月曜日 勉強会?(その3)


「リンタ、今日も勉強会お願いするわ」
 凛太郎が修一を呼びに行くと、既に帰る支度を整えていた修一は、凛太郎の返事の事などお構いなしに勉強会の事だけ言った。凛太郎はぐるぐると周囲が回る感覚に何とか耐えながら、意を決して切り出した。
「修ちゃん、ちょっと公園寄って行こう。話しがあるから。勉強会はそれが終わってからでいいでしょ?」
「いいけど。公園でいいんだな?」
「うん。公園で」
 二人で自転車に乗り並んで走っている間、終始無言だった。何も語りかけてくれない修一に、凛太郎は不安に押しつぶされそうだった。あんなに凛太郎を求めてきた修一が、一日で人が変わってしまったように思えた。もし好きだと返事をして、修一が「やっぱいいや」などと言ってきたら……と変な想像までしてしまう。凛太郎にはこの沈黙が心に響き辛い心持ちになっていた。
 公園に着くと最近よく座っていたベンチに二組の老人が座っていた。仕方なくそこから離れた場所に移動する。
「お、あそこ空いてっから、座ろう」
 修一が指さした場所は、ゴミ箱の近くのベンチだった。
(……ムードないな)
 折角自分が返事をしようというのに、わざわざこんな所を選ぶなんて修一のセンスを疑いたくなってしまう。しかし凛太郎はそういう無神経さも修一だと知っていた。大体が修一という男は、剣道以外に頭を使っていない。女の子とも凛太郎が知っている限り付き合ったことは無い筈だった。唯一と言っていいのが千鶴だったのだから、推して知るべしだ。
 二人で並んで座る。凛太郎は陽気と緊張のせいでしっとりと汗が滲んでいた。ハンカチでそれを拭うと、きちっと閉じた膝の上で緊張をほぐすように、ハンカチを握ったり開いたりする。しかし固くなった心は最初の一歩が踏み出せず何も言い出せない。修一も凛太郎から切り出すのを待っているのか、声を掛けても来なかった。時間だけが過ぎていくのに苛ついたのか、修一が貧乏揺すりを始めていた。
「リンタ」
「あ、うん。なに?」
 凛太郎は話し掛けられてちょっと嬉しくなり直ぐに修一を見たが、修一は凛太郎を見ようともせずポケットに手を突っ込んだまま、足を投げ出した格好で言った。
「話しないんだったら、家行こうぜ。勉強の時間もったいねぇって」
 絶対に修一の口から出ないと思っていた台詞に、凛太郎は愕然としてした。凛太郎の話しより勉強を優先しようとする修一の顔は、いつもと変わらなかった。しかし凛太郎はその横顔を見ていられなくなってしまった。
「あ、ごめん……。言うから」
 俯きながら段々語尾が小さくなってしまう。しかし言うべき事は言っておかないと後悔してしまうかも知れない。ありったけの勇気を振り絞って話し始めた。
「……修ちゃん、あの、僕もやっぱり修ちゃんの事好きで……。でも昨日はすごく怖くなっちゃったから。もし、昨日の事で怒ってるならごめんなさい……。あの……頼りがいっていうか、一緒にいたいから……ほんとに好きだから」
 どこを好きになったとか、いつから好きになったとか、色々言うべき事もあったし言おうとも思っていたけれど、今の凛太郎にはこれがいっぱいいっぱいだった。
「なぁ、リンタぁ?」
 下校してから始めて修一が凛太郎を見る。その目は昨日の欲情に駆られた目、というより少し人を小馬鹿にしたような目つきだった。丁度阿部がするような。
 凛太郎は恐る恐る修一を伺う。
「ほんとに俺の事好きなんだろ? 俺もリンタの事好きなんだ。普通なら何でもやら……」
