「さてこの映像を見ていただきたい」

そう言うと、同時に画面にある映像が表示された。

「きゃー」「うげぇ」「何てことを」

映されると、同時に様々な箇所から悲鳴や非難が上がった。

「皆さん落ち着いてください」

一番偉いと思われる者が喋ると、あたりはまた静かになった。

「この男の行為、許されるものではないと思います」

「長きに渡り、この殺戮者に多くの者達が殺されていきました」

すっと、誰かが立った。

「私の娘なんかその男に生きたまま焼かれ、惨殺されました、うぅ……」

「俺の弟は殺されたまんま放置された」

「私の……」

男に関する、証言がひっきりなしに飛び交う。

「この男の行為は許すべきものではない、議会は討伐隊を結成しこの男に制裁を加えることを決定しました」

そういい終わると、歓声が当たり一面に響き渡った。

「殺戮者には制裁を!」
「殺戮者には制裁を!」
「殺戮者には………





【湖】

作:R





木が生い茂る風景を背にしながら、車を走らせる。

「ザザ……、○○県△△郡で起こった……ザザザッ…、として捜査され…プツン」

「やっぱ電波状況悪いなぁ、こんな飛び飛びのラジオ聞いてたら逆に滅入っちゃうよ」

そういうと、僕は車に備えてつけてあったラジオを消した。
さて、さっきから何時間もぐるぐる回っているわけなんだが、ここはどこなんだろうか。
考える事が無くなって来たのか、今回の休みをくれた部長の言葉を頭でくるくる回していた。

…………
……………
…………………

「お前、有休使え」

「え?」

そう言った部長の言葉がきっかけだった。
新しいプロジェクトを任され不眠不休でがんばっていた、そんなときの言葉だったので驚いた。

「一区切りついたしな、お前は働きすぎだ。
 土日も休まずに会社に来ていたらしいな、どうせ有休は使わなきゃ無駄になっちまうしいいから休んどけ」

「あ、はい!
 ありがとうございます」

最近仕事ばっかしで何も出来なかったが、それを不憫におもったのか部長が『有休を使っていいぞ』と言ってくれたので1週間休むことに。
その休みを兄さんの捜索に当てる事にした。
10年前、旅行に出かけてくると言ったまま、消息不明になってしまった兄さん。
当時警察に届けを出し、捜索してもらったが結局見つからなかった。
月日も経ち両親や兄弟は納得しているみたいだが、僕はいまだにどこかにいると信じて探し回っている。
兄さんが何も言わずにこの家を出て行くなんてありえない。
出て行くときにだって『お土産を買ってきてやるからな』と言ってくれたんだ。
普段は暇な時を見計らって探しているのだが、今回は大きく時間が取れたので車にキャンプ用品などの荷物を詰め込み、ある湖に探しに行く事にした。
1週間時間があるので、そこで今回の有休を使い切るつもりだ。

「えっと、ここはどこなんだろうか」

埒が明かないので車を止めて、外に下りて地図をもう一度確認した。
うーむ、迷った。
兄さんの机から今年になって発見した当時の日記に『猫神湖』へ場所に行くと言う事が書いてあった。
もしかしたらと思って、そこに行く事にしたんだけど。
場所が良くわからん……。

再び車に乗り込み道を進んでいくと、茶屋があったので休憩ついでに道を聞くことに。

「あのーすいませーん」

「はぃはぃ、いらっしゃいー」

すると60、70くらいの年配のおばあさんが奥の扉からでてきた。
軽食を食べたあとに、目的の場所について聞くことにした。

「ここらへんに、猫神湖という湖があると思うんですけど。
 どこらへんにあるんでしょうかね?」

「あぁ?あー猫神湖ね、あそこならここをもうちょっといった道にあるよ」

「ありがとうございます」

「でもきーつけなさいよ、あそこらへんは最近物騒だかんね」

「え?」

「猫神様が、悪さしている人を成敗してけれんといいけんどな」

「猫神様?」

「あー、湖を守っている神様の事だんよ。
 湖に住む生き物を守るっているという伝説があるんよ」

「へぇ、そうなんですかー」

「あんたも危ない人にも気をつけなきゃいけんけど、湖の生き物達にも敬意をはらわな猫神様におしおきされてしまうでよ?」

「ははは……、気をつけます」

おばあさんとさらに会話した後。
僕は目的の湖に到着した。



「ふぅ、今回はこんなもんかな」

湖の前にテントを張り、できばえを確認した。
うんうん、いい出来だな。

しかし、心にちょっとした不安があった。
さっき聞いた、ここら辺で起きている行方不明の事件……。
この前粉々になった死体も発見されて、連続殺人事件として捜査されているみたいだけど。
犯人はいまだ捕まっていないらしい。
もしかしたら、兄さんに関係があるかもしれない。
もし関わっていたとしたら、兄さんは……。
考えるのはよそう………。

その日は湖の地形を軽く調べて、テントを張ったところ周辺に軽く周囲警戒用に罠を作ってから就寝した。
あたりに音もなく、静かな夜だった。



- 2nd day -


ん………。
ここはど……!!?
なっ!!!

