受験は任せたからね!(前編)
 
 

典江(のりえ):「あんまりいい成績じゃないね。」

麻子(あさこ):「うん・・・・」

典江:「この調子だと受験したい高校にはちょっと届きそうにないよ。」

麻子:「うん・・・」

麻子は中学3年生。ほとんどの子供がそうだと思うが、もともと勉強好きではない麻子にとって、
今年は人生で最初の節目にあたる。
親にもこの高校なら反対しないと言われている公立高校。しかし、今回のセンター試験の結果を見ると、
どう甘くみても受かる確立は少なかった、というか、無かった。
せっかく半年前から某有名大学の典江が家庭教師として派遣されているのに、思うように成績が上がらない。
典江の教え方が悪いのか、麻子の努力が足りないのか・・・
麻子の親としても、お金をかけている分、麻子には是が非でも受かってほしいと思っている。

典江:「志望校、変えたほうがいいかもしれないよ。お父さんとお母さんに相談しよっか。」

麻子:「待って。もうちょっとだけ。」

典江:「まずはすべり止めの私立高校を合格できればいいんだけど。」

麻子:「うん。頑張って勉強するから。」
 

そう言って麻子は志望校を変えないまま、私立高校を2校受験した。
その結果・・・
 

典江:「もう受験する高校を変えましょう。ご両親もそれでいいって言っておられるし。」

麻子:「でも・・」

典江:「あと1ヶ月も無いでしょ。このまま努力しても難しいかもしれないよ。」

麻子:「典江さんは私だったら無理だと思ってる?」

典江:「今のままじゃね・・・死ぬ気で勉強しないと。」

麻子:「分かった。死ぬ気で勉強するよ。だから志望校を受けるよ。」

典江:「今決断しないと、私立高校不合格だったんだからもう取り返しがつかないんだよ。」

麻子:「うん、分かってる。失敗したらそのときだよ。」

典江:「その時って言ってもねぇ。私にも責任があるし。」

麻子:「とりあえず頑張るよ。だからいっぱい教えてよ。」

典江:「・・・・分かったわ。麻子ちゃんがそう言うなら、頑張るしかないよね。」

麻子:「うん。じゃ、とりあえずこの問題から・・・」

典江は、志望校を変更してほしいと思っていた。
麻子の両親もそれでいいと言っているのだ。
無理して受からなかったら取り返しがつかない事は麻子も分かっていると思う。
だが、麻子は全くその気は無い様子。
最近になって、典江は麻子の考えている事が分からなくなっていた。
 
 