 修一の話しが途切れたと思うと、その目が驚きと若干の恐怖の色に変わった。視線は凛太郎を通過してその後ろ凝視していた。思わず凛太郎も不思議に思い振り返るとそこに意外なものがいた。
「あ、黒ラブだ」
 大きな黒い犬が凛太郎の直ぐ背後に来ていた。犬好きな凛太郎は犬の首に下から手を宛い、胸を撫でてやる。黒ラブはうっとりとしながら太いしっぽをぶんぶん振り喜んでいた。
「修ちゃん、これ大人しい犬だから。ほら可愛いよ。修ちゃん?」
 修一は犬に驚いたんだと思い、凛太郎がフォローしようと修一の方に振り向く。しかしその顔は苦痛に歪んでいた。
「あらー、ごめんなさいねぇ。リード外してしまったもんだから」
 飼い主と思われる中年女性が、あまり悪びれた様子も見せず黒ラブを引いて行った。
「修ちゃん、大丈夫? もう犬いないから。修ちゃん? 犬平気じゃなかったの?」
 脂汗を流しながらギロッと凛太郎を睨むと、一つ舌打ちをし修一の頭ががくっと垂れた。凛太郎はその様子にびっくりし、修一の肩を揺らす。正面に回って修一の広い肩に手を置くと、小柄な凛太郎では抱きついているようになってしまう。
「ちょっと、修ちゃん? 大丈夫?」
「ん? あぁ、大丈夫。って、俺犬好きなんだけどな? あれ? なんか今すげー犬が怖く感じたよ」
 いつもの口調に戻った修一に、凛太郎はほっとしていた。あんな風に修一に睨まれたら怖くてどうしようも無くなってしまう。
「よかったぁ。なんかすごい脂汗流してたからさ。……で、あの、さっきの話しなんだけど……」
 修一の様子を見ながら、凛太郎は恐々と聞いてしまう。多分、好きならセックスするという話しだと気づいたから。
「あ〜、っと。ん? ああっ、リンタ! 悪いっありがとなっ。俺もリンタの事好きだから」
 それまであまり表情の無かった修一の顔は、いつもの笑顔を取り戻していた。
(修ちゃん、なんか変だよ。どうしちゃったの? さっきはあんなに面白くなさそうだったのに)
 突然とも言える修一の豹変に、若干の戸惑いを見せる凛太郎。その表情を読み取ったのか修一が慌てた風に続けていた。
「や、ほんとどうかしてたんだ、俺。朝からリンタの返事気になってたのに。今も好きって言われてすげぇ嬉しかったんだけど、思ったのと違う態度とっちまって……。悪かった」
 手を合わせて謝る修一に、凛太郎は少し安心した。自分が拒否したから、嫌われた訳ではなかったのだ。何故修一が思っていた態度を取れなかったのかは、この際どうでも良かった。ただ、お互いが好きだと言うことが今の凛太郎には一番重要な事だった。
「でもこれで俺達付き合うって事だよな」
 修一のその一言で凛太郎は、上半身真っ赤になってしまった。
「え、あの、付き合うの、かな? 付き合ったら、何するの?」
 凛太郎の「付き合う」という言葉の概念は、一緒にいる事、が中心だった。その意味ではこれまで大体一緒にいたし、女性化してからはずっと一緒にいたのだから、今までと何ら変わりはない。一緒に図書館へ行って、映画を見て、街を歩いて、勉強する。今もしている事なのだから付き合うと特別に言わなくてもいいと思っていた。
 しかし修一が言う「付き合う」が、それ以上のものを求めている場合、状況はかなり違う。昨日と同じ所からもう一歩突っ込んだ、「女と男」の関係ならば少し待って欲しいと思ってしまう。当初からそれはまだ早いと思っていたのだから。
「付き合ったら、そりゃお前…………。昨日みたいに、とか、それ以上、だろ? だめなんか?」
 修一は困ったように眉を八の時にして、訴えるような顔を見せ、凛太郎の目をじっと見つめてくる。
(なんだよぉ、修ちゃんずるいよ。そんな顔されたら……)