人魚!?
吊り下げられて拘束されていたのは女性の人魚だった。

その人魚の側に近寄る。

「本物かなぁ、良く出来た人形とかじゃないのかな」

と触れた瞬間、人魚は目を開いた。

「うわあああああ!」

「!?ど、どちら様で……しょうか」

人魚が喋った、なんかとても凄い現場にいるんじゃないだろうか?

「そのロープを解いたほうがいいですよね。
 今解きますね、待っててください」

「あ、ありがとうございま……す」

それにしても、歯切れの悪い喋り方をするな、チラチラこっちをみてるし。

「それにしても、人魚って実在していたんですね。
 というか、なんで拘束されていたんですか?」

僕はありえない状況に興奮して、彼女に質問を浴びせた。

「解いて貰ってありがとうございます。
 けどすぐにここから離れてください、ここにいけると危険ですから。
 とにかく、きをつ………あ!あぶない!」

「え?なんですか?」

振り向こうと思った刹那。
バン!急に後ろから衝撃を受けた。

がばっ!!
汗をびっしょりかいてしまったみたいだった。

「な、なんて夢だ……、疲れてんのかなぁ…」

あたりはもう明るくなり始めていた。
時計を見ると、6時。
まだ寝れる時間であったが、あんな夢を見た後では寝る気にはなれない。
体を起こし、朝の身支度をすることにした。

「しかし最後なんて言おうとしていたんだろうか」

湖の水で顔を洗いながら僕は、思案した。
き、き、き………。
あー、どんどん記憶から流れていくな、まぁいいあんな夢忘れよう!
そう思うと僕は洗った顔を、パチンッと叩いて気分を切り替えた。

今日は湖の地域周辺を調べる事にした。
調べている途中何人か、ここに住んでいる人らしき人がいたので話を聞いてみたがみんな口にするのは
「猫神様に祟られんようにきつけんしゃいな」とか
「なにをしとるん!そんなことしとったら猫神様に祟られるでよ!!」
のような、返事ばかり返ってきた。
猫神様とは一体なんなんだろうか?



- 3rd day -


ふと目を覚ますと、湖のほとりに立っていた。
ぱちゃぱちゃ……。
向こうから何か音が聞こえる。

音する方向へ向かうと、湖で泳いでいる人物がいた。
こんな時期に、しかもウェットスーツ無しで寒くないんだろうか。
よーく見ると、女性のようだった。
どっかで見覚えのある顔な気がした。

その女性がこっちに気づく。
大きなモーションをしながら何かを言っているようだった。

「こんばんわー、なんでこんなところで泳いでいるんですかー?」
口をメガホン代わりにして、その女性に声をかける。
向こうも何かを言っているようだった。
耳を済まして聞いてみると。

「…………レ」

え?

「…………エ…………レ」

判らないので、もう一度向こうに声をかける。

「なんですかー?」

「カエレ!!!」

バッ!
僕はあたりを見回す、が湖のほとりに立っているわけでもなく。
テントの中で、寝袋に入っている状態だった。

「夢か………」

夢の中で忘れていたにしろ、おそらくあの女性は昨日見た夢に出てきた人魚だろう。
昨日の夢では気づかなかったが、どこか記憶のかたすみに面影があるような気もした……。
誰だったんだろうか、あと少しで思い出せそうなんだけど。

とにかく、昨日の夢にしろ今日の夢にしろ。
ここの何かが僕に警告をしているんだろうか。
その警告を無視し続けたら、その『猫神様』に祟られてしまうのか?

