんだよ」
「デザートまで注文しちゃってさ」
「美味かったー。お前も食えば良かったのに」
「だってぇ、バイトのお給料日まで、まだだいぶ先なんだよ」
「頑張って働けー。俺が小遣い貰ったらハンバーガーぐらい
ご馳走してやるからな」
「お兄ちゃんもバイトしなよぉ」
「駄目、駄目。学校の規則で禁じられてんだ」
「ちぇっ、もう…ぶうぶう」

「おい、由美。そろそろ離れろよ。帰り着く前に近所の人に見られたら変な兄妹と思われるだろ」
「そうだね…うん、分かったよ」
「それからお前、もうちょっと気を付けて歩けよな。さっきカメラ小僧が
携帯でスカートの中、盗撮してたぞ」
「えっ!嘘っ?」
 少女は慌てて両手でお尻の部分を押さえた。
「もう、遅いっつーの。ほら、着いたぞ。鍵出して」
「うん…」
妹がポーチから鍵を取り出して、二人は中に入る。
「ただいまー」
「ただいまー」
 二人は声を揃えて入ったが、返答はない。
 共働きの両親は夜になるまで帰ってこないのだ。

「由美、その服着替えろよ。もう帰ってきたんだからいいだろ?
シワになるぞ」
「そうだね…じゃ私、シャワー浴びてくる」
「え、シャワー浴びんの?夜でもいいじゃん」
「だってぇ、汗かいちゃったんだもん。駄目ぇ?」
「そ、そっか…」
「お兄ちゃん、一緒に入ろっか?由美が背中、洗ったげるよ」
「ば、馬鹿野郎っ!そ、そんなこと出来るか!お前、やっぱ今日
おかしいぞ」
「お兄ちゃんたら、真っ赤になっちゃって可愛いー。
じゃ、シャワー浴びてくるねー」
 バタンッ!

 妹はリビングから出て行ってしまった。
 暫らくして、浴室からシャワーの音が聞こえてくる。
「まったく、なんで帰ってくるなりシャワーなんだよ…後でも
いいじゃんか」
 兄は冷蔵庫からキンキンに冷えた飲み物を取り出すと、ソファに
座ってブツブツ独り言を漏らしながらグラスへと注いだ。


    夕方


「由美の奴…シャワー長いな…?なんか変なことでも、
してんじゃないだろうなー?」
兄が待ちくたびれて立ち上がろうとしたところに、
妹がパジャマ姿で入ってきた。
「お待たせー」
「ずいぶん、遅いじゃんか。何してたんだ?」
「あっ!う、ううん、何にも…髪を解いたりしてたら時間が掛かったんだよ」
「ホントかよ」
「ホントだって」
妹が兄の隣りに腰を下ろして、飲みかけのジュースを飲み干す。
「ゴメンね。ちょっと喉、渇いちゃって」
「それにお前、なんか顔、赤いぞ。火照ってる感じだ」
「そ、それは、ほらっ!熱いシャワーを浴びたからだよ。
あ、それとも、お兄ちゃんの隣りにいるからかなー」
「つくづく気持ちの悪い奴」
そう言うと、兄は空のグラスを持って立ち上がった。
「お前も飲むか?」
「ううん、いらない。飲みたくなったら又、お兄ちゃんのを
貰うよ」
「…そうか」

冷蔵庫を開けグラスに新たなジュースを注ぎ込む。
「しかしあれだな。今日は奢って貰ったから文句は言えないけど、
次はお前とデートなんかしないからな」
「うん、分かってるよ。友達の若林君と出かけたいんでしょ?」
「ああ」
「じゃ、私も美樹ちゃんと出かけるよ」
「ああいうのがタイプなのか?」


「うん。可愛いよね」
「そっか。じゃあ伝えておいてやろうか?」
「いいよ。話がおかしくなりそうだから」
「そうだな…じゃ、今日はもう、これでやめるか?」
「いいけど…お兄ちゃんはシャワー浴びないの?」
「俺は、そういう趣味はない」
「うん。じゃもう、いいよ」

兄がグラスをテーブルの上に置いて、両手で妹のこめかみを
挟むようにしながら、おでこを近づけていった。
妹も、同様に両手で兄のこめかみに触れ近づけた。
「ううっ!」
「ああ、あ〜ん…」

二人のおでこが触れ合うと同時に声を漏らすと、二人とも
ソファにぐったりと背を預けた。

「よし、元に戻れたぞ」
「うん…今日は楽しかったね。ご馳走様」
「お前、俺の金だからって思いっきり食いやがって」
「お兄ちゃんだって、なんだか今日は変なことばっか言ってたし…
おあいこでしょ?」
「ま、まぁな」

「私、お兄ちゃんに成りきれてた?」
「なかなか良かったぞ。俺は?」
「だから、なんだか変だったってば。もうあんなこと言うのやめてね」
「すまん、すまん」
「じゃ、私、お母さん達が帰って来る前に宿題、終わらせちゃおうっと」
「ああ、じゃあな」
妹が立ち上がり、リビングを出て自分の部屋へ向った。
バタン!

「やっぱり女の身体はいいよなー…」
兄はグラスに口をつけながら、天井を見つめ一言漏らした。

一方、部屋に入った妹は…
「あれ?なんでゴミ箱にこんなに、丸めたティッシュが入ってんの?」

   終わり




inserted by FC2 system