「……修ちゃん、僕も、その、いつかは修ちゃんとっておも……あっ!?」
 修一となら、とつい本音の部分が出てしまった。急いで口元に手をやり押さえるが後の祭りだった。修一の表情が情けないほど崩れていくのが解る。
 顔から火が出るような恥ずかしさ。そして想像以上に修一としたいと思っていた自分に戸惑った。凛太郎は頬を押さえながら、修一から顔を背けた。
「リンタ。全部直ぐさまってんじゃなくて、少しづつしていこうぜ。な? 取りあえず、時々でいいから昨日くらいまではさせてくれよ。頼むよ」
「で、でもっ、やっぱり恥ずかしいし。時々っていってもさ……」
 昨日の事を思い出すと、ゾクっと背骨に信号が流れてしまう。触られる心地よさが凛太郎の心を、快楽の縁に誘おうとしていた。
「俺な、リンタの肌に触れてみたい。そのすべすべした肌を撫でてみたい。前にここで俺の腕を撫でたろ? すげぇ気持良かった。リンタがしたからだけど、俺もお前にそうしたい。お前の事ぎゅって抱きしめたいよ。好きだから」
 恥ずかしい台詞を臆面もなく言う修一に、凛太郎はあっけに取られるやら、言われている自分も恥ずかしくなるやら、走り出したい気分になってしまう。そして同時に、好かれているから修一の想いに答えたいとも思ってしまった。
「……しゅ修ちゃん、恥ずかしいよ、それ。………………と時々でいいなら……昨日くらいまでなら……しても……いいよ」
(あああああっ、言っちゃった、自分から言っちゃった、どうしよう、Bまでしていいって言っちゃったよぉ。なんかすンごい恥ずかしいよぅ)
 期待半分恥ずかしさ半分だったが、凛太郎は自分が男だったにも係らず、男の性欲がよく解っていなかった。ここまで、と言われたからと言って、そのまま抑えられる筈もない。すればする程エスカレートしていく修一の欲望を、理解していなかった。
「やっっったあああっ! じゃ、リンタ、おれんち行こう。すぐ行こう。ほれ早く立って」
 修一は叫びながらジャンプして、嬉しさを身体一杯に表現していた。そして直ぐに凛太郎に向き直ると凛太郎の手を取り、立ち上がる事を促す。修一の勢いに釣られ凛太郎は、勢いよくベンチから腰を浮かせていた。
「えええ? ちょちょっと待ってよ。今からって、試験勉強するんだよね? えっちするんじゃないよね?」
 赤い顔をしながら戸惑い混じりに問う。修一はニコニコしながら言う。
「なんだよ、勉強だよ、勉強。早く済んだらイイコトすんの考えといてくれよ」
「い、いいことって……。ちゃ、ちゃんと勉強進んだら、だよ? 絶対じゃないからね?」
「解ってるって。勉強勉強。さ、行こうぜ」
 妙に張り切る修一の後に続いて、凛太郎は公園を後にした。
 
 * * * * * * * * *

 その日の修一の集中力は、凛太郎が呆れるくらい凄かった。今まで何度やっても覚えなかった重要な年号も一度で覚えてしまう。凛太郎が不意に年表に載っている事柄を質問しても、スラスラと答えを言いのける。集中した時の修一はすごいと解っていても、その動機が動機だけに凛太郎は少々複雑だった。
(そんなにえっちしたいもんなの? なんかすごいよ、修ちゃん。これはこれでちょっと怖いような嬉しいような……)
 必死の形相で教科書に向かう修一の横顔は、剣道をしている時の男っぽさが宿っていた。
 修一も集中力の動機は「リンタとえっちな事したい」だったが、いざ勉強を始めると頭に染み込んでいくように覚えられる。その感覚が楽しくなり、余計に集中していた。
(おお? 俺ってすげーかも。天才か?)