「バカばかしい」

自分の考えた結論を一蹴し、僕は寝袋から出て朝支度をし始めた。
朝食を食べ終え、僕は車を走らせていた。
最初の日に言った、茶屋のおばあさんに話を聞くためだ。
車を走らせていくとすぐに目的の店が見えた。

「すいませーん」

「はーい」

すると奥から、中年の女性がパタパタと言う様子で出てきた。

「あ、あれ?一昨日いた、おばあさんはいらっしゃらないんですね」

と話と、その女性は不信な顔をして

「え?うちの店は私と夫で営業しているので、あなたが言うような人は働いていませんが……」

え………。

「いや、だって一昨日湖までの道を確かに聞いたんですが!!」

「一昨日は夫の用事で店を休ませて貰っていましたが。
 他のお店と間違っていませんか?」

「いや、たしかにお宅のお店ですよ!」

「けど………」

そういうと女性は黙ってしまった。

「お客さん、あなたもしかして猫神湖に寝泊りしてます?」

「え?いやそうですけど、良く分かりましたね」

急に顔をあげて、真剣な顔で僕に聞いてきた。

「猫神様の話をここで、いやそれ以外の場所でも警告かなんかされたりしませんでしたか?」

「ちょっ………、どうしてそれを?」

「悪い事はいわないですから、すぐに帰った方がいいですよ」

その言葉と今日みた夢が、わずかに、僅かにだけど重なったような気がした。

「何故です?」

「あなたと同じようにここにきた人で、何人か行方不明になっている方がいるんです。
 その方達の何人かはここによってくれた事もあるんですが、それはあとで警察の捜査で知ったんですけどね」

やっと兄さんと接点がつながった!!

「行方不明になった人達はそろって、いなくなる前に猫神様の話を聞いているんです」

ということは、僕が危ない!!!?

「げっ、っという事は僕も危ないじゃないですか」

僕は苦笑した。

「悪い事は言いません、帰ったほうがいいですよ」

女性のいう事ももっともだし、正直帰りたいけど。
僕は首を横に振った。

「その行方不明者の中に僕の兄さんがいるんです。
 兄さんを探すまでといっても休みが終わるまでですが、僕は探し続けます」

「そうですか……、でも気をつけてくださいね」

「わかりました、どうもありがとうございました」

そう言うと、僕は湖に戻った。
あとちょっとだ、あとちょっとで何かつかめるかも知れない。
僕は兄さんの行方不明の核心に近づいている。



- 4th day (last day) -


「……き…ろ」

「……おきろ」

パシャァー!

「さっさと目を覚ませ!」

「うぐん!」

なんだなんだ!?

「んぐぐぐぐぐぐぐ(しゃべれない!?)」

体も動かせない、猿轡をされているみたいで喋る事も出来ない。
体が不安定な感じから、縛られてどこかからつるされているみたいだ。

「目を覚ましたようだな」

目の前にいる男が僕に声をかけた。

「むぐー(ここは一体どこなんだ!)」

「まず立場を理解させなきゃいけないようだな」

男は大きな板みたいなのを持ってこさせた。
それと同時に、金髪の女性が楽しそうにこっちに来るのがわかっ………た?
何か違和感がある、その女性に違和感を感じているのだろうか。
それとも僕の足の感覚が無くなっていることにだろうか?

「その顔は、自分に起きたことを理解できてないって顔だな」

へへっと、笑う男の横にひょこっっとさっきの女性が現れた。

「あれが、今回のいけにえ?
 おいしそうだねぇ………」

「むぐーむぐー(やめろー触るなー!)」

「あ、もうちょっと待ってください、まったくしょうがないなぁ」

そう言うと男は肩をすくめた。

「やれやれ、お前はいけにえに選ばれた」

大きな板をこっちに向けた、板は姿鏡だったらしい。
鏡に映ったものを見て僕は理解できなかった。





宙から吊り下げられている、足が異形な姿をした女性。
その女性に触れている、異形。
耳を生やしている、尾っぽを生やしている、牙がある、つめがある。
!!?!??!?!?

「理解できたようだな。
 お前は人魚になったんだよ、いけにえになるためのな」

「むーむー(ど、ど、どういうことなんだよ!!)」

「お前が知る事でもないさ、知ったところで意味がない。
 散々警告したところで、やはりこれか。
 これだから、人間は罪深い」

「いいわー、この子のおかげでまだ100年はこの姿を保てそうね、ふふっ」

僕の足(と思われるものを)をなめていた女性が言った事で僕は理解した。
夢、警告、夢、警告。
今思えばあの夢は、兄さんが見せてくれた僕への警告だったのかもしれない。
ごめん兄さん、救えなくって。
ごめん兄さん、言う事を聞かなくって。
ごめんなさい。



- after -


「先日未明会社員の××さんが○○県△△郡に行くと言ったまま行方不明になるという事件がおこり警察当局ではこれを事件と判断し捜索中。この近辺での行方不明事件は他にも多数あり、事件の関連性がないか調べられている模様です。××さんは………の……であり…………

ブツンッ!




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