そして、志望校受験まで2週間となったとき・・・
 

麻子:「典江さんっ。私、全然分からない。」

典江:「大丈夫。ゆっくりと説明するから。」

麻子:「だってもう2週間しかないんだよ。」

典江:「2週間で何とか出来るところまでやってしまおうよ。」

麻子:「そんな事言ったって・・・」

典江:「麻子ちゃんが頑張るって言ったから志望校も変えなかったし、私も頑張って
          るんだよ。ここで諦めたら今までの苦労が台無しになっちゃう。」

麻子:「・・・・典江さんはこんな問題、何も見なくても解けちゃうんでしょ。」

典江:「私が? うーん、そうね。100点は無理かもしれないけど一応解けると思うよ。でもどうして?」

麻子:「ねえ、じゃあ典江さん。私の代わりに受験してよ。」

典江:「ふふっ、何言ってるの。私が麻子ちゃんの代わりに受けることなんて出来ないじゃないの。」

麻子:「大丈夫だよ。私、いい方法知ってるんだ!」

典江:「いい方法って・・・」

麻子:「実はね。こういう事なの。」
 

麻子は二人しかいない自分の部屋なのに、典江に耳打ちするように小さな声で話した。
 

典江:「う、嘘でしょ。そんな事って・・・」

麻子:「本当なの。信じられないでしょ。」

典江:「そんな事信じられるわけ無いわ。私と身体を入れ替えるなんて。」

麻子:「へへっ。これが奥の手なんだ。やばくなったらそうしようって考えてたの。」

典江:「無理よ。そんな事できっこないんだから。それより時間がもったい無いから早く勉強しようよ。」

麻子:「ねえ、だったらもし、身体を入れ替える事が出来たら、私の代わりに受験してくれる?」

典江:「・・・・出来たらね。さあ、そんなことより勉強勉強!」

そう言って典江は参考書に目を移した。

麻子:「ほんとに出来るのに。何なら今やってみる?」

その言葉に典江が振り向く。

典江:「・・・今って?」

麻子:「今って言ったら今よ。これを使えば簡単に出来るんだから。」

麻子は机の引出しから紐がかけられた、2センチくらいの綺麗な玉を取り出した。

麻子:「手を繋ぎながらこの玉を二人で見つめると、いつの間にか身体が入れ替わるんだよ。」

典江:「ぜ、全然信じられないんだけど。」

麻子:「だからやってみようよ。3分もかからないから。」

典江:「・・・・」

自信ありげに話す麻子。
典江はどうしても信じられなかったが、これが終われば麻子が勉強してくれるものだと思ったので、
とりあえず麻子の言うとおりにする事にした。

麻子:「手を繋いで。」

典江:「ええ。」

室内灯の紐に玉の紐をくくりつけたあと、その玉を囲むようにしてお互い正面を向き手を繋ぐ。

麻子:「しばらく玉を見つめてて。」

典江:「・・・・」

言われるままに玉を見つめる。

典江:「何にもならないけど。」

麻子:「もうちょっと待って。玉が光りだすから。」

典江:「ふーん。」

何か馬鹿らしくなってきたと思ったとき、玉の中心が少し光ったように感じた。

典江:「??」

光はだんだん大きくなり、やがて玉全体が光り始める。

典江:「すごい・・・」

その光に圧倒された典江。
光は更に明るさを増し、じっと見つめる事すら出来ないくらいになった。

典江:「まぶしいよ。」

耐え切れなくなった典江は、思わず瞼(まぶた)をぎゅっと閉じた。

15秒ほど経っただろうか・・・

なんとなく瞼の向こうの明るさがなくなったような気がする。
典江はゆっくりと瞼を開いた。
かなりまぶしい光を見ていたので、目の前がもやもやしている。
どうやら玉は光っていないようだ。
ほっとした典江は、目の前にいる麻子に向かって話し掛けた。

典江:「麻子ちゃん、終わったみたいだけど何も無かった・・・わね?」

典江は目の前にいる自分の姿に、言葉をつまらせてしまった。

麻子:「何も無かった事ないでしょ。」

典江の目の前にいる典江が、ニヤニヤしながらそう答えた。

典江:「そ、そんな・・・・」

典江は繋いでいた手をサッと離し、その指を自分の目で確かめる。
その後、自分が麻子の中学校の制服を着ていることに気付いた。

典江:「う・・うそ・・・・」

そして、自分の声が麻子の声になっている事にも気付いた。

典江(麻子):「ねっ、だから言ったでしょ。身体を入れ替える事が出来るって。」

何とも不思議な感覚だ。
まるで鏡の中の自分に話し掛けられているよう。

麻子(典江):「信じられない。」

典江(麻子):「だったらこの鏡を見てみたら?」

典江(麻子)は、勉強机に置いてあった小さなスタンド式の鏡を麻子(典江)に渡した。
麻子(典江)は鏡を受け取り、顔を移した。そして、そのまま固まってしまった。

典江(麻子):「分かったでしょ。このことは二人だけの秘密なんだから。
                    今日はとりあえず元に戻って、受験当日に入れ替わろうよ。
                    だって、このままだと2週間のうちに親や周りの人にばれちゃうかもしれないから。」

麻子(典江):「・・・・」

夢の様な出来事に戸惑いを隠せない典江は、元の身体に戻った後も頭の中が整理できないでいる。

麻子:「大丈夫だよ。受験するほんの数時間だけの話なんだから。」

典江:「で、でも。」

麻子:「私の親だって本当は志望校に合格してほしいに決まってるよ。だからね、私の代わりに
          典江さんに受験してもらえれば合格間違いなしだと思うんだけど。」

典江:「・・・でもね、それは不正だと思うよ。」

麻子:「だって、世の中には金に任せて裏口入学とかしてる人だっているじゃない。それよりはましだと思うけど。」

典江:「それは五十歩百歩だよ。」

麻子:「なにそれ?」

典江:「・・・・」

説明するのも疲れた典江は、今日のところは帰ることにした。
どうやら約束どおり、典江が受験しなければならない状況になってしまったようだ。

典江:「まだ信じられない・・・こんな事が世の中にあるなんて。」
 

電車の中でもつぶやきながら、不思議な感覚のまま典江は家に帰った・・・・
 

その後の2週間、麻子はほとんど勉強しなかった。
もう典江に受験してもらうつもりでいる。
典江も半分諦めているようで、毎日麻子の家に来ているにもかかわらず、真剣に教えようという気は無かった。
むしろ、自分が受験して不合格になってしまったときのことを考えると、麻子に教えるよりも
自分のために勉強している感覚になっている。

麻子:「いよいよ明日だね。」

典江:「ええ。そうね。」

麻子:「もう完璧?」

典江:「完璧じゃないけど。何か立場が完全に逆転してる感じね。」

麻子:「へへっ。今更だけど、ごめんね。」

典江:「仕方ないわ。私が約束しちゃったし。それに、合格したとしてもそのあとの3年間は
          自分で勉強しなくちゃいけないんだからね。ランクの高い高校ほど大変だと思うよ。」