 徐々に雑念が入り始めた修一だったが、集中力はそのままだった。早く終わらせてイイ事しようという別の雑念もあったが、取り敢えずそれは置いておいた。
 凛太郎にとってちょっとだけ救われそうだったのは、修一の母が今日は在宅だった事だ。玄関から母親の姿を認めた時の修一の落胆した表情は、ちょっとした見ものだった。凛太郎も悪いとは思いつつも、声を出して笑ってしまった。
「よっしゃ、覚えた! リンタ、終わったか?」
 バシッとシャープペンを教科書に置くと、修一が顔を上げて凛太郎の顔を窺ってくる。ちょっといやらしい表情で。
「ええっ? もう覚えちゃったの? えっと、僕まだだから……。あ、これっ、こっちの問題集やんないと。これで九割以上出来たら終わりね」
 凛太郎は少し焦ったように、修一に問題集を突きつけた。予定していた時間より一時間も早く終わっている。食い入る様に見つめてくる修一の目から逃れる為に、凛太郎は直ぐに教科書と参考書に目を落とした。
「……む。よしっ九割だな? 楽勝だって」
 徐に問題を解き始める修一。そして二十分経った時、修一がまた叫んだ。
「おしっ、終わったぞ。リンタ、答え合わせしてくれよ」
「ちょっと、早いよ修ちゃん。ちゃんと見直さないと」
 ほれほれ、と修一が凛太郎にノートを見せる。凛太郎は渋々、問題集の答えと見比べた。凛太郎の顔が少し曇る。
(ええっ? うそ。さっき覚えたにしても……)
「……修ちゃん、ちゃんと解いたんだよね? 答え見てないよね?」
 上目遣いに修一の顔を見ながら問いかける。修一は当然とばかり胸を張った。
「んな事するか。ちゃんと記憶したから書けたんじゃねーか。で? どのくらい間違ってた?」
 歴史の穴埋め問題二十問。そして記述問題五問。二十三問正解なら九割以上だった。修一の解答は一問間違っているだけ。しかもそれは漢字の間違いだけだった。
「……一問……」
「え? なんだって?」
 ワザとらしく修一が聞き返してくる。ニヤニヤと笑っている。凛太郎は少々ムッとしながら、大きな声で言った。
「いちもん!」
「だろ? すげーよな、俺って。天才かも」
 調子に乗り出した修一に、凛太郎は一言釘を刺した。
「ただのえっちパワーじゃんか。いつもこの位集中してたらもっと成績良くなるのに」
 唇をちょっと突き出し不満げに言うと、修一が逆襲してきた。
「あ、そうか。いつも終わったらリンタとえっち出来るって考えればいいのか。おお、こりゃいいな。そうすっか」
 凛太郎が顔を真っ赤に染め、慌てて訂正する。
「な? ち、違うってば。そういう意味じゃないよっ。もっと勉強集中してって……。あ、ちょっ……」
 すっと修一が身体を移動させたかと思うと、凛太郎の華奢な身体を抱き寄せていた。修一に見つめられ、言葉を出せなくなった凛太郎はそのまま目を瞑っていた。軽く唇が触れると、快感が身体を突き抜けていく。修一の舌が凛太郎の舌を求めて蠢くと、凛太郎もそれに応えていた。
(あ、修ちゃん……)
 腰が折れそうな位引き寄せられると、身体の力が抜けてくる。立ってキスしていたら、膝が崩れ落ちるかもと想像を巡らせていた。
「ふ、ん……」
 吐息が鼻から漏れてしまう。心が蕩けてしまいそうなキスだった。しかし気になる事があって完全にキスに集中は出来ない。凛太郎は軽く修一の胸を押し戻し唇を離した。
「ちょっと、待って。おばさん来るかも……」
 凛太郎のうっとりした表情と濡れた目で見つめられ、修一は思わずむしゃぶりつきたい衝動に駆られていた。けれどここはゆっくりと進めるのが常道とばかり、修一はもう一度凛太郎を抱きしめ、耳元で囁く。
「大丈夫。勉強してる時は前から来ないだろ? それに、リンタ、大好きだよ」
 急に言われ、凛太郎は胸の動悸が益々早くなる気がしていた。それにしても修一は……。
「修ちゃん、ずるい。なんで、そんな事……」
 耳から聞こえた言葉に、身体が反応してしまう。下腹部の辺りに快感が溜まって、それがヌルついた粘液となって染み出してきそうだった。いや、既に抱きしめられてから凛太郎の快楽の門から湧き出していた。
「あぁ、リンタ、すげぇ欲しいよ」
 耳たぶを軽く咬むと凛太郎の身体がぷるぷると震え始め、そこから舌を首筋に這わせていくと、切なそうな声が凛太郎の可愛い唇から零れる。
「あン、やっ、はぁあ……」
 足りない何かを補うように、もじもじと腿を摺り合わせてしまう。
(やっ、すごい濡れてきちゃったよ……)
 修一の首筋への攻撃に、為す術もなく身悶えしてしまう。修一は片手で凛太郎の上体を支えながら、ゆっくりと押し倒していった。
「リンタ、すごく可愛いぞ……」
「……修ちゃん……」
 少し気恥ずかしい気もするけれど、凛太郎は可愛いと言われて素直に喜んでしまった。ちょっと胸の辺りがきゅんとしてしまう。腕を修一の背中に回し、お返しとばかり微笑みながら囁く。
「僕も、大好き」
 修一は真正面から言われて、ドキッとしてしまった。今している事を考えれば興奮しているのは当たり前だろうけれど、言葉を使われると肉体とは違った所に作用するようだった。心が興奮する。
「リンタっ」
 軽く唇にキスすると、今度は先ほどとは反対の首筋に唇を這わせる。そして同時に右手を昨日と同じように凛太郎のブレザーとブラウスの間に滑り込ませた。
「あっしゅうっちゃっ、あぁんッ」
 ブラウスとブラジャーがあるとは言っても、凛太郎の身体は十分に「起きて」いた。修一の手で撫でられた乳房は、甘美な信号な信号を凛太郎の脳髄に送り込んでくる。そしてその刺激は子宮へ、そして膣へと続いていった。秘裂は熱くトロトロになり、泉から湧き出た蜜はショーツに染み渡って来ている。
(おっぱい、気持、いいよぉっ)
 凛太郎はぎゅっと目を瞑り浅い吐息を洩らし、快感を味わっていた。恥ずかしいという意識はまだあったけれど、その意識も徐々に修一の手の動きに覆いつくされていく。
 修一の行動も、段々と大胆になってきていた。ブラウスの裾をスカートから出し、その中に直接手を入れてしまう。
「やぁッ、ン……はぁ……」
 ブラジャーの上から弄られると、自然と声が漏れ出してしまう。何とかそれを抑えようと凛太郎は口を噤んだ。
 修一は手から伝わる柔らかい感触に酔いしれていた。大きく指を広げ、掌全体で凛太郎の乳房を味わう。ブラジャーの刺繍のザラツキと、指先に感じる滑らかだけれどしっとりした凛太郎の肌。その絶妙なバランスが修一の下半身を益々熱く固くさせていた。
 部屋には二人の荒い息遣いと、凛太郎の小さな喘ぎ声だけが聞こえている。凛太郎は修一の手の動きが少し止まったところで、目を開け修一を見た。興奮しきって赤い顔が見える。
「……修ちゃん? あっ?」
 もう終わりかなと凛太郎が思ったのも束の間、修一は指をブラジャーの上端に引っ掛け、ぐいっと下に降ろしてしまった。ブラウスの中で凛太郎の乳房がこぼれ出る。ピンと立ち上がった乳首を掌で柔らかな乳房の中に押し入れるように、修一の手が掴んでくる。