麻子:「まあ何とかなるでしょ。それは入ってから考えればいいんだから。とりあえず今は合格する事が
         目標だし。」

典江:「そうね。」

麻子:「そうそう、明日の事なんだけど。」

典江:「どうするの?いつ身体を入れ替える?」

麻子:「試験は9時30分に始まるから、9時に高校の正門前で待ち合わせしようよ。」

典江:「9時ね。分かったわ。」

麻子:「明日は寒くなりそうだから暖かい服装で来てね。だって、試験の間は私が典江さんの身体になるんだから。」

典江:「はいはい。分かったから今日はこのくらいにしましょう。私は帰ってから復習するから。」

麻子:「うん。明日はお願いします。」

典江:「もう。こんなときだけ敬語なんか使って。」

麻子:「一応お願いするときくらいはね。」

典江:「はぁ・・・じゃあ明日ね。」

麻子:「うん。」

典江は足早に家に帰り、夜遅くまで最終チェックを行った・・・・
 
 
 

そして試験当日・・・・
 
 
 

正門前で待っていた麻子が、駆け寄って来た典江を発見した。

麻子:「遅かったじゃない!もう9時10分だよ。私、もしかしたら来ないんじゃないかって心配したんだから。」

典江:「はぁ、はぁ、はぁ・・・・ごめんごめん。遅くまで勉強してたらちょっと寝坊しちゃって。」

麻子:「時間が無いから学校のトイレで入れ替わろうよ。」

典江:「うん、そうしよっか。」

そう言うと、二人は正門をくぐり、校舎に入った。
多くの受験生が入り乱れている廊下。
その光景を横目に、二人は女子トイレの個室に身を潜めた。
麻子はカバンから、この前の綺麗な玉を取り出すと、便座の上にそっと置く。

麻子:「典江さん。この前のように手を繋いでこの玉を見つめてて。」

典江:「ええ。」

二人は手を繋ぎ、便座の上の玉をじっと見つめた。

しばらくすると、玉の中心が光り始め、やがて目も開けられないくらいの光を放ち始める。

そして二人は、そのまばゆい光に耐え切れずに瞼を閉じた。
 

・・・・・15秒後・・・・
 

ゆっくりと瞼を開ける。

目の前に玉の幻影が、黒い点となって映っている。
それも徐々に消えていき、やがてその向こうに自分の顔が見えた。

典江(麻子):「成功ね。」

麻子(典江):「・・・そうみたいね。」

典江(麻子):「じゃ、私はしばらく別のところでいるから試験の方、お願いね。」

麻子(典江):「ええ、分かったわ。出来るだけ頑張ってみるけど。」

典江(麻子):「典江さんなら大丈夫よ。私、期待してるからね。」

麻子(典江):「もう、ほんとに他人事なんだから・・・」

典江(麻子):「典江さん、携帯持ってる?」

麻子(典江):「ええ、あなたが今持っているカバンに入ってるわよ。」

典江(麻子):「私も持ってるから、試験が終わったら自分の携帯に電話してよ。」

麻子(典江):「そうね。4教科だから、2時には終わると思うけど。」

典江(麻子):「うん。予定表にも書いてあった。でも、典江さんならもっと早くできるかもしれないでしょ。」

麻子(典江):「出来たとしても、何度も見直しするからね。あまり早くないと思うよ。」

典江(麻子):「そっか。別にいいよ。とりあえず電話はしてね。」

麻子(典江):「分かったわ。」

確認しあった二人は、トイレを出た。
そして、麻子(典江)は受験するために教室へ、典江(麻子)は、時間をつぶすために学校を離れた。

典江(麻子):「それにしても典江さんの身体ってスタイル抜群よね。グレーのスーツにこんな長いブーツ履いちゃって。
                    美人って得よね。」

中学生の麻子とは違い、典江の体は女性として強調すべきところは十分に強調している。
ほっそりとした顔立ちに背中まである黒いストレートの髪。
グレーのスーツに白いブラウス、そして、裾の引き締まったタイトスカートを着こなしている。
おまけに膝下まである黒いロングブーツを履いていた。
厚手の黒いロングコートは、裏を見るとブランド品だと分かった。

典江(麻子):「高いんだろうなぁ、このロングコート。彼氏でも買ってもらったのかな。」

コツコツと歩きながらそんな事を考える。

典江(麻子):「なんかお腹がすいたような感じがするなぁ。典江さん、朝ご飯たべなかったのかな?
                    そう言えば寝坊してたって言ってたからなあ・・・
                    ちょっと喫茶店にでも入って何か食べよっと。」

典江(麻子)は、カバンの中に財布があることを確認すると、道路に面したガラス張りの喫茶店に入った・・・・
 
 

その頃、麻子(典江)は、自分の受験番号の書いている机に座り、問題用紙が配られるのをドキドキしながら
待っていた。

麻子(典江):「こんなに緊張するのは久しぶりだわ。」

心の中でつぶやきながら、裏向きで配られた問題用紙を見つめる麻子(典江)であった・・
 
 
 

受験は任せたからね!(前編)・・・・終わり
 
 
 
 

あとがき

女性同士の入れ替わり作品です。
大した話ではないのですが、なかなか話が進展しないので途中で切り上げ、前編としました。
内容としてはイマイチですが、続きの話は典江(麻子)がメインとなります。
麻子(典江)が受験し終わるまでの数時間、麻子は典江の身体でどんな事をするのでしょうか。
それは次回のお楽しみという事で。
18禁は無いかも?!

それでは最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

Tiraより
 
 
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