「ふあ、アアンッ。やっきもちいい……」
 凛太郎は胸を直接捏ねられる感覚に恍惚とした表情で、鼻にかかった甘い喘ぎ声を発してしまった。自分の言った言葉に驚き、目を開けて修一を見た。その様子をじっくりと修一が上から見ている。
「……しゅうちゃ、やだ、そんなに見ないでよ……恥ずかしいよ……」
「ん〜? 可愛いって、だからもっと見せてくれよ」
 優しく微笑みながら少し残酷な事を言う修一の顔。それを見ないように凛太郎は横を向いた。
 掌から凛太郎の肌を触っていると、それだけで修一の股間は張り切ってしまう。早くズボンもパンツも脱いで開放してしまいたい欲求が募ってくる。修一は凛太郎の太腿にソレを押し付けながら、指先で乳房の頂点にある乳首を軽く挟み込んだ。
「はああっん! ……あ、ごめん、声、出ちゃうよ、もう、やめとこうよ……」
 乳首への攻撃と腿に当たる熱く固い修一自身に、凛太郎自身も予期しない位大きな声が出てしまった。そして段々と息をするのがきつくなって、言葉が途切れ途切れになってしまう。
「……じゃあ、塞いじゃえ」
「んむ?!」
 凛太郎の真上から修一が吸い付いて来た。身体の動きでスカートが捲れてしまいショーツが見えそうになる。修一の盛り上がった股間が、凛太郎の中心に軽く触れている。
「ぅん〜〜〜〜ッ!」
 修一が指先で乳輪の周りを軽く触れていくと、くぐもった声が二人の口元から漏れ出してくる。その間も修一の先端が凛太郎の門の辺りをつんつんとノックしてくる。凛太郎の身体は二箇所からの刺激に可哀想なくらいビクビクと修一の下で跳ね回っていた。
(ああっ、やだっ、修ちゃんのおち○ちん、あたってる……。も、おかしくなっちゃうよぉ!)
 ショーツをぐっしょりと濡らし、それが修一のズボンにも染みてしまうんじゃないかと余計な心配をしてしまった。スカートも濡れているかも知れない。そう思うと凛太郎は猛烈な羞恥心を掻き立てられた。修一がそれを知ったら、淫乱だと思うかも知れないと。
 ここで止めて欲しいと思っても、体重を乗せられて上手く身体を動かせない。おまけに胸と下腹部からの快楽を放したくない自分もいた。
 するっと修一の手が胸から消え、そのまま少し唇と身体を離す。
「はふっ」
 凛太郎は一息つけると身を捩ろうとしたが、修一の手はそのまま腿を撫で回していた。
「あ?! ちょっ、修ちゃんダメッ!」
 つるっとした腿を撫で上げられると、快美感が子宮の辺りを直撃する。凛太郎は腿をギュッと閉じ、手の進入を防いだ。それでも尚、修一は手を移動させてくる。
 二人の身体に隙間が出来た事で、凛太郎は修一の背中に回していた手で修一の手を押さえた。一瞬、二人の動きが止まる。
「だめ?」
 修一が少し情けない顔をして凛太郎に懇願するが、凛太郎もここは譲れなかった。
「……だめ……」
 ぱんぱんに張り切った股間が痛い。修一はそれを凛太郎の中で鎮めたくなっていた。しつこく凛太郎に聞いてくる。
「どうしてもか? リンタも感じてるだろ?」
「! か、感じてなんて、……いるけど……。う〜、どうしてもっ。ここじゃおばさんいつ来るか解らないし、笑ちゃんだって……。それに、明るすぎるよ……」
 修一の下で凛太郎はスカートを直しながら言った。残念そうに凛太郎を見つめる修一の首がカクッと折れ、凛太郎の胸に顔を埋めてしまう。
「修ちゃん!? ダメだってばっ」
「……そうだな、うん。解った」
 それだけ言うと修一は、凛太郎に顔を見せないように身体を移動させた。そしてテーブルの上に突っ伏し凛太郎とは逆の方を向いた。
(あ、修ちゃん、怒っちゃった? でも、やっぱりまだ……。出来ないよ……)
 凛太郎は少し慌て気味に身支度を整え、修一の側で座り直した。
「あの、修ちゃん? 怒ってる? えっと……」
 その態度からさせないから怒ったと判断した凛太郎が、おろおろしながら修一のご機嫌を伺う。
「ん〜、怒ってないぞお。今そっち向いたら鎮まるもんも鎮まらねぇから。ちょっと待って」
 修一の言葉の意味を理解した凛太郎は、上気した顔をもう一段赤らめた。
「え? あ、そう、だよね。…………………………あの、僕ちょっと……、トイレ」
 たたたと早足で階下のトイレに駆け込む。ショーツを下ろすとクロッチの部分が滑って光っていた。
(あ〜、すごっ。もう、こんなに……。こんな事いつもしてたら頭の中どうにかなっちゃうよ)
 修一が鎮めるのと同じように、凛太郎もまた身体の火照りを鎮める必要があった。敏感な自分の身体が修一の愛撫で直ぐに反応してしまって、どうにもやりきれない。凛太郎は「ふぅぅ」と大きく息を吐き、気持を落ち着かせようとしていた。
 少し静まったかなと思い、ロールペーパーを手に巻き付け、ショーツの滑りを拭き取った。それから女の子の部分もゆっくり丁寧に拭く。あまり刺激してしまうと、よその家のトイレで弄りたくなってしまいかねない。諸積家のトイレはウォシュレットがないため、押さえるように拭いていった。
 凛太郎がトイレから出ると、丁度笑が帰ってきた。
「あ、凛ちゃん。今日もお兄ちゃんのお守り? 大変だけどがんばってね」
 屈託のない笑顔を見せながら、笑が冗談混じりで挨拶してくる。凛太郎は火照った頬を隠すようにした。
「うん、お守りって訳じゃないけど。ありがと」
(ひゃ〜、笑ちゃんの帰りがもう少し早かったら……。危ない危ない。やっぱり修ちゃんに暫くしないでって言わないと)
 早いとこ伝えようと、凛太郎は修一の部屋に駆け上がっていた。

 * * * * * * * * *

 結局、凛太郎の願いも空しく、勉強会の為の一週間は、修一のえっちパワーが全開となってしまった。修一が覚えるべきものを覚えてしまうと、直ぐに凛太郎にちょっかいを出してくる。凛太郎もお願いされるとつい流されてしまって、自分の勉強どころでは無くなっていた。四時間近く取っていた勉強時間も、その半分の二時間は「淫らな」行為に没頭してしまっていた。勿論最後の線は絶対に越えさせなかったけれど。
 凛太郎がしっかり図書館で勉強しているとは言っても、やはり試験前に復習しないと記憶が定着しない。変わりにえっちな記憶だけが定着してしまった。
(ああっ、もうっ。頭の中修ちゃんとえっちだけしか入ってないよ。中間、どうしよう……)
 そんなこんなで迎えた中間試験。帰ってきた答案は、凛太郎はこれまでに無い点数が付けられていた。
「修ちゃん、試験どうだった?」
 廊下に張り出された成績上位者の中に凛太郎の名前はあるにはあったが、一番最後だった。じとーっと修一を見る。
「え? いやぁ、リンタのおかげだって。今まで無いくらい上がったよ。母さんにも笑にも自慢出来るぞ。リンタも名前出てるじゃねーか。やっぱすげぇよな」
 満面の笑みを浮かべる修一に、凛太郎は少しだけ好きになった人を恨めしく思っていた。


(月曜日6月1日 魔物の弱点へ)


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